非言語情報から仮説をたてる〈2〉
FactとWhy?の『気づき』セット
Factという可視データとWhy
前回は、非言語情報から『気づき』をつくり、次に視点を整理してキーワード化していくことで、仮説の前提まできたということを述べた。
ここでいっている非言語情報というものは、暮らしの断片、行動軌跡がヴィジュアル化されたものをさしている。生活行動の可視化、見える化されたものであり、これは暮らしのFactそのものだといっていい。たとえば前回、お米という暮らしを形づくっている素材が可視化、見える化されている例を紹介した。
どのような状態のお米が、どのように存在しているのか?がFactそのものであり、ここまでは完全に非言語の情報である。このFactそのものを見て、何が気になったのか、どうしてそのFactに目がいったのか。つまり、なぜそのFactを発見したのか?というポイントを自分なりのメモランダムな言語とセットしていくことが重要だ。
「どうしてこんなにストックされているのだろうか」とか「どうしてこのキッチンの床に置かれているのだろうか」といったWhyにあたるメモ言語が一体になってくる。
そうすると、Factとしての暮らしの断片の可視データと、それに対するWhyを軸にしたメモ言語が一体となったものが、暮らしの中から抽出されることになる。このFactとWhyが一体となったものが『気づき』ということになる。
Whyにあたるメモ言語だけが一人歩きするのではなく、Factと一体となったもの。私はこれを『気づき』セットと呼んでいる。
微差の可視化
たとえば子育て世代というWhoの生活の中における、お米というWhatが、どのように存在し、そこから暮らしの行動を予感できるようなWhyを発見していくのか。これが気づくためのポイントであり、非言語情報にアプローチすることの第一ステップだ。何度も述べているが、必ず可視化されたFactとWhyにあたるメモ言語が一体になった『気づき』セットであることが重要なのである。
たとえば、「米袋に入ったお米がたくさん買い置きされている」といった言語だけが一人歩きしていくと、実はFactが持つ重要な気づきの根っこが完全に忘れられていく。「意外に多くのお米がストックされている、子育てパパの暮らし」という言語だけで情報が共有されてしまうことは、避けなければならない。
たとえば少し古い言い方になってしまうが、“米びつ”というものが使われているのか、”米びつ”とはいっても現在はさまざまなバリエーションがあり、実際を可視化(Fact)してみることにより、お米のストックの道具としての“米びつ”の微差を発見することができる。前回紹介した3人のパパの暮らしの中の“米びつ”は、いくつもバリエーションがあることが『気づき』セットから、何度も振り返ることができるのだ。
今回の3人のお米のストック方法は、紙の米袋そのものであり、ビニールの米袋であり、いわゆるプラスチックの“米びつ”が炊飯器の隣に置かれているといった微差に気づいておくことができるのだ。
こんな気づきをベースにして、実際にこの米という食材が日常的な暮らしの中でどのように使用されているのかという生活文脈の予測に入っていくことができる。またはWhyということの解像度を上げるというステップに入っていく。
時間、空間から「生活文脈」化する
ここからが視点の整理というステップになる。『気づき』セットをつくりだしていく時にもすでに行っていることだが、一人の対象者のお米に関する内容が、他の対象者にも当てはまるのか、という類似な領域における近似値や相関値を比較、整理していこう。
これが視点を考察していくことにあたってポイントの1つである、重層化ということになる。この重層化を行う時に、可視情報としての微差を探りあてることが最も端的な方法になる。
たとえば“米びつ”という微差のとらえ方だ。ある対象者では炊飯器の横にもお米は存在していながら、非常用の備蓄物の集積の中にもあったりもする。
つまりお米という食材は、ほぼ毎日消費され、常にフローで必要とされるであろう炊飯シーンの身近にあると同時に、非常時のストックという長い時間軸の中にも存在しているのだ。
その意味でいえば、お米は常に使用シーンに隣接した控室にも必要でもあるが、もっと複数の時間価値があることが視点の1つになってくる。
加えて、冷凍庫という場所にもお米の住まいがあることがわかる。そんな類似性のある『気づき』に、時間軸、空間軸を加味して重層化させていくことができる。お米は、炊飯という加工を経てごはんというものに変化する。生活行動の前景から背景まで含めて、いつも暮らしの中心的な主人公として存在している訳ではないが、暮らしの中での不可欠な脇役の位置にいるという視点の整理につながっていく。
さらにキーワード、キーシーン的な言いかえをすれば、お米はごちそうや主役の位置にいるものではなく、「暮らしの中のなかよし」の位置にあたるものだということになる。どんな風に「なかよし」なのだろうか。そんな濃淡のあり方を考えてみるということにつなげていくことで、視点を通して生活文脈にお米が広がっていくことになる。
暮らしの相関から全体化する
この重層化というポイントは、類似した領域やシーンの近似性だけにとどまらず、さらに暮らしの全体化ということで視点の整理につなげていくことができる。
たとえば、今回のお米の対象者の暮らしからは、ベッドルームやリビングルーム、あるいは子供部屋の使い方の中に、また別の気づきがあった。
この世代の住まいの1つの特徴ともいえそうだが、リビングルームとベッドルームとの区分けがほとんど存在していないのだ。
ベッドというハードウェアが固定化されたベッドルームは、実はベッドルームという機能と価値に専用化されてしまうことになる。もちろん、そのことによって便利な使い方と空間配分が生みだされていくのも1つの暮らし方ではある。
しかし今回、3つ折りにすることで可変するマットレスがリビングルームからその延長に展開され、いわゆる川の字状態で寝ているという暮らしの断面が可視化されている。
日常的には川の字マットレスの状態で生活は行われているようだし、その空間がむしろ子供たちの遊びスペースとして日常的に使われているといったことが想定されている。
もちろん、広々と使いたい時にはマットレスが片づけられているようだが、スペースというものが専用化されずに、汎用化されている。加えて子供部屋というスペース区分もほとんど不明確であり、子供「部屋」というより子供「コーナー」といった程度の区分けになっているようだ。
いわゆる住宅設備的にいえばパブリック、プライベートの分離、ピアレンツとチャイルドの空間隔離、いわゆるP━P分離、P━C分離と専用化ということも希薄になってきていることがわかる。
専用特化されたものとその使い方、汎用的に使われているものとそれにフィットしたモノが大幅に入れかわっている傾向がある。そんな視点で、お米のことと重層化させていくことで暮らしの全体像をクローズアップさせていくことができる。
重要なのは、その機能や価値が部分最適であることを強めている点と、汎用的であることが広がっていることを視点として重層化させていくことになる。
1つの『気づき』セットという断片と、異なった『気づき』セットという断片をつなぎあわせていくことで視点が全体化していくことになるのだ。
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