海外調査の基本~海外でインタビュー調査を行う際の注意点は?
海外の市場でモノやサービスを売っていく上で、海外での市場調査は欠かせません。一方で、生活者が置かれている環境、価値観は、国によって大きく異なり、調査の文化も変わってきます。これらを正しく捉え、海外市場を理解するためにはどうすればいいのでしょうか?
この記事では、インテージのこれまでの海外調査の経験に基づき、家庭訪問や会場調査でのインタビュー調査を海外で行う上で知っておくべきポイントを紹介します。
海外市場理解の第一歩 現場カンを鍛える家庭訪問調査
海外調査で大事なのは、調査結果の数字だけを鵜呑みにせず、現場の感覚や勘、つまり“現場カン”を持って結果を捉えることです。
この現場カンを磨く手段として、家庭訪問があります。実際に見ることで、データだけではわからない多くの情報を得ることができます。「『半分が屋外 』の家で生活する農村部の生活者」や「大豪邸で買い物を担うメイド」など様々な生活者の実態が見えてきます。 彼らを理解するには、まずは生活の場を実際に訪れて、現地の生活を“肌で感じる”のが一番です。
家庭訪問を行う際には以下の点に注意が必要です。
① 最大6名程度
あまりに大勢で訪問するのはNGです。通訳、モデレーター込みで6名程度に抑えましょう。
② 1セル(1属性)につき、最低2件
1件だけ見て対象の属性について理解した気になってもイレギュラーである可能性があるので、最低でも2件は見る必要があります。3~4件見れば十分な理解につなげられます。
③ 1日3件程度
対象者の家が物理的に離れていることが多かったり、東南アジアで渋滞がひどいこともあり、移動時間がかかります。1件1時間程度の内容であっても1日3件程度で計画するといいでしょう。
④ 調査フローはざっくりで
生活実態や対象者の文脈を知る中で新たに聞きたいことが派生して出てきたり、実際に普段の行動を実演してもらえる流れになったりと、深く聞けるチャンスです。ガチガチにフローを固めるのであれば会場調査の方が効率的です。
⑤ 写真撮影や実演等は事前に相談
髪を洗ってもらうといった実演も可能ですが、依頼できるかは事前に相談しておく必要があります。
⑥ 宗教、風習上のルールには注意・理解を
相手の文化に対してリスペクトすることは最低限の礼儀です。
さすがに毎回家庭訪問調査をするのは厳しい、といった場合には、代替手段として日記型調査があります。一日の時間の過ごし方や食べたものの記録などを漏れなく記入してもらうことで実態を捉えます。スマホが浸透している都市圏であれば、スマホアプリで随時記録を取ってもらうという手法も使えるようになってきています。この場合対象者もSNSなどで発信することに慣れていることもあり、気持ちや状況をありありと捉えられる情報を集めることができます。
もちろんすべての関係者が現地に出向いて現場カンを身に着けることは現実的ではありません。集めた情報を用いてペルソナを作成し、関係者内で現場カンを共有することでその後のコミュニケーションが円滑になります。
海外での会場調査 うまくいかせるためのポイントは?
●モデレーターとのかかわり方
日本でもよく行われている会場調査でのグループインタビュー。海外で行うときはどのような点に注意すればいいのでしょうか?
いろいろありますが、結果の質を左右する重要なポイントとして「モデレーターにいかにモチベーション高くインタビューしてもらうか」が挙げられます。
インタビュー内容のアウトプットは「モデレーターの能力」×「モデレーターのモチベーション」×「事前および途中のインプット」で決まります。腕のいいモデレーターに依頼することはもちろん大事ですが、海外では「モデレーターのモチベーション」がアウトプットの質に明確に現れます。
モチベーションを上げるためには、ブランドの情報や調査背景、事業課題や調査課題、仮説などといった情報を共有することが重要です。ある程度経験のあるモデレーターであればこれらの情報を踏まえ、的を絞って適切な部分を深堀してくれますし、共通の課題意識を持つことがモチベーションに繋がります。 このとき「そこまで言わなくても通じるだろう」という考え方はNGです。
海外調査を行う場合、主なやりとりは日本の調査会社と行い、その先で現地の調査会社が動くといったケースも多いかと思いますが、この共有に関しては間を挟まずに直接行うことをおすすめします。直接コミュニケーションすることで 具体的に課題意識を持ち、当事者として自分が何をするべきかを理解した上でモデレーションしてもらえます。
また、「どこを直してほしい」「どこがよかった」といった具体的なインプットを途中で行うことも、フローが改善されてアウトプットの質を高めることに繋がります。
1本目のグループインタビューはテストも兼ねています。1本目で全く問題ないということはないと考え、2本目との間に時間を取ってフローをしっかり調整することが成功につながります。
●同時通訳とのかかわり方
グループインタビューにおいて、モデレーターと同じくらい重要なのが同時通訳です。複数の対象者がいるグループインタビューでは、いくら優秀な通訳であってもすべてを完璧に通訳することはできませんし、訳を飛ばしてしまったり、訳を誤ることもあります。その前提を理解した上で、必ず押さえておきたいポイントが飛ばされていないか、間違って伝えている様子はないか、という点に注意してインタビューを聞き、問題があればその都度フィードバックしていくことも調査をうまくいかせるためのポイントとなります。
●現地スタッフと話すことが現場カンを養うチャンスにも
調査をうまくいかせる大事な要素であるモデレーターと同時通訳。調査を行う上では他にも現地調査会社の担当者など、様々な現地スタッフ ともかかわります。彼ら、彼女らは、「数多くの消費者を見ているリサーチのプロ」であり、「現地で過ごすイチ生活者」であるとともに、「『文化・差異の翻訳』のエキスパート」でもあります。いろいろと質問することで、その国独自の文化・考え方や流行を知ることができ、前述の「現場カン」を養い、調査で得られた結果を更に深く広く理解することにつながります。 現地のスタッフの方々とは積極的に話すことをおすすめします。
日本とどこが違う?海外での会場調査事情
最後に、海外で会場調査を行う際に落とし穴になりやすい「日本と違うポイント」を紹介します。
日本との違い①:当日の欠席を見こして対象者は多めに呼集
日本人は真面目に調査に協力してくれる方が多いですが、これは他の国に比べると稀なことです。国によっては当日の欠席率が高いため、6人のグループインタビューで8人呼ぶなど、多めに呼集する必要があります。出席者が直前まで定まらないため、日本では事前に配布されることの多い対象者リストや座席表が、実査直前になってやっと配布されるといったことも多くあります。
日本との違い②:国の文化によって時間感覚は異なる
時間感覚がルーズな国もあります。サウジアラビアなどはかなり遅刻が多く見られますが、相手の国の文化に従って待つことが求められます。一方で契約社会である欧米はインタビュー時間がオーバーすることを激しく嫌います。このような時間に対する感覚の違いは事前に抑えておく必要があります。
日本との違い③:カラー印刷は現地調査会社で必ずしもできるわけではない
国にもよりますが、例えば、インテージがやり取りをしている中国の実査中心の調査会社だと、カラー印刷ができる事務所は約10%程度(※担当者の実感)とかなり少ないです。調査で提示する素材など、カラー印刷が必要なものについては準備について気を付けておく必要があります。
これらは一例ですが、カラー印刷など、抜けがちなところにも落とし穴はあるので気を付けたいところです。
先程、都市部ではスマホアプリを使った日記調査が行われていると紹介しましたが、会場調査でもテクノロジーを駆使した調査が行われています。
例えばアイトラッキング技術を用いた調査。EC大国となった中国では、スマホやPCの画面上でどのような目線の動きでサイトを見て購買に至るのか、気持ちの動きと共に明らかにしたいといった調査ニーズが高まっていますし、店頭を模擬棚で再現して目線の動きを捉えたいといった調査も行われています。
これらの調査結果の理解も現場カンあってこそ。海外調査で捉えるべきもの、捉えられるもの、の幅はまだまだ広がっていきそうです。
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