生活者のメディア行動変化に即した広告効果検証の在り方とは?
この記事では2022年7月26日にインテージが開催したセミナー「生活者のメディア行動変化と、それに伴う広告効果検証の在り方とは?」の内容の一部を再構成してお届けします。
ログデータで紐解くメディア利用行動の変化
メディアの多様化に伴い、生活者の行動は急速に変化しています。実際に皆様自身も数年前と現在ではメディア・情報への触れ方が変わってきているのではないでしょうか。では、具体的にどんな変化が起きているのか、インテージの自主企画調査の結果とメディアログデータ「i-SSP」を用いて紐解いてみました。
まずは圧倒的なリーチを誇るテレビです。若年層を中心にテレビ離れが叫ばれていますが、男女共に利用率が低下傾向にあるのがわかります。(図表1)
図表1
テレビCMのリーチ力も変わってきているのか?を確認するため、2017年と2021年に同程度の回数が出稿されている飲料ブランドAのCMで比較してみました。(図表2)
図表2
すべての年代でリーチ率が低下しており、テレビCMは届きづらくなってきているようです。この結果から「テレビ離れ」は若年に限らないように見えます。一方で、全体の利用率が9割を超え、依然として高いリーチを誇るメディアという位置づけに変化はないでしょう。
続いて、デジタルメディアの利用状況です。全体として伸長傾向にありますが、主要な動画、SNSメディアについて状況を分析してみました。(図表3)
図表3
利用率が最も高いのはYouTubeです。18年時点でも8割を超えていましたが、21年にかけてさらに増え9割を超えています。SNSはTwitter、Instagram、TikTokが順調に利用率を伸ばす中、Facebookは低下傾向となっており、単にデジタルメディアで括るのは危険と言えそうです。また、近年注目されているTVer、ABEMAは現段階で利用率が2割に届かない状況ですが、利用率は増加しており、今後の動向から目が離せません。
このようにメディア利用状況は急速に変化しており、感覚ではなくファクトを抑えることがメディア活用において重要です。また、それを自社が参入している市場・カテゴリーやターゲットと紐づけて明らかに出来れば、より効果的な活用方法が見えてくるでしょう。
シャンプー市場におけるInstagramの影響度は?
上記、図表3の各メディアにおいて、18年から21年にかけて最も利用者数が増えていたのはInstagramでした。そして以下の図表4は年代別(女性)のInstagram利用人数の変化を示したデータです。
図表4
Instagram利用者は若年層が多いイメージもあるかもしれませんが、18年から21年にかけて最も増えたのは50代で、次いで40代です。利用者数も20-30代よりも40-50代が多く、かなり裾野が広がってきている様子が伺えます。
このInstagramですが、広告媒体として捉えた時、市場に対してどの程度の影響力があるのでしょうか。シャンプーを例に、購買データとInstagram利用者を紐づけて分析してみました。図表5は女性のシャンプー市場における、年代×Instagram利用者の構成比です。
図表5
市場の約半分をInstagramユーザーで占めており、その中でも40-60代が34%と大きな影響を持つことがわかりました。つまり、中高齢層に向けて有効に活用すれば市場全体の3割以上にアプローチが可能なメディアであると考えられます。
広告効果検証の課題
このようにメディア行動の変化・多様化は急速に進んでおり、メディアプランニングにおいては、ターゲットのメディア行動を踏まえた媒体の選択や組み合わせが重要となっています。また、その選択肢は膨大にあるため、実行した施策の効果検証を積み重ねながら、勝ちパターンを見出していく必要があります。しかし、複数メディアを横断した広告効果の検証手段には一長一短があるのが現状です。(図表6)
図表6
最も精度が期待される接触ログを活用した効果測定ですが、個人情報保護の観点からメディアを横断して捕捉するのは難しい見通しです。マーケティング・ミックス・モデリングは様々なメディアを網羅出来る優れた手法ですが、人単位の態度変容の動きでないため、結果の解釈や納得性が課題となるケースがあります。
メディアを広くカバレッジ出来る手法としてアンケート調査があります。各広告の認知を聴取し、各メディアの広告認知者毎に好意度や購買意向、イメージを広告実施前の調査結果と比較してメディアの効果を検証していきます。この方法は比較的コストも低く採用しやすいのですが、回答結果のバイアスに留意する必要があります。それは“広告を認知している人”には“カテゴリー高関与者”や“ファン”が含まれやすく、広告効果を過大に評価してしまいかねない、という点です。(図表7)
図表7
また、上記バイアスはテレビCMのようなリーチが広いメディアより、特定の層を狙ったメディアの方が顕著に出る(効果が高く見える)傾向があります。そのため、結果の解釈や施策改善に結び付けていく上では、メディアに合わせてバイアスを考慮するのが肝要です。
このように効果測定の手法は様々あるのですが、現状はその特性を理解しながら、施策の内容や目的、予算等に応じて上手く使い分ける必要があります。
メディア利用状況に基づいた新しい広告効果検証アプローチ
前述した課題がある中、メディア利用状況に基づいた“広告接触機会推定(OTS*)”というアプローチが、統合コミュニケーション時代の効果測定の一つの選択肢になると考えられます。この手法は、“生活者のメディア行動習慣”と“各メディアへの出稿状況”より、生活者の広告接触機会、つまりリーチを推定して効果を検証していく方法です。(図8)
*OTS=opportunity to seeの略
図表8
接触ログの活用はカバレッジの拡大に限界がある一方、広告認知というバイアスも考慮しなければいけない中、両者の課題解決を期待出来ます。
一方で、この方法も生活者のメディア利用状況を正確に捉えられないと、評価の妥当性・納得性が低下してしまいます。そのためインテージではメディア利用状況のログ(実態)とアンケートの乖離傾向を明らかにし、その補正モデルを構築することで、より評価の妥当性を高める方法を開発しました。
このアプローチによって、リーチ、広告認知獲得、態度変容効果などを、メディア横断で可視化出来ます。また出稿金額と効果(認知、購買意向、イメージ等の獲得人数)の関係から、目標指標に対する獲得効率の良し悪しが明らかになり、次回のメディア選択や配分に検証結果を結び付けやすくなります。(図表9)
図表9
おわりに
生活者のメディア行動は今後も変わり続けていき、そのスピードはさらに加速していくかもしれません。特定の世代やコミュニティだけで拡大していると考えていたら、思いの外拡がりがあるかもしれませんし、目立っているメディアでも、実際の利用率は低い、といったケースも考えられます。そのため、個人の感覚や印象だけに頼らず、ファクトを理解し、関係者と共通認識を築くのが重要です。
また、生活者の変化に伴い、成功したコミュニケーションの再現性が損なわれるスピードも速くなるかもしれません。こういった状況において、実施した施策の効果検証や、知見蓄積の枠組み等の、“試行錯誤が出来る環境作り”が、今後ますます重要になるでしょう。
インテージでは本コラムでご紹介した「i-SSP」「広告接触機会推定」などの独自データやノウハウを活かし、ご課題や出稿状況に応じた広告PDCAを支援しております。お悩みなどございましたら、お気軽にお問合せ頂けますと幸いです。
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【i-SSP®(インテージシングルソースパネル®)】
インテージSCI(全国個人消費者パネル調査)を基盤に、同一対象者から新たにパソコン・スマートフォン・タブレット端末からのウェブサイト閲覧やテレビ視聴情報に関して収集したデータです。当データにより、テレビ・パソコン・スマートフォン・タブレット端末それぞれの利用傾向や接触率はもちろん、同一対象者から収集している購買データとあわせて分析することで、消費行動と情報接触の関係性や、広告の効果を明らかにすることが可能となります。また、調査対象者に別途アンケート調査を実施することにより、意識・価値観や耐久財・サービス財の購買状況を聴取し、あわせて分析することも可能です。
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