急成長するeスポーツ市場~視聴実態と若年層向け広告媒体としての可能性
最近「eスポーツ」という言葉を耳にする方は多いのではなかろうか。一般社団法人日本eスポーツ連合によると、「eスポーツ(esports)」とは、「エレクトロニック・スポーツ」の略で、広義には、”電子機器を用いて行う娯楽、競技、スポーツ全般を指す言葉であり、コンピューターゲーム、ビデオゲームを使った対戦をスポーツ競技として捉える際の名称。”と定義されている 。いわゆる一般のスポーツ同様、試合に出場する「選手」と、オンラインで対戦状況がストリーミング配信を「観戦」するファンが存在する。
このeスポーツの関連市場は、2022年国内で125.4億円※1(前年比+27%)、ファン数:775.9万人(前年比+4.4%)※2と言われており、急速にファンが増加している 。
ファンは若年層が多く、企業が自社のブランドアピールのために、eスポーツの協賛(スポンサード)や、広告出稿を行っており、若年層に対するマーケティングのアプローチ手段としても注目されている。
※1 市場規模:顧客数×単価×購入頻度
※2 出典:日本eスポーツ白書2023/角川アスキー総合研究所
この記事では、eスポーツの視聴の拡がりや楽しみ方、お金のかけ方、そして、協賛企業(スポンサー)に関するイメージなどについてアンケート調査を行った結果をまとめ、eスポーツを通じて企業が支援や広告出稿を行うことが、マーケティングに繋がっているのかを検証してみたい。
1. eスポーツの浸透実態
まずは、eスポーツの視聴経験を質問した。(図表1)eスポーツを週に1日 以上視聴したことがあるのは4.8%、週1日未満が13.6%であり、これまでに1回でもeスポーツを視聴したことがある人は18.4%であった。
図表1
男女別で見ると、男性は週1日以上が7.0%、週1日未満が18.6%で、視聴経験者計として25.6%であった。女性は、週1日以上が2.4%、週1日未満が8.5%で、視聴経験者計は10.9%に留まった(図表2)。
図表2
ここからは、更にeスポーツの視聴実態を深掘るために、 週1日以上eスポーツを視聴している人を“eスポーツ視聴者”と定義し 、見ていく。
図表3はeスポーツ視聴者の性年代構成比である。
図表3
概ね男性7:女性3の割合となっている。年代別に見ると、男性20~29歳が27.3%、男性15~19歳が16.2%であり、eスポーツ視聴者は、若年男性を中心に構成されていると言える。
かれらはどのようなジャンルのeスポーツを視聴しているのだろうか。またeスポーツ視聴者は自身でどのようなゲームをしているのだろうか。eスポーツ視聴と、家庭用ゲーム機でのプレイ、スマホゲームのプレイに分けて、ゲームのジャンルを確認した。(図表4)
図表4
eスポーツとして視聴しているコンテンツの上位は、「対戦格闘・対戦アクション」25.1%、「シューティングゲーム(FPS ・TPS)※」23.1%、「スポーツ」20.9%であり、いずれもゲームの展開が速いジャンルである。
一方、家庭用ゲーム機で楽しんでいるゲーム1位は「ロールプレイング・RPG」34.7%、スマホゲーム1位は「シミュレーション・育成」24.8%であった。
視聴するゲームは場面展開が早く、出場選手と一緒に盛り上がることができる(アクションやシューティングゲーム)が上位に、自らがプレイするゲームは自身の世界観の中で時間をかけて楽しむことができる(RPG系のゲーム)が上位に挙がり、視聴するゲームと、プレイするゲームで各々楽しみ方が異なることが分かった。
※FPS:First Person Shooter 、TPS: Third Person Shooter
それでは、なぜeスポーツを視聴し始めたのか、そのきっかけを調べたのが(図表5)である。
図表5
1位は「プレイしているゲームの上級者のプレイを見たかった」36.0%、2位「SNSや動画サイトのおすすめ欄に出てきたから」31.2%、3位「好きな有名人・インフルエンサーが関わっていたから」29.3%の順である。eスポーツ視聴のきっかけは通常のスポーツ視聴(例:競技しているスポーツの上級者の競技が見たいから)と大きく変わらないのではないだろうか。
また、eスポーツ視聴ならではの特長として、「面白いゲームを探す上での参考情報が欲しかったから」28.9%、「プレイしているゲームの攻略情報を得たかったから」25.0%など、自身がプレイするためのゲーム情報を収集している姿も見えてとれる。
2. ゲームプレイ実態と関連消費
先ほどeスポーツ視聴のきっかけとして、自身がプレイするためのゲームの情報を取集しているとの回答があった。では、eスポーツ視聴者はどの程度自身でゲームをプレイしているのだろうか。家庭用ゲーム機、スマホゲーム、PCゲームに区分して、自身がゲームをプレイしている時間を聴取した。(図表6)
図表6
TOTALでは、家庭用ゲーム機で週1日 以上プレイする人は18.4%。eスポーツ視聴者では、70.0%であり、TOTALの約3.8倍である。eスポーツ視聴者はゲームを多くしていることが分かる。
毎日ゲームを行っているeスポーツ視聴者は、「スマホゲーム」では40.4%、「家庭用ゲーム機」では21.6%、「PCゲームでは」14.9%であった。eスポーツ視聴者=ヘビーゲームユーザーと言える。
次に、eスポーツ視聴に関して、視聴者はどの位お金を使っているのか、1か月当たりの平均金額を調べてみた。(図表7)
1か月当たりeスポーツ関連で支払った金額の平均は5,802円/月(非課金者を含む)となった。
eスポーツ視聴にて課金している人は54.4%、一方eスポーツ視聴課金していない人「お金をかけたことが無い」は45.6%であり、課金している人一人当たりの平均消費額は10,667円/月であった。
図表7
eスポーツ関連で支払った内容は、「関連グッズの購入」40.6%、「コラボ製品の購入(選手や配信者、イベント等とコラボしたキャンペーン商品など)」37.9%、「スーパーチャットなどの投げ銭」35.4%、「チケット代」33.5%であった。(図表8)
図表8
「コラボ製品の購入」「スーパーチャットなどの投げ銭」「ファンクラブ・サブスク」などは、他のスポーツでも見られ、eスポーツ選手に対する“推し活”の要素が背景にあると推察される。
これらに課金をするeスポーツファン層が存在することから、eスポーツ興行単体でのマネタイズ、ビジネス化も今後も進んで行くのではないかと考えられる。
3. 協賛企業(スポンサー)のメリット
最後に、最近目立つeスポーツ市場への企業協賛(スポンサード)の効果に関して調査をしてみた。
特にeスポーツ視聴者が多い20~29歳での企業協賛に関する広告効果が高い結果となった。(図表9)
図表9
20~29歳では、特に協賛企業(スポンサー)に対する反応がよく「初めて知った企業がある」76.5%、「興味を持った企業がある」64.3%、「イメージが良くなった企業がある」63.0%となっている。特に20~29歳や15~19歳の若年層でのスポンサー企業への反応が良く、若年層に向けて会社名の認知を高めたい企業に対して、eスポーツは有効な媒体としての活用が期待される。
同じく20~29歳では、「商品の購入を検討した企業がある」62.0%、「実際に商品を購入した企業がある」57.6%となっており、旧来媒体(TVCMなど)では獲得の難しい若年層へのマーケティング媒体としてもeスポーツの活用が拡がると考えられる。
4. まとめ
eスポーツの関連市場は急速に拡大しており、eスポーツ視聴者も増加している。eスポーツは正式にスポーツ競技として認められ、2025年には、サウジアラビアで初めてのeスポーツオリンピックが開催 されることも決定しており、さらなる盛り上がりが期待される。
eスポーツ視聴者は若年層が中心となっており、マーケティング面では、既存媒体でのアプローチが困難な若年層への効果的な媒体であることが分かる。特にB2B企業などは企業名認知度向上により新卒のリクルートへの活用や、企業/ブランド認知の拡大での利用拡大が想定される。
しかし、現状eスポーツ視聴者の多くは、ゲームユーザーであることから、視聴者層には偏りも見られる。通常のスポーツ競技が幅広いファン層を持つように、eスポーツがゲームユーザーに留まらず、非ゲームユーザーを獲得することにより、さらに媒体としての魅力度を増して行くのではないか。
新しく生まれたスポーツジャンルとして、今後の動向に期待したい。
※本記事でご紹介しきれていないデータ・チャートは、無料レポートをダウンロードしてご確認ください
調査概要
調査地域:日本全国
対象者条件:15~59歳男女
標本抽出方法:マイティモニターより適格者を抽出
標本サイズ:
スクリーニング調査:
15歳~59歳の男性5,143s、女性5,099s、合計10,242s
本調査:
スクリーニング調査結果より、eスポーツの配信・動画コンテンツに週1日以上接触している人を、eスポーツ視聴者と定義した。男性307s、女性104s、合計411s
ウエイトバック集計:あり (性年代構成比を、2020年度実施国勢調査データをベースに、人口動態などを加味した2024年度の構成比にあわせてウエイトバック)
調査実施時期: 2024年5月17日(金)~2024年5月27日(月)
■執筆担当者:
異なる業界を担当するリサーチャー同士が、“e-スポーツ”をテーマにコラボレーション。調査の企画・分析を共同で実施した。
リサーチャー:秋山 陽菜/磯上 尚規/小川 泰平/陳 瑜/長谷川 瞭/吉田 和沙/山下 英一
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