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実務で解説 生活者中心のビジネスマネジメントのためのマーケティングリサーチ第2回 マーケティング計画の目標設定と振り返り ~ブランド浸透度調査の活用

これまで「実務で解説 生活者中心で考えるマーケティングフレームの使い方」と題して、生活者の意識や行動に基づくマーケティングフレームの使い方を解説してきました。多くのポジティブなご意見をいただいた一方、「具体的なリサーチ設計について知りたい」という声もありました。本連載では、その要望に応え、生活者中心のマーケティングリサーチについて考えていきます。

第1回では、マーケティングリサーチ文脈で頻出する、「認知」「理解」「購入意向」「購入」といった用語を、生活者の意識や行動の変化と紐づけて考えました。生活者が“必ず”経るステップを軸に、できるだけシンプルなブランド浸透度調査の構造をご紹介しています。今回は、その考え方に基づいた、具体的なビジネスの振り返りとネクストステップの設定方法についてご紹介したいと思います。

1. 生活者の意識と行動の変化を促すためのマーケティング計画

事業者の皆さま は、その商品やサービスの価値を生活者にお届けするために、マーケティング活動を行われていると思います。ビジネスでは、より多くの生活者に、より高い価値のある商品やサービスを、よりたくさんお届けすることで、生活者に対してより大きな貢献をすることができ、その対価として収益を得ます。このことを数式で表現すると、以下のようになります。

      売上額 =   購入者数
            x 購入者一人当たりの購入回数 
            x 購入1回当たりの購入金額

第1回では、生活者が購入者に至る意識変化の過程を図1のように表しました。

図表1

生活者が購買行動を起こすまでの意識変化

売上額を説明する数式と、意識変化の過程を一つに表すと、図2のようになります。マーケティングによって、生活者に商品やサービスの存在を知らせ(認知)、商品やサービスの様々な情報を伝達する(理解)ことで、購入したい(購入意向)と思って頂き、購入する(購入)という行動を起こして頂いたあと、それを繰り返すよう習慣づけて頂く活動ということもできると思います。マーケティング計画は、その活動内容をまとめたものになります。

図表2

生活者の意識変化と購買行動でビジネスを説明するモデル

2. 生活者の意識と行動を変化させる施策

マーケティング計画は、一般的に以下の4つの群(4P)で構成されると思います。

Promotion: 製品やサービスの存在を知らせ、それに関する情報を伝達する活動
Place:    製品やサービスを生活者までお届けする活動
Product:  製品やサービスの便益を具現化する活動
Price:    製品やサービスの対価を設定する活動

これらの活動を、図2のモデルに組み合わせると、図3のような、ビジネスレビューモデル になります。図3は、考え方を、できる限りシンプルに表現したもので、様々なマーケティング施策を1対1で紐づけるものではありません。たとえば、「店頭での山積み」は、Placeに関する活動と捉えることが多いと思いますが、その活動は、認知や理解の拡大に繋がりますので、Promotionの効果もあると考えられます。

図表3

生活者中心のビジネスレビューモデル

Promotionは、認知者数や理解者数を増やそうとしますので、活動の結果は、図3の[A%]や[B%]に反映されます。Placeは、製品やサービスをお届けする活動ですが、その直接の対象は購入意向者になりますので、その活動の結果は、購入者を増やす[D%]に反映されます。製品やサービスを通じてお届けするベネフィット(≒Product)が、生活者を十分満足させることができれば、買うという行動を続けてもらえる 可能性が高まりますが、そうでなければ買うという行動を止めてしまうかもしれないので、その活動の結果は[E回]に反映されると考えられます。Priceは、文字通り、[F円]に反映されます。このようにマーケティング計画を構成する4Pは、生活者中心のビジネスレビューモデル 上に表現することができます。

図3の生活者中心のビジネスレビューモデル上には、4P以外にも、Positioningが表現されています。Positioningは、商品やサービスのコンセプトと言い換えることもできます。「理解」から「購入意向」への歩留まりであるC%は、商品やサービスを十分理解した人のうち、買いたいと思ってもらえる人の割合を示しています。ここでのポイントは、C%が4P施策と紐づかず、生活者の意思に委ねられているところにあります。C%の低い商品は、たとえ非常に優れた4P施策を立案したとしても、大きな売り上げが期待できません。それは、シンプルにまとめてしまうと、「買いたいと思っている生活者が少ないから」です。買いたいと思わないものに対して、生活者はお金を払いません。

3. 浸透度調査を目標設定に活用する

認知者数、理解者数、購入意向者数、購入者数は、第1回でも書きました通り、浸透度調査で計測することができます。当該商品の購入回数や購入金額も、浸透度調査で聴取することは可能です。

図4は、浸透度調査のアウトプットイメージです。 自社の結果に対し、競合や自社の前年値をベンチマークとして、ビジネスレビューを行います。この結果は、以下のように解釈することができます

・認知率(A%)は、競合より高く、優位性を保っている
・認知者理解率(B%)は、前年より向上したものの、未だ競合劣位の状態
・理解者購入意向率(C%)は、前年より低下しており、競合との差が拡大している
・購入意向者購入率(D%)は、前年より改善し、競合と同等となった
・購入頻度(E回)は、前年と変わらず、競合と同等を維持
・1回当たり購入金額(F円)は、前年より低下し、競合との差が広がった

図表4

浸透度調査結果のイメージ

この結果を基にすると、B%、C%、F円に改善の機会があると考えられます。特に、C%の低下は、生活者が離反している可能性(買いたいと思う人が減っている)を示唆しており、F円の低下は、価格を下げることで離反を防いでいると解釈することもできます。このモデルでは、売上額を以下のように表現することができます。

売上額 = 人口xA%xB%xC%xD%xE回xF円

図4の結果では、自社実績の売上額の計算値は、3,173百万円になります。アンケートベースの浸透度調査では、この計算値と実際の売上額は大きく乖離することがほとんどだと思いますが、購入者数、購入回数、購入金額を消費者パネルデータから引用し、補正を加えることで、乖離を少なくすることは可能です。

また、図5のようにA%~F円について目標値を設定すると、同様に目標とする売上額を計算することができます。

図表5

浸透度調査結果のイメージ

図5の例では、3,659百万円となります。この売上額の絶対値も、多くの場合で、現実的な値とは大きく乖離すると思いますが、実績値と目標値は同じ調査設計を想定し、同じ計算ロジックを用いていますので、その相対値である売上増加率(図5では15%)は、それほど乖離しないと想定できます。

ネクストステップとして、C%の改善が必要であれば、Positioningの修正を検討することになるので、「生活者理解からのアイデア創出」が考えられます。F円の改善が必要であれば、「特売頻度の再検討」や、「大容量SKUやバンドル品の販売促進検討」などが考えられます。

ビジネスの現場では、売上目標値(≒前年比)が先に決まり、その後に、マーケティング計画を策定することも多いと思います。その場合は、目標の売上前年比となるように、A%~F円の目標値を設定することになります。図5の例では、ビジネスレビュー結果から導かれた機会に対応して目標値を設定していますが、C%やF円ではなく、別のパラメーターを改善して、売上目標値を達成するシナリオを描くことも可能です。

4. まとめ

今回は、浸透度調査結果をマーケティング計画のレビューと目標設定に活用し、ネクストステップを導く考え方についてご紹介しました。実際の分析や目標設定については、細かなところで注意すべき点もありますが、今回は基本的な考え方をお伝えするため割愛しています。次回は、浸透度調査を、ブランドマネジメントと紐づけて活用する方法をご紹介したいと思います。

※)調査結果は、調査設計や分析手法によって大きく左右されます。本記事でご紹介した浸透度調査にご興味のある方がいらっしゃいましたら、こちらよりお問い合わせ頂くか、営業担当までご連絡ください。

著者プロフィール

平井 公一 株式会社インテージ マーケティング企画推進部 プリンシパル・コンサルタントプロフィール画像
平井 公一 株式会社インテージ マーケティング企画推進部 プリンシパル・コンサルタント
大阪府立大学大学院工学研究科修了後、1995年P&G入社。研究開発本部で、新ブランドの立ち上げ、既存商品のリニューアルなど、消費者理解をベースにした幅広い商品開発を経験。2010年(株)インテージに入社し、2013年にはインテージ・シンガポールPTE.LTD.取締役に就任。大手PB商品企画・開発会社マーケティング部長を経て、2016年(株)インテージコンサルティング(現、インテージ)に加入。 日用消費財、耐久消費財、流通・サービスなど、幅広い業界で、生活者起点のマーケティング活動を支援。

大阪府立大学大学院工学研究科修了後、1995年P&G入社。研究開発本部で、新ブランドの立ち上げ、既存商品のリニューアルなど、消費者理解をベースにした幅広い商品開発を経験。2010年(株)インテージに入社し、2013年にはインテージ・シンガポールPTE.LTD.取締役に就任。大手PB商品企画・開発会社マーケティング部長を経て、2016年(株)インテージコンサルティング(現、インテージ)に加入。 日用消費財、耐久消費財、流通・サービスなど、幅広い業界で、生活者起点のマーケティング活動を支援。

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