
近年、国内でもZ世代の行動や価値観、消費傾向が注目を集めているが、グローバルに目を向けると、2030年にZ世代(現15~29歳)は、世界人口の20~25%を占める と予測されており(※)、日本国内よりもさらにZ世代が消費の中心となる可能性がある。
彼らは他の世代と比べて「デジタルネイティブ」「SDGsネイティブ」「ワークライフバランス重視」など生活背景が大きく異なるため、価値観やライフスタイル、さらに求める商品・サービスも異なると言われている。
この世代の変化はグローバル市場の担当者にとって、Z世代を見据えた中長期の商品・サービス戦略を検討する絶好のチャンスであると言える。
今回はZ世代比率の増加傾向が大きいASEAN3カ国(ベトナム、タイ、インドネシア)に加え米国のZ世代の価値観や、消費行動の実態を定量調査にて探ると共に、株式会社TNC の協力を得て、現地のZ世代が注目する最新トレンドを伝えていく。
※国連World Population Prospects 2024 からの推計値
ASEANのZ世代 が今後何を重視して消費を行うのかを把握し、彼らに響く商品やサービスを提案するため、「今よりも増やしたい時間」を確認した。比較対象は米国のZ世代、ASEAN3カ国におけるミレニアル世代とした。(図表1)
増やしたい時間として上位にランキングされるのは、「自宅で食事をする時間」「健康維持のための時間」「睡眠時間」「知識や教養を身につける時間」の4項目でありASEAN各国で多少順位が異なる。その割合は異なるがミレニアル世代も同様の傾向となった。
10位以内に挙がった各国で特長的な増やしたい時間は、ベトナムでは8位の「美容のための時間」48.4%、タイでは10位の「旅行やレジャーのための時間」40.7%、インドネシアでは10位の「一人で過ごす時間」56.0%であり、国により違いがあることが分かる。
(図表1)
各国で今よりも増やしたい時間の上位に「自宅で食事をする時間」が挙がっているが、アンケートでは同様に「今よりも減らしたい時間」も聴取しており、各国共に「外食をする時間」が1位もしくは2位となった。従来屋台やテイクアウトでの食事が多かったASEAN各国では、コロナ禍を経て、自宅食のニーズが継続している 。しかし、ASEAN各国の若年層向け住居ではキッチンの設備が貧弱なケースが多く、このようなキッチン設備でも自宅で食事が楽しめる、調理が簡便な「インスタント食品」や、「冷凍食品」へのニーズ、これらを調理するための「電子レンジ」や「自動調理家電」などが、今後のASEANのZ世代に向けた商品群として考えられるのではなかろうか。
次に、世代による価値観の違いが購買意識や行動にどのような差をもたらしているのかを確認するため、Z世代がどのような価値観で商品やサービスを選んだり、買ったりしているかを確認した結果が図表2である。
Z世代では共通して「本当に気に入ったものを長く使っていきたい」が各国で上位に挙がり、ミレニアル世代と比較しても5.9ポイント高い結果となった。
各国別に見て行くと、ベトナムでは「有名ブランド、メーカーのものを選ぶ」18.1%、タイでは「多少出費が多くなってもより品質のよい商品やサービスを求めるほうだ」25.9%、「作り手の思いに共感して買う」17.3%、「機能がシンプルなものが好きだ」27.8%、インドネシアでは「モノは必要最低限のものがあれば良い(ミニマル)」32.9%、「自分を向上させるために時間やお金を使っている(自己投資)」36.1%が他国と比べて高く、国による違いを発見することができた。
(図表2)
ここからは、最新のZ世代が何に注目しているのかを把握するため、株式会社TNCの現地在住のライフスタイル・リサーチャーが取材した、各国のZ世代が注目しているトレンド情報を掲載する。
(図表3)
ベトナム市場において、Z世代を中心に「Cơm tự sôi(自熱式食品)」の需要が急速に拡大している。この背景には、都市部での共働き世帯の増加や若者の多忙なライフスタイルがあり、火を使わずに手軽に温かい食事ができる時短ニーズに合致したことがある。
トレンドの火付け役は中国の「海底捞」であり、TikTokなどのSNSで利便性が拡散され、人気が加速した。このビジネスチャンスを捉え、2024年4月にはベトナムの食品大手Masan Group傘下の「Omachi」が市場に参入。「蟹と牛肉の鍋」といった若者向けの製品を10万~15万ドン(約590~880円)の価格帯で投入し、国産の選択肢を提供したことで市場の成長を後押ししている。
社会構造の変化とSNSマーケティングがうまく噛み合った結果であり、今後も大きな成長が見込まれている。
(図表4)
タイにおいて、Z世代の女性起業家が立ち上げたコスメブランドが同世代の心を掴み、ビジネスを急成長させている。その代表格が「LOVE POTION」であり、手頃な価格と収集欲を刺激する商品で小学生高学年から中高生に絶大な人気を誇る。その結果、2024年の収益は前年比185%増の4.54億バーツに達した。
この成功の最大の要因は、創業者Card氏自身が1,200万人のフォロワーを持つインフルエンサーとなり、TikTokを駆使する独自のマーケティング戦略にある。外部の有名人に頼らず、自身の創業ストーリーや時に炎上も辞さない型破りな企画を発信することで、Z世代の強い共感を獲得。TikTokのライブ販売では40分で25万バーツを売り上げるなど、驚異的な販売力を持つ。
「LA GRACE」といった類似ブランドの成功も見られ、創業者自身のサクセスストーリーがZ世代を惹きつける強力なブランド価値となっている。
(図表5)
インドネシアにおいて、コロナ禍を機に都市部の若者を中心にキャンプやグランピングが一大トレンドとなっている。この需要増をビジネスチャンスと捉え、キャンプサイト、特に手ぶらで楽しめるグランピング施設やアウトドア用品店が急増し、市場の拡大を後押ししている。
多くの人気サイトは首都ジャカルタから車で1~2時間の距離にあり、イチゴ狩り農園などが併設されていることも多い。このため、家族や友人と楽しむこのアクティビティには車での移動が不可欠であり、車を所有する都市部の中間層以上が主要なターゲットとなっているようだ。
利用者のニーズは手軽な自然体験に留まらず、SNS映えする景観やこだわりのキャンプ用品へと多様化。インフルエンサーによるSNSでの情報発信が集客に直結しており、自動車、関連用品、SNSマーケティングが絡み合う有望なビジネス領域として確立されつつある。
各国のZ世代が注目する商品や体験を見てきた。では、彼らはそれらの情報をどこから得ているのか。
本章では、SNSや動画を駆使するデジタルネイティブであるZ世代とミレニアル世代の情報収集の違いに焦点を当て、購買行動に影響を与える情報入手先の実態を検証していきたい。
図表6は、化粧品・洗剤・日用品と、自動車・バイクの情報入手先の代表例の差を表したものである。
日本のZ世代が言われるように、 ASEANのZ世代においても「テレビCM」からの情報入手はミレニアル世代と比べ減少している。共に6.7ポイント差が付いた。
またASEANでは、EC(電子商取引)が進んでいると言われているが、Z世代、ミレニアル世代共に「店頭」からの情報入手が約30~40%と情報入手先で共に1位となっている。
化粧品・洗剤・日用品では、Z世代は「SNSの投稿」31.2%(ミレニアル世代と3.3ポイント差)、「動画に表示される広告」21.0%(同3.1ポイント差)である。
自動車・バイクでは、Z世代は「店頭」36.2%(同5.9ポイント差)、「友人、知人」34.0%(同3.7ポイント差)となっている。
ASEANのZ世代では、「テレビCM 」からの情報入手は少ないが、リアルの「店頭」「友人・知人」からの情報入手が多いことが見えてきた。「SNSの投稿」や「動画に表示される広告」が引き金になり、リアル「店頭」への誘導や、リアル口コミ「友人、知人」からの紹介が行われているのではないだろうか。デジタルネイティブであるZ世代が多くの情報を多角的に集め判断している姿が推測される。
(図表6)
最後に、成長が著しいASEANのさらなる成長の可能性を探り、日本企業がどのような商品やサービスで貢献できるか を探るために、ASEAN各国のZ世代に対して“どのような体験や経験をした時に「ゆたか」と感じるか”聴取してみた。(図表7)
ASEAN各国でZ世代、ミレニアル世代共に上位に挙がるのは「経済的な安心感があるとき」であり、ASEANのZ世代では、22.8~29.3%が選択。ASEAN3カ国のミレニアル世代の集計では32.4% とさらに 高い回答となっている一方で、米国Z世代では4位、18.4%と顕著な差が見られた。
上位には他に「未来への希望や目標がある」「ワークライフバランスがとれた生活」がランクインした。
国別に確認すると、ベトナムでは「安心して眠れる夜」が1位24.3%、タイでは「自分らしくいられる 居どころがあるとき」4位16.0%、インドネシアでは「趣味に没頭する時間」3位22.8%と、各国により特長が現れた。
(図表7)
Z世代が「ゆたか」と感じる体験や経験は、①経済面、②未来への希望、③ワークライフバランスの取れた生活であることが分かる。また、ベトナムでは「仲間・家族」、タイでは「居どころ」、インドネシアでは「趣味」が重視されている。ASEAN各国の「増やしたい時間」や「ゆたか」な経験をさらに深掘ることにより、Z世代のゲイン:(さらに増やすと嬉しいこと)が見えてくるだろう。このゲインをさらに後押しする商品や、サービスを検討していくことが、次代のASEANの消費の主流となるZ世代に向けた商品・サービスの検討につながるのではなかろうか。
紙面の関係で詳細は割愛するが、未来共創センターでは、価値観に基づくクラスター分析により、Z世代を7つのタイプに分類している。
ここでは特長的な4つのタイプを紹介したい。(詳細はダウンロード資料を確認いただきたい )
●「人の目が気になるZ」他者からの承認欲求が強く、常に周囲の目を気にして行動するタイプ
●「自分軸を貫くZ」自分の価値観に忠実で周囲に迎合せず、安定した生活を好むタイプ
●「意識高い系Z」自己承認欲求と、優越感が強く、向上心もあり、自信に満ちチャレンジ精神
旺盛なタイプ
●「家族と自分を大事にするZ」家族の絆と自己の成長(新しいことに前向き)の両方を重視
するバランスタイプ
(図表8)
こうしたタイプ分けを活用することで、ASEAN Z世代の特長を知ると共に、各国における商品・サービス展開時のターゲティングがより精緻に行えるようになる。ぜひ2030年に向けてASEANのZ世代の研究を進めてほしい。
※今回の調査で明らかになった詳細なデータやチャートは、無料のダウンロードレポートでご覧いただけます。レポートのみにて提供している項目は以下です。ぜひ、ダウンロードしてご覧ください。
<ダウンロードレポートのみ掲載項目>
・ASEAN Z世代が減らしたい時間
・自炊回数の変化
・外食回数の変化
・「健康維持」は何のためか(目的)
・購入時の情報入手経路(食品・飲料/家電・エアコン・スマートフォン)
・Z世代が注目する「魅力的な訴求ワード」 FMCG(食品・日用品)
・Z世代が注目する「魅力的な訴求ワード」 DCG(耐久財・車・家電)
・Z世代の象徴的なペルソナ
・次代の生活者 「Z世代」の特長比較とまとめ
<調査概要>
調査地域: ベトナム、タイ、インドネシア、米国
対象者条件:Z世代:15~29歳男女、ミレニアル世代:30~44歳男女
(年収条件、婚姻条件等なし)
標本抽出方法:株式会社dataSpring:アジアパネル、及び提携パネルから、適格者を抽出
標本サイズ:Z世代:n=1029 (ベトナム:n=337、タイ:n=324、インドネシア:n=368、米国:n=103)
ミレニアル世代:n=1021
ウエイトバック集計:なし
調査期間:2025年6月25日~7月4日
◆本レポートの著作権は、株式会社インテージが保有します。
下記の禁止事項・注意点を確認の上、転載・引用の際は出典を明記ください 。
「出典:インテージ 「知るギャラリー」●年●月●日公開記事」
◆禁止事項:
・内容の一部または全部の改変
・内容の一部または全部の販売・出版
・公序良俗に反する利用や違法行為につながる利用
・企業・商品・サービスの宣伝・販促を目的としたパネルデータ(*)の転載・引用
(*パネルデータ:「SRI+」「SCI」「SLI」「キッチンダイアリー」「Car-kit」「MAT-kit」「Media Gauge」「i-SSP」など)
◆その他注意点:
・本レポートを利用することにより生じたいかなるトラブル、損失、損害等について、当社は一切の責任を負いません
・この利用ルールは、著作権法上認められている引用などの利用について、制限するものではありません
◆転載・引用についてのお問い合わせはこちら