ベンチマーク調査をもっとビジネス貢献できるものへ~アンケート調査と消費者パネルデータの融合~
この記事では2022年7月21日にインテージが開催したセミナー「ビジネス貢献するベンチマーク調査へアップグレード! 新プログラム発表」の内容の一部をお届けします。
ベンチマーク調査とは?
ベンチマーク調査や、定点調査、ブランド実態把握調査などと呼ばれるアンケート調査(以降、ベンチマーク調査と呼びます)は、数多くの事業会社で定期的に実施されています。その目的は様々ですが、代表的なものとしては、以下のようなものが挙げられます。
- 自社参入カテゴリーにおける生活者意識の変化を把握する
- 自社参入カテゴリーの市場動向やトレンドを理解する
- 自社と競合ブランドに対する生活者意識の実態を把握する
この調査結果は、多くの場合、マーケティング戦略策定の基礎データとして取り扱われています。
ベンチマーク調査は、変化やトレンドを追うという目的を達成するために、以下のような特徴があります。
- 時期を決めて、定期的に実施される
- 基本的な調査設計は、踏襲される
- 特定の商品やブランドに偏らず、市場を俯瞰するように設計される
ただ、これらの特徴が故に、調査を実施することが目的化してしまったり、大きな変化が見られなかった場合に、課題提起が難しくなったり、個別アクションに繋がりにくくなったりするという課題もあります。
ベンチマーク調査の主な構成要素と課題
多くのベンチマーク調査では、認知から購入に至る生活者意識の変化(いわゆる、ファネル構造)を明らかにします。そして、認知者数や購入意向者数などが増加/減少した要因を見つけ出すことで、ビジネス伸長のための示唆が出されます。 その際に、認知者数の増加がビジネス伸長の起点であることを前提に議論が進められることもあるようですが、実際には、それだけではありません。
図表1は、インテージの自主調査結果を基に、ブランドAとブランドBのファネル構造を示したものです。ブランドAは、認知者数、理解者数、購入意向者数共にブランドBを大きく上回っていますが、理解から購入意向、購入意向から購入への歩留まりがブランドBより少ないために、最終的な購入者数では大きな違いはありません。
この構造の違いは、認知~理解獲得といったアッパーファネルに注力するか、購入意向~購入といったローワーファネルのどちらに注力するか、といったシナリオの違いでも起こりえます。そしてこの結果は、ビジネスを伸長させるための起点が必ずしも認知者数の増加ではないことを示しています。
図表1
また、ビジネス伸長の起点を探る上では、売上の構成要素に分解して課題を捉えられる調査フレームになっていることが重要です。
売上金額は、生活者行動の視点では以下のように分解されます。
売上金額 = 購入者数 x 購入者当たり購入回数 x 購入1回当たり購入金額 |
分解した各要因の増減理由を起点に、ネクストアクションを考えます。ただ、現状のベンチマーク調査では、「購入者数」の増減理由は議論されますが、「購入者当たり購入回数」や「購入1回当たり購入金額」については、特に消費財カテゴリにおいてはアンケート調査から確からしい値を導出するのは簡単ではないため、それらを調査フレームに組み込んで議論するケースは多くないと考えられます。
ビジネスに紐づくベンチマーク調査のフレーム
前述の通り、理想的なベンチマーク調査は、購買に至るまでのファネル構造とその先の購買行動を捉え、包括的なビジネス分析に繋げられるものです。ただし、「購入者当たり購入回数」や「購入1回当たり購入金額」といった行動は、アンケート調査では正しく捉えることが難しいという課題がありました。
そこで、ベンチマーク調査に消費者パネル調査をドッキングして、この課題を解消することを考えてみましょう。消費者パネル調査は、いつ、だれが、どこで、何を、いくらで購入したのかという事実を蓄積したデータベースです。このデータを活用すれば、「購入者数」、「購入者当たり購入金額」や「購入1回当たり購入金額」などの購買行動データを、アンケート調査より精度高く、しかも簡単に算出することができます。
この調査フレームで売上額を生活者意識と購買行動で説明できるようにすることで、ベンチマーク調査をビジネス目標の設定やその進捗管理に活用できることが期待されます。
ここからは、インテージの消費者パネルSCIと自主企画調査をドッキングしたデータを基に、この調査フレームの有効性を検証していきます。 ※ドッキングは、ベンチマーク調査と消費者パネルの双方で計測できる「購入者数」をキーとし、ベンチマーク調査から得られるファネル構造にインテージ独自の補正係数をかけ合わせて実施しました。
消費者パネル×ベンチマーク調査の活用事例
図表2はあるブランドの主要指標を並べた結果です。この例では、購入者をさらに新規顧客と既存顧客に分けて見てみました。
売上構成のおよそ75%が既存顧客によるもので、新規顧客は25%程度ということから、新規顧客を獲得することによってビジネス成長を図るという考え方もできると思います。
図表2
この結果からは、新規購入者の獲得の機会として、「認知者内における理解者の拡大(B%)」や「購入意向者内における購入者数の拡大(D%)」が考えられます。ただ、これまでのベンチマーク調査では、その改善が売上額にどの程度インパクトがあるのかを定量的に示すのが難しく、改善策の必要性を判断しづらいと感じる方も多かったのではないでしょうか。
図表3は今回の調査フレームで、B%やD%を改善したときの売上額の変化を計算した結果です。B%とD%をそれぞれ40%まで改善することが出来るとすると、売上額が172,431から183,379に変化し、計算上約6%程度売上額が増加します。
図表3
この売上額の数字は、実際の市場規模とは異なりますし、増加率もあくまで目安で、売上の増加率をコミット出来るようなものでもありませんが、約6%程度の売上額の増加という規模感を持ちながら目標設定できることは、これまでのベンチマーク調査では難しかった部分だと思います。
実際の業務では、B%とD%の改善目標値(KPI)が、自社のケイパビリティやキャパシティを鑑みた場合に妥当なものなのか、自社の強みを活かした目標になっているのか、など実現可能性を検討するプロセスを経る必要があります。図表4にファネルの歩留まりをコントロールする主な指標をあげています。現実の市場では、様々な要素が絡み合うので、このようなシンプルな構造はしていないと考えられますが、今回ご紹介したベンチマーク調査フレームのアウトプットを理解する上での参考にして頂けるのではないかと思います。
図表4
おわりに
本記事では、既存ベンチマーク調査の課題と、ビジネスの目標設定と進捗確認を可能にするベンチマーク調査の新しいフレームをご紹介しました。
インテージでは、この新しいベンチマーク調査フレームを通じて、今まで以上に、お客さまビジネスに貢献したいと考えています。
ベンチマーク調査のビジネス貢献をさらに高めたい、ビジネスプランをよりデータに基づいて策定していきたい、などのご要望がございましたら、お問い合せフォームにてお問い合わせください。
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