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新型コロナウイルスによるパンデミックから4年、タイ、ベトナム、インドネシアのASEAN経済圏の発展は著しいものがある。
インテージでは、コロナ禍の2020年6月/12月にパンデミックに見舞われたASEANの状況を株式会社TNCと共同で調査し、以下の記事で紹介した。
「新型コロナウイルスの感染拡大はアセアンの生活者をどう変えた?各国比較調査から見えたASEAN New Normal」
「見えて来た202X年 ASEANの『暮らし』とは~ASEAN New Normal②」
また、これらレポートの中で、アフターコロナのASEAN各国の未来を予測した。
今回は、コロナ禍での前回調査から4年間が経過し 、アフターコロナのASEANで「何が残ったか」「何が生まれたか」、また「今後どのようになるか」 について、アンケート調査の結果と株式会社TNCのライフスタイルリサーチャー からの報告を合わせて検証していきたい。
コロナ禍でASEAN生活者に大きな変化を与えた「衛生意識」「社会貢献意識」「働き方」に関して、何が残り、何が変化したかを検証する。
図表1はコロナ禍の2020年10月に調査した“今後も継続したいと思うこと” と2024年12月に調査した“コロナ禍後も継続していること”の2つの結果を並べたものである。
図表1
2020年10月時点では、今後も「マスクの着用を継続しよう」と考えていた人はASEAN各国で差はあるが、76.8%~91.0% であった。2024年12月時点で、実際にコロナ禍から継続してマスクを着用している人は49.0%~67.4%であることが分かった。マスク着用者は減っているが、今なお着用している人が多いことも読み取れる。
「除菌・抗菌効果のある洗剤」の使用に関しては、2020年時点で「除菌・抗菌効果のある洗剤」を継続して使うと回答した人は25.1%~39.0%であったが、2024年にコロナ禍から継続して使っている人は33.2%~46.4%であった。コロナ禍の想定と比べ、継続して「除菌・抗菌効果のある洗剤」を使用している人が多いことが分かる。これは、コロナ禍を経てASEAN各国のメーカーから「除菌・抗菌効果」を訴求する洗剤が多く発売されたことが影響しているのではなかろうか。
図表2はASEAN各国の個人の考え方を2020年と2024年に調査した結果である。
図表2
「社会課題を意識することは大切」と考えた人は2020年では76.5%~90.1%であったが、2024年では各国共に減少し59.1%~65.7%となっている。コロナ禍の医療提供体制のひっ迫などで社会課題への関心が一気に高まったが、コロナ禍から4年が経過し社会課題への関心が低下していることが分かる。
次に「社会貢献をしている企業の製品を優先して購入しようと思うか」の問いでは、2020年では60.0%~79.9%が「優先して購入する」 と答えたが、2024年では54.1%~56.2%となっており、こちらも低下している。ただし、タイに限っては下落幅がわずか3.8ポイントに留まった。社会課題に対する意識は下がったが、仏教国であるタイは功徳の心が根底にあり、社会貢献を行うことを“良し”とする考え方が残ったと考えられる。
図表3は、ASEAN各国に加えてアメリカ、日本のリモートワークの状況を図示したものである。
図表3
2020年のASEAN各国では、リモートワークを毎日している+時々している人が、タイでは2020年43.2%、2024年では50.2%。ベトナムでは2020年45.2%、2024年では52.0% と、コロナ禍よりも現在のリモートワーク率が高まっている。参考として比較したアメリカでは2024年52.0%であり、ASEAN各国と同様の傾向である。一方、日本は2024年に21.0%と、他国と比較して半分に満たない結果となった。
コロナ禍で急速に伸びたリモートワークはASEAN各国で5割前後が実施する形で残り、タイ、ベトナムに関しては2020年よりも増加する結果となった。つまり、ASEAN各国では家庭にどのような快適な仕事環境を構築するかがニーズとして残っており、不動産、住宅、家具、家電などは大きなビジネスチャンスになるだろう。
ここまでは、ASEAN各国の意識や、行動の変化を確認してきた。ここからはコロナ禍の間にも 所得水準が向上し、成長の続くASEAN各国で今後流行するであろう商品やサービスを、株式会社TNCのライフスタイルリサーチャー視点で、3点を紹介する。
ベトナムでは日本食の知名度が高く、特に寿司は、日系レストラン以外にもベトナム人が運営する寿司屋もオープンするなど人気を誇っている。そんな寿司屋の中でも、最近では次々と出店している寿司・和食を提供する「Kasen Omakase」や「GINZA Omakase」などの本格的な寿司や和食を「おまかせ」スタイルで提供するレストランがベトナム人の富裕層やベトナム在住外国人の間で注目を浴びている。Kasen OmakaseのOmakaseコースは前菜3品やお刺身3品、季節のにぎり、温かいお料理2品などのコースで2,500,000ドン (約15,000円)と高めの価格設定となっている。
ベトナムでも「おまかせ」は、日本と同様に季節や仕入れた食材に合わせて板前におまかせするスタイル。和のテイストをベースにし洗練された印象を与える店内で、熟練の技術を持つ板前がその日のおすすめコースを提供している。寿司が好きなベトナム人にとって、非日常の空間とサービスを提供してくれる日本食の寿司はますます注目を集め、今後も富裕層・在住外国人の間で日本食ブームは引き続き人気となることが予想される。
図表4
近年バンコクではタイティー専門店の出店が目立っている。アイスタイティーのほか、スラーピー(Slurpee)と呼ばれるフローズンドリンクのタイティーが人気だ。2023年3月に出店した「Chongdee Teahouse」は、タイ南部ソンクラー県ハートヤイ発で、南部でよく飲まれるセイロンティーがシグネチャーメニューとなっている。セイロンティーの「Signature Tea」のほか、セイロンティーとタイティーのブレンド「Signature Tea × Thai Tea」がメイン商品。いずれのタイティーもアイス(85~95バーツ)(約390~430円)とスラーピー(95~105バーツ)(約430~480円) があり、大型ショッピングモールに出店すると、長い行列ができるほどの人気だ。スラーピーマシンで作られるスラーピータイティーは、氷を加えてミキサーにかけるスムージーに比べ、なめらかなテクスチャーで飲みやすい。いずれも甘さ控えめで、香りが良く、まろやかでおいしいと評判だ。
図表5
2019年にインドネシアの配車アプリ「Gojek」の買い物代行サービス「GoMart」や、「Grab」の買い物代行サービス「GrabMart」が開始 した高速配達サービス(Q-Commerce)が、ジャカルタで定着している。その後、2021年7月以降に「Segari」や「AlloFresh」など新たな企業が参入。特に「Astro」はミールキットや自社製品が多く、主婦層から支持を集めている。配送料は10,000~30,000ルピア(約88円~264円)で、プロモーションによる送料無料も多い。商品の価格はスーパーと変わらず、1時間以内に届くため、忙しい主婦の強い味方となっている。2025年現在もQ-Commerceは、「Astro」のようにハブ支店をジャカルタ各所において対応範囲を広げる提供形態や、「GoMart 」や「GrabMart」のように注文者の近くのスーパーや提携店で購入して届ける「Jastip」に近い提供形態があり、双方共に日常使いする人は多い。
図表6
今後のASEANでのビジネス展開を考える上で、給与が上がり、購買力を持ったASEANの「Next Upper層」のニーズに注目したい。
ASEANの経済発展と共に今後さらに増加が見込まれるNext Upper層を、世帯年収で定義した。タイ:8万THB以上(日本円で約430万円)、ベトナム:4000万VND以上(日本円で約290万円)、インドネシア(支出)2000万Rp以上(日本円で世帯収入が約350万円相当)とした。これらNext Upper層は、日本ブランドの商品も購入可能な経済的に余裕がある層である。
図表7は、これらNext Upper層が現在保有していないもので、今後欲しいと思っている商品やサービスのTOP10である。
図表7
タイ、インドネシアでは「電気自動車(EV)」が1位、ベトナムでは「ホームセキュリティシステム」が僅差で1位となっている。インドネシアでは「ロボット掃除機」が2位となっており、タイ・ベトナムでは3位と上位にランクされている。「食器洗い機」も各国TOP10にランクインしており、共働き率の高いASEANにおいても自動化や時短のニーズが高まっていると思われる。
これらのデータからASEANの「Next Upper層」においては“環境への対応”“時短への対応”“防犯への対応”など、先進国と同じニーズが読み取れる。いずれも日本メーカーが質の高い商品を提供できる領域であり、ASEANに対してビジネスチャンスが広がっていると考えられる。
また、タイ(5位)、インドネシア(7位)に「フィットネス家電」がランクインし、“健康”に関するニーズも高まっていることが読み取れる他、ベトナムでは「ペット(猫)」が10位に登場しており、“癒し”を求めるペットブームが到来する予兆も読み取れる。
変わり行くASEAN生活者のニーズを読み取り、日本メーカーが競争力を持つ領域で、現地ニーズにマッチした商品、サービスを展開することが期待される。
コロナ禍の2020年時点で、ASEANのアフターコロナがどのように変化するかを、以下の通り予測した。その答え合わせを、今回の調査結果を用いて行った。
タイ:
【予測】功徳の心をオンラインで昇華させ、自分と社会にとって前向きなライフスタイル
【問い】コロナ禍で高まった「社会貢献」意識は、どうなったか?
【答え】「社会貢献」意識は各国で減少しているが、タイでの減少率は他国と比較すると少ない
ベトナム:
【予測】コロナ禍を経て、より質の高い製品を求める中で自国産の商品・サービスが信頼を獲得
【問い】コロナ禍で高まった「Made in Vietnam」志向は、どうなったか?
【答え】ベトナム製EV VinFast「VF7」などMade in Vietnam志向が拡大中
インドネシア:
【予測】自己防衛商品・サービスの充実で、安心して暮らせる健康をベースにしたライフスタイル
【問い】コロナ禍で高まった「衛生・防衛」意識は、どうなったか?
【答え】除菌・抗菌機能のある洗剤の使用が当たり前になった
「残ったもの」「変化したもの」双方あるが、コロナ禍を経て、ASEAN各国の生活スタイルや、価値観がより日本を含む先進国に近づいたのでなかろうか。生活者の課題(ニーズ)として「環境」「時短」「防犯」「健康」などがNext Upper層に顕在化していることが読み取れ、これらは日本メーカーが得意とする領域であり、今後のASEANに向けたビジネスチャンスになるのではなかろうか。
※本記事でご紹介しきれていないデータ・チャートは、無料レポートをダウンロードしてご確認ください 。
調査概要
調査地域: タイ、ベトナム、インドネシア、アメリカ、日本
対象者条件:20~59歳男女(年収条件あり)
標本抽出方法:株式会社dataSpring:アジアパネル、及びマイティモニターから、適格者を抽出
標本サイズ:
2020年10月 タイ:n=422、ベトナム:n=423、インドネシア:n=423、アメリカ:n=415
2024年12月 タイ:n=235、ベトナム:n=233、インドネシア:n=241、アメリカ:n=273、日本:n=319
ウエイトバック集計:なし※
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