訪日外国人数の推移は?訪日の目的と、国別・費目別消費額から消費動向を探る
訪日外国人が増えています。その数は、2020年のオリンピック・パラリンピック東京開催に向けてさらに増えていくことが期待されています。2025年には大阪万博も控えています。
訪日外国人向けのビジネスを拡充したい企業や観光地は、彼らがどのような目的を持って日本に来ているのか把握しておきたいはずです。訪日外国人の消費ニーズを探って、それに適したサービスや商品を提供していく必要があります。
本稿では、訪日外国人数の推移、訪日の目的、国別・費目別消費額などから「消費動向」を探っていきます。
訪日外国人数の推移
訪日外国人数の推移をグラフにしました。右肩上がりに順調に推移していますが、ポイントは1)2015年に前年比147%と大きく伸びている、2)2018年は前年比109%と伸びが鈍化している――の2点です。
2015年の前年比147%は、日本政府観光局(JNTO)が統計を取り始めた1964年以降、最大の伸び率でした。また1970年以来45年ぶりに、訪日外国人数が、出国日本人を上回った年でもあります。
JNTOは2015年に急増した理由について、クルーズ船の寄港増加・航空路線の拡大・燃油サーチャージの値下がりによる航空運賃の低下・訪日旅行プロモーションの効果・円安による割安感・ビザの大幅緩和・消費税免税制度の拡充を挙げています(*)。
これまでの取り組みに加えて、円安の追い風があったことが大きな要因です。
*:https://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/data_info_listing/pdf/160119_monthly.pdf
2018年に延び率が鈍化したのは、東南アジアなどで大きな自然災害が起き旅行控えがあったためとみられています。また、日本でも夏から秋にかけて大きな自然災害に見舞われたことも影響しました。ただ秋以降は前年同月を上回ることができ、結果としては訪日外国人数を更新し続けることができました(*)。ただ「鈍化している」とはいえ成長率9%(前年比109%)は「順調」といえます。
*:https://www.jnto.go.jp/jpn/statistics/data_info_listing/pdf/190116_monthly.pdf
訪日の目的は?訪日前に期待していたことと、今回の滞在中にしたこと
次に訪日外国人たちの目的をみてみましょう。
観光庁が訪日外国人に対して行った調査で、「訪日前に期待していたこと」は以下のとおりでした。
最も多かったのは「日本食を食べること」で70.5%でした。和食が2013年にユネスコの無形文化遺産に登録されましたが、この数字からも、世界的に日本の食が注目されていることがわかります。日本の酒を飲むことも24.7%と高く支持されています。
また「メードインジャパン」製品への期待は依然として強く、ショッピングは2位の54.4%でした。
自然・景勝地(3位)と繁華街(4位)、温泉(5位)への関心の高さから、訪日外国人たちにも「モノ消費からコト消費へ」の流れが浸透していることがわかります。
以上の結果は「期待」ですが、では実際に来日した外国人たちはどのような行動をしたのでしょうか。次に彼らが実際に「したこと」をみてみます。
同じ調査で「今回の日本滞在中にしたこと」を尋ねたところ、次のような結果になりました。
この結果から、訪日前に期待していたこととほぼ同じことをしていることがわかります。
以下のとおり、「訪日前の期待」と「したこと」は、ベスト6が同じ項目でした。「自然・景勝地観光と繁華街街歩き」と「温泉入浴と日本の酒」が入れ替わっただけです。
このことから、訪日外国人たちは、自国で日本に行ったらやりたいことを決めていて、実際にその通りに行動することがわかります。日本のことをよく調べているのでしょう。訪日外国人向けのビジネスを展開している企業が、海外で観光プロモーションや情報発信を行うことは効果が期待できます。
また上記の表で、日本滞在中にしたこと(B)から訪日前の期待(A)を差し引いたところ(B-A)、ベスト6の項目はすべてプラスになりました。特に日本食、ショッピング、繁華街は約30ポイントも増加しています。これらは、訪日外国人たちが訪日前に期待していなくても「自然と体験できるもの」といえます。つまり、日本食やショッピングや繁華街の街歩きは「ついで消費」を誘(いざな)いやすいといえます。
旅行消費額の推移と国別・費目別構成比
訪日外国人が日本国内でどれほど消費しているのかみてみます。
訪日外国人の旅行消費額の推移は次のとおりです。
こちらも右肩上がりで、先ほどみた「訪日外国人数の推移」と似た動きをしています。すなわち、2015年に大幅に伸び、2018年に伸びが鈍化しています。
ただ傾向は同じでも「幅」が違います。2つの数字を並べてみます。
2015年は、訪日外国人数の伸び以上に旅行消費額が伸びていたのに(「B-A 」は24ポイントのプラス)、2018年の旅行消費額の伸び率は訪日外国人数を下回っています(「B-A 」は△7ポイントのマイナス)。これは、2015年頃は主に富裕層が日本にやってきていたが、最近では訪日外国人客のすそ野が広がって中間所得層も来るようになったからだと言われています。
国別の消費額と費目別の消費額を同時にみてみます。
中国と韓国と台湾と香港の4つの国と地域で、消費額の7割近くを占めています。一方、米国は6.4%にすぎません。
したがってこれから訪日外国人向けのビジネスに着手する企業は、メニュー表記や案内文や商品説明書などに英語だけでなく中国語や韓国語も併記したほうがよいでしょう。
費目別では1位買物代34.7%、2位宿泊費29.3%、3位飲食費21.7%の3項目が高率でした。先ほどみた「日本滞在中にしたこと」では、「日本食を食べること、ショッピング、繁華街の街歩き、自然・景勝地観光」が上位にランクインしていましたが、その動向が消費額にも反映されています。
消費動向を探る
さらに訪日外国人たちの消費の動向に迫っていきましょう。訪日外国人向けビジネスを展開するうえで重要なデータを紹介します。
訪日外国人(クルーズ客を除く一般客)の1人当たりの旅行支出額の推移は次のとおりです。
トレンドとしては2015年をピークに、2016年は大きく下落しましたが、それ以降は下がりながらも安定しつつあります。このことから2015年は「プチバブル」であったとみるべきで、ここ数年は1人15万円ほど使っていることになります。
訪日外国人の買物代の内訳
旅行支出額(2018年153,029円)のうち、買物代が占める金額は平均51,256円になります。その買物代をさらに商品・サービス別に分けたものが以下のグラフになります。
ファッション関係が化粧品・香水(1位12,842円/人)、衣類(2位6,891円/人)、靴・かばん・革製品(5位4,791円/人)と上位を占めました。この合計額は24,524円となります。
先ほど訪日外国人約は「1人15万円ほど使う」ことを確認しました。つまり訪日外国人たちはファッション関係に旅行予算の16%(=(24,524円÷15万円)×100)をかけていることがわかります。
そして効果効能が重視される医薬品(5,052円/人)と、高品質・多機能が重視される電気製品(3,028円/人)にもお金を出していることがわかります。メードインジャパンへの信頼感の現れといえるでしょう。
菓子類が5,680円/人で3位に入っています。日本の食に対する信頼感と、バリエーションの多さ、おいしさなどが評価されたのでしょう。
ドラッグストア免税店での売れ筋商品
株式会社インテージが保有する大手ドラッグストア免税店データ(*)から売れ筋ランキング(2018年7月度)を紹介します。
化粧品、医薬品が上位を占めていることがわかります。7月のランキングのため、夏場に売れやすい日焼け止めや皮膚用薬が売れているものと推測できます。2019年の夏はどのような商品がランキングに入ってくるのでしょうか。秋冬春の売れ筋も気になります。
*:ドラッグストア免税店データ
大手ドラッグチェーンの免税販売構成の高い店舗のデータから、訪日客の免税販売/非免税販売データを拡大推計。分野別(医薬品/雑貨品/化粧品等)で売上規模、売れ筋アイテムの把握が可能。
まとめ
訪日外国人数は、2018年に過去最高の3,119万人、前年比109%を記録し、好調に推移していることがわかります。官民一体となった観光キャンペーンや食や景勝地の魅力を磨いてきた取り組みが結実した結果といえます。
ただ上記でみた関連指標からは、一時期の盛り上がりが落ち着いていることがわかります。これまで以上に成長を続けるには、企業や観光地の事業者が観光コンテンツの開発、商品・サービスのPRを継続的に実施することが不可欠で、情報発信だけでなく、実際に訪日してもらうための施策、訪日後のリアルなおもてなしをセットにした対応が求められます。
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