日本におけるEVの現在地をトレンド調査から読み解く
※この記事は、日刊自動車新聞の“インテージ生活者インサイト”コーナーにインテージのアナリスト三浦太郎が寄稿した連載を再構成したものです。
ここ数年CASEの一角として注目されてきたEV。カーボン・ニュートラルやSDGsを見据えた各国の政策との急速な接近が目立つようになってきています。それらの動きと呼応するかのように、はたまた前もって準備をしていたかのように、インポーターを中心にEVのラインナップも充実し始めています。一方の国内メーカーは、日産アリアのデリバリーが目前に控えており、トヨタはEVの新ブランド「TOYOTA bZ」を立ち上げています。
実際のところ、EVは生活者にどのように受け止められているのでしょうか。インテージでは2019年9月、2020年12月、2021年7月と、2年前よりEVに関する調査(全国1万人:新車を購入し、現在保有している人が対象)を行っています。この記事では、2021年7月に行った調査結果を中心に、過去との比較も交えてEVのいまを読み解いてみます。
伸びない購入意向
はじめに、パワートレインごとの購入意向を見てみましょう(図表1)。「次に新車を買いたいと思っている車種に、各種パワートレインが備わっている」という仮定のもと、パワートレインごとの購入検討について聞いています。結果は、依然としてガソリン車、ハイブリッド車が多数派であることがわかります。ヨーロッパ諸国や米国ほど「脱ガソリン」を強く打ち出していない日本ならではの結果といえるかもしれません。
図表1
続いて、EVについて2019年~2021年の変化をみてみました(図表2)。
図表2
「積極的に購入を検討する」~「どちらかといえば購入を検討する」のスコアがほとんど変わらないのに対し、緩やかに「どちらともいえない」の割合が減少し、その分「購入を検討しない」が増えていることがわかります。
この結果は、日々EVに関する情報が増えていることが理由の一つであると考えられます。
情報を得る中で、以前より多くの生活者がEVを“自分事化”しやすくなっています。そのため、生活者それぞれが自身のライフスタイルや住居形態、自家用車に求める機能や価値といったことと照らし合わせながら、EVのことを考えるようになっているのではないでしょうか。このあたりは実際のデータでも示されているので後ほど紹介します。
情報取得をした結果、「集合住宅なので十分な充電設備を確保できる見込みが低い」、「高速道路を多用するので、EVでは電力消費が不安」といった具体的な理由とともに、購入を検討しない人が増えているのかもしれません。
まだまだ低い補助金の認知
ここからは、EVの購入を後押しする補助金に関する調査結果を見ていきます。
日本のEVに関する補助金の額は自治体や車格によって様々ですが、補助が充実しているヨーロッパ諸国より一般的に少ない設定となっています。また、中国における“ナンバープレートの優先発行”のように、必要に迫られてEVを購入する事情があるわけでもありません。とはいえ、EVを実際に購入した人、もしくはある程度の本気度を持って購入を検討した人であれば、補助金について見聞きしたことがあるはずです。
実際、どの程度の人が認知しているのか、2021年7月に全国1万人を対象(新車を購入し、現在保有している人)に行った調査の結果が図表3です。上から順にEVに関する「補助金の存在」、「補助金の申請期限が延長されたこと」、「補助金の具体的な金額(※自治体によって補助の有無や金額に差があることを提示)」について3つの選択肢で聞きました。
図表3
結果は3つすべてにおいて「詳しく知っている」はほとんどおらず、5%にも満たない状況でした
1つ目の「補助金の存在」については、「詳しくはわからないが知っている」まで含めると5割程度の人が認知しています。年代が上がるにつれて認知が増える傾向がはっきりと出ています。一般に年代が上がるにつれて新聞購読率やテレビの利用時間が増えるので、報道などで目にする機会が増えているのでしょう。
一方で、2つ目の「補助金が延長されたこと」、3つ目の「補助金の具体的な金額」は、「詳しくはわからないが知っている」まで含めても認知率は2割程度と低い結果となりました。
なお、自由記述の設問では次のような回答がありました。
・補助金の額を、もっと周知して欲しい ・補助金を受けても、値段が高い ・補助金がもらえるなら、考えてもいい ・補助金については知らなかった。まだ購入については考えていないが将来的にEVも検討したい ・EVは高いイメージがあったが、補助金が出るかもしれないと知り、次回購入する際は検討したいと思った ・補助金が今後いつまで続くかわからないという報道があり、購入の意思が弱まった ・日常生活では十分使用出来るレベルだと思うが、補助金が無ければ購入しようとすら思えない価格 ・デザインなどで欲しいと思うEVはあるが今は補助金が出ても高くて手が出せない ・都内は補助の金額が大きいが地方では差がある |
回答を見てみると補助金の認知の低さや、この先どうなるか不透明に感じる、という不満を示す人たちがいます。こういったところが解決されない限りは、自分で調べてみてもよくわからない、そもそも調べようとも思わない状況になってしまいます。生活者一人ひとりに、主体的に情報収集をしてくださいというのは酷だと言えるでしょう。加えて、補助金が使えても車両本体価格が高くて手が出せない、という意見も多くみられ、そもそもの価格の高さが障壁になっていることがわかります。
依然として手頃に感じられない車両本体価格、充電への不安
前述の通り、価格に対してネガティブな評価のあるEVですが、EVの特徴はどのように受け止められているのでしょうか。まずは、ポジティブな特徴について、新車を購入し、保有している車ユーザーがどのように評価しているのかを見てみましょう(図表4)。
図表4
最も多くの支持を獲得したのは「環境に優しい」という特徴でした。2019年調査、2020年調査に続き、3回連続のトップです。以降は「走行時の静寂性」「災害時の非常電源」といったバッテリー、モーターがもたらす価値項目の評価が高く、「将来主流になる」「補助金・減税が多く受けられる」が続きます。
一方ネガティブな特徴では「車両本体価格の高さ」がトップでした(図表5)。
図表5
こちらも2019年からの3回の調査すべてで変わらない結果となりました。充電にまつわる項目もネガティブな要素として大きいことがわかります。
EVを保有すると、これまで1,2週間に1度ガソリンスタンドで補給するというクルマの使い方から、週に複数回(場合によっては1日に複数回)充電する使い方になるわけですので、クルマの利用の仕方を見直す必要が生じます。そのため「充電インフラが十分に普及していない」、「充電が面倒」、「航続距離が不十分」、「充電1回あたりの時間が長い」といった困りごとやストレスが生じるのも頷けます。
ガソリン車やハイブリッド車を乗り続けている人からすると、これまで充電という概念がないため現状では抵抗感は大きいようです。ただし生活者は自身にとって便益のあるものには、これまでの長きにわたる経験や常識とは異なるものへもスムーズかつ急速に移行します。固定電話から携帯電話、携帯電話からスマートフォンといった例や、毎日出社しての対面会議→完全リモートワーク、といったさまざまな実例が示すとおりです。
ちなみにEVについての困り事は、自由回答からも浮かび上がってきます。同時に、充電の問題が解消されれば購入の候補にあがるという回答も見られています。
・航続距離が短く、充電時間が長いため、連続移動が不可能。旅行などに利用できない ・旅行の際に短時間で充電できないと不安 ・冷暖房で充電がなくなることや、まだ充電が容易にはできないことから購入には至らない ・郵便局で充電できるようになるとニュースで知り、充電する場所が少ない地方だが購入を検討できるようになった ・EV購入には憧れるが、充電ステーションがないのがネック ・毎日、充電しないと不安 ・外出先で充電可能な場所が少ない ・排ガス規制のため、主流はEVにシフトしていくと思うが、充電のためのインフラが充実していない ・都市部は充電などのインフラが整いつつあるが、地方ではまったくインフラが整っていない ・停電時が不安 |
生活者が抱くEVの価格感
ここまで、「EV=車両本体価格が高い」と生活者の多くがとらえていることを見てきました。では、EVに対してはどのくらいの金額を支払いうるのでしょうか。
図表6は「あなたが次に購入したい新車がガソリン車の場合、いくらまで支払いますか」という質問の回答と、「同車種のEVに対してはいくらまで支払うか」の支払許容額をまとめたものです。
図表6
例としてガソリン車の予算が151~200万円の人のデータを解説します。この人たちに同じ車種のパワートレインをEVにして販売する場合、まず「金額に関わらず購入しない」約4割が消失します。続いてEVにする上で価格上昇が避けられないということで価格帯を上げると、「ガソリン車と同じ価格帯(が支払許容額)」の約3割を失います。結果として3割程度しか購入検討者として残らないこととなります。
これはあくまで調査データであり、実際の新車購入のシーンでは値引きや各種キャンペーン、下取り価格、オプション選択といった複数の要素が関わるので複雑にはなりますが、一つの目安にはなるでしょう。
実際、EVの検討はここ数年で進んでいるのでしょうか。
図表7は「1、2年前と比べて、次の車を購入することを想定したときに、EVが購入の選択肢に入るようになったか」という設問の回答結果です(選択肢は7段階)。
図表7
どちらともいえないが半数をしめますが、約3~4割が「購入を検討するようになった」であり、「購入を検討しなくなった」の約1割を上回ります。
この記事の冒頭で、2019年、2020年、2021年と比較した際に、EVの購入意向は上がっていないどころか非意向者がやや増加している結果を紹介しました。そしてその理由の一つは、EVに関する情報が広まるようになり具体的な検討が行えるようになったからではないかと示しました。
実際、1、2年前と比べてEVが購入の選択肢に入るようになってきている、という結果が出ています。車両本体価格の高さや充電設備の確保といった大きなハードルは依然として複数ありますが、生活者とEVの距離はいくらか近づいていそうです。
カーボン・ニュートラルやSDGsといったグローバルな大義名分が、日本のEV販売にどのような影響を及ぼすのか。生活者側のEV購入に対する機運は、緩やかではありますが年々高まっています。これまでの約100年間でEVは複数回、一過性の盛り上がりを繰り返しては様々な要因で立ち消えています。今回もブームで終わってしまうのかどうかは、多くの人々が購入できる価格帯での販売の実現にかかっているでしょう。
この分析は、自主企画調査の結果をもとに行いました。
調査地域:全国
対象者条件:20~69歳の新車購入者(購入関与者)かつ主運転者
標本抽出方法:弊社「マイティモニター」より抽出しアンケート配信
標本サイズ 2019年:10299、2020年:10279、2021年:10239
調査実施時期: 2019年9月、2020年12月、2021年7月
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