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富裕層の実態と価値観を知る

国内における経済成長の長引く停滞や老後不安などを背景に、給与収入や年金制度を過度に期待せず、資産運用や投資を積極的に行う人が増えてきた。以前は1億円以上の金融資産を保有する人を「富裕層」と定義して語られることが多かったものの、2022年頃を境にさらにその上をいく「超富裕層」というワードもさまざまなメディアで目にするようになっている。一方で、「貧富の二極化」が社会課題にもなっている。資産や可処分所得をセグメンテーションのキーとして用いた生活者理解アプローチはよく用いられる分析手法だが、先の超富裕層の誕生や二極化という社会的な変化の中で、現代の生活者をより正しく理解するためには、これまで以上にきめ細かな分析や洞察が必要な時代を迎えているのではないだろうか。

そのような課題感のもと、今回は金融資産を1億円以上保有する富裕層に注目して分析を行い、生活意識や価値観、消費意識や行動なども重ね合わせながら「ヒトトナリ」に迫ることにより、富裕層マーケティングのアップデートにつながるヒントを探してみたい。

1.富裕層に対するビジネスニーズの高まり

政府の「令和4年度民間給与実態統計調査」によると、令和4年にて給与取得が2000万円/年以上超える人は、給与所得者の1.44%で約73.2万人、過去5年間で131%(平成29年比)と大きく伸びている。
コロナ禍によって社会の消費の状況が一時的に変化していたが、今ではかつてのように富裕層はプライベートにおいてもビジネスにおいても積極的な支出を行い、消費活動が復活している。

インテージでは注目が集まる「富裕層」をターゲットとしたビジネスの盛り上がり を背景に、「富裕層」とは実際にどんな人なのか、どのように商品を選択しているのか、を知るために、「富裕層」を対象としたアンケート調査を2024年4月に実施した。その一部に関して紹介したい。

2.富裕層の実態

今回は、世帯で金融資産(金融資産:預貯金、社債や国債などの債券・株、投資信託、生命保険のうち満期金のあるもの、貸出金など)を1億円以上保有している層を富裕層と定義し、インテージ金融パネル「Mat-kit」から該当するモニターを抽出して調査を行った。
※比較対象として、金融資産1億円未満の層をインテージ「マイティモニター」から抽出して調査

この結果、金融資産1億円以上を保有する3012人と一般層784人からの回答を得ることができた。
富裕層の保有資産の内訳は図表1の通り。金融資産2億円以上が914人(30.3%) となっている。

図表1

富裕層調査 回答者の保有資産

ここからは、上記3012人の回答から得られた富裕層の実態を見ていきたい。

年齢構成

年齢構成は図表2の通りであり、約6割を60歳以上が占めていた。また、金融資産5億円以上10億円未満では、50歳代(現役世代)が36.9%を占めていた。

図表2

富裕層調査 回答者の年齢構成

居住エリア

次に居住エリアを見てみよう。日本全体では、約30.6%が京浜エリア(東京、神奈川、埼玉、千葉)に居住しているのに対し、富裕層では51.3%が京浜エリアに居住していることがわかった。全体と比較して約1.7倍と、より京浜エリアに集中していることがわかる(図表3)。

図表3

富裕層調査 回答者の居住エリア構成

自由に使えるお金

1か月に自由に使える金額(生活費以外)の分布を金融資産別に見てみると、図表4のとおり、金融資産5億円以上10億円未満では「100万円以上500万円未満」が14.8%となった。金融資産が増すほどに自由に支出する金額に余裕が生まれて行く様子がうかがえる。図表4の通り、金融資産1億~4億円未満と、金融資産4億円以上では傾向が異なってくる。金融資産4億円以上では、1か月に自由に使えるお金が25万円以上と回答した人が約50%を占める。
一方で富裕層全体では10万円未満と答えた人が27.9%おり、富裕層といっても自由に使えるお金が必ずしも潤沢ではないことが分かる。

図表4

富裕層調査 月に自由に使える金額の分布

実態まとめ

今回の富裕層調査からは以下のような富裕層像が見られた。
・年齢は60歳以上が約60%と高め
・京浜エリアに集中
・特に資産4億円未満の場合、生活費以外で自由に使えるお金は必ずしも多くない

では、かれらは消費においてはどのような考えを持っているのか、商品購入時の考え方や、価値観に関して探っていく。

3.富裕層の商品購入の考え方と、価値観

商品購入の考え方

金融資産別に、商品購入時の考え方や行動を分析すると、金融資産4億円未満と4億円以上で、考え方や行動における明確な違いがあることが見えてきた(図表5)。前述の通り、「生活費以外で自由に使えるお金」の傾向が資産4億円未満と以上で異なっていたことも関係あるのだろうか。
金融資産4億円以上の超富裕層※(ここでは金融資産4億円以上を“超富裕層”とする)では、以下の3点の傾向が見えた。
①自分軸へのこだわりが強い
 (自分の時間を捻出する/自分を向上させる/気持ち良さや快適のためにお金をかける)
②優越感を得たい
 (ブランドものを選ぶ/人の持っていないものを身につけたい)
③こだわりが強い
 (強いこだわりをもって商品選択をする/作り手の思いに共感して買う/多少出費しても良いものを求める)

図表5

商品を買う時の考え方や行動

価値観

さらに、富裕層の価値観の違いに関して、性別/年齢を軸に一般層との比較を確認してみた。
今回は、特に差異が出た女性の富裕層と一般層との価値観の違いを説明する。(図表6)

図表6

富裕層/一般層の価値観比較(女性年代別比較)

このデータからは女性の富裕層の特長として以下のようなことが読み取れる。
① 「社会貢献、ボランティアに興味がある」※特に29~49歳で顕著
② 「新しいことにどんどんチャレンジしていきたい」
③ 「積極的に人との交流を広めるほうだ」※特に29~49歳で顕著
④ 「センスが良いと周りの人から褒められる」※特に29~49歳で顕著

また、経済的に余裕があることから、「倫理的判断(エシカル消費)を重視したい」「人や社会のために役立ちたい」に関しては、年齢を問わず、女性富裕層が一般女性より10~15ポイント高い結果となった。
富裕層の女性達は、人生を楽しむために幅広い興味や好奇心を持ち、人との交流を広めアクティブに行動し、かつ、社会的にも貢献したいと考えていることが分かる。

4.富裕層の消費タイプ

ここまで、金融資産の金額別、女性の年代別に富裕層の特徴を確認してきた。多くの事に興味・関心を持ち、 チャレンジ精神が旺盛であり、また社会貢献にも積極的な姿が見えて来た。
一方で、生活者が多様化する中、お金や時間の自由度が人一倍高く、決して一様にはなりえない富裕層へのマーケティングを考える上では、タイプ分けをして、よりターゲット像を具体的に描くことが有効であろう。
そこで、今回の調査結果を元に、消費行動、価値観の質問を使ってクラスター分析を行った。以下は富裕層を5つのクラスターに分類した結果である。(図表7)

図表7

富裕層のタイプ

上記のように5つのクラスターを作成したが、その中でも特に高額の商品購買やサービス利用につながる特徴的な富裕層3タイプを紹介する。

①「人の目気になる、比較リッチ」
全体の21%を占める。人からどう見られているのか気になり、人よりワンランク上の生活を望む、積極的に交流を行い、人からセンスが良いと褒められたい層。
②「こだわりが強い、アクティブリッチ」
全体の9%を占める。商品・サービス選択にこだわりがあり、自己成長や、エシカル/社会貢献意識も高く、好奇心旺盛でチャレンジ意識の高いアクティブな層。
③「1人の時間を大事する、プライベートリッチ」
全体の8%を占める。物は最低限必要なものがあればよいと考え、商品・サービス選択へのこだわりは低く、機能で吟味する現実派、1人の時間、家で過ごす時間などプライベートを大事にする層。

この他に、商品・サービス購入時には、価格対して見合った価値観があるのかしっかりと吟味をする「余暇重視、しっかりリッチ」23%や、堅実な生活を望む「穏やかに暮らす、隠れリッチ」18%存在する。

②の「こだわりが強い、アクティブリッチ」層は、自分の時間を大変大事にしており、時間をお金で買うこともいとわない志向を持っています。例えば、時間短縮で浮いた時間に「スキルアップ」や「資産運用」ができるサービス、余暇を楽しむための「優先的な施設予約コンシェルジュ」など、時間を活用し更に稼ぐ力につなげる、富裕層のニーズに応じた新しい商品やサービスの開発が考えられます 。

5.「調査対象」としての富裕層の価値

富裕層は興味・関心が多岐にわたり、人的交流も幅広いことから外部からの影響を受けやすい。エシカル消費や社会貢献にも興味がある、アクティブで、かつ新商品やサービスの受容性が高い 層であると言えそうだ。マーケティングのターゲットとしてだけでなく、今後の消費動向を占う先進層 としても注目すべきなのではないだろうか。
また、私たちの暮らしを取り巻く多くの商品・サービスの値上がりが一巡したこともあり、これまでの行き過ぎたデフレ対応に見直しを図る企業も現れている。高騰する原材料費や運送費の単純な価格転嫁ではなく、本質的な高付付加価値化による高価格帯市場への転換を図る企業やブランドも現れている。そうした、商品・サービスについても富裕層は極めて有望なターゲットとなるはずだ。
今回は5タイプにセグメンテーションしたが、商材やサービスによってこのセグメンテーションの方法は異なってくる。紹介した様に、富裕層への定量的な調査も可能となっている。富裕層へ向けた商品・サービス開発、消費先進層として富裕層の活用など、直接ターゲットにアプローチ(リサーチ)を行い、富裕層の解像度を上げることをおすすめする。


今回協力いただいた金融資産1億円以上の調査モニターの特性を、富裕層パネルBOOKとしてまとめました。ぜひダウンロードしてご覧ください。


調査概要
調査地域:日本全国
対象者条件:20~79歳男女個人
標本抽出方法:マイティモニターより適格者を抽出(Mat-kitデータから条件適格者をサンプリング)
標本サイズ:富裕層n=3012 一般層n=784
調査実施時期: 2024年4月9日(火)~2024年4月15日(月)

著者プロフィール

濱 賢太郎(はま けんたろう)プロフィール画像
濱 賢太郎(はま けんたろう)
株式会社インテージ マーケティングパートナー第2本部 営業推進部 
未来共創センター
・大学卒業後家電メーカーへ就職、ワープロ、FAX、携帯電話、通信映像端末、
太陽光発電の商品企画を担当。
・2013年株式会社インテージに入社し、国内外の生活者リサーチ、
コンサルティングに従事。
・2017年「未来共創センター」を設立。
企業との共創による新価値の創出を軸に、共同研究(POC)、
生活者研究を多数実行中。
・現在はWell-being領域に興味関心を持ち
(社)データビリティコンソーシアムに参画
「Well-being部会」を立ち上げ、異業種との共創活動に取組み中。

株式会社インテージ マーケティングパートナー第2本部 営業推進部 
未来共創センター
・大学卒業後家電メーカーへ就職、ワープロ、FAX、携帯電話、通信映像端末、
太陽光発電の商品企画を担当。
・2013年株式会社インテージに入社し、国内外の生活者リサーチ、
コンサルティングに従事。
・2017年「未来共創センター」を設立。
企業との共創による新価値の創出を軸に、共同研究(POC)、
生活者研究を多数実行中。
・現在はWell-being領域に興味関心を持ち
(社)データビリティコンソーシアムに参画
「Well-being部会」を立ち上げ、異業種との共創活動に取組み中。

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