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ポイント還元制度でキャッシュレス化はどれだけ進んだ? ~買い物行動ログで追う利用実態~

10月から開始された、キャッシュレス決済によるポイント還元の制度。消費税増税による消費の冷え込み緩和と、韓国や中国などに比べて低い日本のキャッシュレス比率を高める狙いで導入されたこの制度ですが、実際、制度の導入でキャッシュレス化はどれくらい進んでいるのしょうか。

日々の買い物行動ログを捉えたデータベースSCI®を用いて、ポイント還元制度開始に伴う、キャッシュレス決済の利用実態の変化を追いました。
※対象が日常の買い物となるため、経済産業省が目安としている”キャッシュレス支払額と家計最終消費支出に占める比率”とは対象とする消費の範囲、算出方法共に異なります。

ポイント還元制度開始後、キャッシュレス化はどれだけ進んだか?

キャッシュレス化が進むには、「より多くの人がキャッシュレス決済を利用するようになる」、もしくは、「利用者がより多くの回数、キャッシュレス決済を利用するようになる」、といった変化が必要です。それぞれ、変化は見られたのでしょうか?

はじめに、ポイント還元制度の前後で日常の消費財の買い物※1におけるキャッシュレス決済※2の割合がどのくらい増えたのかを見てみましょう。ここでは、決済を行う機会のうち、どれだけキャッシュレス決済が行われたのかを見るため、買い物回数のデータを使用しました。
1か月の全買い物回数におけるキャッシュレス決済の割合は、導入前の8月時点の45.1%から8.3ポイント増え、53.4%となっていました(図表1)。

図表1

日常の買い物における、キャッシュレス決済手段比率(回数ベース)

この結果を、「より多くの人がキャッシュレス決済を利用したのか」「利用者がより多くキャッシュレス決済するようになったのか」という視点で掘り下げてみましょう。図表2は、ポイント還元制度導入前後における、キャッシュレス決済の利用実態を比較したものです。

図表2

1週間の日常の買い物における、キャッシュレス決済実態

一週間に一度以上、日常の消費財の買い物においてキャッシュレス決済を行った人の割合は、制度導入前の8月時点の65.8%から6.4ポイント増え、72.2%となりました。また、キャッシュレス決済利用者の利用頻度(利用者あたりの、全買い物におけるキャッシュレス決済の回数の割合)は、制度導入前の58.9%から5.5ポイント増え、64.4%に。
ポイント還元制度導入後のキャッシュレス決済比率の伸びは、キャッシュレス決済の利用者数、利用者の利用頻度がともに伸びた結果であることがわかります。

この伸びは、ポイント還元制度を機に各決済サービスが実施したキャンペーンの効果なども含まれると思われますが、10月末にインテージが行った自主企画調査でも、「ポイント還元を受けるためにカードを作る」、「決済サービスに登録する」といった行動をとった人は、制度を知っていると答えた人の約19.5%という結果が見られており、制度自体がキャッシュレス決済を推進したと言えそうです。

キャッシュレス化の狙いと効果

改めて、キャッシュレス化によって期待される効果について確認してみます。
決済事業者にとっては・・・決済手数料が得られるという従来型のビジネスに加え、豊富な購買データが集まり、自社の持つ様々なデータも含めて活用することで、新たなビジネス展開が見込まれています。詳細はこちらのコラムをご覧ください。
流通にとっては・・・決済・レジ締め作業の省力化による生産性の向上や、購買データの活用に対する期待のほか、生活者がキャッシュレス決済に価値を感じれば、集客につながるといった期待もあります。
生活者にとっては・・・目下のところはポイント還元などで得をする、買い物の利便性が高まるというのがメリットですが、将来的にはデータをもとによりよいサービスが提供されるようになるという期待があります。

実際、これらの効果が見込まれるような動きは起きているのでしょうか?
それぞれについてみてみましょう。

●決済手段別の変化

前述の効果を求めて多くのキャッシュレス決済事業者が乱立するなか、各社が生活者に選ばれるサービスになるために様々な施策を行っています。特に動きが目立つのがPayPay、LINE Pay、d払いといったスマホのQR決済です。この10月にも、PayPayは1日限り最大20%還元される「PayPayキャンペーン」や、ポイント還元対象店舗での買い物金額を独自に還元する「まちかどPayPay」、LINE Payは対象のスーパーやドラッグストアでの買い物を最大12%還元する「LINE Pay生活応援祭」といったキャンペーンを実施しました。
また、電子マネーのSuicaも、エキナカの対象店舗でWEB登録したSuicaで決済をすると還元が受けられる「JRE POINT還元キャンペーン」を実施しています。
それぞれの決済手段はどれだけ利用が増えたのでしょうか?

図表3は各決済手段の利用率の変化です。最も伸びが目立つのがQRコード決済でした。8月の段階では1週間での利用率は10.1%でしたが、7.3ポイント増え、17.4%となっています。また、電子マネーでの決済も約5ポイントの増加が見られました。

図表3

1週間の日常の買い物における、キャッシュレス決済手段利用率

結果的に、普段の買い物におけるQRコード決済の割合は7.6%、電子マネー決済の割合は20.8%にまで至っています。(図表4)

図表4

日常の買い物におけるキャッシュレス決済の割合変化(回数ベース)

次に、各社が熾烈な争いを繰り広げる中、ユーザーは一人あたり何種類のサービスを使い分けているのかを見てみましょう。ここでは、特に今回活性化が見られた電子マネーもしくはQRコード決済の利用者に絞り、新たな決済手段を積極的に利用する人の使い分け実態を追いました。
日常の一週間の買い物で、なんらかの電子マネーもしくはQRコード決済サービスを使って決済した人が全体の48%いた中、その利用サービス数の内訳は図表5の通りでした。

図表5

1週間に利用した電子マネー、QR決済サービスの種類数

1週間という調査期間の短さもあり、1種類のみの利用の人が約2/3という結果となりましたが、2種類、3種類と使い分ける人も見られています。
また、日別に主要サービスのシェアを見ると、日々大きく変動する様子が見られます(図表6)。QRコードDのシェアが一日だけ飛びぬけているのは、前述の「PayPayキャンペーン」の影響です。キャンペーンに合わせて手段を使い分ける様子が想像されますが、今後集約されていくのでしょうか。

図表6

日別の主要電子マネー、QR決済サービスの利用回数シェア

●チャネル利用行動の変化

今回導入されたポイント還元制度は、生活者が対象店舗でキャッシュレス決済を行った場合に買い物金額の5%もしくは2%がポイントで戻ってくるという制度です。また、対象店舗でなくても、前述のLINE Payのキャンペーンなどは独自にポイント還元を実施しています。
政府もしくは決済事業者が店舗の集客を支援することとなるこの制度、結果として店舗での買い物行動に変化は見られたのでしょうか?

チャネル別の利用客数の推移を確認したところ、今回の増税とポイント還元制度導入のタイミングでは、特定のチャネルの利用客数が増える、というほどの変化は、見られませんでした。
ただ、チャネル別のキャッシュレス決済比率をみると、もともとキャッシュレス化が進んでいたコンビニエンスストアで、さらに進んだことがわかります(図表7)。

図表7

各チャネルの日常の買い物における、キャッシュレス決済比率(回数)

また、決済手段別にみると、コンビニエンスストアは今回伸びが見られた電子マネー決済、QRコード決済ともに他のチャネルと比べて比率が高くなっていて、様々な手段で決済されていることがわかります(図表8)。

図表8

各チャネルの日常の買い物における、主なキャッシュレス決済手段の決済比率(回数)

コンビニエンスストアはキャッシュレス決済の手段が整っていて、多くの店舗がポイント還元制度の対象となっていることで、いち早くキャッシュレス化が進んでいる様子です。他チャネルも徐々にキャッシュレス決済の手段が整っていく中で、コンビニエンスストアに続くのかが、注目されます。

●生活者の変化

キャッシュレス決済サービスを利用することでもたらされるメリットについて、生活者はどのように感じているのでしょうか。ここからは6月に実施した自主企画調査の結果から、生活者の期待や実態とのギャップをみていきましょう。

図表9はキャッシュレス決済の利用意向です。6月時点でほぼ半数が利用を増やしたいという意向を持っていました。

図表9

キャッシュレス決済 利用意向

増やしたいと答えた人の理由は図表10の通りです。

図表10

キャッシュレス決済を増やしたい理由

得をすることに対する期待に加え、今後キャッシュレス対応の店舗が増える、周りに利用する人が増える、といった環境が変化し、自身のキャッシュレス化が進むことを自然に受け入れている人が多いようです。その前提として、財布を持ち歩かなくていい、お金の管理が楽になる、といった“お得”だけでない利便性を感じているということがあるのでしょう。

一方で、約半数にあたるキャッシュレス決済に対する意向が変わらない人。理由の一つとして、決済手段に対する情報が伝わっていなかったということがありそうです。
図表11は今回特に伸びが見られたQRコード決済のイメージを、現金と比べた結果です。

図表11

現金とQRコード決済のイメージ比較

セキュリティに関する不安については、継続的に問題が起きていることを考えると、解消されるのに時間がかかりそうですが、「使い方がわからない」、「使える店が少ないから」といった部分は、今回のポイント還元制度導入に伴う報道や小売り側の動きに伴って、徐々に解消されてきているのではないでしょうか。
また、「支払いの簡単さ」、「少額の買い物でも使える」、「使った金額を把握しやすい」といった項目は、圧倒的に現金の方が強いイメージとなっていますが、これらには誤解が含まれているようです。これらが解消されることで、さらにQRコード決済の敷居は下がると考えられます。

また、将来的に期待される「生活者がよりよいサービスを受けられるようになる」というデータの利活用の効果。現在は「生活をより良くしてくれる」「生活を楽しくしてくれる」というイメージは3%台と低いですが、これらがキャッシュレス決済のメリットとして認識されるようなサービスが出てくると、キャッシュレス決済行動が進みそうです。

各手段が浸透し、メリットの理解が進んだ先に、生活者はどのような基準でキャッシュレス決済手段、店舗を選ぶのでしょうか。
2020年9月から予定されているマイナンバーカードによるポイント還元制度導入や、2020年10月までに完了するとされているLINEとYahooの経営統合と、今後も大きく変動するキャッシュレス決済を取り巻く環境。さらなる普及に向けて、まったく新しいサービスが生まれてくるかもしれません。
知るGalleryでは、今後も「決済事業者」「チャネル」「生活者」の変化を追っていきます。

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ご覧いただける調査データ
 ●性年代別の決済手段の違いとポイント還元導入前後の変化
 ●エリア別の決済手段の違いとポイント還元導入前後の変化 
 ●決済手段別の決済額の違い
 ●買い物金額で見たキャッシュレス決済比率の変化


※1 食品、飲料、日用雑貨品、化粧品、医薬品の買い物データを対象としています。食品は生鮮・惣菜・弁当は除きます。
※2 現金・商品券以外での決済をキャッシュレス決済としています

関連記事:軽減税率の浸透は進むも、対象品目や複雑さに不満の声 ~キャッシュレス決済のポイント還元もほぼ浸透~

今回の分析は、SCIデータ、SCI決済手段データ、自主企画調査をもとに行いました。

SCI®
全国15歳~79歳の男女52,500人の消費者から、継続的に収集している日々の買い物データです。消費者の顔を詳細に捉え、消費者を起点としたブランドマーケティングや店頭マーケティングにご活用いただいています。

【SCI®決済手段データ】
SCIのモニターが買い物データを入力する際に、その買物について追加で質問できる調査サービスPlus3を利用したデータです。
現在、SCI Paymentとしてサービスをご提供しています。
調査地域:全国
対象者条件:15-79 歳の男女
標本抽出方法:弊社SCIモニターのうち、15-79 歳の男女
標本サイズ:各調査n=12,000ずつ
調査実施時期:2019年7月19日(金)~2019年8月18日(日)
:2019年10月1日(火)~2019年10月31日(木)

【キャッシュレス決済に関する自主企画調査(Pay-kit)】
調査手法 インターネット調査
調査地域:全国
対象者条件:18-69 歳の男女
標本抽出方法:弊社「キューモニター」より抽出しアンケート配信
ウェイトバック:性年代構成比を、2015 年度実施国勢調査データをベースに、人口動態などを加味した2017 年度の構成比にあわせてウェイトバック
標本サイズ:n=9,000
調査実施時期:2019年5月27日(月)~2019年5月29日(水)

【ポイント還元制度に関する自主企画調査】
調査地域:全国
対象者条件:20~69 歳の男女
標本抽出方法:弊社「マイティモニター」より抽出しアンケート配信
ウェイトバック:性年代構成比を、2015 年度実施国勢調査データをベースに、人口動態などを加味した2017 年度の構成比にあわせてウェイトバック
標本サイズ:n=3,338
調査実施時期: 2019 年10月28 日(月)~2019 年10月30日(水)

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