

2025年10月30日知るギャラリー掲載の「富裕層の実態と価値観を知る「2025年版」 にて、日本の富裕層の実態や価値観を明らかにした。続編として、日本よりさらに大きなマーケットが拡がる中国の富裕層を対象に、実態調査を行った結果を今回お届けする。
中国の富裕層を取り上げた理由は、以下のようにボリューム(経済規模・消費額) にある。
①世界第2位の経済規模であり、世界GDPシェア16.8%(2023年)を占める。※1 かつ人口が日本の14倍であり、日本より多くの富裕層が存在する。(経済規模)
②2025年1~9月における訪日旅行者数第1位は中国。※2 かつ高付加価値旅行(1人あたりの消費額 100万円以上の旅行)者は、2023年度59.0万人であり、内24.6% 14.5万人を中国が占めている。※3(消費額)
今回の分析においては、日本の富裕層との比較を一部織り交ぜながら、中国の富裕層の実態を明らかにしていく。
※1 内閣府(2025年2月)
※2 JNTO日本政府観光局(2025年10月)
※3 JNTO日本政府観光局(2025年6月)
本コラムでは巻末に無料ダウンロードレポ―トとセミナーのご案内があります。ぜひ最後までご覧ください。
今回の調査でインテージチャイナが保有する富裕層ネットワークを用いて、中国全土に対してWebアンケートにより調査を実施した。
富裕層の定義は以下の通り
中国富裕層 :世帯年収100万元以上(約2,150万円以上)※
中国準富裕層:世帯年収50万元以上(約1,075万円以上)※
日本富裕層 :金融資産1億円以上
※以降の中国元の日本円換算は、2025年10月時点のレートを使用している。
調査対象者の世帯年収分布は図表1Aの通り、「250万元以上(約5,370万円以上)」の層が23.8%を占めた。
20~30代では世帯年収「150万元以上(約3,220万円以上)」が全体の63.2%を占めた。これは40~50代と比較して13.1ポイント高い結果となった(図表1B)。
中国では共働きが多く、若い世代の富裕層の世帯年収が高いことが分かる。
回答者の男女構成に関しては、男性61.5%、女性38.5% であった。
図表1A

図表1B

金融資産(不動産を含まない、貯蓄、株、投資、保険など)を確認したのが図表2Aである。
2,500万元以上(約5億円以上)の金融資産を保有する「超富裕層」が25.4%だった。年収においては若年層が高い傾向にあったが、金融資産の保有額では40~50代が高い。1,000万元以上(約2億円)保有している層が40~50代は74.2%と20~30代と比較して20.3ポイント高く、資産の豊かさが際立っている。
現在の年収は20~30代が高い傾向にあるものの、40~50代では長年の収入の蓄積や資産運用により、金融資産としての厚みが増していることが分かる。
図表2A

図表2B

このような多くの収入を得て、多くの金融資産を形成している中国の富裕層はどのような生活をしているのか把握するため、不動産や金、車、高級品などの所有状況に関して調べてみた(図表3)。
図表3

中国の富裕層では「金(ゴールド)」を全体の69.2%、「国内の住居用の投資物件」を68.5%が所有している。大きく資産を増やすための不動産投資と、価格乱高下のリスクを低減させるための金投資の両面を活用している中国富裕層の姿が見えてきた。
では、他の高級品に関してはどうだろうか。車・バイクでは「4,000万円以上の車」(いわゆるスーパーカー、超高級車)を32.3%が、高級品では「100万円以上の腕時計」を46.9%の富裕層が所有している。
不動産、金、車、高級品各カテゴリーにおいて、中国の富裕層の所有率が日本の富裕層より高く、高級品市場における中国のポテンシャルの大きさが分かる。
また、ニュース等にて中国人の日本不動産所有がしばしば取り上げられるが、中国富裕層の「海外不動産」の所有は6.2%に留まっている。
なお、日本の富裕層の方が、中国の富裕層より土地(25.5%)の所有率が高い傾向にあるが、これは中国の土地が国有または集団所有であるという制度的な違いによるものである。
ここまで、中国の富裕層の年収や、金融資産、保有物などの実態が明らかになり、中国富裕層の“購買力の高さ”が見えてきた。では、彼らがどのような視点で商品やサービスの選択をしているかを把握して行きたい。
図表4は、購入時に何を重視するか、何に心が動き購入に至っているのかを、世帯年収別に調べた結果である。
富裕層全体で1位は「真正性・正規性を重視する」が50.0%、2位「購入時には、資産価値を重視する」「信頼する人からの推奨を重視する」が共に38.5%であった。
より富裕層の特徴を明らかにするために今回調査の上位1/4を占める年収250万元以上(約5,370万円以上)の富裕層が重視するポイントを確かめた。 ①真正性・購入先の信用として 「誰から買うかを重視する」32.3%、②ヘリテージとしてのストーリー「伝統や、歴史など、変化しない事実を重視する」38.7%、③限定性や特別感「今だけ」29.0%、「あなただけ」25.8%が挙げられる。
①Source(真正性・購入先の信用)、②Story(伝統・歴史の重視)、③Scarcity(選ばれた人のみ)の3つのSが、年収250万元以上富裕層の心 を動かしているようである。(富裕層の購入に至るツボは3つの“S”)
また、準富裕層(年収50万元以上~100万元未満 )では「購入時に資産価値を重視する」56.0%が特徴的である。これから資産形成を図ろうとする意図が含まれているのではないだろうか。
図表4

中国の経済発展により海外の多くのブランドが中国へ流入し、富裕層を中心にハイブランド品などが流通している。ブランド品を通じて、なぜブランド品を好むのか、また各国のブランド品を通して、各国の商品やサービスのイメージを確認して行きたい。
富裕層が商品購入時の重視点にも挙げた「伝統・歴史の重視」「選ばれた人のみ」の要素を兼ね備えた“ハイブランド”(伝統や格式を兼ね備え、品質やデザイン性が高い高級ブランド)を身に付ける理由を確認した(図表5)。
図表5

中国富裕層(男女計)がハイブランドを身に付ける理由の1位「高揚感の獲得」が50.8%、2位「熟練の手仕事の良さ」が46.9%、3位「歴史・ヘリテージの重み」が44.6%となった。
女性に着目すると、同様に3項目が1~3位を占めており、さらに男性よりもそれぞれ18~25ポイント高い結果となった。5位には「自己表現(自分らしさ)」48.0%がランクインした。
男性の特徴は「共通話題の創出(ネットワーキング)」が42.5%であり(女性と14.5ポイント差)、ビジネスシーンでの活用が見えて来る。その他「耐久性・長寿命」が40.0%、「アフターサービス」が33.8%と、女性と比較して品質面がハイブランド を身に着ける理由になっている。
このようにハイブランドを身に付けることは、女性では外出時などで「気分を上げるため」、男性では「ビジネス上の演出」のために利用されていることが分かる。
次に、日本の富裕層と比較してみると、唯一中国の富裕層より多く選ばれた理由は「耐久性・長寿命」44.0%であり、中国富裕層と比較して6.3ポイント高くなっている。日本でのハイブランド着用は、耐久性/高品質など商品面での理由が上位に来ている。これは富裕層の年齢構成(日本の富裕層は高齢者が多い)にも影響している可能性がある。
中国でのハイブランドの展開においては若者をターゲットとした価値訴求が有効ではなかろうか。
ハイブランドを初め、多くのブランド商品はグローバルでの展開が基本である。ブランドのオリジンの国別のイメージがあり、それぞれ異なったイメージを生活者は持っていると思われる。
中国の富裕層は各国のブランドをどのように捉えているのか見て行きたい。
中国、欧州、米国、日本のブランド商品(一般ブランドを含む)を選ぶ理由を確認したのが図表6である。
図表6

国によって以下の様な特徴が見られた。
・中国ブランドを選ぶ理由
「アフターサービス・保証がしっかりしている」40.0%、「高度なテクノロジーを使用している」39.2%、
・欧州ブランドを選ぶ理由
「品質の高さ」40.8%、「ステータスシグナル(社会的信用)」38.5%
・米国ブランドを選ぶ理由
「高度なテクノロジーを使用している」36.2%、「限定性・希少性」33.1%
・日本ブランドを選ぶ理由 「品質の高さ」36.2%、「アフターサービス・保証がしっかりしている」35.4%
中国ブランドを選ぶ理由2位が「高度なテクノロジーを使用している」39.2%であり、他国のブランドより高かったのは、自国の技術に自信を持っている表れである。米国ブランドの「限定性・希少性」33.1%に関しては、スポーツシューズのブームなどが影響していると考えられる。日本ブランドを選ぶ理由が、品質とアフターサービスとなっており、他国ブランドと比較し、日本の特徴が出しづらくなっていると思われる。
今回の調査から、中国富裕層の実態として、不動産・金・高級車・腕時計などの高付加価値品の所有率は、日本の富裕層を上回る水準であり、中国市場の購買力の高さが浮き彫りになり、中国富裕層マーケットへの期待が高まる。
中国富裕層に選ばれるためには、①Source(真正性・購入先の信用)、②Story(伝統・歴史の重視)、③Scarcity(選ばれた人のみ)の3つの“S”が鍵になることが分かった。
特にハイブランドにおいては、女性は「気分を高めるため」、男性は「ビジネス上の演出として」身に付ける傾向があり、ブランドが果たす役割の違いも鮮明だった。
一方で、中国ブランドのテクノロジーや品質(サービス)向上により、日本ブランドが選ばれる理由は以前よりも曖昧になりつつある。
「品質」や「アフターサービス」だけでは差別化が難しくなってきている今日では、中国の富裕層に日本ブランドを選んでもらえる理由を構築する必要があり、“物語性”や“感情価値”の設計がますます重要になっていると言えるだろう。
インテージでは、中国においても、富裕層に対しての定量・定性でのアプローチが可能である。ぜひ富裕層向け戦略の検証に活用いただきたい。
<関連セミナーのご案内>
日中の富裕層の実態や価値観、富裕層へのアプローチ策を解説するセミナー(ウェビナー)を
以下の日程で開催します。ぜひご参加ください。
【日中富裕層セミナー】~富裕層の“実態×価値観”から、勝てる打ち手を描く~
・開催日時:2025 年 12 月 18 日(木)14 時~15 時
・セミナー詳細&お申込みはこちら
※今回の調査で明らかになった詳細なデータやチャートは、無料のダウンロードレポートでご覧いただけます。レポートのみにて提供している項目は以下です。ぜひ、ダウンロードしてご覧ください。
ダウンロードデータのみ掲載項目
・中国富裕層が所有する「不動産」・「贅沢品」(詳細)
・中国富裕層が所有する「金融商品」(詳細)
・中国富裕層のこだわり (世帯年収別/男女別)
・中国富裕層が大切にしたい時間(世帯年収別/男女別)
・調査対処者情報(年齢/居住都市/未既婚/職業)
・Appendix(中国富裕層パネルのご紹介)
調査概要
調査地域:中国全土
対象者条件:20~59 歳男女個人
標本抽出方法:インテージチャイナ富裕層/準富裕層モニターから抽出
(ウェイトバック集計:無し)
標本サイズ:合計:n=180、準富裕層:n=50、富裕層:n=130
調査実施時期: 2025年9月30日(火)~2025年10月14日(月)
◆本レポートの著作権は、株式会社インテージが保有します。
下記の禁止事項・注意点を確認の上、転載・引用の際は出典を明記ください 。
「出典:インテージ 「知るギャラリー」●年●月●日公開記事」
◆禁止事項:
・内容の一部または全部の改変
・内容の一部または全部の販売・出版
・公序良俗に反する利用や違法行為につながる利用
・企業・商品・サービスの宣伝・販促を目的としたパネルデータ(*)の転載・引用
(*パネルデータ:「SRI+」「SCI」「SLI」「キッチンダイアリー」「Car-kit」「MAT-kit」「Media Gauge」「i-SSP」など)
◆その他注意点:
・本レポートを利用することにより生じたいかなるトラブル、損失、損害等について、当社は一切の責任を負いません
・この利用ルールは、著作権法上認められている引用などの利用について、制限するものではありません
◆転載・引用についてのお問い合わせはこちら