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「2030年における 食品+飲料+酒類の市場規模は 10%弱縮小」の衝撃

2022年は「出生数80万人割れ」と、1899年の統計開始以降、最少の出生数となりました。国立社会保障・人口問題研究所が2017年に発表した推計では、80万人割れとなるのは2033年とされていましたが、想定より11年も早いペースで人口減少が進んだことになります。加えて社会保障に関する政策が議論・報道される中で、少子化だけではなく、高齢化も含めた「人口問題」に注目が集まっています。

人口が減ると胃袋の数も減ります。また、高齢になると食が細くなるため、高齢化が進むと飲食に関連する市場は縮小すると予想できます。

そこで、インテージが提供している消費者パネルSCI※1の2012~22年データをもとに、ベイズ型コーホート分析(詳細は後述)を使って、人口問題が進んだ2030年における食品+飲料+酒類の市場規模を予測してみました。

2030年における「15~79歳の人口」と「食品+飲料+酒類の市場規模」

今回の市場規模は、国内の消費を主に支える15~79歳の男女による購入金額をもとに推計しました。まず初めに、前提となる15~79歳の人口を確認したいと思います。

図表1は「国勢調査+国立社会保障・人口問題研究所」の数値をもとにインテージで推計した2012~30年の人口(要介護3~5を除く)です。2030年に団塊世代(1947~49年生まれ)が81~83歳になるため、15~79歳の人口は対22年比で94.6%と、5.4%減少する見込みです。

図表1

15-79歳の人口

続いて2030年における市場規模の予測値(図表2)を見ていきます。
先に結論から書くと、単純に「人口と同じく5.4%縮小する」という結果では“ありません”でした。食品+飲料+酒類の市場規模は対22年比で91.6%と、8.4%縮小しています!

図表2

食品+飲料+酒類の市場規模(兆円)

特に「酒類」 「乳飲料」 「嗜好飲料」の縮小が顕著です。逆に人口減少の影響が小さいのは、サプリメントなどを含む「健康食品※2」だけです。また、人口と同程度の縮小に留まるのは「清涼飲料」と「嗜好品(菓子、栄養バランス食品、ヨーグルト、アイスクリームなど)」です。

これらの傾向から類推できるのは、家庭内で「ゆったり過ごす時間」(晩酌、朝食、ティータイムなど)に関わるカテゴリには向かい風が、「健康」 「簡便・時短」(手淹れする嗜好飲料から、即時飲用できる清涼飲料へ) 「間食」に関わるカテゴリには追い風が、それぞれ吹いていることです。

ご紹介した市場規模の変化は、どのような要因によって起きうるのでしょうか。
背景を読み解く前に、今回の予測アプローチについて解説します。

「2030年の市場規模」予測アプローチ

ここまで見てきた2030年の市場規模は、図表3に示す4ステップで予測しました。

図表3

予測アプローチ
  1.  2012~2022年における5歳刻みの購入金額をコーホート分析で「3効果(世代、加齢、時代)」と「総平均」に分解
  2.  「新しい世代(2008~15年生まれ)」と「2023~30年」の効果を推定
  3.  2023~30年の3効果+総平均=購入金額を予測
  4.  購入金額×人口=市場規模を推計

市場予測には色々な手法がありますが、成長率の掛け算、対数近似、時系列分析、重回帰分析などではなく、「コーホート分析」を採用した理由は、飲食の嗜好や料理の習慣が「時代」よりも「世代」(古い世代ほど調味料を組み合わせて料理する、新しい世代ほど加工食品を取り入れている等)や「加齢」(大人になってから好きになった食べ物がある、年を重ねて脂っこいものを食べられなくなった等)に大きく影響を受けるからです。 少子高齢化が急速に進み、人口構成が大きく変化するこれからの日本市場を見通すのに適した予測アプローチだと考えています。

「コーホート分析」とは?

そもそも「コーホート分析」にはどんな特徴があるか?を簡単に紹介します。コーホート分析では、図表4のように年齢×時系列のデータを準備します。
ここでタテの加齢とヨコの時代の効果だけではなく、ナナメに動く世代の効果も抽出することで、年齢別の時系列データを見るだけでは読み解きにくいカテゴリの需要構造を3つの効果に分けて理解できます。

図表4

「年齢×時系列のデータ」と「3効果への分解」

「2030年の市場規模」を読み解く

ここからは、今回算出した2030年の市場規模について、世の中で起きている兆しを踏まえて読み解いていこうと思います。読み解きは、社会の潮流や生活者の変化をさまざまな事象やデータを用いて探求し続けているインテージの生活者研究センター センター長の田中宏昌と共に行いました。

【再掲】食品+飲料+酒類の市場規模(兆円)

生活者研究センター 田中宏昌(以下 田中):日常生活における「マスク着用」の基準が見直されたり、新型コロナウイルス感染症の感染症法上の扱いが5月から現在の2類相当から5類に移行されることが決まったり、新型コロナも大きな転換点を迎えようとしています。この間、お客さまからは「新しい日常」をキーワードに収束後(終息後)の世界を尋ねられることも多かったので、データを用いて立ち上ってくる「未来の姿」を興味深く拝見しました。「市場予測」という分野はさまざまな企業・機関が試みており、私も目にしてきましたが、未来のシナリオを産み出す変数を「世代効果・加齢効果・時代効果」と定義して分析するアプローチは先読みの困難な今によりフィットするのでは、と感じました。

CBD本部 事業デザイン部 鶴田育緒(以下 鶴田):そうですね。2020~22年におけるコロナ禍や値上げの影響を時代効果として取り出せるのはメリットの1つです。また、市場を予測する際に重要なマクロ環境のうち、政策、景気、テクノロジーの普及、環境・厄災などは不確実性が高く、変動幅も大きい。「最も確からしいのは人口動態だけである」という前提に立つと、人口を掛け合わせた市場推計はシンプルですが有効だと考えています。
さらに、見分けにくい「世代」と「加齢」を分解した効果も組み合わせた予測値に、確からしい推計人口を掛け合わせた市場規模にはリアリティがあるな、と改めて感じています。 ただし、予測で1点だけ留意していただきたいのは、「予測が当たる・当たらない」ということではなく、戦略や計画の前提として使う「判断材料のひとつ」と捉えることが重要です。

少し長くなってしまいますが、今回の取り組みに至った背景もお話しすると、この5年間は特に、事業のポートフォリオ構築・見直し、2030年に向けた長期戦略の策定、新事業の機会発見などを支援するプロジェクトを数多くリードしてきました。これらのプロジェクトや2020年に記事化した新型コロナ感染拡大初期のようなターニングポイントでは、俯瞰的かつ長期的な視点で、事象・変化とその背景・原因を捉えて、今後どうなりそうか見通さなければならない場面があります。その1つのステップとして、様々なセグメントの推計や市場の予測をしてきましたが、コロナ禍も重なったことで腹落ち感のある予測が難しい状況でした。

もう少し具体的に言うと、直近の数値をもとに予測しても、2020~21年はコロナ禍の影響が強かったためこのまま行くとは思えない、2022年は影響が緩やかになりましたがコロナ前の水準には戻っていない。そして、日本人の特性を踏まえると、急激にコロナ前のようには振る舞いにくい。これらを踏まえた予測をするために、時代の影響だけを取り出した上で、「単純にこのまま伸びていきます」とならない“肌感覚に合う”アプローチを模索・検証してきました。結果として、私自身も累計700カテゴリ以上で使ってきた今回のアプローチの良い点を再発見しました。

田中:「酒類」のように日本人口と同じような減り方ではなく、より大きな減少をみせるものも、「世代」や「加齢」いった要素に分けて考えてみると、リアリティが増しますね。

鶴田:「酒類」については、「加齢」に目を向けると、お酒を愛飲している人々の高齢化が進むことで、飲用する回数や1回あたりの量が減少することが考えられます。

田中さらに「世代」に注目すると、自宅での飲用習慣がない若者層のアルコール離れや低アルへのシフトなどが思いつきますね。
「食」についても同じような読み解きが有効と?

鶴田:そうですね。「食」も高齢になると、より食が細くなることで1回あたりの量が減ったり、3回から2回と回数を減らしたりといった変化が生じます。 また一人暮らしだと特に、料理した食事から準備や片付けの手間がかからない簡便な食事に変化して、お弁当や惣菜、さらには菓子・ヨーグルトのようなもので済ませるなど、主食と間食のシームレス化も増えています。

田中:同じように現代の共働きで忙しい子育て世代に目を向けると、「時短・簡便」につながる食材の活用やメニューが人気ですね。 未来を形づくる要素を分けることで、打ち手のアプローチ方法も広がりますね。

鶴田:予測でもそうした数字が表れていますが、「健康食品」や「機能性表示食品」は今後も成長する市場だと考えています。
「世代」「加齢」「時代」という要素に加え、これまでに起きている他の事象や背景も併せて読み解くことで、「健康」というテーマ全般における気づきや打ち手のヒントも得られます。

例えば、以下のような機会が考えられます。
・運動習慣・筋トレの浸透やたんぱく質が摂れる商品が好調
 →体調の不具合が少なく外見を整えたい若年層 には、多少の負荷や時間をかけても、より健康で美しくありたいといった「健美増進」に機会あり
・機能性表示食品や麦芽飲料が好調
 →体力の衰えや体型の変化が起こる中年層には、無理することなく日常の飲食で体調を整えたい、病気にかからないようにしたいといった「健康維持・予防」に機会あり
・サプリメントが堅調
 →全身に加えてピンポイントの悩みも増えやすい高齢層には、多少お金を掛けても元の状態に近づけたいといった「改善」に機会あり

田中:なるほど。「成長している市場だから商品を強化する」ではなく、「誰に向けて、何を届けるのか」という生活者起点・理解の発想を強く感じました。

鶴田:さらに加えると、生活者理解の解像度を高める上で、飲食カテゴリについては「5歳刻み」でみることが重要だと考えています。 各年代の中盤(▮5歳)前後で、ライフステージの変化(就学、就職、結婚、出産、育児、子供の独立、定年退職など)が発生し、生活リズムや消費スタイルも大きく変化することで、暮らしにおける「飲食」も各年代の前半と後半で異なると推測できるからです。

田中:そこは同じモニターから継続的にデータを収集する消費者パネルだからこそできる分析の強みですね。
次回は準備した「市場予測レポート」の中から、面白い発見があったカテゴリにフォーカスした読み解きをしてくれる、ということなので、楽しみにしています。

鶴田:ありがとうございます。次回もお楽しみいただければ嬉しいです。

今回取り組んだ食品+飲料+酒類156カテゴリの「コーホート分析」からは、いろいろな変化の裏付けを見出しました。次回はこれらの結果から気になるトピックをいくつかピックアップして、潮流を読み解きたいと思います。


※1 SCI®(全国消費者パネル調査):全国の15~79歳の男女5万人から、JANコードが付与されている消費財の購入履歴を収集したデータ

※2 健康食品:JANコードが付与されている商品を対象としているため、捕捉率はJANがない商品も含めた市場全体の約40%

著者プロフィール

株式会社インテージ カスタマービジネスドライブ本部 事業デザイン部 トップ・アナリシス・デザイナー 鶴田 育緒(つるた いくお)プロフィール画像
株式会社インテージ カスタマービジネスドライブ本部 事業デザイン部 トップ・アナリシス・デザイナー 鶴田 育緒(つるた いくお)
株式会社インテージに入社以来、パネル/アドホック/データサイエンス/コンサルティングなどリサーチ&アナリシスすべての分野で、ソリューションや分析メニューの開発を担当する傍ら、幅広い業界・150社を超える企業に対して、プロジェクト型のマーケティング支援・分析に従事。

株式会社インテージに入社以来、パネル/アドホック/データサイエンス/コンサルティングなどリサーチ&アナリシスすべての分野で、ソリューションや分析メニューの開発を担当する傍ら、幅広い業界・150社を超える企業に対して、プロジェクト型のマーケティング支援・分析に従事。

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