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EVと電力事情から見る車と環境の接点

※この記事は、日刊自動車新聞の“インテージ生活者インサイト”コーナーにインテージのアナリスト甲斐聡と三浦太郎が寄稿した連載を再構成したものです。

EV・PHVの普及状況

日本政府は、2050年のカーボンニュートラルの実現に向け、2035年には新車販売を電気自動車(EV)、燃料電池自動車(FCV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、ハイブリッド車(HV)といった電動車に限定することを表明しています。
一方で、カーボンニュートラルの実現には、単純にEVなどの電動車を増やせば良いというわけではなく、発電時に二酸化炭素を排出しない再生可能エネルギーを用いた電動車の普及が欠かせません。

インテージが毎月約70万人から回答を集めている自動車パネル「Car-kit🄬」のデータによると、現在、EVとPHVを合わせた普及率は1.3%にとどまります。普及が進まない理由の一つがEV・PHVの車両本体価格の高さです。新車購入価格はガソリン・ディーゼル車(HVを含む)の平均が314万円であるのに対し、EV・PHVは468万円となっています(データ:Car-kit🄬)。さらに、寒冷地での電費の悪化やバッテリーの劣化が不安視されていること、充電設備が不十分である点が挙げられます。

地域別に見てみると、寒冷地の中でも特に北海道ではEVの普及が進んでいません(図表1)。
図表1

北海道では可住地当たりの充電ステーションの普及が25平方㌔㍍に一つと、全国平均の6平方㌔㍍に一つと比べて4分の1以下であることも関係していると考えられます。一方、PHVの場合、電欠の際にはガソリンでの走行が可能であることから、寒冷地での普及もある程度進んでいます。

EV・PHV購入者の特徴

EV・PHVは55歳以上の中高年での普及が進んでいます。車両本体価格が高額なこともあり、ライフステージ的に教育費などの負担がなくなる年齢を境に普及が進んでいると推察されます。
また、住居形態や自宅への太陽光発電の導入状況もEV・PHVの普及に大きく関係しています。環境省の調査によると、EV保有世帯の26%、PHVを保有している世帯の35%が太陽光発電を導入している世帯であり、ガソリン・ディーゼル車を保有している世帯のそれを大きく上回っています(図表2)。
図表2

家庭での太陽光発電の導入費用は近年下がってきているとはいえ、そのコストは平均で140万円程度かかり高額です。太陽光発電を導入する場合、多くの人は導入コストを売電価格で賄えるかの試算をします。具体的には、太陽光発電で発電した電気のうち自宅で使わなかった分を電力会社に割高に買い取ってもらい、その導入コストを賄うことができるかを試算します。
EV・PHVも太陽光発電の導入と同様、ガソリン・ディーゼル車と比較して燃費・電費をシミュレーションした上で購入するケースが多く見受けられます。このように、家計の収支計算を細かくする点でもEV・PHVと太陽光発電を導入する人は類似していると言えます。

図表3はEV・PHVの購入理由です。
図表3

EVでは、「地球環境にやさしい」「大気環境にやさしい」といった環境面の購入理由が上位にきて、次いで「無料・割安で充電できる設備がある」「深夜電力が安い」といったランニングコストから見た経済性の項目が並びます。
PHVでは、「充電が切れてもガソリンで走行できる」が最も多く、「災害時の備えとして使える」も購入理由の上位に入ります。普段の走行時に充電状況をそこまで気にしなくても良いことに加え、災害、特に停電時にもガソリンで動く安心感がPHVの選択につながっているのでしょう。2番目には「深夜電力が安い」といったランニングコストの経済性、3番目には「地球環境にやさしい」といった環境面の要因が挙げられます。
このようにEV・PHVの保有者は、地球環境も踏まえつつ、経済的な側面をも考慮し、購入に至っていることがわかります。このあたりも太陽光発電の導入と共通していそうです。

カーボンニュートラルを効果的に進めるには?

ここまで、すでにEV・PHVを導入している人について見てきました。ここからは、今後のユーザー拡大について考えていきたいと思います。

カーボンニュートラルという取り組みに向けては、前述のとおり、ただEV・PHVのような電動車を増やせば良いというわけではなく、発電時に二酸化炭素を排出しない太陽光発電や電力会社が供給する「再生可能エネルギーを100%利用した電気」での充電が必要です。この動きを推進するため、環境省では今年度、EV・PHV購入の際の補助金(EV=最大80万円、PHV=最大40万円)の要件を、自宅の電気を「再生可能エネルギー100%の電気」に切り替えることとしています。

ただ、再生可能エネルギー100%の電気は通常の電気料金より割高に設定されていることが一般的です。インテージが行った自主企画調査によると、電力単価(=購入金額/使用量)は、EV・PHV保有世帯では平均24.3円/kW時であり、ガソリン・ディーゼル車保有世帯の平均25.4円/kW時と大差ありませんでした。つまり、現時点では、EV・PHV保有世帯が割高な再生可能エネルギー100%の電気を多く購入しているという傾向は見られず、「地球環境を意識した行動を徹底している」という状況にはないようです。

「再生可能エネルギーを100%利用した電気」での充電は、経済面では生活者にどう捉えられるのでしょうか。自宅に太陽光発電を導入している場合、昼間は仕事などで不在にしている世帯が多いので、発電電力量が使用電力量を上回ってしまうことがあります。導入後10年間は、この余った電気を電力会社が割高な価格で購入してくれます。経済性を考える生活者が、割高に買い取ってもらえる電気をEVやPHVの充電に充てるとは考えにくいです。ただ、導入から10年を経過すると、割高な価格で余剰電力を売ることができなくなります(以下「卒FIT」)。卒FIT世帯では、安い価格でしか売れない電気をEV・PHVに充電することで、自動車の燃料(電気)代を抑えることができ、経済的なメリットも享受することができます。

19年以降の卒FIT世帯は既に100万世帯ほどあり、22年には34万世帯で太陽光発電の余剰電力の割高な買取期間が終了を迎えるとされています。まさにこのような世帯でEV・PHVの導入が進むことが、本当の意味でカーボンニュートラルな移動手段を実現する第一歩になるでしょう。

卒EV EVオーナーをやめた人々

EV・PHVのユーザー拡大について考えてきましたが、既存ユーザーにおける定着も重要です。次世代を狙うと目されるEVは、静寂性や加速性能の良さから一度購入するともうガソリン車には戻れない、といった話もよく聞きます。そこで、EV・PHVを新車で購入した人々が、次にどのパワートレインを購入したかのデータを紹介します。先に結論を示しますと、「卒EV・PHV」の動きも一定数見られます。

EV・PHVの販売台数はグローバルに見れば年々右肩上がりであり、メーカー、車種のラインアップは増え続けています。
図表4はCar-kit®のデータを用い、一度EV・PHVを新車で購入した人が、次にどのパワートレインを購入したかを集計した結果です。
図表4

結果はEVの場合3割強、PHVの場合は5割程度が、EV・PHV以外を購入しています。
ここからは、EVを中心に話を進めます。もちろん、EVからガソリン車やハイブリッド車に乗り換えたからと言って、その人がEVを否定しているというわけではないでしょう。
現状EVのモデル数は少ないため、車種やメーカーに偏りがあるのが実情です。EV・PHVオーナーは日産「リーフ」、トヨタ「プリウスPHV」、三菱「アウトランダーPHEV」の3車種で全体の7割以上を占めます。そのため、次に欲しいニューモデルのEVが市場になかった、それよりも欲しいハイブリッド車が新たに発売された、などさまざまな理由があるはずです。

一方で他分野を見渡してみると、スマートフォンからガラケーに戻すといった人や、バーコード決済から現金主義に戻るといった人はあまりイメージできません。その理由としては次の3点が考えられます。

【1. 新規性】今までできなかったことができる
【2. 利便性】今までよりも手軽になる・便利になる
【3. スピード向上】今までよりもやりたいことが速くできる

この3点をガソリン車/ハイブリッド車からEVへの乗り換えで考えてみましょう。
【1. 新規性】ですが、目的地に移動するための初段という点では、変化はないでしょう。電気による静寂性や加速性能の向上といった質の部分での新規性はありそうです。
【2. 利便性】はどうでしょうか。ある程度の頻度での充電が必要になります。航続距離による制限、外出先での充電可能な場所の確保といった点から、むしろ利便性は低下しているかもしれません。
最後に【3.スピード向上】ですが、クルマが走って良い制限速度に変化はないため目的地までの到達時間は変わりません。ガソリンスタンドに立ち寄る必要がなくなりますが、その代わりに充電はガソリンの補給時間より長いです。
以上より、エンジン搭載車からEVへの乗り換えは即時性を持った効果があまり現れないように思えます。

EVの推進が世界的なムーブメントとなっている中、一度EVオーナーとなったものの、ガソリン車やハイブリッド車といったエンジン搭載車に戻っている人々がいるのは興味深いです。
EVについては、「いずれ全ての車両はEVになる」「PHVは過渡期のみ存在するパワートレイン」といったものや、「ガソリン車は残り続ける」など、さまざまな言説があり先行きはまだ不透明と言っていいでしょう。
今後のEV・PHVの普及を考えた際に、「卒EV・PHV」の人々を分析することで、課題の先取りが出来るかもしれません。


今回の分析は、インテージの提供するCar-kit(自動車パネル)を用いて行いました。

Car-kit®(自動車パネル)
株式会社インテージが毎月約70万人から前月の自動車情報を取得しているシンジケートデータです。現有車や次期意向などを聴取する市場動向把握調査と、契約者に対して購入理由や購入時の重視点などを聴取する契約者調査の2部構成で実施しています。
※Cat-kitは株式会社インテージの登録商標です。

【エネルギーパネル】
株式会社インテージの消費者パネルデータSCIのモニターを対象に行っている、エネルギーに関する付帯調査です。全国の15~79歳の男女52,500人に2019年5月以降、毎月の電気およびガス(都市ガス・LPガス)の使用量・料金を定期的に調査しています。

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