回答者の負荷を軽減する調査設計 ~ネットリサーチ品質向上のポイント②
アンケート調査には様々な設問形式が あり、それぞれ使いどころやメリットがあります。しかし、アンケートの設問形式次第では回答負荷が大きくなり、真剣に答えようとしている人でも、回答を途中でやめてしまう、回答の正確さが低下するなど、回答品質に影響が及ぶことがあります。そのため、調査設計時には、回答負荷や回答行動を考慮した設問設計や設問内容の検討が必要です。
この記事では、インテージがネットリサーチの品質維持・向上のために継続的に取り組んでいる自主研究「フィールドサイエンス・プロジェクト(*)」で行った回答者へのインタビューや既存調査の分析結果をもとに、
・アンケート回答者が普段どのようにアンケートに答えているか
・アンケート回答者はどのような設問形式で高い負荷を感じているかを明らかにし、調査設計時に注意すべきポイントについて考えます。
目次
2つのアプローチで「回答負荷が高い設問形式や状況(シチュエーション)」を明らかにする
本取り組みでは、アンケート回答者にとって「回答負荷が高い状況」を把握し、調査設計時に役立つ知見を得るために、図1に示す2つのアプローチで研究を行いました。
まず、検証①では、 弊社のアンケートモニターを年代および2023年7月から12月までのアンケート回答率の高低によって6つのグループに分け、男女24名に対してグループインタビューを実施しました。
このインタビューでは、回答負荷を感じて回答を中止しやすい設問形式や状況、回答時の気持ちや行動について聞き取りを行いました。これにより、回答者の行動や心理を踏まえ、回答負荷につながる要素を定性的に分析しました。
その後、検証②では、弊社で実施した多数の過去調査の中から、インタビューで「回答時の負荷が高い」という意見が多かった設問形式を含む調査を探索し、実際に途中で回答を中止した人の割合を確認しました。これにより、回答負荷が高い設問を含む調査は、回答者への心理的な負荷につながるだけでなく、回答中止率の増加にもつながっている、という状況を定量的に把握しました。
これらの調査分析によって得られた知見については、次章以降でご紹介します。
図表1
普段のアンケート回答行動から回答負荷を考える
実際のアンケート回答行動を踏まえ、負荷の高い設問や状況について深く理解するために、回答者がどのようなデバイスを使用し、どのタイミングや場面で回答しているかという視点からインタビュー内容を分析しました。関連する回答者の声の一部を紹介します。
回答者の声一部 ・週に3~4日、外ではスマホ、家ではPCで回答。 昼の10分くらいの時間や帰宅後に回答【男性・20代】 ・平日、テレワーク業務が落ち着いた時に、スマホで回答【女性・20代】 ・平日の通勤途中に、スマホで回答【女性・40代】 ・週に1~2日、通知が来たタイミングでスマホで 回答【女性・50代】 ・基本はスマホで回答。画面が大きく答えやすいため、家ではPCで回答【男性・60代】 |
まず、「回答デバイス」に関しては、回答場所によって差異はあるものの、全体としてはスマホでの回答が多いことが分かりました。一方、「回答タイミングや場面」については、アンケート回答のために時間を作っているというより、移動時間や在宅時の休憩時間など、日常生活の隙間時間での回答が多いと分かりました。
また、回答者のコメントから、平日の隙間時間に回答する人が少なくないこともうかがえました。
まとめると、多くの回答者は普段のアンケート回答にはあまり時間をかけず、アンケートにもスマホで手早く答えることが標準的といえます。そのため、回答に時間がかかる調査やスマホで答えにくい調査は、回答のハードルが高いと考えられます。
図表2
回答負荷が高い設問形式と状況
次に、今回のインタビューと定量調査の結果を分析して分かった、回答の負荷が大きい設問や回答時の状況についてご紹介します。まず、回答者が特に負荷が高いと感じた設問形式は、以下の図の通りです。
図表3
設問形式の中では、「自由回答設問」と「動画視聴設問」に特に負荷を感じやすいことが分かりました。それぞれの設問形式に回答負荷を感じる理由は、大まかには以下のようにまとめられます。
- 自由回答設問: 設問の内容や指示を理解し、自分の意見や考えをまとめてから答える必要があるため。
- 動画視聴設問: 外出先では音が出しづらいため答えにくく、動画視聴だけでしばしば数分以上の時間がかかるため
多くの回答者は、「設問内容をよく理解して、できるだけ正確に回答したい」という思いを持って答えようとしているからこそ、聴取内容の理解や回答内容の検討が必要なこれらの設問形式に負荷を感じているともいえるでしょう。
また、設問形式以外で「回答負荷が高い調査」と「回答負荷が低く、答えやすい調査」については、以下のような知見が得られました。
図表4
これらの知見と、前章でご紹介した普段の回答行動からも推測できるように、回答者にとって負荷が少なく答えやすいアンケートには、以下の特徴があるといえます。
- 情報量が多すぎない(文字数や選択肢数が適切で、スマホの1画面上で回答しやすい)
- 回答時間が短くて済む
- 過去に回答した質問に再回答する手間がない
- 興味があり、よく知っている内容が含まれている
回答者にとって負荷が低く回答しやすいアンケートを作るには、これらの特徴をできるだけ多く備えたアンケート設計ができると理想、ともいえるでしょう。
回答負荷を踏まえ、調査設計時に気をつけたいポイント
前章では回答者が主に負荷を感じる設問形式や状況についてご紹介しました。一方で、自由回答設問や動画視聴設問など、負荷が高いと感じられている設問形式も活用が必要な場面があります。この章では、これまでの知見を踏まえ、回答品質の低下を防ぎつつ必要な情報を収集するために、調査設計時に気をつけたい具体的なポイントをご紹介します。
自由回答については、以下の記事で詳しく紹介しています。
自由回答設問の役割と、聞き方のキホン(後編)
おわりに
この記事では、弊社の研究結果をもとに、回答者のアンケート回答時の行動や気持ち、負荷を感じやすい設問形式や状況、そして、それらを踏まえて調査設計時に気をつけたいポイントについてご紹介しました。
調査設計においては、回答者が日常の隙間時間に回答することが多い実態を考慮し、短時間でスマホでも答えやすいアンケートを心がけることで、回答者にとって負荷が低く、質の高いデータを得ることができます。
本記事が、より良い調査設計の参考となれば幸いです。
*「フィールドサイエンス・プロジェクト」について
インテージでは、インターネットリサーチの品質を維持・向上させるために、「フィールドサイエンス・プロジェクト」を設置し、2009年から継続的に自主研究を行っています。プロジェクトでは、スマホで回答しやすい調査設計や、回答中断を減らすための設問構成、グローバル調査における各国の回答傾向の違いなど、毎年様々なテーマで研究を行い、得られた知見を発信しています。
※インテージのフィールドサイエンスの取り組みについては、こちらの記事もご覧ください。
リサーチフィールドサイエンス~「調査慣れしているアンケートモニター」はインターネット調査の結果に影響する?
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