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「非言語情報から仮説をたてる」(6)ー暮らしエスノグラフィからWhyを見つけるーマスクは心地よいのかもしれない!?

コロナのおかげでのマスクからようやく解放されることになった。病院などの医療機関を除けば、マスクを強制されることはなくなった。繁華街を歩いている人や電車の中などでも、少しずつではあるがマスクをはずしている人が増え始めている。増え始めているとは微妙な言い方だが、思ったよりはマスクなしで素顔を見せている人が少ない気がする。

マスクには感染予防という効果と理由があった訳だが、これから自由になったはずなのに、案外ノーマスクの人が一気に増えてはいない。習慣ということは行動の変化に対しては極めて保守的なものなのだろうか。恐らく感染予防といった理由からマスクをはずさないでいるといったことは、ほとんど考えにくい。習慣という一言では片付けたくないが、本当は気づかないうちマスク生活が新しい「心」を生みだしたのかもしれない。

簡単には結論づける訳にはいかないが、つまりマスク生活は別の意味での「心地よさ」を生みだしたのかもしれない。マスクをしているという行動軌跡を観察することから、その行動の背景にある「心」を 、Whyを推測、仮説立ててみることがエスノグラフィの醍醐味ということになる。「これだ!」という結論はないだろうし、ここは急がずに様々Whyの仮説を思い浮かべてみることが大切である。好奇心を広げ、様々な臭覚を使ってみることだ。

スマホを「どのように」持って使っているのか?

こういったエスノグラフィの観察を、様々なシーンやタイミングで繰返していると、Whyを見つけだしていく「気づき」のコツが得られたりする。

例を1つ挙げてみる。電車に乗っている時や、カフェなどでお客さんの様子をながめたりする時、スマホをどのように使っているのかを見てみるのもカジュアルな暮らしエスノグラフィの1つだ。まずほとんどの人がスマホをいじっている。一人のシーンでも、複数のシーンで人が話したりしていたとしても、ほぼ全員がスマホをいじっているといってもいい。もちろん、その数の多い、少ないがポイントではなく、「どのように」いじっているのかが観察の対象である。左手で持っている、加えてその画面を右手でタッチしている、あるいは右手で持って左手でタッチしている、はたまた右手持ち、右手親指タッチということもある。あるいは両手持ち、両手指使いということもある。人差し指が最も激しく動いていることもあれば、薬指が活躍しているパターンもある。

つり革などに左手でつかまっている人は、右手持ち、右手親指使いが基本になっていることもあれば、右手で手すりを持っている場合には左手持ち、左手親指使いという人もいる。右利きだからこう、左利きだからこうといったパターンがあるのかというWhyを考えてみたりするのは簡単だが、現実はそんな単純ではなさそうである。定量化してパターンを見つけだしていくこともできそうではあるが、どうも現実はあまりに多様になっている。スマホという道具を、一体どのような理由で持ち手と使う指を使い分けているのだろうか。それぞれの人の習慣と癖というものは当然あって、その人なりのパターンもありそうな気がする。ただ一人の人の使い方をずっとみていると、一定のパターンには納まってはいない。どんどん変化しているのだ。

コーヒーのマグカップはどっちの手?

使っているコンテンツの影響も当然あるだろうし、あまりおすすめできるシーンではないが、歩きスマホの場合もあったりする。たとえば乗りかえ案内を検索していたりしているシーン。その状況、その時の「心」の在り方と、その使い勝手が無意識で選択されているような気がする。これは他人のシーンを観察することはできないが、たとえばベッドで寝落ちする直前では両手使いだったりしている気がする。これは自分自身を観察してみると気づくこともある。

利き手がどっちかといった理由とWhyでは至りつけない複雑系を形成している。観察から初手のWhyという仮説では、利き手が気づきとして浮かんでくるが、さらに追跡していくことで、本当のことに至りつくことになる。本当はどんな「心」の状態が作り出していくことなのだろうか。仮説をたて、気づきを作り出していくことは複雑系を前提としておく必要があるのだ。

同じような観察をカフェでやっていると、たとえばコーヒーやドリンクのマグカップはどちらの手で持っていることが多く出現しているのだろうか。加えて、その時、スマホをどのように使っているかということ、どのような相関関係になっているのだろうか。左手でスマホを持って、ゆっくりとyoutubeを見ているシーンでは、マグカップやドリンクは右手を使っていることになる。あるいは右手でスマホを持って右手親指で動かしていたりすれば、マグカップは左手に持たれたりもしている。

複雑系からWhyを繰り返す

このような複雑系に属している行動軌跡を観察することから、その背景にあるWhyを推測、仮説立てていくこと、気づきを感じとっていくことが、エスノグラフィという方法が唯一教えてくれるものだ。

最初はまず利き手なのかなといった仮説から始まって、それをくつがえし、裏切っていくようなFactを観察すること、新たに見つけだしていくことが大切だ。複数の事実や事例から共通点を導き出し、一般論となる結論にたどりついていく方法論、プロセスを帰納法という呼び方をする。

共通点として利き手という結論を導きだしたとしても、それで終わりではない。その時に異なった事実をつかみだしていくと同時に、もっと別の仮説や結論が成り立つのではないか、という観点を持つことも大切なのである。ある意味、帰納的なプロセスではなく演繹的なプロセスも同時に持つことだ。

著者プロフィール

マーケティングプロデューサー 辻中 俊樹(つじなか としき)プロフィール画像
マーケティングプロデューサー 辻中 俊樹(つじなか としき)
青山学院大学文学部卒。日本能率協会などで雑誌編集者を経て、マーケティングプロデューサーとして現在に至る。
暮らし探索のための生活日記調査を開発、<n=1>という定性アプローチを得意とする。
インテージクオリスが運営するYouTube”Marke-Tipsちゃんねる”でも、
生活者視点、n=1視点での気づきを語っている。
代表的な著作としては、
「団塊ジュニア――15世代白書」(誠文堂新光社) 
「母系消費」(同友館)
「団塊が電車を降りる日」(東急エージェンシー)
「マーケティングの嘘」(新潮新書)
最新刊は「米を洗う」(2022年3月 幻冬舎)
など編著書は多数。

青山学院大学文学部卒。日本能率協会などで雑誌編集者を経て、マーケティングプロデューサーとして現在に至る。
暮らし探索のための生活日記調査を開発、<n=1>という定性アプローチを得意とする。
インテージクオリスが運営するYouTube”Marke-Tipsちゃんねる”でも、
生活者視点、n=1視点での気づきを語っている。
代表的な著作としては、
「団塊ジュニア――15世代白書」(誠文堂新光社) 
「母系消費」(同友館)
「団塊が電車を降りる日」(東急エージェンシー)
「マーケティングの嘘」(新潮新書)
最新刊は「米を洗う」(2022年3月 幻冬舎)
など編著書は多数。

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