海外WEB調査設計時のガイドライン ~5か国の比較研究から~
マーケティングリサーチの世界に「インターネット調査」(以下、WEB調査)が生まれてから20年以上。先進国のみならず、世界中で実施されるようになった。一方で、WEB調査のデータ品質が問題視されるケースも増えてきている。
その背景には、1調査あたりの設問数の多さや難解な設問設定などがあげられる。例えば、設問や選択肢が多すぎると回答者が疲れ、いい加減な回答を招く可能性が高まる。難解な設問は回答者を混乱させ、データの信頼性低下につながってしまう。
したがって、良質なデータを取得するためには、最適な調査ボリュームを見極める必要があるが、最適な調査ボリュームは国によって基準が異なることが想定されるため、日本を含む複数カ国の調査研究による正しい理解が求められる。
本記事においては、この「最適な調査ボリューム」についてアメリカ、ドイツ、中国、タイ、日本の5カ国を対象として研究した結果を紹介する。国際比較を行うことで、各国の基準や状況を詳細に把握し、グローバル化が進むビジネスにおいて、より包括的で信頼性の高いデータを得ることができると考える。
1. 適切な調査票ボリュームは?
まず、回答者は調査協力時にどの程度のボリュームのアンケートを望んでいるのか?またどの程度のボリュームを想定して回答開始しているのかを見ていこうと思う。
図表1は、各国の調査モニター2000人に対し、回答所要時間別の回答協力意向を調査した結果を示している
図表1
いずれの国においても、回答所要時間20分以上のアンケートへの許容率は50%を下回る。
中国、タイの2か国に関しては、15分以上で大きく許容率が低下しており、15分未満のアンケートが望まれていることがわかる。
回答所要時間15分を設問数に換算すると、およそ30~35問の規模となる。40問超の調査に対しては、回答者の調査への回答協力意向が低下するリスクが存在している。
日本に関しては、10問程度で条件該当者を抽出するための「スクリーニング調査」と、「本調査」を分割で実施することが多いため、大量のスクリーニング調査に日常的に回答している。そういった背景から、希望回答時間が短くなっていると考えられる。
次に、実際にアンケート回答者が、どの設問ボリュームで脱落する(回答拒否行動を起こす)傾向が強いかを、実際の調査時の回答データから示したものが図表2となる。
図表2
アメリカ、ドイツの2か国は、15分以上で脱落率が倍となっており、図表1で確認できた回答協力意向よりも耐久力が低いことがわかる。
一方中国は、「15分以上は許容できない」という声が多かったが、実際には25分程度までは回答する耐久力があることが意外な事実としてわかった。
なお、日本のアンケート協力者は、35分超のアンケートであっても脱落することなくアンケートを完遂しており、一般的に言われている“忍耐強い国民性”というのは確かなようである。
2. 複数選択設問、マトリクス設問の最適な設計は?
調査全体の最適なボリュームが多くともおよそ30~35問であることは分かった。では、1問当たりのボリュームはどうなのか?
今回の研究では、複数回答形式の選択肢数とマトリクス形式の項目数に着目し検証を行った。
<複数回答形式の選択肢>
複数回答設問において、以下のようなパターンで選択肢Pを用意し、その回答傾向の違いを比較した。
パターンA:選択肢Pを総選択肢10個中4個目にて表示
パターンB:選択肢Pを総選択肢30個中10個目にて表示
図表3
どの国も、選択肢数の多いパターンBのほうが、明らかに選択率が低下している。
アンケート回答者が選択肢を確実に認識し、選択するには、選択肢数が30個は多すぎるようである。
精度の高い回答データを得るためには、複数回答であっても、選択肢数を10個程度に絞り込み回答負荷を減らすことが求められる。
<マトリクス形式の項目数>
次に、複数の項目について同じ質問を繰り返す、マトリクス形式の項目数(質問項目数)について考える。
以下のようなパターンを用意し、回答傾向がどのように変化するかを比較した。
パターンA:項目数5
パターンB:項目数10
パターンC:項目数15
パターンD:項目数30
図表4は、項目数によってストレート回答(すべての項目について同じ選択肢を選ぶ回答/適当に回答している可能性が高い)がどれだけ発生したかを集計した結果である。
図表4
どの国も、項目数が10個から15個へ増えた段階でストレート回答の発生率が上昇したことが見て取れる。WEB調査では、価値観や項目別満足度を5段階尺度のマトリクス形式で聴取することが多いが、項目数を10個程度にすることで精度の高い回答が得られるようだ。
3. 脱落しやすい設問の形式を意識する
本研究以外にも、回答負荷が高まりやすい設問が存在する。
以下にその一例を紹介するとともに、調査票作成において、類似の設問を設計する際には、回答拒否のリスクを考慮したい。
■OA(長文、思考力、論述を求めるもの)
アンケート調査において、OA(自由回答)は頻繁に使われる設問形式であり、適切に使用すれば非常に有用な聴取方法となる。
が、自由度が高く、使い勝手が良いがゆえに多用してしまうと、回答者負荷が増大し、回答拒否のトリガーになりやすい。
参考:回答者の負荷を軽減する調査設計 ~ネットリサーチ品質向上のポイント② – 知るギャラリー by INTAGE
■NA(計算処理を求めるもの)
収入と支出のバランスや、チャネルごとの消費額割合など、回答者に確認や計算を求める設問も1と同様に大きな回答負荷が発生し、回答拒否のトリガーになりやすい。
■MAマトリクス形式(ブランドイメージなど類似の設問を繰り返すもの)
ブランドイメージ調査などで、複数のブランドを並べて、それぞれのイメージを聴取する設問を設計していないだろうか?
回答者は、類似の設問が継続すると、繰り返す分だけ反応が鈍くなり、最終的には回答拒否につながる。
ブランドイメージなど多数の項目に対して繰り返し質問をする場合は、無作為に3つに絞り込むなどの画面制御を行い、回答負荷を減らす必要がある。
4. 最後に
今回の結果を受けて、WEB調査の調査票は、どの国で調査する場合においても、以下を目安として作成、計画することを強く推奨する。
・回答時間が15分となる30~35問
・複数回答設問の選択肢数は10個程度
・マトリクス形式の項目数は10~15個程度
もちろん、調査テーマや対象カテゴリーによって、ボリュームが多くなってしまう事象は発生するが、その場合、回答精度(得られるデータの精度)に影響を及ぼすというリスクを考慮したうえで実施する必要がある。
また、日本人のストレス耐性(耐久力)の基準が諸外国に比べて高いこともわかった。つまり、日本国内で実施している内容そのままのボリュームで海外WEB調査に転用すると、想定外の回答離脱や回答精度の大幅な低下を招く可能性がある。
今後、グローバルビジネスを展開していく中で、海外でのマーケティングリサーチの標準を正しく理解したうえで、適切なWEB調査を実施していくことが必要不可欠だ。
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