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エシカル消費行動のボトルネックとその有効な打ち手は?~生活者セグメンテーションからエシカル消費の普及拡大を考える②

社会課題の解決のために、エシカル消費をする生活者を増やしていくアプローチについて考えるこのシリーズ。前回は、「エシカルに対する意識レベルが高いのに行動に至っていない」生活者セグメントを動かせばいいのでは、という考え方のもと、この層の特徴理解を通してアプローチを考えてみました。
今回は、さらに効果的な打ち手を考えやすくなるよう、エシカル意識とエシカル行動の具体的な内容を踏まえた生活者セグメンテーションを行い、エシカル消費を増やす上でターゲットとなる生活者像と、この層のエシカル意識や行動をステージアップするヒントを探っていきます。

エシカルテーマで生活者を分類する

セグメンテーションにあたっては、エシカル志向度に影響する因子の仮説として図表1の14種の志向を想定し、この志向を反映するエシカル意識質問30項目とエシカル行動質問17項目を準備。全国の15歳~69歳の男女5347名に聴取しました。

図表1

エシカル意識質問とエシカル行動質問

回答結果を因子分析とクラスター分析にかけた結果、図表2の10クラスターに分類されました。

図表2

意識と行動の内容を踏まえたクラスター分類

エシカルに積極的なのは
・NPO活動などへの参加や寄付にも積極的な「ソーシャルジャスティス層」
・周りの目を気にせず、今よりも未来への備えを重視する「本質にこだわるストイックなエシカル行動層」
・周りの目を気にしつつ、将来よりも今の快適を重視する「実利と周りの目を気にする現実的エシカル行動層」
の3クラスターで、合わせて3割弱となっています。

また、エシカルに対して中庸的なのは
・最大多数を占め、エシカルへの関心が薄い「エシカル無関心マジョリティ層」
・エシカル意識をもちながらも行動が伴っていない「シンプルライフ志向層」
・コスパを重視し、自分にメリットが感じられればエシカルも受容する「コスパ・経済合理性志向層」
の3クラスターで、合わせて5割となり半数を占めています。

すべてに対して無気力な「低意識層」エシカルに消極的なのは
・節約・シンプルライフ・コスパの意識が強く、将来より今を重視する「節約・時短志向層」
・家事に関与しておらず生活意識の低い「仕事重視生活低意識層」
・快適なことにお金を掛けて今を楽しみ、エシカル意識の低い「自分の楽しみ優先ミーファースト層」
・すべてに対して無気力な「低意識層」
の4クラスターで、合わせて2割強となっています。

各クラスターをプロファイリングすると、図表3のような特徴があります。

図表3

意識と行動の内容を踏まえた各クラスターのプロファイリング

さらに、意識・行動質問への回答を元にコレスポンデンス分析を行い、各クラスターとの近さをマッピングしたところ、図表4のように利他性(社会・環境への貢献重視)の横軸とエシカル消費度の縦軸でマッピングされました。

図表4

意識・行動質問への回答をコレスポンデンス分析した概念図

このマッピングに、各クラスターで多数派を占める性別や年代、ライフステージなどの属性情報を重ね合わせると、図表5のように「子育てを終えて時間がある」、「子育てや仕事で忙しい」、「意欲に欠ける男性」の3層に括ることができます。

図表5

意識・行動質問への回答をコレスポンデンス分析した概念図へのクラスター属性の重ね合わせ

このマップからは、エシカルに対する意識の高さよりも、「子育てを終えて時間がある」という状況の方がエシカル消費という実際の行動に結びつきやすいことがわかります。
また、社会貢献意識の高いソーシャルジャスティス層は意外とエシカル消費という行動にはつながっていないのも興味深いところです。この層には若年層が多く含まれるのですが、消費という行動自体をエシカルと捉えないといった価値観もありそうです。

エシカル消費を増やす上でのターゲット層とアプローチ

ここで、前回検討した「エシカル意識は高いが、行動が中程度の層(エシカル志向×行動中庸層)」を、今回の「意識と行動の内容の違いを踏まえたクラスター」と掛け合わせてみることで、特定のエシカル意識を持った人の行動を変えることを考えてみたいと思います。
前項のマップで、エシカル消費傾向は、子育てを終えた世代と子育て中の世代のライフステージにより違いがあることがわかりました。図表6はエシカル志向×行動中庸層を大きく10-40代、50-60代の2つのライフステージに分けて今回のクラスターの構成比をみた結果です。

図表6

「エシカル志向×行動中庸層」年代別と「意識と行動の内容の違いを踏まえたクラスター」のクロスセル

10-40代では「クラスター3_実利と周りの目を気にする現実的エシカル行動層」と「クラスター6_コスパ・経済合理性志向層」がそれぞれ3割半ばで2分されていることがわかります。

ここから、「意識は高いが、行動が中程度の層(エシカル志向×行動中庸層)」の10-40代について、エシカルニュートラルな「クラスター6_コスパ・経済合理性志向層」をターゲットと考え、エシカルポジティブな「クラスター3_実利と周りの目を気にする現実的エシカル行動層」に意識・行動変容を促すことができないかを検討することとします。クラスター6は、エシカル消費レベルではクラスター3とすでに同レベルなので、クラスター3への意識・行動変容を促すことができれば、さらにエシカル消費に積極的になり、「クラスター2_本質にこだわるストイックなエシカル行動層」への飛躍も期待できると考えられます。(図表7)

図表7

意識・行動変容の推進によるクラスター移行イメージのパス図

「意識は高いが、行動が中程度の層(エシカル志向×行動中庸層)」の10-40代のうち、「クラスター6_コスパ・経済合理性志向層」を「クラスター3_実利と周りの目を気にする現実的エシカル行動層」と比較して、差が大きい項目をその特徴としてプロファイリングする と図表8のようになります。

図表8

「エシカル志向×行動中庸層」の10‐40代のうち「クラスター6_コスパ・経済合理志向層」のプロファイル

小さい子供を持つパートあるいは専業主婦の30-40代の女性が主な属性です。

世帯年収が相対的に低めで、お金のゆとりがないという自己認識を持っているため、エシカル消費行動に向けては経済的なハードルがあることが推察されますが、社会課題への関心を持ち、地球のため、次世代のためという倫理観は強く持っています。
買い物においては品質やブランド、産地を重視しますが、それはコスパを伴うことが必須です。無駄なものにお金は出さず、エシカル商品も割高だと考え、余計な出費として扱わざるを得ない位置づけだと推察されます。
一方で、エシカル商品も長い目で見れば元が取れることや、健康によい暮らし、無駄のない暮らし、モノを大切にする暮らしに繋がることが理解されれば、購入意向を持ちます。実際に、ハイブリッドカー、5つ星エアコン・冷蔵庫、耐震住宅、高気密高断熱住宅などに将来的な所有意向を持っています。
また、エシカル商品を購入しない理由は、「お店を知らない」「価格が高い」「サステナブルを意識したことがない」となっており、エシカルに関するインプットが少ないことが考えられます。

ここから、今回のターゲットの行動変容を促す打ち手を考えてみましょう。まずは「コスパ」=「自分へのメリット」を訴求することが肝要です。特に、品質が良い、長い目で見れば元が取れるという訴求に効果があると考えられます。訴求メリットは、「無駄のない暮らし」、「モノを大切にする暮らし」、「健康によい暮らし」という言葉に魅力を感じると考えられます。その上で、世のため、次世代のため、地球のためという訴求が、エシカル行動への背中を押す効果として期待できます。
さらに、実際の行動につなげるためには、ハードルとなっている経済性をクリアするための価格補助と行動に役立つ情報提供というサポートが特に重要と考えられます。

具体的には、2段階でのアプローチが有効であると考えられます。まず、ファーストステップでは「お得」+「エシカル」からスタートし、そのような意識・行動が定着 すると「エシカル」の心が芽生えて、エシカルの「ストーリー」に共感が得られるようになります。ここから、少し高い商品の購入であっても「心が満足する」ことに価値を見出すというセカンドステップに移行することが期待されます。

このファーストステップでは、例えば、「無駄・ロスにならないから“節約”もエシカルな行動である」と紐づけ、「使い残しが出ないサイズ」、「ゴミを出さない(少なくする)包装」、「消費期限が長い食品」といった自分へのメリットにもなる節約行動がエシカルな行動であると訴求することが考えられます。また、ちょっとした満足感が得られる「お得」もエシカルな行動として紐づけ、「衣類をリサイクルする(ゴミの削減)」、「消費期限の短い商品を買う(値引き)」もエシカルな行動であるということを訴求することで、「自分はエシカルな行動を取っている生活者である」という自意識を芽生えさせることが有効であると考えられます。

そして、セカンドステップでは、「自分はエシカルな生活者である」という自意識が芽生えた人々に、丁寧な暮らしの魅力や、より良い社会のためのサステナブルな貢献への「提供価値(感動価値)」を訴求することで、価値あるものにそれ相当の対価を払うという意識・行動変容を促します。「良い物だから、永く使える」、「良い素材だから、丈夫で永く使える」、「丁寧に作られた(ストーリーがある)商品だから、永く使う」という訴求や、「手作りだから、健康的(中身がわかる)」、「手作りだから、添加物が含まれない」、「手作りだから、作り手が見える」という訴求が有効であると考えられます。

ターゲット層へのこのような注力からエシカル消費の普及が進むことで、より多くの社会課題の解決に繋がることを期待したいと思います。


今回の分析は、下記の設計で実施したインテージの自主企画調査結果をもとに行いました。
調査地域:日本全国
対象者条件:15~69歳の男女
標本抽出方法:弊社モニターより抽出しアンケート配信
標本サイズ:n=5437s 性年代の割付は日本の人口構成に準拠
調査実施時期: 2023年12月27日(水)~29日(金)

著者プロフィール

秋谷 祐二 (あきや ゆうじ) 株式会社インテージ マーケティングパートナー第2本部 企画営業2部2グループプロフィール画像
秋谷 祐二 (あきや ゆうじ) 株式会社インテージ マーケティングパートナー第2本部 企画営業2部2グループ
2018年インテージへ中途入社。前職まで外資系コンサルティングファームやマーケティングリサーチ会社にて、国内各地での中心市街地活性化や産業振興とった地域活性化関連のプロジェクトに多く従事。現職では、環境・エネルギー・住宅・不動産分野のマーケティングリサーチを担当し、地球温暖化防止や脱炭素、サステナブル、エシカルといったテーマで生活者の意識・態度・行動変容に関する調査を数多く担当。

2018年インテージへ中途入社。前職まで外資系コンサルティングファームやマーケティングリサーチ会社にて、国内各地での中心市街地活性化や産業振興とった地域活性化関連のプロジェクトに多く従事。現職では、環境・エネルギー・住宅・不動産分野のマーケティングリサーチを担当し、地球温暖化防止や脱炭素、サステナブル、エシカルといったテーマで生活者の意識・態度・行動変容に関する調査を数多く担当。

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