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海外進出後の立て直し戦略における重要ポイント~イノベーションの論点③

この【イノベーションの論点】は、ビジョン・オリエンティッド・コンサルティング(VOC※)を標榜し、企業や業界のビジョン創発を支援しているインテージのコンサルタントメンバーが、企業の課題解決に向けた独自の視点やアプローチについて解説するコラムです。第3回はシニアコンサルタントの尹 錦花が海外進出後の立て直し戦略について解説します。

前置き

今回は中華圏(中国本土、香港、台湾)進出後の事業立て直しの重要なポイントを解説したい。

海外進出する際の重要ポイントについては前回のコラムで書いたとおりだが、実際にそれらをすべて検討したうえで進出する企業は少ない。
市場の流れから見ると海外進出は避けて通れない時代になってきている中で、多くの企業は海外進出に関するノウハウがなく、進出を急いだり、予算や時間的な制約があったりなど、「とりあえず海外で売ってみよう」というケースが少なくない。
その結果、「売ってみたら」なかなか売上が伸びず、事業が苦戦し、長期低迷状態が続く。いよいよ海外事業の立て直しの必要性を感じ、相談を持ちかけてくる企業が多い。

私のかかわったプロジェクトから見ると、進出後数年間低迷が続いていても、その後の立て直しプロジェクトによって売上を倍増し、ブランド知名度の大幅アップに成功することは可能である。

マーケティングは基本的に商品、流通チャネル、コミュニケーションの三大構成要素から成り立つと考えてよいが、日系企業の海外進出後に特に重要なのが流通チャネルとコミュニケーションである。
商品も現地のニーズの変化に合わせて調整が必要だが、日本製品はアジアや中華圏では品質が高いと評判がよく信頼されているうえ、日本製品は日本消費者の多様で細かい要求を満たしていく中で、非常にハイスペックかつ細分化されたニーズに対応しているため、オーバースペックになることがあっても海外消費者のニーズを満たすことは難しくない。
そのため、ここでは、主に流通チャネルとコミュニケーションの視点から進出後の立て直しにおける重要なポイントについて述べる。
立て直しプロジェクトの基本的な進め方は、チャネルとユーザーの実態把握から始めて、ターゲット層のニーズや購買行動を確認し、それに合わせたチャネルとコミュニケーション戦略を立案するといった3ステップとなる。

流通チャネルの立て直し

チャネル戦略における重要なポイントは下記の3つに整理される。
① ターゲットユーザーにアプローチできるチャネルの整備・見直し
② セカンドディストリビューターのモチベーションアップ ※代理販売の場合
③ 売り場で「手に取らせる力」の強化(パッケージやネーミングの工夫)

以下に、それぞれについて解説する。

① ターゲットユーザーにアプローチできるチャネルの整備・見直し

流通チャネルに関して日本企業の海外事業でよくありがちなのが、コネクションや知り合いがいるからという理由だけで販売チャネルを決めることである。結果的に展開したチャネルや店舗はターゲット層があまり利用しないものも多く、顧客との接触機会がなく販売不振に陥る。

まずはユーザーの使用実態やニーズ調査を実施し、ターゲットユーザーを決めて、そのターゲットユーザーの利用チャネルを店舗レベルで把握する必要がある。同系列のチェーン店であっても立地による利用者属性が異なるため、末端の店舗レベルでターゲットチャネルを絞り込んで、最も利用する店舗で重点的に施策を展開したほうがよい。

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市場の広い中国では、複数都市で直営販売をするよりは、北京や上海及びその周辺の一部都市だけ直営にし、そのほかのエリアに関しては代理販売の運営方針が望ましい。

直営販売エリアにおいては、各都市における主要(販売規模上位80~90%の店舗)のリテール店舗をリストアップし、それら店舗の販売状況に関する調査を実施し、店舗網拡大のための進出候補店舗を絞り込み優先順位を付けるとよい。調べる項目は店舗売上、対象カテゴリー部門の売上、競合ブランドの売上、TOP5対象カテゴリーブランドの売上、その他定性情報などが必要となる。これらの項目について自社ブランドの特徴やユーザー特性を勘案して点数化し、ターゲットとすべく店舗の優先順位を付けるのである。
その結果に基づいて、ターゲットユーザーの利用が極めて少ないことが判明した既存店舗から撤退し、新たな有望店舗を開拓して店舗網を刷新していくのである。
一方、代理販売エリアにおいては、各エリアのターゲットユーザーがよく利用する小売店をカバーできる代理店を探し、全国的に販売網を拡大できる。

② セカンドディストリビューターのモチベーションアップ ※代理販売の場合

代理販売エリアでは、セカンドディストリビューターのモチベーションアップが重要となってくる。ある製薬メーカーの小売り店舗別の販売不振の理由を、製品・価格・プロモーション支援・営業担当者のサービス(訪問頻度や製品説明)など複数の要素から調査してみると、特に影響が大きいのが、営業担当者のサービスとプロモーション支援であった。実際中華圏ではインセンティブの効果が大きく、セカンドディストリビューターのみならず、小売店舗の販売員に対しても自社ブランド推奨させるためのインセンティブ政策を実施することが重要である。

③ 売り場で「手に取らせる力」の強化(パッケージやネーミングの工夫)

チャネルに関して、もう一つ大事なのが「手に取らせる力」である。いくら高品質の商品をターゲットに合う売り場に並べても、消費者が「手にとって試して」みてくれなくてはビジネスが始まらない。そのため、売り場におけるパッケージの工夫、ネーミング、POPなどによるプロモーション効果が無視できない。
中華圏においては商品機能よりも派手さ・目立ちやすさといったインパクトが必要である。話題の商品を見ても、「やりすぎぐらいがちょうどいい」というほど派手なパッケージデザインが目立つ一方で、日本ブランドは日本市場向けのパッケージを微調整したものが多く、現地消費者から見ると「地味」な印象になりがちで、埋没してしまう。「使ってみてわかる」ではなく、まずは手に取らせる工夫が求められる。

たとえば、オレオはメインの商品ラインは維持しつつ、年に1回、おもしろ商品(例えばターンテーブルのように音がなるもの)を発売して、若者層の中で話題になる。また、カクテルブランドの「RIO」は、虫よけ用品のブランドである「六神」(日本でいうKINCHOに近い)とコラボし、中国ではほぼ100%認知率を誇る「六神」の虫よけ剤ボトルをモチーフにしたパッケージデザインを発売して新奇性と話題性を獲得している。

コミュニケーション戦略:ターゲットユーザーが重要視することを理解することが重要

コミュニケーション戦略における重要なポイントは下記の3つに整理される。
① 現地ターゲットユーザーのニーズを理解し、「重要視されること」を訴求する
② 訴求内容に最も有効なコミュニケーション媒体を活用する
③ 高級感・プレミアム感を演出する広告宣伝を行う

① 現地ターゲットユーザーのニーズを理解し、「重要視されること」を訴求する

コミュニケーションにおいて重要なのは内容(何をアピールするか)と媒体(どこでどうやってアピールするか)である。
中華圏マーケティングにおけるコミュニケーション戦略で、日本企業にありがちなのが、コミュニケーションの内容(アピールポイント)が現地消費者のニーズとかけ離れていることである。
きめ細かいニーズを持っている日本消費者向けの高品質ハイスペックの商品をそのまま海外で展開したため、現地ユーザーのニーズにマッチせず、現地ユーザーが求める機能や品質の訴求が欠けていることがある。

日本国内市場で人気がある、もしくは日本人にとっては当たり前の機能やサービスでも、現地ユーザーはそれを求めていない/重視していない可能性があり、そのギャップを見過ごせば現地では人気商品になりにくい。
現地ユーザーが商品やサービスに求める機能や品質を理解し、無駄を省きながらも重視する要素をきちんとコミュニケーションしていくことが重要である。
ユニ・チャームは海外でオムツ商品を展開する際に、現地消費者のニーズを徹底的に調査し、あまり重視しない機能やスペックはなるべく削ぎ落とし、限りなくシンプルなスペックで現地ユーザーとコミュニケーションをとることで、マーケットシェアを勝ち取ることに成功してきた。

一方で、コミュニケーションの内容を決めるためには、自社ブランドの強み弱みは何か、競合ブランドを使っている人からスイッチしてもらうためには何をアピールすべきか、を明らかにする必要がある。※現在のようなものあふれる時代のマーケティングは競合ユーザーからスイッチしてもらうことが大事と考える。

手段としては、グループインタビューなどの定性的なユーザー調査を行うことがおすすめである。自社ブランド、競合ブランドのヘビーユーザーを集めて、求めているものは何かを洞察するためのインタビューを実施するのである。このインタビューから分析すべきことは、自社ブランドの商品およびサービスに対するユーザーパーセプションとして、自社ブランドが競合ブランドに勝る強みが何か、それは競合ブランドユーザーが不満に感じていることか、ということである。

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例えば化粧品について調査した結果、以下の様なことが分かったとする。

●競合ブランドユーザー:商品の使用満足度は高いものの、美容部員の対応やサービスに関しては満足度が低く、不満の声が多い。
高いものを買っているのでそれに見合うほどのサービスを受けたいとの要望があるが、現状はサービスが至らない、美容部員のレベルが低いとの意見が多い。
●自社ブランドユーザー:商品満足度が高いだけではなく、商品に対する理解度が高く、美容部員の対応やサービスに関しても評価が高い。

これらの結果を受けると、自社ブランドの商品を、自信を持って具体的に紹介する一方で、美容部員の対応とサービスを差別化ポイントとして、競合ブランドユーザーの獲得を狙うべき、という結論に至ることができる。

② 訴求内容に最も有効なコミュニケーション媒体を活用する

コミュニケーション媒体に関しては、訴求内容に最も適している媒体を活用することが大事である。
例えば、上記の化粧品のように、ユーザーに商品をきちんと具体的に理解させるのと、サービスの良さをアピールすることを目的とした場合、コミュニケーションに有効な媒体は、雑誌記事広告や美容部員などが挙げられる。

まず、雑誌に関しては、ユーザー調査から具体的にどの雑誌がターゲットユーザーに読まれているかを調べる。それら美容雑誌の編集部とタイアップして、記事として自社ブランドの商品やサービス、及び自分の肌に合う商品を選ぶポイントなどについて具体的に説明する方針をとるのである。雑誌の広告部ではなく、記事がほしい編集部とコンタクトすることにより、広告費を抑えつつ、自社ブランドを具体的にアピールすることができるのである。

美容部員に関しては、毎月重点アイテムを決めてキャンペーンを実施することができる。その際、キャンペーンのお知らせとして、美容部員各自が毎月1回以上は顧客とコンタクトし、決めたアイテムにフォーカスして具体的な商品説明をする一方で、ほかの商品を売りつけない方針をとる。これにより商品説明力とサービスのレベルをより高められる。
また、美容部員に対してサービスの強みや重要性についても改めて強調し、ばらつきがあったサービスレベルも教育を通じて統一させ、意識を一段と高める必要がある。
重点アイテムにフォーカスして営業することで、毎月の重点アイテムの売り上げ目標も達成しやすくなることも一つのメリットである。

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コミュニケーション媒体については、数年前は雑誌が化粧品カテゴリーにとって重要な情報源になっていた。しかし、近年中華圏においてはデジタルマーケティングが急速に進んでおり、現在はON+OFF融合のデジタルマーケティングが有効とされてトレンドになっている。オフラインイベントを行いつつ、そのイベント情報をリアルタイムで会員ユーザーに送信し、オンラインでもイベントに参加できるようにし、そこから直接購買につなげるといったマーケティング手法である。デジタルマーケティングのメディアとしては、口コミ効果で話題になりやすいTikTokなどに代表される動画アプリや、美容系アプリRedbook(化粧品の場合)などの口コミ&情報サイトが人気になっている。

③ 高級感・プレミアム感を演出する広告宣伝を行う

もう一つ、中華圏マーケティングにおけるコミュニケーション戦略で、日本企業にありがちなのが、品質に頼りすぎてコミュニケーションやアピールが控えめであり、「品質は良いが安っぽい」イメージになってしまい機会損失を生み出していることである。
ある日本の化粧品大手は中国進出の初期段階において、あまり広告に費用をかけず、安っぽいブランドイメージが形成されてしまった。日本ブランド好きの限られた人にしか使ってもらえず、マーケットシェアを伸ばせずに苦戦した。
現地社員からも、欧米ブランドのように有名タレントを起用して派手すぎるくらいの広告を打たないと高級ブランドやハイクラスのイメージからどんどん遠ざかり、安いブランドイメージになってしまう、といった強い懸念の声があがったと聞いている。
現在この会社は広告費を大幅に増やして中華圏で知名度がトップクラスの女優をイメージキャラクターに起用するなど、ブランドイメージのコミュニケーションに力を入れており、業績も日系企業の中では類を見ない順調ぶりを見せている。

まとめ

海外進出後の立て直しにおける重要な視点は、流通チャネルとコミュニケーションである。流通チャネルの立て直しにおいては、ターゲットユーザーにアプローチできるチャネルが整備されているか、売り場で「手に取らせる力」があるか、代理販売の場合はセカンドディストリビューターのモチベーションがポイントになってくる。そのためには、もちろんターゲットユーザーの利用するチャネルがどこなのか、それらのチャネルをどうカバーするか、といった問題を解決する必要がある。
またコミュニケーションにおいては、自社ブランドの強み、ターゲットユーザーが重要視しているが未充足の要素を理解し、それを有効な媒体を通じてきちんとアピールすることが重要である。

※ビジョン・オリエンティッド・コンサルティングの詳細はこちらのページをご覧ください。

著者プロフィール

尹 錦花 (イン キンカ)プロフィール画像
尹 錦花 (イン キンカ)
北京大学卒業後来日。早稲田大学大学院国際関係学専攻。
調査会社2社を経て、2005年インテージに入社。
中国語・韓国語・英語・日本語のマルチリンガルを活かし、業種・業態特化せず、海外調査・海外進出支援に関するコンサルティングを多数行う。アジア全般、欧州、南北アメリカ、アフリカ、オセアニア等エリア問わずPJを推進。

北京大学卒業後来日。早稲田大学大学院国際関係学専攻。
調査会社2社を経て、2005年インテージに入社。
中国語・韓国語・英語・日本語のマルチリンガルを活かし、業種・業態特化せず、海外調査・海外進出支援に関するコンサルティングを多数行う。アジア全般、欧州、南北アメリカ、アフリカ、オセアニア等エリア問わずPJを推進。

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