コロナ禍での需要予測 20年秋冬に影響が続きそうな消費財は?
新型コロナウイルスの感染拡大は、生活者の買い物行動にも大きな影響を与えました。
例えば「外出自粛で生活者の行動はどう変わった? データに見る巣ごもり実態」でみられたように、一斉休校決定がおきた当初は「備蓄のための商品」が買われ、緊急事態宣言前後は「巣ごもり食生活を楽しむための食品」が買われるなど、生活者が買うモノ、買い方が変わっていきました。
この買い方の変化は、現在もなお続いています。国民の多くが自主的に行動を制限していること、そもそも生活様式が変化したといわれていることが原因と推測されます。そのような中、企業にとって今後の商品需要をどのように捉えればいいのでしょうか。実際のデータを基に、考えていきたいと思います。
目次
これまでのコロナ影響度をもとめる
需要予測をするうえで、まずはこれまでに市場がコロナの影響をどの程度受けたのかを正しく知る必要があります。
前年同期比での売上増減をもってコロナショックの影響を見積もるのも一案ですが、実はそれだけでは足りません。『長期的な市場拡大(もしくは縮小)による影響』と、『コロナショックという2020年特有の環境影響』、この2つの影響が一緒くたに織り込まれ、双方の識別がつかないからです。
そこで、インテージが保有するSRI+®の時系列データ(エリア:全国、業態:スーパーマーケット、ドラッグ、コンビニ)に統計的因果推論のフレームワーク※1を適用し、予測モデルを作成することにより、コロナショック単体が市場に及ぼす影響を推定しました。
図表1は袋インスタント麺市場の売上推移トレンドについて、モデルの予測結果と実績を並べた結果です。
図表1
休校要請があった2/24週と、東京都で週末の外出自粛要請が出た3/23週に実績が跳ね上がり、以降も本来売れていたと考えられる予測値を上回る傾向が続いていることがわかります。また、緊急事態宣言の解除時に一時的に予測並みに戻った後、再度売上が増加する様子が見て取れます。
このチャートにおける予測と実績の差はコロナ影響度と捉えることができます。
ここからは、このコロナ影響度がこれまでどのように変化してきたか、以下の3つの期間に分けて振り返ってみます。
●休校~緊急事態宣言前(2/24週-3/30週)
●緊急事態宣言中(4/6週-5/18週)
●緊急事態解除後(6/1週-7/27週)
【食品市場におけるコロナ影響度】在宅、休校で売り上げが伸びた主食
図表2は食品市場のうち、麺類と粉製品の各品目の売上が予測に対して何%になっていたのか、その比率を3つの期間について並べたものです。
図表2
まずは麺類に注目します。
休校直後、麺類の売上はいずれの品目も予測に対して大きく跳ね上がりました。
緊急事態宣言中には、同様に売上が跳ね上がった米や食パンが落ち着く中、麺類のいずれの品目も継続して予測を上回って売れていたことが分かります。
その後、緊急事態宣言解除後になると、品目による違いが表れます。簡便な内食ニーズに答えるスパゲッティやマカロニ類はコロナの影響による需要が継続して残っている一方、食材を備蓄するニーズに対応するカップインスタント麺、乾麺は落ち着く傾向が見られています。
同様に粉製品の結果を見てみると、巣ごもり食生活を楽しむニーズが継続しているためか、てんぷら粉以外はいまだ好調がつづいていることが見て取れます。
【雑貨市場におけるコロナ影響度】状況が分かれた洗濯用品、台所用品
図表3は洗濯用品、台所用品について期間別のコロナ影響度を並べたものです。
図表3
洗濯用品は全体的に休校直後のパニック時に売上が伸び、予測を大きく上回りましたが、その反動で緊急事態宣言中は落ち込みが見られました。唯一、漂白剤は殺菌効果を期待して注目度があがり、緊急事態宣言中も売上が予測を上回っていましたが、供給が落ち着いた緊急事態宣言後には平準に推移しています。
台所用洗剤は、在宅時間の増加にともなう内食増加の影響もあり、売上が予測を上回ったままで、コロナの影響はなお継続していると言えます。
【化粧品市場におけるコロナ影響度】復調がすすむ化粧品
図表4はスキンケア、メイクアップ化粧品について期間別のコロナ影響度を並べたものです。
図表4
化粧品市場はインバウンド需要減などコロナの影響を大きく受け、従来予測を大きく割り込む状態が続いていますが、いずれも緊急事態宣言解除後に復調傾向がみられています。
スキンケア関連品目は緊急事態宣言解除により外出機会が増えたためか、化粧水、乳液にて復調傾向がみられています。
メイクアップ化粧品は常時マスクをつけることで利用機会が減ったのか口紅の売上が大きく落ち込んだ一方で、マスクが影響しないであろう部位については落ち込みが緩やかでした。また、マニキュアの売上は比較的維持されるなど、品目による違いがありました。
緊急事態宣言解除後は、外出機会が増えたためか、下地やファンデーション、おしろいに復調傾向がみられています。
コロナ禍での秋冬市場需要予報
日々のニュースで流れるコロナの感染者数は上下し、今後も予断を許さない状況ですが、生活者にとってwithコロナが日常となってきたためか、消費財におけるコロナの影響度は冷静な推移を見せつつあります。今後大きな変動が起きないと仮定し、「Prophet※2」という時系列分析の手法を使って今後数カ月の予測を行いました(※不確定要素が多いため、将来値予報としています)。
図表5がその結果です。コロナの影響がなかった場合の予測売上に対し、さらに売上が10%以上伸びそうな場合に「晴れ」、売上が20%以上減りそうな場合は「雨」、といった形で天気予報を行っています。
図表5
内食のバラエティを増やしてくれる袋インスタント麺やマカロニなどは現在好調ですが、徐々に市場へのコロナ影響度はおさまりつつあり、withコロナの生活が継続すれば従来の需要に戻っていくことが想定されます。スキンケアの各市場については徐々に復調しますが、インバウンド特需が見られた昨年ほどまでの回復にはいたらないと考えられます。
おわりに
この記事では、これまでのコロナによる市場への影響度を明らかにしたうえで、一部の市場についての秋冬の需要を予報としてお届けしました。時系列で追える過去のデータ、そして今を捉えるデータがあれば、同様のアプローチでブランド別の需要を予測することも可能です。
もちろん売上に影響する要素はコロナだけではなく、7月の天候の影響で不調がみえた品目もあれば、好調な品目もあります。インテージではこの記事でピックアップした品目以外にも、300を超える消費財の品目について、秋冬の予報を行っています。結果にご興味のある方はぜひお問い合わせください。
Withコロナの時代の消費はどのような形に落ち着いていくのか、知るGalleryでは今後も市場の変化を追ってまいります。
※1 因果関係の証明のため、実際におきた「事実」の結果と、「仮に○○がなかったら(反実仮想)」という実際には起こらなかったシナリオを比較するアプローチ(今回はコロナがない期間で作成したモデル値を反実仮想と仮定して実施)。
統計的因果推論について詳細を知りたい方は、「統計的因果推論のマーケティング応用<インテージグループR&Dセンターサイトの記事>」をご参考ください。
※2 Facebookが開発した時系列分析/予測の手法。オープンソースソフトウェアであり、プログラミング言語「R」「Python」上で誰でも使える。
この手法を用いた分析事例は「【データサイエンスを知るコラム】Vol.5 市場への真の影響を時系列分析で測る」でご覧ください。
今回の分析は、SRI+を用いて行いました。
【SRI+®(全国小売店パネル調査)】
2021年1月に本リリースとなるインテージの小売店パネルサービスです。
スーパーマーケット、コンビニエンスストア、ホームセンター・ディスカウントストア、ドラッグストア、専門店などの全国約6,000店舗から販売データを収集しています。このデータからは、「いつ」「どこで」「何が」「いくらで販売された」のかが分かり、店頭での販売実ブランドマーケティングや店頭マーケティングにご活用いただけます。
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