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人気軽自動車の分析から見る、消費者分析の在り方

※この記事は、日刊自動車新聞の“インテージ生活者インサイト”コーナーにインテージのシニアリサーチャー山田健介が寄稿した連載を再構成したものです。

「Z世代」という言葉が連日各種メディアやSNS上で飛び交っています。10~20代前半の、生まれたときからインターネットが身近に存在した人類史上最初のデジタルネイティブ、と定義されることが一般的で、いわゆる「若者」はZ世代と呼ばれることが多い印象です。

自動車業界においても、「若者のクルマ離れ」が叫ばれて久しく、Z世代を中心とした若者とクルマの関与度をどう高めるか、「若者」とはどのような存在か、各社で喧々諤々とした議論がされていると推察します。

ここで重要となるのが消費者(ユーザー)分析です。市場や各車種の利用者は、どのような消費者から構成されているか。彼らはどんな特徴を持っているのか。これらを読み解くのが消費者分析です。このような分析を行うことで、前述した若者も実態が見えてくることでしょう。
この記事では、様々な消費者分析手法を実際のデータを用いて紹介し、結果を読み解いていくことを通して消費者分析の在り方について考えていきたいと思います。

伝統的な消費者分析

ここからは、軽自動車の人気3車種(ホンダ「N-BOX」、ダイハツ「タント」、スズキ「スペーシア」)を例に挙げ、実際のデータから消費者を分析してみます。使用するデータは、インテージが毎月約70万人から回答を集めている自動車パネルデータ「Car-kit®」です。2022年4月~2023年3月の1年間における3車種の購入者を対象としています。

自社商品のユーザーを分析するとき、どのような視点で見ていくといいのでしょうか。まず思いつくのは「性別」や「年代」「地域」「家族構成」といった人口統計学的な属性の項目別に構成比を見る分析です(図表1)。これらの属性はデモグラフィック属性と呼ばれます。

図表1

軽自動車人気3車種ユーザーのでもグラフィック属性

性別で見てみると、3車種は共通で女性比率が少し高く、車種間における大きな違いは見られません。日本国内における自動車保有者は、全体でみると男性比率が高いため、車種に限らない軽自動車ならではの特徴といえそうです。

続いて年代で見てみると、N-BOXはタントやスペーシアに比べて年齢層がやや低いことがわかります。N-BOXは、2022年1~12月における登録車を含めた新車販売台数がNo.1(自販連および全軽自協調べ)であることから、若い人がNo.1の触れ込みで選んでいるのかもしれません。

最後に世帯年収で見てみましょう。タントはN-BOXやスペーシアに比べて所得が低いことがわかります。タントは最廉価グレードの価格が他2車種に比べて10万円~安い設定のため、価格意識の強い消費者に選ばれているのではないでしょうか。

このように、ユーザーの基礎データとしてデモグラフィック属性を獲得することが分析の第1歩となります。

消費価値観から見るユーザー像の違い

ここまで、デモグラフィック属性を見てきましたが、これだけではユーザー特徴を理解したとは言えません。冒頭にあげたような「若者」を語ろうとしたとき、性別や年代、収入を知るだけ、で若者を理解できたとは言えないと思います。例に挙げたZ世代で言えば、「タイムパフォーマンスを重視する」「多様性・自分らしさを大切に」といった考え方や価値観が、もれなく彼らの特徴として語れることが多いです。皆様も例えば友人や恋人を他者へ紹介するとき、年齢や出身地だけでなく、性格や人となりも含めて語るのではないでしょうか。

そこでここからは車種ごとのユーザー特徴を更に具体化すべく、生活者としての「消費価値観」の観点から分析を進めていきます。

図表2は、インテージが2023年4月に、全国の過去1年間の新車購入者5千人を対象に行った調査結果を用いて各車種ユーザーを消費者意識・価値観のタイプで分類した結果です。消費者自身の生活における考え方や他者との付き合い方、消費行動や環境意識、趣味まで、全55項目の消費価値観のデータをもとにユーザーをそれぞれ6つのタイプに分けています。例えば、新車購入者全体で見ると『消費に低関心』タイプが25%で最も多く、『こだわり貫き』層は11%で少数派、となります。
この結果から、「タント」と「スペーシア」は『お堅いインドアフォロワー』タイプが、N-BOXは『消費に低関心』タイプが最も多いことがわかります。

図表2

軽自動車人気3車種ユーザーの消費者意識・価値観タイプ

『お堅いインドアフォロワー』タイプは、「気に入ったモノを長く使いたい」や「長くじっくり時間をかけて買い物をする」といった消費価値観が強く、車を買う際の行動にも見られます。
また、購入前の前提条件として「購入予算」や「軽自動車であること」を決めている人が多く(図表3)、一方で「来店前から車種を決めていた」「この車種にしたい」といった車種へのこだわりがある人は新車購入者全体に比べて少なくなっていました(全体が4割強~5割であるのに対し、3~4割)。

図表3

消費者意識・価値観タイプ別 車の購入前の決定事項

これらの結果から、タントとスペーシアの主な購入層は、「予算等はある程度決めているが、お店でじっくり検討し、自分が気に入ったモノを選んでいる」という購買行動が浮かんできます。

一方、「N-BOX」の多数派である『消費に低関心』タイプは、55項目の消費価値観のうち多くの項目で低水準のスコアとなっており、他にも金融リテラシーや環境意識の低さが特徴としてあげられます。
また図表3の通り、「購入予算」や「ボディタイプ」といった、多くの人が事前に考えることを決めていない傾向があります。さらに、購入した車の気に入った点としては、「スタイルや外観」以外の項目で、多くの人が気にしている要素が低水準でした(図表4)。

図表4

消費者意識・価値観タイプ別 購入車を気に入った点

つまり、消費に際して意識やこだわりが弱く、車選びの際にも多くのことを考えないで選択している人が、N-BOXのユーザーとして最大構成を占める、ということになります。
前述の通り、N-BOXは2022年1~12月における新車販売台数No.1の車種です。前述の通り、新車購入者のうち最も多いのは『消費に低関心』タイプですので、このマス層に選ばれる力がN-BOXがNo.1たる所以なのかもしれません。

このように、消費価値観という観点でユーザーを分析すると、デモグラフィック属性だけでは見えてこなかった特徴が浮かんできます。その特徴を、実際の購買行動に紐づけることで、より具体的な車種ごとのユーザーイメージが浮かんできます。

ニーズから見るユーザー像の違い

ここからは、さらに「車に対するニーズ(重視点)」という観点から3車種のユーザーを比較してみたいと思います。

図表5は自動車を購入・検討する際の重視点、全60項目の調査データをもとに、3車種のユーザーをそれぞれ6つのタイプに分けた結果です。例えば、新車購入者全体では『高関心』タイプが32%で最も多く、『こだわり』タイプは11%で少数派、となります。

図表5

軽自動車人気3車種ユーザーの自動車ニーズタイプ

3車種共通して『高関心』タイプが3~4割弱と、新車購入者全体と同じく最も多くなっていました。彼らの特徴として、車の各種項目に対する重視度が全体的に高い傾向で、運転性能から利便性、デザイン、流行や評判まで、多くのことを重要視しているようです。多くの人が人生で数回の購入機会である車に対し、様々なことを求めることは納得できるのではないでしょうか。

続いて各車種のユーザーの特徴を見てみましょう。
スペーシアユーザーは、多数派の『高関心』タイプが他2車種に比べてやや少なく、代わりに『快適・利便性重視(周りの声は気にしない)』タイプが多くなっていました。
このタイプは、「快適さ・運転のしやすさ」や「安全性能」「車内空間の利便性」等を重視する一方で、周りの人の評判やWEBのレビューといった「他者評価」の重視度が低いことが特徴です。

彼らの車の買い方の特徴として、ボディタイプを選んだ理由で「車内が広くゆったりしている」「スライドドアである」が高くなっています(図表6)。

図表6

快適・利便性重視タイプのボディタイプの選定理由

また、図表7にあるように、『快適・利便性重視』タイプは、「見た目より快適さや便利さを大事にする」という人がとても多くなっています。一方、「車を選ぶ際、知名度は気にしない」という人が多いこともデータから読み取れます。“自分にとって”快適・便利なモノであることが、車選びの基準になっている様子が表れています。

図表7

快適・利便性重視のタイプの車に対する考え方

N-BOXユーザーでは『日常の足(低関与)』タイプが2番目に多く、他2車種と比べても特徴的に多くなっています。このタイプは、最多数の『高関心』タイプとは逆に、車の各種項目に対する重視度、購入にあたっての前提条件、購入車の気に入った点など、様々な面で全体的にスコアが低い傾向です。消費価値観の分析でも、消費に対する意識やこだわりの低さが確認されましたが、車のニーズから見ても似たユーザー像が浮かんできます。多くのことを求める『高関心』タイプと車に対する関心があまり高くない『日常の足(低関与)』タイプ、両極端とも思われるユーザーのどちらにも買われる、この懐の広さがN-BOXの人気を支えるポイントかもしれません。

一方で、タントユーザーではN-BOXやスペーシアに対して特徴的に割合が多いタイプが見られません。このような場合は、競合間におけるポジショニングを見ることが有効になります。
図表8は人気車種と車のニーズから得られたクラスター(人の集団)の関係を示しており、距離が近い項目同士は関連性が高いことを意味しています。

図表8

軽自動車 各車種購入者と車のニーズタイプのポジショニングマップ

タントを見てみると、中心に比較的近い、左上の象限にプロットされています。『高関心』タイプと距離が近く、3車種間でみるとN-BOXよりスペーシアの方が、ユーザー特徴が近い、ということがわかります。他にも、N-BOX(右上)はルークスやミライースと購入者の構成が似通っていることや、ジムニー(左下)は『運転好き』タイプが際立って多く、独立した存在であることなど、ポジショニングを確認することでブランドの優位性や特に意識すべき競合が見えてきます。

消費者意識・価値観を用いた分析の多様性

今回は軽自動車の人気車種で比較をしましたが、他にも様々な分析ができます。例えば、同一メーカー内で各車種のデータを分析することで、メーカー全体として獲得出来ている層・出来ていない層を確認し、狙うべきターゲットを明確にすることができるでしょう。

また、定期的にポジショニング分析をすることで見えてくることもあります。
あるブランドのフルモデルチェンジ(以降FMC)前後で、ユーザーがどのように変わったかを確認します。そこから、FMCは狙い通りの消費者を獲得できたのか、狙いと異なる結果であればその要因は何か、と分析を進めることができ、PDCAにおけるcheckの機能を果たします。さらに時系列のデータも交えながら、デモグラフィック属性だけでは見えない機微な部分を捉えることで、FMCの評価、グレード展開や派生モデルの開発に向けた方針決定等、様々な活用の可能性が見えてきます。

例えば、昨今の新車リリースを思い出してみると、2022年9月にクラウン クロスオーバーが発売されたことは記憶に新しいかと思います。以降も、スポーツ・セダン・エステートと、3つのシリーズが発売を控えており、従来の高級セダンというカテゴリに留まらない、アウトドア・スポーツといった様々なシーン・ユーザーに適応したモデルに変化を遂げています。以前までであれば、高級セダンの世界でマーケットを追っていたかと思いますが、今後クラウンを追っていく際、他のカテゴリを交えた広いマーケットでの分析が必要になるでしょう。他にも、EVの発展に伴う新規ブランドが各社から投入されており、いち早くユーザー像を捉えることが求められます。

変化の激しい昨今、デモグラフィック属性のデータだけでは追い切れない、消費者意識や価値観を交えた分析を行うことが、複雑なマーケット変化を追うのに必要なのではないでしょうか。

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