リテールメディアの効果を高める価値観軸のショッパー分類
影響力を増す購買体験
日用消費財市場の中で、メーカーや小売各社は、商品の価格や機能だけでなく、サポートやサービスの提供についても重要度を高めています。デジタル広告の発展やSKU(※)の増加により消費者の選択肢は大きく広がり、商品の認知から購入に至るまでの購買体験も、競合優位性へと繋がる最重要要素の一つです。そんな時代の中で、流通と顧客とのコミュニケーションの場である「リテールメディア」は大きな影響力を持ち、市場規模を大きくしています。
※SKU:在庫管理のための最小単位。商品ごとの色やサイズなどの違いを識別するために使われる。
効果的なリテールメディア施策には、ユーザーの購買傾向を正確に捉えることが重要です。商品のレコメンドや自社アプリ、店頭広告などの販促アプローチは、ユーザーの好みや志向に則して行うことで効果を発揮します。インテージでは、このアプローチの出し分けにおいて、購買傾向から浮かび上がる価値観でユーザーを分類した「ショッパーセグメント」を活用することを推奨しています。「価格よりも品質を重視する」、「健康に良いモノを優先する」など、日常の購買に対する価値観や志向の違いが、商品選択や利用する業態への影響として非常に大きいことは明白であり、従来の顧客分割軸である性別や年代、家族構成などのデモグラフィック属性と比較しても正確に購買傾向を捉えられます。
本記事では価値観軸の「ショッパーセグメント」で、ユーザーの購買行動をいかに鋭く分割できるのか、またリテールメディア施策にとってどれほど有用かを考えていきます。
購買情報を活用した価値観推計
ユーザーの価値観を推定するには、商品選択時の志向性や考え方といった情緒的属性をスコア化した「商品DNA※」が有効です。
インテージでは、5万人を超える消費者パネル「SCI🄬」モニターの購買履歴と、アンケート回答を紐づけることで、健康やコスト、品質など様々な情緒的観点で作成された価値観スコアを商品DNAとして作成し、市場に存在する大量の商品に付与しています。このスコアは、毎日送信されるモニターの購買情報により常に更新されています。
※商品DNAについての詳細はこちらでも解説しています。
この商品DNAをユーザーの購買商品に紐づけることによって、図表1のように個人の価値観推計が実現します。
図表1
価値観軸のユーザー分類「ショッパーセグメント」
SCIモニターに対して、約100種もの価値観項目のスコアを推計し、クラスタリングを行うことで市場に存在する価値観グループを抽出し、その代表的な価値観グループを「ショッパーセグメント」として分類しています。この「ショッパーセグメント」は、大きく品質志向、簡便志向、自己志向、価格志向の4つに分かれ、各グループ内での細かな価値観の差異により8つのセグメントが存在しています(図表2)。
図表2
図表2で示したショッパーセグメントをもとに、日用消費財の主要業態(スーパー、ドラッグストア、コンビニエンスストア)ごとのセグメント構成を分析しました。図表3は、その結果を示しています。全体では、人気商品を好む「定番安心」の割合が最も大きく、利便性や効率重視の「手軽さ優先」、コストを最重要視する「価格重視」が後に続きます。全体の構成と比較すると、スーパー利用者は「定番安心」の他に、「価格重視」の構成比が大きく、ドラッグ利用者はコストと品質のバランスを注視する「やりくり上手」とセルフケア志向が高い「自分磨き」が特徴的です。コンビニは品揃えが異なるため他の2業態と傾向は大きく異なり、流行感度が高さや生活の活発さが特徴的な「アクティブ生活」がメイン層となっています。
図表3
同世代でも異なる価値観と購買傾向
セグメントの世代構成比を見ると、世代構成にセグメントごとの特徴を持ちつつも、どのセグメントにも世代をまたいで消費者が存在しています。世代が離れていても似た価値観を持ち、逆に同世代でも価値観が異なるケースが決して珍しくないことがわかります。(図表4)
図表4
Z世代を例にして、同世代でも価値観が違えば購買行動が異なるのかを見ます。
Z世代を価値観軸で分類すると、約7割が「手軽さ優先」(26.5%)、「自分磨き」(20.9%)、「アクティブ生活」(18.7%)の3つに分類されます。(図表5)
図表5
スコア特徴を見ると、「手軽さ優先」セグメントは「食材こだわり、上質感」といった品質よりも「簡便食事、安物買い」といった手軽さや低価格を求めますが、逆に「自分磨き」セグメントは「安物買い」志向は低く、「美容積極投資」志向の高さから美容へのこだわりが見られます。「アクティブ生活」セグメントは「チャレンジ志向」、「流行最先端」など目新しさや刺激を求めているセグメントであることがわかります。
どのセグメントも一般的なZ世代に対するイメージに近いと感じられますが、決して一つにまとめていい訳ではないことが見て取れます。
次は各セグメントの主要業態別の支出と購買商品カテゴリの特徴です。(図表6)
図表6
「手軽さ優先」セグメントはスーパーでの支出が最も多く、PB商品や低価格商品を購入していることからも価格感度の高さが伺えます。ドラッグでの支出が多いのは「自分磨き」セグメントで、サプリメントや美健康系ドリンクの購入からもセルフケア意識の高さが見られます。「アクティブ生活」セグメントはコンビニ支出が強く、アルコールもコンビニで頻繁に見かけるサワー系統が特徴的です。
価値観の違いは実際に購買傾向へ強く影響しており、ユーザーにフィットするアプローチに有用です。業態や商品カテゴリによって施策を打ち分ける際にも、「手軽さ優先」には調理の手間がかからないこと、「自分磨き」には配合されている美容成分、「アクティブ生活」にはアクティブなイメージを訴求するなど、効果的な出し分けを行うことが可能になります。
ショッパーセグメントでより満足を得られる購買体験を
価値観によるセグメント間での異なる購買傾向を具体的にお見せしました。リテールメディアのターゲティング軸として、価値観での分類が従来のデモグラフィックよりもユーザーの購買行動にフィットした有用なものであることがわかります。また、ユーザーの志向を捉えることは、類似商品のレコメンドや、アプローチ手段、クリエイティブの出し分けにも活用可能です。リテールメディア施策にとって、価値観を広く可視化する商品DNAや価値観軸の顧客分類であるショッパーセグメントを利用し、ユーザーを正確に理解することが、より顧客の満足を得るための大きな武器となります。
SCI:SCI®(全国消費者パネル調査)|市場調査ならインテージ
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データ:SCI(全国消費者パネル調査)2021年10月~2022年9月、2021年 Profiler
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