With コロナ ~ 変わる景色と変わらない景色 ~
目次
1.はじめに
2022年6月6日、国立競技場でサッカーの国際親善試合「日本代表対ブラジル代表」が開催されました。世界ランク1位のブラジル代表との戦いをその目でみようとチケットは前売りで完売し、降りしきる雨の中、6万3638人が観戦した。テレビに映る観客席はびっしりと両国のサポーターがひしめき合い、選手たちにエールを送っていました。
残念ながら日本は敗れてしまいましたが(0-1)、マスクをしていたものの、隙間なくサポーターが埋め尽くしたスタンドを眺めながら少しずつ日常が戻ってきていることを実感しました。
当たり前の風景として定着したマスク着用については、東京都の医師会長が記者会見で「屋外では原則マスク不要」と発表しました(6月14日)。もちろん、至近距離での会話が考えられる場合は引き続き着用するといった取り組みは継続するものの、現在の感染状況やこれからのシーズンにおける熱中症の危険性などを鑑みての判断とのことでした。
一方で、このコロナ下で進んだ在宅勤務・テレワークについては、東京都ではテレワークの実施率は5割を超えており、テレワーク利用者の半数が「週3日以上」、テレワークを活用しているとの調査結果が発表されています※1。この間、働き方改革も重なって、東京に本社を置くいくつかの大手企業は本社ビルを手放したり、本社を移転・縮小したりといった動きも加速しました。こうした企業は在宅勤務・テレワークを前提とした新しい働き方に大きくシフトしていくのだと思います。
さまざまなところで、変わる景色、変わらない景色があるようです。
2. 新規感染数の減少がもたらす期待 ~ 内閣府 景気ウォッチャーから ~
内閣府が景況感の把握のために実施している調査に「景気ウォッチャー調査※2」があります。この景気ウォッチャー調査はさまざまな仕事に従事する約2000人に現在と将来における景気の実感を質問し、指数化して発表をしています。
最新の調査結果(2022年4月データ:2022年5月12日リリース)では、現在の景況感をあらわす「景気の現状DI」は前月よりも緩やかになりつつも「家計動向」、「企業動向」、「雇用」ともに回復傾向が続いています。国内における第6波の収束などを背景に景況感も回復に向かっていました。そして、将来的な景況感をあらわす「景気の先行きDI」も「企業動向」、「雇用」は回復へと動き出しています。一方で「家計動向」については、食品をはじめとした相次ぐ値上げなどの影響もあり僅かにマイナスに振れています(図表1)。
新型コロナの新規感染者数も落ち着きをみせており、マスクからの一部解放も議論される中、ようやく明るい兆しも見え始めてはいますが、暮らしに直結する「値上がり」が生活者の心の不安因子として大きくなってきているようです。
図表1
3. 第6波は静かに遠くへ ~ 緩む不安 ~
定点調査で追い続けてきた新型コロナの感染拡大不安をはじめとしたさまざまな「不安」を見ていきましょう。
以前のようなレベルには戻りませんが、第6波も静かに減少傾向が続いています。厚生労働省のデータを振り返ると、第6波における1日の新規感染者数のピークは2月1日の103,975人と、第5波ピーク(8月20日)の4倍に上ります。そして、6月に入ってからは1万人から1万人後半を推移しており、現在(6月15日)は16,580人でした。収束のスピードは緩やかではありますが、ピーク時からはずいぶんと減少し、最近ではマスクの着用ルールの見直しも議論されるくらいになりました。
そうした状況を反映し、感染拡大不安は50%と調査開始後、最小のスコアとなっています。また、「飲食店での食事」や「テーマパークや繁華街・人が集まる場所への外出」、さらには「国内旅行」といった不特定多数の人との接触リスクが心配される場所への外出行動に関する不安も感染拡大不安の減少と連動して減少が続いています。
感染者の減少とともに外出行動の不安も減少したことにより、今年のゴールデンウィーク(GW)は帰省や旅行も回復をみせたようで、人で賑わう行楽地の様子がテレビなどでも取り上げられていました。先日(6月8日)の日経MJで発表された「2022年上期ヒット商品番付」の西の横綱は「リベンジ旅行」でした。JTBはGW期間の国内旅行者が21年度比で7割増だったと推計しています※3。もちろん以前のように、とはいきませんが「安全・安心」を確かめながら、確実に新しい日常が生まれてきているようです(図表2)。
図表2
さて、いよいよ夏休みが待っています。前回の夏休みは第5波と緊急事態宣言の最中でした。感染者数も落ち着きを見せ、緊急事態宣言もまん延防止法も発令されていない夏休みです。生活者のマインドを読んでか、最近では海外旅行や国内旅行、帰省などのシーンを織り込んだTVCMもよく見かけるようになりました。「さて、今年はどこに」と今から胸を躍らせている方も多いのではないでしょうか。
感染不安や行動不安が減少する一方で、暮らし向きや家計の不安は依然と高いままです。「今後3ヵ月先の暮らしは?」として尋ねている今後の家庭の暮らし向きについて、「今より悪くなる」は14%とほとんど変化がありません。また、「家計の節約を心がけている(節約意識)」についても大きな動きはなく6割の方があてはまるとしています(図表3)。
図表3
値上がりのニュースがさまざまなメディアで紹介されています。実際にスーパーなどに買い物に行って、以前とは異なる値札に「やれやれ、お前もか・・・」と思うことも多くなりました。値段は一緒でも内容量が減ったりしているものもあります。
感染者の減少やワクチンの拡がりから「行動意欲」は戻ってきてはいます。実際にGWの帰省や旅行、外食なども回復傾向にあります。しかしながら、「消費意欲」は戻りにくい環境にある、と言えるでしょう。これまでさまざまな行動に自制が求められてきただけに羽を伸ばしたい、という想いはあると思いますが、「思いっきり」とはお財布事情が許さないようです。
4. 値上がりと生活防衛
では晴れない不安「節約意識」につながる値上がりに関する生活者の意識や対策を2022年5月に行った自主アンケートの結果から見ていきましょう。
値上がりを感じているものを尋ねたところ、「食料品」が最も高く、8割弱の方が値上がりを実感していました。以下「ガソリンなどの各種燃料(61%)」「電気・ガス・水道などの公共料金(57%)」「日用品・消耗品(49%)」と続いています。どれも3月の調査結果(知るgallery 消費財の値上がり実態と生活者の家計防衛術※4)を上回るスコアとなっていました。4月に値上がりをした商品も多かったことから、値上がりの印象が一気に高まったようです。
男女別でみると女性の方が多くの品目で値上がりを実感している割合は高くなっており、日々の買い物などを通じて値上がりを実感している食料品については特に高くなっています(図表4)。
さらに、値上がりを感じて買い控えや節約をしている品目について尋ねたところ、「食料品(36%)」が最も高く、人々の食卓にも暗い影を落としているようです。また、「電気・ガス・水道などの公共料金(35%)」や「ガソリンなどの各種燃料(25%)」が高くなっていました。暮らしにおける固定費的なものへの視線もますます厳しくなりそうです。
図表4
さらに詳しく買い物ジャンル別に「以前よりも安いものを選んだり、買い控えをしているもの」を尋ねたところ、「野菜(27%)」を筆頭に、「お菓子・デザート(23%)」、「お肉・お魚(19%)」、「くだもの(16%)」など食品が上位に並びました。また、「電気・ガス(23%)」、「水道(15%)」も高いスコアとなっており、先ほどのデータを裏付ける結果となっています。
その一方で、ながらく引き締め対象で1位だった「レジャー(旅行・ドライブ)(12%)」は10位へとランクダウンし、「趣味活動(ライブ、映画鑑賞など)(7%)」も減少傾向にあり、「行動」が戻ってきたことを物語っています(図表5)。
図表5
4. むすびとして ~ 変わる景色・変わらない景色 ~
このコラムでも何度か書いていますが、私は自転車が趣味でロードバイクというタイプの自転車に乗っています。神奈川県川崎市の自宅から距離にして4キロ、時間にして10分も走ると「多摩川サイクリングロード」があり、週末になると上流、あるいは下流とその日の風向きや体調によって行先を決め、ペダルを踏んでいます。サイクリングロードには私のようなサイクリストだけでなく、散歩をする方、ジョギングをする方など、さまざまな人が通行レーンやルールを守りながら自分の時間を過ごしています。
そして、6月に入り、「マスク」の使い方に大きな変化を感じています。一定の距離が保てる場合は「マスク」を外す人が増えたなぁ、と感じています。特に朝、夕など人が少ない時には外している人を多く見かけるようになりました。それでも、人が近づくとおもむろにゴムの部分を手首に通したマスクを素早くつけて、通り過ぎることもしばしばです。また、休憩時に話をする際も、ごく自然にマスクをつけて、ほどほどの距離を保ちながら談笑しているシーンも目にします。
桜、ハナミズキ、アジサイ。咲きゆく花と同じように、少しずつ、少しずつ風景が変わっています。次はどんな風景でしょうか。
おわり
※2 内閣府 景気ウォッチャー(DI ※ディフュージョン・インデックス)
※3 日経MJ(2022.6.8)「2022年上期ヒット商品番付」
14面に 生活者研究センター 田中宏昌 のコメントがあります。
※4 知るgallery 「消費財の値上がり実態と生活者の家計防衛術」(2022.4.21)
生活者研究センター概要
インテージの生活者理解の拠点として2020年8月3日に誕生。
長きにわたり蓄積している生活者の消費行動やメディアへの接触行動、さらには生活意識・価値観データなど膨大な情報を連携・横断して用いるとともに、社内の各領域におけるスペシャリストの知見を織り合わせることにより、生活者をより深く理解し、生活者を起点とする情報を発信・提供することを目的として設立された。また、お客様への直接的な貢献を目的として、共同研究や具体的なプロジェクトへの参画などにも積極的に取り組んでいく予定。
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