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アサヒビールとヤッホーブルーイングが語る、目標設定の考え方

ビジネスを進める際、KPI、KGIの設定は重要です。しかし、その【目標】を設定する際、そもそもこの目標は正しいのか、目標を設定するべきなのか、悩んだことがある方も多いのではないでしょうか。そこで、トップマーケターはどのように考えるのか、アサヒビールでスマートドリンキング※事業を新たに興された梶浦氏、ヤッホーブルーイングでファンマーケティングを成功に導いてこられた佐藤氏に話を聞きました。この記事は、インテージフォーラム2023のトークセッションの一部を基に構成してお届けします。

ファシリテーター MIMIGURI安斎:まずは、アサヒビールさんのKGI、KPIなどの目標設定についてお伺いしたいと思います。

株式会社MIMIGURI 代表取締役Co-CEO
安斎 勇樹
1985年生まれ。東京都出身。東京大学工学部卒業、東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。現在は東京大学 特任助教を兼任。企業経営と研究活動を往復しながら、人と組織の創造性を高めるファシリテーションの方法論について探究している。主な著書に『問いのデザイン』『問いかけの作法』『パラドックス思考』『リサーチ・ドリブン・イノベーション』『ワークショップデザイン論』などがある。

アサヒビール 梶浦:当然、既存のビジネスと、スマドリのような文化を創るものは、やり方もプロセスも全く違う別物です。例えば、アサヒスーパードライは、第一に【売上と利益】があり、その下に【ユーザー数】があり、【1人あたりの購入数】があり、その下に【ブランドの指標】があります。そのようにならざるを得ないといっても良いでしょう。もちろん、もっと売上を伸ばすべく努力をしていますが、カネを稼ぐ、稼ぎ頭というポジションです。 ただ、その稼いだお金でスマドリのようなビジネスを展開していく上で、目標設定は非常に難しいと感じています。

アサヒビール株式会社 マーケティング本部長
梶浦 瑞穂
1998年アサヒビールに入社。千葉支社での業務用営業を経て、新商品開発部へ。
『クリアアサヒ』の上市や『スーパードライ』のブランドマネージャーを経験後、MBAを取得。
インドネシアへの赴任など、約8年間、海外のアルコール・飲料事業に携わる。
2020年新価値創造推進部 部長、2022年スマドリ株式会社 代表取締役社長、2023年アサヒビール株式会社マーケティング本部長に就任。

梶浦:会社の定量目標としては、アルコール分が3.5%以下のノンアルコール、ローアルコールの比率(ボリューム)を20%にするというものがあります。
これはアサヒビールとしてだけではなく、ヨーロッパなどのグループ会社も含む、グローバルでの目標です。飲酒問題への取組み、アルコール消費量が減っていくといった背景に対しての戦略の数値化です。

一方で、この数字はお客様にとっては全く関係のない数字であり、「顧客目線」ではありません。会社の目標、株主に対する数字です。
それでは、お客様にはなにを約束するのか?という点を数値化するべきかどうなのか、悩みました。私たちがやりたいことは、「お酒を飲める・飲めない・飲まない人も一緒に楽しみましょう」ということなので、それを会社に落として定量目標にしたとき、【認知とユーザー数】ではないか、ということになりました。

お酒を飲めない・飲まない5,000万人の方々が私たちの商品を通じて幸せになっていただけたら、それは世の中を変え、「文化を創った」といえるのではないしょうか。
したがって、株主に対する目標と、お客様に対する目標は別で設定しています。

安斎:いろいろと検討した結果、ユーザー数が増えていけば、創りたい世界の指標になるであろうという考え方なのですね。一見すると既存の目標数値のようですが、やりたいこと、目指したい世界に合った指標としてそれを追いかけられている、ということですね。

梶浦:そうですね。深さは今後、より追求していかなければならないですが、何のためにこの数値あるんだっけ?ということは、適宜考えないと、行動が変になっていってしまうこともあります。例えば、「20%」の数字を追いかけて、分母を下げよう、とか。それは本意ではないので、数字の根っこにあるところをみんなが理解できるか、ということがとても大事だと思います。

安斎:スマドリは言葉としてもライフスタイルとしても新しい提案をしていますが、目標設定はしないのですか?

梶浦:正直何を目標設定にするか、まだわかっていないところです。バーを出した時は、一旦、目標は【集客】でした。どういう人たちが何を求めているのか、データを集めなくてはいけなかったので。そこで、なんとなく「こういう人たちがこういうものを飲むんだよね」ということがわかってきて、その方々の幸せのためにはこうしたらいいのでは、っていうことが定性的には理解ができてきたのです。
ひとりで飲みたい、わけではないのです。人と一緒にいるときに、飲める方も飲めない方も“同じようにしたい。”という欲求があるのです。では、それを測る指標はなんだろう、と考えたときに、その指標は必要なのか?という疑問にぶつかりました。

インテージ 高山:先ほどのラップアップセッションで安斎先生から、これまでのビジネス・経営・組織は「軍事的」な世界観の上で成り立っていたというお話をいただきました。競合を滅ぼし、パイを奪い合う世界観です。しかし、現在の不確実性の高い時代はそれでは立ち行かず、従業員一人一人の自己実現と会社のあるべき姿を繋げる、仲間と協力しながらこれまでにない価値を探求する「冒険的」世界観が広まっているとのお話しがありました。これを受けて、先ほど控室で「目標設定すること自体が軍事的ではないか」という会話をされていましたよね。

株式会社インテージ 取締役執行役員 事業開発本部 本部長
高山 佳子
1992年 株式会社社会調査研究所(現 株式会社インテージ)入社。リサーチャーとして幅広い業界の顧客課題解決に当たった後、研究開発部門にてブランディング関連のリサーチソリューション開発やデータビジネス開発を担う。現在は、株式会社インテージの事業開発部門責任者として、お客様の業界課題解決に取り組む。

梶浦:何か見えないものがあるから冒険だ、と思うものなのですよね。数値が決まっている時点で冒険ではないかな、と。

安斎:心のどこかでは目標はいらないんじゃないか、と思う気持ちも、なきにしもあらずってことでしょうか?

梶浦:大事なのが、「何のための数字か?」ということですよね。その数字が達成されたとき、大義が成り立っているのだとしたらいいのですが、一個の指標でそれが説明できるのか、不思議に思うことはあります。佐藤さんはどう思いますか?

安斎:そうですね、ヤッホーさんの目標設定についてもお伺いしたいと思います。

ヤッホーブルーイング 佐藤:弊社は株式を公開していないので、ある意味、100%お客様と向き合うことができる、というのはあります。また、アサヒさんと同じくユーザー数、お客様の数も大切な指標です。ただそれだけではなく、ブランドロイヤリティ=愛情度を定量的に測りたいので、【ぞっこん度】を測るようにしています。具体的には、ECで購入したお客様と、SNSをフォローしていただいているお客様にアンケートを取っています。1~5まで5段階の評価がありまして、なんとなく買っている方から、弊社商品が大好きだ、ぞっこんだ!という方までアンケートで聞くようにしています。

株式会社ヤッホーブルーイング よなよなピースラボUnit(CXデザイン) Unit Director
佐藤 潤
2012年にヤッホーブルーイングに中途入社。
通販部・プロモーション部・ファンベースマーケティング部の部門長を歴任。
現在はCRM設計・CXデザインを探求する部門にて、オンライン・オフライン問わないファンとのコミュニケーション施策の企画や運営に携わる。
著書に『ヤッホーとファンたちとの全仕事』(日経BP)

佐藤:そして、ぞっこん度が高い方と低い方、そこにどういう気持ちや体験の違いがあるのかを見ています。結果として、当たり前ではあるのですが、気持ちと購入金額には相関がある結果となります。凄く好きでいてくださる方は年間55,000円、250缶くらい飲んでいただいています。低い方は年間1,000円ほどなので差は明白ですよね。したがって我々は「好きになってもらう」ということを最優先でKGIとして置いて考えています。それがあれば、売上・利益は後からついてくる、ということを信じています。

高山:好きが売上に繋がる、売上は後からついてくるということを、信じきれない企業さんが多いなと感じるのですが、裏付けがあるから皆さん信じられているのでしょうか。それとも、裏付けがなくてもそれを信じるようになったきっかけがあったのでしょうか。

佐藤:それはやはり、お客様との近い距離感での体感で、確信に変わっていきました。私は元々3年ほどファンイベントだけをやるチームに所属していました。イベントを通して、何百人、何千人のお客様と接してきて、その方々のカスタマージャーニーを身近で感じてずっと見てきました。その中で明らかに、凄く好きだよ!と、おっしゃっている方と、購入金額は相関があるんだな、と確信を持てるシーンがいくつもあったんです。これをもっと、定量的に、私たちらしいKGIに言い換えができないかと考えました。そして、もっとそれを突き詰めることで、お客様を大切にする顧客起点の活動をする良い会社になれるんじゃないか、と思ったのがきっかけですね。

高山:定量的な指標でありながら、そこまで熱量や気持ちが入っていることが素晴らしいと感じます。梶浦さんも、はじめはスマドリ商品を出されていたと思うのですが、後にバーやイベントを開かれたりCMのメッセージなども含め、「スマドリ文化を創る」流れになっていったと感じます。なにかきっかけや変化はあったのでしょうか?

梶浦:「商品を売りたい」という気持ちのみでは正直、バレるんですよ(笑)。そして、酒飲みがお酒を飲めない・飲まない方に向けて作っている、ということもバレます。例えば、全員が必ずしも「ビール味」を求めているわけではないんです。実際にお店でよく出る商品を見てみると、甘い飲み物が多かったりします。つまみは、カヌレが一番良く出るんです。でも、酒飲みはその気持ちに気づけずビール味の美味しい飲み物を作ってしまう、というような齟齬が生じてしまいます。
そこで、飲めない・飲まない方々の新しい夕食、晩酌スタイルをつくろうと切り替えて、今に至ります。ただ、「ノンアル商品つくりました」だけではお客様の生活の中に入っていきません。いつ誰とどのように飲むか、ということを体験していただいて、初めてお茶でよかったものが新しいそれに変わっていくのです。その気づきを得るには、場を提供していかなければいけないと思いました。したがって、バーを作ったり、カフェを作ったりしています。

安斎:試行錯誤のなかで、こういう風景、シーンを増やしたい、という定性的な目標は社員皆さんのなかで共通としてある形なのですね。ヤッホーさんのぞっこん度のアンケートは、昔からある指標なのですか?

佐藤:そうですね、3~4年やっています。

安斎:どのようなプロセスで作られたのですか?

佐藤:それまで、NPS(ネット・プロモーター・スコア)も取っていたのですが、さらに明確な、さらに一歩踏み込んだ「気持ち」や課題をアンケートで取りたい、ということで、好きですか?とダイレクトに聞いてしまおう!と、パートナー企業さんと協力してこの指標ができました。

梶浦:この【ぞっこん度】のアンケートはブランドに対してですか?企業に対してですか?

佐藤:始めは企業(ヤッホーブルーイング)に対してきいていたのですが、まだヤッホーブルーイングという企業を認識していない、知ってはいるけど詳しく知らない、といったお客さまもいらっしゃったので、いまは一番のフラッグシップである、よなよなエールだけに絞っています。とにかく、お客様と乾杯したり、楽しく会話を重ねていき、より企業を好きになってもらうことが、売り上げに繋がるんだ、ということを証明したかったのです。

高山:わかりやすく、熱量があるものは、周りを巻き込む力が強くなる、ということですね。

安斎:トップダウンで経営層から出た指標ではなく、現場から生まれた指標が、しっかり経営にも寄与する、ということを示していく冒険的な目標設定だと思いました。

目標に対する向き合い方について、両社の文化が良く表れたセッションとなりました。
目標が達成されたとき、大義が成り立っているのか?その目標はシンプルで熱量があるのか?
皆さまご自身のプロジェクトの目標と照らし合わせ、見つめ直すきっかけになれば幸いです。

※スマドリ
お酒を飲みたい時、飲めない時、そしてあえて飲まない時、飲む人も、飲まない人も、ひとりひとりが、自分の体質や気分、シーンに合わせて、適切なお酒やノンアルコールドリンクをスマートに選択できる飲み方を指す「スマートドリンキング」の略。アサヒビールの飲み方の多様性の提案。
アサヒビールと電通デジタルの合弁会社として2022年に「スマドリ株式会社」を設立。「スマートドリンキング®」の推進に取り組んでいる。

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