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エシカル消費普及促進のためのターゲット層は?~生活者セグメンテーションからエシカル消費の普及拡大を考える①

昨今、SDGsやサステナブルという言葉の社会的な浸透に伴って、エシカル消費という生活者の行動変容にも注目が集まってきています。エシカルという言葉は「倫理的な」「道徳上の」という意味があり、エシカル消費は、人や社会、環境、地域などに配慮した消費行動のことを言います。従来からある「エコ」という言葉が環境問題に対する取り組みだけを指すのに対して、「エシカル消費」は環境だけでなく、貧困、児童労働、福祉、地域の課題といった広い意味での社会課題を、生活者ひとりひとりが倫理的な消費行動を取ることによって経済面から解決しようとする点に特徴があります。

社会課題の解決のために、エシカル消費をする生活者を増やしていくには、どのようなアプローチが考えられるのでしょうか。インテージで実施した自主企画調査の結果を分析し、2回にわたって考えていきます。

「行動レベル」と「意識レベル」で生活者を分類し、『動かしやすい層』を探る

これまでもインテージでは、サステナブルな行動のレベルで生活者をセグメントし、「サステナブル行動レベルが高い人」に選ばれる商品の方向性、興味・好意を持つブランド施策などを明らかにすることで、生活者にとってサステナブルと感じられるビジネスを探ることを進めてきました。ただ、SDGsというワードが広く浸透した一方で、サステナブル行動レベルの高い層の割合は、ここ数年変化のないまま推移しています 。これは、サステナブルな行動を「する人はする」が、「しない人はしない」まま固定化していると考えられます。一方で、物価高などの経済環境の影響により、生活に余裕がないためかサステナブル行動レベルの低い人が増えてきています。

このような状況において、エシカル消費という購買行動に焦点を絞って、エシカル消費をする生活者を増やしていくためには、どのような施策が効果的なのでしょうか。
アプローチとしては、「現時点でエシカル意識は高いのに行動に移せていない人に行動してもらう」という方法が、比較的敷居が低いのではないでしょうか。そこで、インテージで生活者のエシカル意識とエシカル行動の現状把握を目的として実施したWeb調査の結果を用いて、図表1の様に「意識の高低」「行動レベルの高低」で生活者を分類し、意識は高いのに行動に移せていない人について分析してみることにしました。

図表1

エシカル行動を増やすアプローチの仮設イメージ

この調査では、回答者にエシカル意識質問30項目およびエシカル行動質問17項目を聴取しています。
まず、エシカル意識質問30項目を因子分析にかけて意識の方向性を抽出した上で、クラスター分析にかけたところ、意識レベルの異なる以下の4つの層に分類されました(図表2)。
[1]エシカル意識なし:
 30項目を集約した5つの因子すべてにマイナス反応 ⇒エシカルに興味がない層
[2]退廃的志向:
 「自己中心・退廃的志向因子」に対して強いプラス反応 ⇒世の中どうせ変わらないと考える層
[3]意識中庸:
 5つの因子すべてが、他のクラスターと比べて高くも低くもない ⇒特徴的な意識がない層
[4]エシカル志向:
 「自己中心・退廃的志向因子」以外に強いプラス反応 ⇒エシカル意識が高い層

図表2

エシカル意識クラスター

同様に、行動質問からは行動レベルの異なる以下の3つの層に分類されました(図表3)。
[1]エシカル行動なし:
 17項目を集約した4つの因子すべてにマイナス反応 ⇒エシカル行動をしない層
[2]行動中庸:
 4つの因子すべてが、他のクラスターと比べて高くも低くもない ⇒特徴的な行動がない層
[3]エシカル行動:
 4つの因子すべてに強いプラス反応 ⇒エシカル行動をする層

図表3

エシカル行動クラスター

ここで、図表1の様に意識クラスターと行動クラスターをかけ合わせて、分布を確認した結果が図表4です。
「エシカル意識が高く、行動もできている層(エシカル志向×エシカル行動層)(①)」の構成比は15.1%ということがわかります。そして、エシカル行動を増やす対象として、比較的障壁が低いと考えられる「意識は高いが、行動が中程度の層(エシカル志向×行動中庸層)(②)」は14.1%でした。

一方で、最も構成比が大きいのは「意識が中程度で、行動も中程度の層(意識中庸×行動中庸層)(③)」の39.6%でした。この層のエシカル意識を更に高めて、まず「意識は高いが、行動が中程度の層(エシカル志向×行動中庸層)(②)」に動かすことができれば、②の層の行動を変えることの効果はさらに大きく見込めます。

図表4

エシカル意識クラスターと行動クラスターの分布

そこで、ここからは、「意識は高いが、行動が中程度の層(エシカル志向×行動中庸層)(②)」を詳細に分析して、エシカル行動をさらに増やすヒントを探っていこうと思います。

「エシカル意識は高いが行動が中程度の層」の分析からエシカル行動を起こさせるヒントを得る

「意識は高いが、行動が中程度の層(エシカル志向×行動中庸層)」が、できていないエシカル行動を具体的に確認してみます。(図表5)

図表5

「意識は高いが、行動が中程度の層(エシカル志向×行動中庸層)」ができていないエシカル行動

「エシカル意識が高く、行動もできている層(エシカル志向×エシカル行動層)」に比べて、「意識は高いが、行動が中程度の層(エシカル志向×行動中庸層)」ができていないエシカル行動は、「フェアトレード商品を選ぶ」、「エコマークがついた商品を選ぶ」、「オーガニック製品を選ぶ」などでした。生産・製造環境の工夫や原材料の調達コストを背景に、これらの商品は各カテゴリーの平均的な価格帯よりも高価格であることも多いことから、この層は、エシカル訴求のプレミアム商品を買わないことが特徴と言えます。

さらにこの層のイメージを具体的にするために、この「意識は高いが、行動が中程度の層(エシカル志向×行動中庸層)」のプロファイルを確認してみましょう。(図表6)

図表6

「意識は高いが、行動が中程度の層(エシカル志向×行動中庸層)」のプロファイル

60代女性が最も多く、世帯年収も高いことから、時間とお金など生活にゆとりがある層と考えられます。また、未来の社会や次世代のためにといった気持ちが強く、世の中を良い方向に変えられるのなら生活習慣を変えてもいいというエシカルにつながる考えを持った層でもあります。
一方で、エシカル行動については、何をすればいいかわからない、エシカルな商品を扱っているお店を知らない、といった理由から行動にはつながっておらず、具体的な取り組みにつながる情報を求めているようです。

そのような特性を踏まえながら、エシカル行動を高めてもらうための商品・サービス、あるいはコミュニケーションを考えてみると、「コスパ重視」や「無駄のない暮らし」といったキーワードにヒントがあるように思います。
「コスパ重視」は単なる「安さの追求」ではなく、商品・サービスがもたらす価値と価格のバランスを吟味する、と考えることができるでしょう。また、「無駄のない暮らし」を求める意識には「無駄使い」と考えられる買い物を避け、「高いけど壊れることなくずっと使える」など、お金を払う意味のある買い物であると納得できれば購入する、という意識も潜んでいる、と考えられるのではないでしょうか。
「地球環境重視」「次世代のため」といった意識を持ちながらも「エシカル訴求のプレミアム商品」の購入が少ないのは、「プレミアム価格」となっている背景=社会的意義の訴求や普及が十分でないことに理由があると考えられます。
地球環境の保護やSDGsといった言葉や考えが一定の広がりを見せた現在、また、「フェアトレード」など新しい形でのSDGs的な貢献が生まれている中、「伝え方」のアップデートが求められているのかもしれません。

アップデートのひとつの例を。
無印良品(MUJI)を展開している良品計画は「オーガニックコットン」をより身近なものとして理解してもらうためのワークショップを全国の店舗で開催しています。自社のオーガニックコットンを用いたトートバッグにオリジナルのイラストを施したりするワークショップでだれでも手軽に楽しめるということで毎回盛況のようです。
無印良品はイベントを楽しんでもらうだけでなく、オーガニックコットンを用いたトートバッグを通じて、オーガニックコットンでできたハンカチやタオル、衣服がもたらすお肌へのやさしさだけでなく、農薬や化学肥料の使用を抑えた農法で栽培することにより生産者の健康を守るといった生産者支援もわかりやすい形で伝えています。
エシカル商品や価格に対する意味付けをワークショップという「体験」を通じて楽しみながら学んでもらう。だれもが簡単にできることではありませんが、学ぶべきヒントはたくさんあると思われます。

この記事では、エシカル消費をする生活者を増やす上でのターゲット層として、「意識が高いが行動が中程度」の層に注目して考えてみました。

ただ、エシカルといっても捉え方や向き合い方には様々な方向性があります。「トレンド性」「社会貢献意識」など、エシカル消費に求めるものも取り組むエシカル行動も違うでしょう。それらの意識にフィットした文脈での提案があれば、エシカル消費をより増やすことができるのではないでしょうか。

また、今回ターゲットとして考えた「意識が高いが行動が中程度」の層は60代女性が最も多いという特徴を示しましたが、実際には40~60代女性に広く分散しており、様々なライフステージが混在しています。近年、生活者をセグメンテーションする手法においては、生活者の多様化を受けて、従来からの性×年代と言った「デモグラフィック属性」だけではなく、生活意識や価値観、さらにはリアルな行動履歴を用いた分類が重視されるようになってはいますが、打ち手を考える上ではデモグラフィック属性の使い勝手も捨てがたく、この取り組みでは、価値観、行動、属性それぞれの分散を抑えたセグメンテーションを追求したいと考えました。

そこで、第2回では、エシカル意識とエシカル行動の具体的内容を用いて生活者のクラスタリング(グループ分け)を行い、エシカルの方向性やライフステージも加味したセグメンテーションを行うことにより 、エシカル消費を増やす上でターゲットとなる生活者像とエシカル意識や行動をステージアップするヒントを探っていきます。


今回の分析は、下記の設計で実施したインテージの自主企画調査結果をもとに行いました。
調査地域:日本全国
対象者条件:15~69歳の男女
標本抽出方法:弊社モニターより抽出しアンケート配信
標本サイズ:n=5437s 性年代の割付は日本の人口構成に準拠
調査実施時期: 2023年12月27日(水)~29日(金)

著者プロフィール

秋谷 祐二 (あきや ゆうじ) 株式会社インテージ マーケティングパートナー第2本部 企画営業2部2グループプロフィール画像
秋谷 祐二 (あきや ゆうじ) 株式会社インテージ マーケティングパートナー第2本部 企画営業2部2グループ
2018年インテージへ中途入社。前職まで外資系コンサルティングファームやマーケティングリサーチ会社にて、国内各地での中心市街地活性化や産業振興とった地域活性化関連のプロジェクトに多く従事。現職では、環境・エネルギー・住宅・不動産分野のマーケティングリサーチを担当し、地球温暖化防止や脱炭素、サステナブル、エシカルといったテーマで生活者の意識・態度・行動変容に関する調査を数多く担当。

2018年インテージへ中途入社。前職まで外資系コンサルティングファームやマーケティングリサーチ会社にて、国内各地での中心市街地活性化や産業振興とった地域活性化関連のプロジェクトに多く従事。現職では、環境・エネルギー・住宅・不動産分野のマーケティングリサーチを担当し、地球温暖化防止や脱炭素、サステナブル、エシカルといったテーマで生活者の意識・態度・行動変容に関する調査を数多く担当。

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