非言語情報から仮説をたてる〈10〉
可視化マーケティングのすすめ方〈続〉
「暮らし考古学」のアプローチ
前回は20代男性、30代女性シングル、40代家族、70代のシングルのおばあちゃんという4つの暮らしの一断面、とりわけ“掃除機”というものに着目したスナップショットをご紹介した。
これが可視化情報、非言語情報の典型ということになる。暮らしの動向をランダムに日記風に写真化したもので、こんな中から可視化マーケティングはスタートする。この4つの暮らしのシーンを掘り起こしたところに様々なエッセンスがある。
暮らしには様々なモノが断片のようにちりばめられているが、ここではその中から“掃除機”というものを集めてみたことになる。似たようなもの、類似性を収集してみることで気づきをつくりだしていくプロセスである。
ここでの重要なポイントの1つは、類似したモノとシーン(この例では“掃除機”)が、4つの異なった属性の暮らしの中に共通化されたように分布していることである。
年齢、シングルといったような属性、つまり複数の異なったセグメントの中に類似を発掘する訳だが、これは偶然性に左右されるとはいえ、必然を発掘するプロセスに近づけていくことができる。
つまりこの気づきを拡張するためには、次からは狙いすますように発掘していけばいい。考古学でいえばトレンチ※のような試掘抗を入れることと同様なのだ。
これは考古学のアプローチと同様なので、「暮らし考古学」と私は呼んでいる。考古学は遠い過去を発掘する手法であるだけでなく、今の解析にもつながっている。
異なった地域、場所、異なった地層などに、土器や石器などに代表される生活の痕跡が、類似物として分布していたりすることからの気づきと同様なのである。セグメントという地層や年代が異なっていても、“掃除機”というモノの痕跡は共通であるということ、加えて、それらの“掃除機” という道具のポジショニング、暮らしの中での場所取りや置かれ方が類似していることが、1つの気づきになる。
道具の「アドレス再編」
「暮らしの考古学」から見ると、“掃除機”という道具の暮らしの中での配備のされ方、いいかえると空間のポジションが、異なったセグメントの間で類似していることが、この気づきだ。
可視化情報の取り扱いで重要なのは、見えていないものへのブリッジを仮説としてどのように持っておくかということである。
たとえば“掃除機”という道具は、暮らしの中では「しまわれているもの」「隠されているもの」ではないということが、このスナップショットからの共通化された仮説ということになる。居住空間のゆとり、物理的広さとは無関係に、これらの道具は「しまわれている」ものではないようであり、特定の「しまわれる」はずの場所、をもはやもっていないものになっているのかもしれない。
本来は納戸、あるいはクローゼットなどという収納スペースに「しまわれている」はずのものが、「面倒」「ついつい」といった因子によってたまたま「しまわれていない」訳ではないのである。
日常的な生活行動が行われている暮らしのスペースに、ある意味堂々とその居場所を確保している、といえそうだ。タンスとタンスの間の微妙なスペースに、その居場所がある。以前の大型の掃除機ならば、たとえば玄関横や階段下などの収納スペースに普段は収納されており、「掃除機をかける」という義務とオケージョンが発生した時にだけ登場をし、それが終わるとまたまた「かくされていた」ものだったといえる。それが変化していったのである。
たとえば30代シングル女性の“掃除機”の配備の状況をみれば、テレビの横にその場所があり、隣にはヘルスメーターがあり、その空間の連続線にいわゆる“物干しグッズ”の居場所がある。これはたまたまこうなってしまっているというわけではなく、これがルーティーンの暮らしの姿だということができそうだ。
セグメントの違いにかかわらず共通化して起こっていることなのか、セグメント特有に起こっていることなのか、道具の暮らしの中での配備の仕方の変化に気づき、仮説を立てていくことで視点化プロセスに入る。たとえばこの視点のキーワードとして、暮らしの中での道具たちの居場所の変化をみつけなおし、それぞれのモノのアドレスの再編を行なっていくのである。
“掃除機”という道具の、暮らしの中のアドレスはどのようになっているのか、収納場所に「かくされている」というアドレスのつけられ方なのか。たとえばヘルスメーターのアドレスは、洗面所ではなく何故リビングになってしまったのだろうか。
可視化情報から、モノや道具のアドレスの変化、再編を整理し直すことが視点化のプロセスとなる。
「意味されるもの」の視点
モノや道具が暮らしの中で保有されるアドレスの変化を整理してみることは、言葉の通り【暮らし起点のマーケティング】ということになる。たとえば、テレビの横にヘルスメーターが置かれているというアドレスの変化は、生活者自身も恐らく無意識の生活行動の結果であり、マーケターや企業とその意味を言葉で共有することができないものだといえる。
ここまで“掃除機” というモノとか道具といった言い方をしてきたが、この4つのスナップショットに可視化されているものを、言葉を使って共通化しようとすると、まさに“掃除機”という言い方に尽きるといっていい。
この“掃除機”という従前の言語が意味するものを前提にすれば、このモノのアドレス変化の価値がとらえきれなくなってしまう。生活者の中では“掃除機”ではなく“ダイソン”というものであり、“ダイソン”が意味するものを前提にすれば「かくされているもの」「しまわれているもの」ではなくなってしまうのかもしれない。これがアドレス再編を生みだしていく。「掃除される」べき対象の空間、時間にできる限り密着していくことが、この道具の「意味されるもの」であるならば、モノとしての価値設計もマーケティングも変わることになる。
「掃除する」という意味が変化していき、その道具の暮らしの中での配置のアドレスが変わる。 変化したアドレスは「意味されるもの」、多義的なものであり、それこそが可視化情報の中に埋もれているものだ。
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