人気観光地に見る人の動き ~生活者スナップショット Vol.8
1. はじめに ~ カブトムシが告げる夏の到来
7月も半ばを過ぎて、関東でも梅雨明けが宣言されました(7月18日)。私はこの季節になると毎日のように近所の緑地や雑木林に足を運んで、カブトムシやクワガタとの出逢いを楽しんでいます。先日も川崎市麻生区にある生田緑地で一心不乱に樹液を吸うカブトムシのメスを目にしました。
私にとっての夏到来の瞬間です。
梅雨も明け、いよいよ夏休みのシーズンが近づいてきました。みなさんはどのような予定を立てていますか?最近は新型コロナの感染者も増加傾向にあり、電車の中ではマスク姿の人を多く見かけるようになりました。そうした影響が現在の行動意欲にどのような影響を与えているのか、を定点アンケートから確認していきたいと思います。
2. 回復する行動意欲と回復しない消費意欲
いつもの定点調査から新型コロナの感染不安と行動不安を見ていきましょう。
直近のデータでは、感染不安は少しだけ増加に向かい34%となっています。最近は新型コロナの感染者数の発表がないため意識することが少なくなりましたが、5月下旬から感染者は増加傾向にあり、現在も増え続けています。最近になってようやく感染者増加と注意を知らせるニュースを目にするようになりました。
行動不安については「テーマパークや繁華街(33%)」、「飲食店での食事(19%)」、「国内旅行(19%)」と3つの観測項目ともに変化が見られず、それぞれ同水準を推移しています。感染者数と行動不安は高い相関があり、感染者数が増加すると行動不安も増加するという傾向がありましたが、今回は行動不安への影響は弱いようです。こうした変化にも脱コロナを感じることができますね。行動不安へのインパクトは現在では感染者数の増減よりも「物価高(値上がり)」の方が強いとも考えられます。
もうすぐ夏休みのシーズンです。旅行やイベントなどあれこれと楽しみな予定を考えながら過ごしている方も多いのではないでしょうか。
図表1
続いて、消費に関わるマインドです。
節約意識については7割弱(65%)と相変わらず高いところを推移しています。また、暮らし向きの回復に対する期待も「そう思わない」が4割弱(37%)となっており、今年に入ってゆるやかな上昇傾向が続いています。
今年の夏のボーナスは大手企業や公務員など増加の動きがありますが、中小企業従事者を含めた「世間一般」としては所得増、家庭の暮らし向きの回復への期待、といった実感は乏しいようです。世間の賃上げムードはどこ吹く風と、これまで通り節約を意識した暮らしが続きそうです。
図表2
3. 位置情報から眺める「観光エリア」の人出回復(分析担当者と読み解く)
ここからは、前回記事に引き続き、携帯電話の位置情報(ログデータ)を用いて生活者の人流の変化を見てみましょう。今回は夏休みシーズンを控えていることもあり、観光客も多いエリアを選んでみました。
分析エリアは関東からは「銀座(東京)」、「浅草(東京)」、「鎌倉(神奈川)」、「箱根湯本(神奈川)」の4地点。比較対象として関西から「清水寺」を選んでみました。円安もあり海外旅行はまだまだ以前のような活気を取り戻せていませんが、国内旅行、とりわけ日帰りや近場の旅行は人気のようです。
はじめに休日昼間(14時台)の人出について眺めてみましょう(図表3)。 コロナ上陸前の2019年12月を「1.0」として、各月の人の動きを見てみると、エリアごとに程度に差はありますが、人出も順調に回復に向かっていることが確認できます。大きく動いたタイミングに着目してみると、22年5月頃を境に一定の回復をみせていることがわかります。この時期は緊急事態宣言やまん延防止法といった政府からの行動抑制施策の発令が終了した時期と重なります。23年5月の5類移行を待たずして、生活者の外出行動は回復へと大きくシフトしていたようです。
図表3
ここで分析担当者にも話を聴きながら読み解きを深めていきたいと思います。
生活者研究センター 田中宏昌(以下 田中):今回は「観光エリア」という視点で分析を行ってもらいましたが、分析を行ってみていかがでしたか?
事業開発本部 プラットフォームデータビジネス部 小泉喜義(以下 小泉):オフィス街の人出の回復と同じように「5類移行後1年」という区切りを回復の大きな契機、タイミングと想定していましたが、位置情報から浮かんできたのはそれよりも1年も前、緊急事態宣言やまん延防止法の発令が解除された22年5月頃が節目だったことに驚きがありました。
田中:「5月頃」いうとゴールデンウィークが重なり、1年の中でも生活者のお出かけマインドはかなり高いところにある時期ですね。
小泉:行動抑制施策の解除後には「そろそろ出かけてもOK」といったムードが醸成されていたと思います。前回も触れましたが22年には国内ではプロスポーツや花火大会、音楽フェスなどの大型イベントが完全回復し、海外ではサッカーワールドカップも開催されました。ワールドカップの話をすると田中さんがまた盛り上がってきそうですが(笑)。ちょっと資料を持ってきたので紹介すると、観光庁が発行するレポートから日本人国内旅行消費額の推移を見てみると、22年は17.2兆円とコロナ前(19年)の8割弱まで急速に回復しています。実際には5月以降に回復の動きがあらわれたと捉えると、22年は年末年始や春休みシーズンの観光需要を含まずに8割の回復をみせたと言えます。そのため、23年をみると21.9兆円と19年比でしっかりと100%まで回復しています※。
田中:エリアごとの特性はいかがでしょう?
小泉:関東では「鎌倉」「浅草」といった日帰りでも楽しめるエリアは回復が早かったようです。物価高の影響や宿泊費の値上がりもあり、国内では比較的短い日程、近場の観光が人気のようですが、このエリアはうってつけだったのではないでしょうか。関西では「清水寺」をピックアップしましたがデータを見ると年末年始、ゴールデンウィークから夏休みにかけて2つのピークがあるのが見て取れます。22年と23年を見比べると「紅葉の秋」を楽しむ人が戻ってきているのも興味深いですね。
田中:地域ごとの特色が反映されていておもしろいですね。
では次に休日夜間(20時台)の人出も眺めてみましょう(図表4)。
夜間の人出も昼間同様に22年5月頃以降、各エリアともに一定の回復をみせています。しかしながら、夜間の外出については昼間よりもやや鈍くなっており、コロナインパクトによって以前よりも夜の外出行動が少なくなったり、帰宅時間が早まったり、といった暮らしの変化が分析結果にもあらわれているようです。
図表4
田中:今度は「夜間」に目を向けてみましょう。
小泉:夜の人出も昼間同様の回復傾向をみせています。そして、やはり街の特性というものが映し出されています。先ほども触れた「鎌倉」に着目すると夜間の人出は昼間ほどではなく、基準とした「1.0」を越えることはありません。小町通りや鶴岡八幡宮へと続く参道周辺など昼間は観光客で賑わっていますが、夜ともなるとお土産屋さんはシャッターを降ろしてひっそりとした古都の佇まいに変化します。もちろん食事ができるお店もありますが、みなさん早めに帰路についているようです。
田中:このあたりは物価高で外食も高くなっていることが影響しているのでしょうか?
小泉:もちろん物価高、節約という意識も働いてそうですが、コロナ禍で定着した「早めの帰宅」、「イエナカ時間・家族時間の重視・充足」とも関係があるように思います。
田中:なるほど。おもしろいですね。そういった視点でデータを眺めてみると、浅草の夜時間の回復は20時ならまだそれなりの時間に家に帰れるという安心感の表われのようにも映ります。
小泉:浅草は東武スカイツリーライン、東京メトロ銀座線、つくばエクスプレス、都営地下鉄浅草線と使える電車も豊富ですから。
田中:次回はいよいよ。
小泉:はい、次回は性×年代別などの属性データも活用して、よりディープに街の様子を見てみましょう。
田中:小泉さんの表現でいう「街柄」ですね。
小泉:「ヒカリエ」など、再開発によりワカモノの街からオトナの街へとアップデートしている渋谷や、昨年「池ハロ」など若年層向けのイベントを開催していたことで注目を集めた池袋など、より丁寧に街をプロファイリングすることでイベントや屋外広告の企画立案などに役立つ分析もご紹介できると思います。
田中:ぜひ、次回!楽しみにしていますね。
4. 最後に
行動意欲としては「回復」とうたっても良さそうな今日この頃。お財布とにらめっこは続きそうですが、今年の夏も国内を前提とすれば活発な人の動きが期待できそうですね。
みなさんはどのような計画をお持ちでしょうか?
インテージでは恒例の「今年の夏休みの予定」をテーマに自主調査を実施して、リリースしています。ぜひ、こちらにも目を通してみてください。
転載・引用について
◆本レポートの著作権は、株式会社インテージが保有します。
下記の禁止事項・注意点を確認の上、転載・引用の際は出典を明記ください 。
「出典:インテージ「知るギャラリー」●年●月●日公開記事」
◆禁止事項:
・内容の一部または全部の改変
・内容の一部または全部の販売・出版
・公序良俗に反する利用や違法行為につながる利用
・企業・商品・サービスの宣伝・販促を目的としたパネルデータ(*)の転載・引用
(*パネルデータ:「SRI+」「SCI」「SLI」「キッチンダイアリー」「Car-kit」「MAT-kit」「Media Gauge」「i-SSP」など)
◆その他注意点:
・本レポートを利用することにより生じたいかなるトラブル、損失、損害等について、当社は一切の責任を負いません
・この利用ルールは、著作権法上認められている引用などの利用について、制限するものではありません
◆転載・引用についてのお問い合わせはこちら