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「共に未来を創る」2つのアプローチ~未来への兆しを見つけ出すforesight①

去年の今頃、2020年がこのような年になると想像していた人がどれだけいたでしょうか。新型コロナウイルス感染拡大は、未来がいかに不確実かということを実感する機会となりました。そんな不確実性の高い時代だからこそ、「未来がどうなるか」、そんな未来に「自社は何をしたらよいか」、をいち早く捉えたいという需要は、以前にも増して高まっているのではないでしょうか。

不確実な未来の兆しを見つけるためには、質的な手法が用いられることがあります。本記事では、質的なデータ、情報に基づいて「未来への兆し」を見つけるアプローチを前・後編でご紹介します。前編では、不確実性を取り込み、未来のビジネスアイディアを発想する「未来洞察」のアプローチと、調査対象者の創造性をかきたてる「問い」を投げかけることで未来における「ありたい姿」を導き出す2つのアプローチをご紹介します。

不確実性を取り込み、未来のビジネスアイディアを発想する「未来洞察」のアプローチ

最初にご紹介するのは、一橋大学大学院の鷲田祐一教授が研究・推進している「未来洞察」のアプローチです。従来の未来予測の手法が、現在の直線的な延長で未来を描くことが多かったのに対し、不確実性を想定し、その不確実性によって起こる結果も併せて5~10年後の未来を洞察することを特徴としています。本パートでは、インテージで2019年9月に鷲田教授を招いて実施した「インテージグループの10年後のビジネスを考える」ワークショップを例に、未来洞察のアプローチをご紹介します。

未来洞察ワークショップは、
① 「技術開発の趨勢」「企業戦略」といった当該組織内や産業内、その領域内の要素に基づいて、インサイド・アウト発想で現在の直線的な延長での未来のシナリオを作成する「未来イシュー」と、
② 「外国で浸透し始めている社会変化」や「一部の高感度な人にとっては暗黙の了解となっている事実」といった、自社や業界の外にある微細な社会変化に注目し、アウトサイド・イン発想で不確実な未来の兆しから非線形な未来変化を前提に未来シナリオを生成する「未来社会変化仮説」
を掛け合わせて、未来のビジネスチャンスのアイディアを強制発想するものです。

●「未来イシュー」の作成

①の「未来イシュー」の作成は、専門的知識を持つ関係者の問題意識や仮説を統合して行います(図表1)。

図表1foresight-1_01.png

それぞれの未来イシューについては、「未来イシューで設定したシナリオが実現するかどうかは“●●がどうなるかにかかっている”」の、「●●」にあたる「フラクチャー・ポイント」を設定します。鷲田教授の著書『未来洞察のための思考法』(2016)によれば、「多くの場合、フラクチャー・ポイントは、技術的に克服困難な壁、制度や法律の不備、社会的理解の不足、ユーザへの普及不足、関連する周辺産業との足並みの乱れ、政治的な駆け引き、競合企業の動向、投資の不足、などの要素である」(p58)とのことです。

●「未来社会変化仮説」の作成

②の「未来社会変化仮説」は、現在の延長線上にある未来から大きく外れているが、潜在的にインパクトのある可能性がある事象を「未来の芽」として、その情報をまとめた「スキャニング・マテリアル」(図表2)を素材として作成します。

図表2foresight-1_02.png

スキャニング・マテリアルの元ネタとなるのは、さまざまな国の有力新聞や雑誌の記事、テレビ番組、企業のリリース、学術分野での研究、インターネットからの情報などです。現在の延長線上にあるような情報はあえて省くようにしつつ、「現在入手可能な情報である」ことで、遠い未来ではなく5~10年後の未来の変化を発想しやすくなっています。
ワークショップの参加者は、1週間前に、事前課題として100~200個のスキャニング・マテリアルを斜め読みして「ピンときた」ことをもとに3~5個の「社会変化シナリオ」を用意してくることを求められます。ワークショップでは、参加者が持ち寄った「社会変化シナリオ」案を共有し、統合していきます。鷲田教授は、収束のプロセスとして、作成された「社会変化シナリオ」それぞれを評価するアンケートを実施、結果をコレスポンデンス分析で解析して、3~5個程度のシナリオに収束させていくことを推奨しています(図表3)。

図表3foresight-1_03.png

●未来アイディアの強制発想

上記の手続きを経て作成された「未来イシュー」と「未来社会変化仮説」を掛け合わせて、未来のビジネスアイディアを強制発想させます。図表4で示したように、未来イシューと未来社会変化仮説を1つ1つ組み合わせて、総当たりで交差させ、事業アイディアを考えます。

図表4foresight-1_04.png

未来シナリオの有効な活用方法として、鷲田教授は、デザイン思考で使われるラピッド・プロトタイピングを推奨しています。また、無形のサービスの場合には、「サービスが実現された世界の動画」の絵コンテを作成することもできます。

望ましい未来を想像させる「問い」を投げかけ、引き出されたキーワードから、未来におけるありたい姿を導き出すアプローチ

次にご紹介するのは、創造性を刺激する「問い」を投げかけて、「望ましい未来」を具体的にイメージしてもらうことで、ありたい未来の姿を導き出すアプローチです。前述の「未来洞察」のアプローチでインサイト・アウト発想とアウトサイド・イン発想を掛け合わせていたのと同様に、「外の世界」における兆しを見つけるのと同時に、企業・ブランドの担当者ご自身の「内なる声」にも耳を傾けて未来におけるありたい姿を導き出そうとしています。インテージでは、商品・サービス開発支援プログラムである「デ・サインリサーチ」を活用してこの試みを行っています。

「外の世界」における「兆し」を見つける素材として、調査対象者が思い描く「未来におけるありたい姿」を表現するキーワードを集めます。「未来」を想像してもらうときに投げかけるのは、回答者の想像力と創造性を刺激し、望ましい未来を思い描いてもらうことを意図した「問い」です。「問い」は図表5のように ①想像上の設定 ②想像の発展を促す、詳細かつ具体的な質問群 ③設定上での強制連想 の3つのパートで構成されています。

図表5foresight-1_05.png

この12のキーワード出しは、完全な自由想起で行われます。例えば、以下のような回答がありうるでしょう(図表6)。

図表6foresight-1_06.png

この12のキーワードをそれぞれ組み合わせて、キーワードどうし(「想像力×クリエイティビティ」など)が「遠いか⇔近いか」を回答してもらいます。その距離データをもとに図表7のようなマインドディスカバリーマップを作成します。

このマップから刺激を受けることで、読み解く側にあたるメーカーやサービス提供者、リサーチャーなどの「内なる声」を引き出し、商品やサービスという形をとって、生活者や顧客に「届けたい未来」を形作っていきます。

図表7foresight-1_07.png

※マップの読み解き方については「ミレニアル世代のマーケターが思い描く2025年とは」をご覧ください。

インテージでは、このアプローチを用いて、グローバルのミレニアル世代を中心としたマーケターの「ありたい姿」を「外の世界」の兆しとし、インテージのリサーチャーの「内なる声」を通して読み解いて、「世界のマーケターと共に創りたい未来」としての「2025年のマーケティング」を表す7つのキーワードを導き出しました。
調査自体は2019年8月に実施しましたが、コロナ禍の2020年3月から5月にかけて本調査結果を再分析し、未来への希望を掘り起こすことを試みました。

foresight-1_08.png

7つのキーワードの詳細は、こちらのリンクからご覧いただけるe-bookにてご紹介しています。キーワードをショートストーリーと、それらを表すビジュアルとともにまとめることは、進むべき方向に迷ったときに立ち戻れる場所とする手段となります。
コロナ禍以前、マーケターが未来に託していた思いや業界への期待はどのようなことで成り立っていたのか。それらは、コロナ禍にあえぐ現在、どのような未来への希望を示唆してくれるのか。7つのキーワードが示す世界が、未来のありたい姿を描くためのヒントになりうれば幸いです。

参考文献
鷲田祐一[編著](2016). 『未来洞察のための思考法:シナリオによる問題解決』, 勁草書房

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