
これまで「実務で解説 生活者中心で考えるマーケティングフレームの使い方」と題して、生活者の意識や行動に基づくマーケティングフレームの使い方を解説してきました。多くのポジティブなご意見をいただいた一方、「具体的なリサーチ設計について知りたい」という声もありました。本連載では、その要望に応え、生活者中心のマーケティングリサーチについて考えていきます。
第1回は、マーケティングリサーチ文脈で頻出する、「認知」「理解」「購入意向」「購入」といった用語を、生活者の意識や行動の変化と紐づけて考えました。生活者が“必ず”経るステップを軸に、できるだけシンプルなブランド浸透度調査の構造をご紹介しています。第2回では、その考え方に基づいた、具体的なビジネスの振り返りとネクストステップの設定方法についてご紹介しました。
「実務で解説 生活者中心のビジネスマネジメントのためのマーケティングリサーチ」第3回は、ブランドエクイティをブランド浸透度調査と紐づけて、ビジネスマネジメントに活用する考え方についてご紹介します。ブランド構築がビジネス推進の大きな柱でありながら、ブランド構築のビジネス貢献が見える化されているケースは多くないと思われます。ブランド構築は中長期的な視点、ビジネスマネジメントは短期的な視点を重視すると思いますので、紐づけるのは容易ではありませんが、生活者を中心に据えると、一つの考え方が見えてきます。
生活者の購買行動サイクルをモデル化したものが、図1になります。
① 生活者は、商品を購入する際、自身のニーズ(購入重視点)と合致するブランドイメージを
持つ商品を選び、購入すると考えられます[購入重視点とブランドイメージのマッチング]。
② ブランドイメージは、商品の使用経験がない場合、コミュニケーション のみを通じて
形成されます。
③ 生活者は、購入した商品を使用すると、購入前の期待に対する製品体験の達成度を評価
すると考えられます[購入重視点と満足点のマッチング]。
④ 評価結果は、ポジティブであれ、ネガティブであれ、ブランドイメージを構成する要素
として蓄積されます。
このブランドイメージは、生活者の頭の中にあるもので、「顧客ベースのブランドエクイティ」と考えることができると思います。
図1
第1回、第2回では、生活者が購入者に至る意識と行動の変化の過程を図2のように表しました。生活者の頭の中にあるブランドイメージは、ブランドに対する理解に他ならないので、顧客ベースのブランドエクイティを、ブランドに対する理解として捉えることもできます。
図2
ブランドエクイティは、様々なマーケティング施策を実施した結果として形成されていきますが、それを生活者の購入意向に繋げるためには、目指すブランドエクイティを、事前に定義する必要があります。成り行きで形成されたブランドエクイティは、必ずしも購入意向につながるとは限りません。
ブランドエクイティを定義するフォーマットは様々ありますが、ここでは、図3に示す顧客ベースのブランドエクイティモデルを例として、説明したいと思います。このモデルをできるだけシンプルに解釈すると、「セイリエンス」「パフォーマンス」「イメージ」は、ブランドが生活者に伝えて提供するもの、「レゾナンス」「ジャッジメント」「フィーリング」はブランドから伝えて提供したものに対する生活者の反応と言うことができると思います。
「目指すブランドエクイティを定義する」とは、生活者の反応を見据えた上で、ブランドからの訴求点を見つけ出す、とも言えるかもしれません。
図3
ブランドエクイティのビジネス貢献を見える化するポイントも、目指すブランドエクイティを事前に定義するところにあります。購入意向に繋がる訴求点と、その訴求に対する生活者の反応が事前に理解されていれば、つまり、訴求が購入意向に繋がると分かっていれば、それらの想起量を計測することで、定量的に進捗管理をすることが可能になります。
例えば、洗濯用洗剤に関して、「朝、部屋干ししたタオルで顔を拭くと、一日中不快な気分になる」という生活者理解があったとします。この場合、図4のように目指すブランドエクイティを定義すると、購入意向に繋がると考えることができます。
図4
浸透度調査では、ブランド名からの上記イメージの想起量を計測することで、ブランドエクイティ形成の進捗を定量化することが可能になります。
図5は、第2回でもお示しした浸透度調査のアウトプットイメージです。認知者から理解者へのコンバージョン率=認知者理解率(B%)は、ブランド名からのイメージ想起量で計測されます。想定するイメージを、目指すブランドエクイティの定義に従って設定すると、ブランドエクイティ形成の進捗率と図2上の認知者理解率(B%)は同じものになります。
図5
図5では、
売上額 = 人口xA%xB%xV%xD%xE回xF円
ですので、B%の変化による売上額の増減も、浸透度調査結果を基に計算することができます。B%がブランドエクイティ形成の進捗率であれば、その変化による売上額の増減を、ブランドエクイティ形成のビジネス貢献量として解釈することも可能になると考えられます。
図6も、第2回でお示した、浸透度調査を基にした、目標値の設定イメージになります。ブランドエクイティ形成の目標進捗率をB%の目標値とすれば、売上額目標に対するブランドエクイティ形成の貢献量も、見える化することが可能になります。
図6
今回は、浸透度調査結果を活用することで、ブランドエクイティ形成のビジネス貢献を見える化する方法についてご紹介しました。実際の分析や進捗率の評価については、細かなところで注意すべき点もありますが、今回は基本的な考え方をお伝えするため割愛しています。
第1回から第3回では、ブランド浸透度調査について取り上げました。いわゆる定点調査として毎年行われることが多いブランド浸透度調査ですが、経年変化だけが主な論点になりがちな調査でもあります。ブランド浸透度調査は、生活者の意識や行動の変化に着目して設計すれば、次年度の目標設定やブランドの進捗管理にも活用できる、懐の深い調査にすることも可能です。ぜひご活用頂ければと思います。
※)調査結果は、調査設計や分析手法によって大きく左右されます。本記事でご紹介した浸透度調査にご興味のある方がいらっしゃいましたら、こちらよりお問い合わせ頂くか、営業担当までご連絡ください。
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