変わる可処分時間の中身~スマホ時間の増加とその影響~

「可処分時間」という言葉をご存じでしょうか 。1日24時間のうち、労働時間・食事・トイレ・睡眠時間などの生きていくうえで最低限必要な時間を差し引いて残る自由時間のことを指します。最近では、SNSマーケティングやYouTubeの再生回数など、成果が伸び悩む課題 に対して、“可処分時間”という言葉を使って理解・説明しようとする記事や発信が増えているように思います。 そこでは、「コンテンツの増加によって可処分時間の取り合いが起きている」と結論づけられることが多いですが、それは本当に正しいのでしょうか。 コンテンツの増加だけでなく、可処分時間の量が減少することでも時間の取り合いは発生し得るため、その視点も含めて考えていくことが必要です。
そこで本記事では、アンケート結果とスマートフォン利用ログデータであるインテージシングルソースパネル i-SSP(以下、ログデータ)を用いて可処分時間のトレンドとスマートフォンアプリ間での「時間の取り合い」 が実際に起きているかを確認します。加えて、そこから見えてくる24時間の時間配分の変化についての示唆も提示していきます。
目次
1. 労働・睡眠時間、過去3年で大きな変化なし
可処分時間の変化を把握するために、可処分時間以外で大きな割合を占めている労働時間・睡眠時間を見ていきましょう。
インテージが年に1回定期的に実施している「メディア利用・ライフスタイル調査」のアンケート結果をもとに、2022年~2024年の平日1日あたり の会社・学校にいる時間(以下、労働時間)と睡眠時間の推移を、図表1、図表2に示します。
労働時間 ・睡眠時間ともに過去3年間で若干の変動は見られるものの概ね横ばいで推移しています。日本における1日の標準労働時間は8時間と定められていることからも、年ごとに大きな変動が見られないのは妥当な結果といえます。また、睡眠時間についても、年次で大きく変動することは考えにくく、この3年間を通じて安定している点も自然な傾向と捉えられます。
図表1

図表2

2. スマホアプリの利用個数・利用時間、年々増加
可処分時間におけるスマートフォンアプリの利用状況を把握する ために、アプリの利用個数およびアプリ利用時間の推移を、ログデータを用いて確認します。
まず 、アプリ利用個数について、図表3に1か月間に使用するスマートフォンアプリの平均個数を示します。 2022年から継続して増加傾向にあり、2022年から2025年にかけて、平均利用個数は約8個増加し、2022年比で約13% の増加となりました。
図表3

続いて、アプリ利用時間について、1日あたりの利用時間を図表4に示します。こちらもここ3年間で継続的に増加傾向を示しており、2024年の1日あたり利用時間は、約4.9時間と、5時間に迫る勢いです。
図表4

3. 利用個数・利用時間だけでなく、1アプリあたりの利用時間も増加
スマホアプリ利用時間について、より解像度高く理解するために、アプリ1つあたりの月間平均利用時間を集計した結果を図表5に示します。月間でのアプリ1つあたりの平均利用時間は、日常的な感覚では把握しづらいものの、 平均 約2.0~2.5時間になっています。2023年に一時的な減少が見られますが、過去4年間全体としてはこちらも増加傾向にあります。
図表5

4. アプリ間での可処分時間の取り合いは起きているのか
ここまでの内容をまとめていきます。
1日の約60%を占める労働時間・睡眠時間の割合は過去3年間でほぼ変化していませんでした。また今回のデータには含まれていませんが、トイレや食事などの時間についても、近年の時代変化の影響を受けることは想定しづらく 、こちらも概ね一定に推移していると仮定した場合、可処分時間のトレンドは過去3年間でほとんど変化なく推移していると考えられます。したがって、可処分時間の減少を原因とするアプリ間での時間の取り合いは、今回の結果からは確認できません。
次に 、コンテンツの増加を起因とするアプリ間での時間の取り合いについて 検討します。
「アプリの利用個数」、「アプリの利用時間/1アプリあたりの利用時間」はいずれも増加傾向でした。両者が増加していることから、コンテンツの増加を原因としたアプリ間での時間の取り合いが発生していると断定することは困難です。
5. スマホ利用時間の増加が趣味時間に与える影響
4章までの内容で、アプリ間での「時間の取り合い」は、今回の結果からは確認できませんでした。
しかしここで 改めて、これまでの内容から24時間の時間配分について考察します。アプリ利用時間が増加している分、他の何らかの時間が減少していると考えられますが、その示唆となるアンケート結果を図表6に示します。図表6は、趣味の数のトレンドを示していますが、2022年から2024年にかけて個数では約0.7個、2022年比で約13%減少しています。
図表6

図表6の結果とこれまでの内容を踏まえると、一定の量で推移している可処分時間の内訳として、スマートフォンアプリに費やす時間が増加し、それ以外の趣味に費やす時間が減少するという、図表7に示すような変化が起きている可能性があります。
図表7

現状、アプリの利用個数とアプリ利用時間は共に増加傾向にあるため、図表7に示すような変化が本当に起きている場合、趣味時間の減少は今後も続くと予想されます。
なお、スマートフォン利用時間の増加には、生活スタイルの変化も影響している可能性があります。たとえば、23年以降出社回帰の向きや登校増加により、通勤・通学中のスマホ利用が増えていそうです。そのほかにも、飛行機内のWi-Fi完備や、着用したままスマホ操作可能な手袋など、従来までは利用が困難であった場面においても、スマホ利用できる技術や製品の進歩が進んでいます。これらは、従来はスマホ利用が難しかった場面でも利用可能にするものであり、今後も緩やかにスマホ利用時間が増加し、それに伴って趣味など他の活動時間が少しずつ減少していく可能性が考えられます。
6. さいごに
いかがでしたでしょうか。可処分時間の総量のトレンドと、スマホアプリ間での「時間の取り合い」が実際に起きているかどうかを確認してきました。少しでも気づきや発見に繋がる内容になっていれば幸いです。読者の中には、ご自身の自由時間の過ごし方を改めて振り返るきっかけになった方もいらっしゃるかもしれません。スマートフォンの利用時間が、知らず知らずのうちに他の趣味や娯楽、例えば読書やスポーツ、友人との会話などの時間に影響を与えていることに気づいた方もいるのではないでしょうか。この機会に、ぜひ一度ご自身の「時間の使い方」を振り返ってみるのもいいかもしれません。 情報との付き合い方やSNSとの距離感を考えることが、スマートフォンの利便性を受けながら、より豊かでバランスの取れた日常につながるはずです。
<調査概要>
■2022年 Media Profiler
調査期間: 2022年5月27日(金)~6月13日(月)
調査対象者: i-SSP協力者 15~69歳男女
サンプルサイズ: 21,218s
■2023年 Media Profiler
調査期間: 2023年5月26日(金)~6月12日(月)
調査対象者: i-SSP協力者 15~69歳男女
サンプルサイズ: 13,290s
■2024年 Media Profiler
調査期間: 2024年5月24日(金)~6月17日(月)
調査対象者: i-SSP協力者 15~69歳男女
サンプルサイズ: 13,318s
■2022年 TVAL Profiler
調査期間:2022年4月1日(金)~4月15日(金) 関東
2022年7月15日(金)~8月8日(月) その他エリア
調査対象者: i-SSP TV協力者 15~99歳男女
サンプルサイズ: 19,440s
■2023年 TVAL Profiler
調査期間: 2023年7月14日(金)~8月14日(月)
調査対象者: i-SSP TV協力者 15~99歳男女
サンプルサイズ: 16,473s
■2024年 TVAL Profiler
調査期間: 2024年7月12日(金)~8月13日(火)
2024年10月4日(金)~11月5日(火)
調査対象者: i-SSP TV協力者 15~99歳男女
サンプルサイズ: 18,994s
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