センター員もりもとの生活者研究記録 【番外編】データの海から “潮流”を読み解き、インサイトの欠片を拾ってみる
ごあいさつ
こんにちは!大変ご無沙汰しております。生活者研究センター卒業生の森本です。
長いようで短かった梅雨も明け、カラッとした猛暑日に苦しめられる今日この頃でございますが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。度々の登場となりお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、再び筆を執りたいテーマと出会い、こうして機会をいただきました。ぜひおやつ片手に、ごゆるりとお付き合いください。
今回のテーマは・・・・
日頃我々のお客様と向き合う中で感じるのですが、多様な商品・サービスが溢れたこの世の中では、生活者のニーズが一見満たされているように見えることで、プロダクト起点での商品・サービスの開発が一層難しくなっているのではないでしょうか。
また、そんな中で、実態把握やインサイト探索の調査を行っても、広い観点・潮流を捉えたうえで結果を読み解かないと、新たな芽を見つけ出すことが難しいシーンも増えているのではないかと思われます。
一方で、情報収集に時間が充てられない、集めた情報から潮流を読み解くスキルが俗人化している等、“広い観点・潮流を捉えること”に難しさを感じたご経験をお持ちの方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そこで、インテージでは、この“広い観点・潮流を捉える”ための取り組みとして、「データの収集・整理」を行い、そのデータから「新しい潮流・生活者の変化を読み解く」、そして、「生活者インサイトの仮説を立てる」というアプローチの有用性を探るべく、社内ワークショップを行いました。
この記事では、“2030年の食”をテーマにインサイト仮説を立ててみたプロセスと結果をとお伝えすると共に、このアプローチのポイントについて考えてみたいと思います。
潮流を背景に“2030年の食”を想像する
まずは、広い観点・潮流を捉えるために、生活スタイルや価値観の変化を示すデータを収集し、以下9つのジャンルに整理をしました。
①衣食住 ②家事 ③労働・学習 ④お金・消費 ⑤余暇・移動
⑥健康・美容 ⑦家族・育成 ⑧コミュニティ・情報 ⑨SDGs
するとここからは、「ウェルネス」「コスパ」「タイパ」「個人志向」「多様性」「希少性」といった6つの消費トレンドが浮かび上がってきました(図表1)。
図表1
これらをさらに【①ウェルネス】【②コスパ・タイパ】【③個人志向・多様性・希少性】の3つのテーマに振り分け、テーマごとの潮流を背景に、“2030年の食への表れ方”を想い描きました。
以降ではどのようなステップでデータを読み解き、“2030年の食”を想像したのか、また、そこからどのようにインサイト仮説を導き出したのか、ワークショップの流れに沿って記してみようと思います。
Step1:個人ワーク
テーマをベースにデータを読み解き、「共感/違和感(発見)」を洗い出す
まずは収集した多様なデータを眺めながら、『共感できる』『違和感がある』『初めて知った・意外性がある』のような視点で気になるデータをピックアップしていきます。
わたしが選んだテーマは【ウェルネス】 。日頃ご一緒するお客様・ブランドに置き換えて考える際にも参考になりそう、と、打算的に選びました。
【ウェルネス】を軸にデータを眺める中で、わたしがもっとも興味をもったのは「Well-beingであるための構成要素(図表2)」のデータでした。幸福度の大小を左右する要素として、「食」や「笑うこと」があがることは自身の体験とも通ずる部分が多く、納得・共感できた一方で、「熱中できる趣味や推しがあること」は幸福度にはあまり影響しないという点に、「わたしが普段推し活をする中で感じる満ちた気持ちは、幸福フィルターのかかった別物なのか・・・?」と違和感を覚えました。
このような作業を繰り返し、図表3のように気になるデータをピックアップしていきました。
図表2
図表3
【Step1のポイント】
数多あるデータから テーマとの関連性×共感/違和感(発見) の視点で情報を取捨選択する
Step2:グループワーク
気づきの“発散”→潮流へ集約
次のステップでは、3-4名でグループをつくり、個人ワークを共有していきます。このとき、他の人のピックアップしたデータや理由を聞きながら、再び、「共感/気づき(発見・ギャップ)/未来へのヒント 」の視点で感じたことを遺しておき、またそれを発散、言葉を重ねながら咀嚼をします。
共通のデータを異なるバックグラウンドを持つメンバーで読み解き、それぞれの共感/違和感を発散することで新たな気づきが生まれる。この、気づき→発散→気づき・・・を繰り返す中で、【ウェルネス】という潮流を捉えるための材料が揃い(発散)、点と点が線になっていくような感覚(集約)を味わいました。
このステップでわたしたちが捉えた【ウェルネス】の潮流は以下の通りです。
- 健康とは、身体/こころの両面を指す(優劣は人それぞれあるも、どちらも健やかであることが重要に)
- “やっている感”が心の健康に(完璧じゃなくていい。続けられることが自信に繋がる)
→食事・睡眠・歩数・・・やっている感を数値化することで実感 - ひとりの時間/自分の時間も大事にしながら、「誰かと食べる」ことで幸福度増進
【Step2のポイント】
誰かの共感は誰かの違和感。複眼的にデータを読み解き咀嚼をすることで、潮流の解像度があがる
Step3:グループワーク
“2030年の食”に表れる影響を想像 再び発散→集約
最後のステップでは、前段で読み解いた【ウェルネス】潮流を背景に、“2030年の食”を想い描きます。
「こんな潮流があるから、きっと食はこうなっていくのではないか」と、これまでの議論を“食”の視点で咀嚼し直し、具体を交えながら想像を膨らませていきます。前段の“潮流”がベースになっているため、「的外れなことを言っているのではないか」等、思考を遮るものがなく、メンバー全員で共通認識をもつことで納得感をもって進めることができました。
このステップで描いた“2030年の食”は以下の通りです。
- 食事(食卓)は 日常⇔非日常 の2つにカテゴライズされる
- 日常の食:“なんとなく”身体の健康を意識した食事を摂り、自分を労わっている感・やっている感で心も満たす(やっていることが重要なので、手段は問わない。誰かと、でなくてもいい。)
- 非日常の食:健やかの先の幸福度をあげるために、“誰かと”食事を摂る(「何を」<「誰と」が重要に)
図表4
【Step3のポイント】
大きな潮流がベースにあると、具体的な分野(カテゴリー)に落とした際に、発想のギアがあがる
想い描いた2030年の食から、食器洗いに対するインサイト仮説を立てる
今回のワークショップでは、“2030年の食”を想い描くところまでを取り組みました。私は“2030年の食”からさらに“食器洗い”を想像し、食器用洗剤のインサイト仮説を立ててみました。
おわりに
今回は「多様なデータから世の中潮流を捉え、インサイト仮説構築を行う」ことを、実体験をベースにお伝えしてまいりましたが、いかがでしたでしょうか。本取り組みを経て、インサイト仮説の構築には、以下ポイントが重要なのではないかと考えております。
- 様々なデータを/複数人で読み解き/発散→集約を繰り返すこと
- “潮流”を捉えたうえで、各カテゴリー/テーマに落とし込み、未来を想い描くこと
今回は“食”をテーマに考えてまいりましたが、同データから“自動車”や“エンタメ”など、どんなジャンル・テーマでも発想を広げることが可能と考えておりますので、この記事がみなさまのマーケティング活動、特に商品・サービス起案のご参考となれば幸いです。
また、今、このコラムを読んでくださっているみなさまの中には、日々こうした“潮流”をキャッチアップされており、すでに取り入れられている方も多くいらっしゃるのではないかと推察しております。キャッチアップされた潮流の壁打ち相手(複眼視点でのディスカッションパートナー)として、ぜひインテージも仲間に入れていただけると嬉しいです。この記事でご紹介したデータは、「暮らしWide Viewer」というレポートとしてご提供していますので、ご興味いただいた方はぜひインテージの担当営業までお声がけください。 最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!またみなさまとお会いできる日を楽しみにしております。
多様なメンバーで潮流を読み解く
生活者研究センター センター長 田中宏昌
長期に渡って社会や生活者を測るデータを収集し、眺めていると、不可逆の動きを見せているものや、波のように繰り返す動きを見せているものなど、トレンド(潮流)を感じるものに出逢います。本編にも登場する「タイパ」などは、今に始まったことではなく、1990年前半から顕著になる共働き家庭へのシフト、夫婦の家事分担の浸透、家電や調理器具の進化などの変化とともに広く浸透・定着し、磨かれてきたものです。現在では、デジタル&スマホ化によって、若者層を中心に動画コンテンツがX倍速で楽しまれるようになったことから、「タイパ・コスパ」と聞くと、つい若者の特性と表現しがちですが、過去を見返すと不可逆な社会の潮流であることがわかります。その一方で、イノベーションはそうした大きな潮流をしたたかに押さえながら、私たちの想像を超えたところから生まれるのだと思います。「iPhone(スマホ)」の登場によるあらゆる事物の「ネットワーク化&ワンストップ化」などは、タイパシフトのとある形を表していると言えるでしょう。
VUCAの時代。変化が著しく、とかく、社会が、生活者がわかりにくくなりました。Z世代などを中心に「ターゲットがわからない」、「ヒット商品が生まれない」という声もよく聴きます。そうした時代においては、いつもいる地平から離れて、少し高い脚立に登って過去からのトレンドを眺めてみるといいかもしれません。そして、そのついでにミライにも目を向けて視る。そうした過去と未来に渡る視点の往復運動が見通しにくい未来を照らしてくれるのかもしれません。その時、脚立に登る仲間は性別も年代も多様であることが望ましい、と思います。生きてきた時代や環境の異なるメンバーが「とある事象・とあるデータ」を一緒に眺め、あれこれと対話を重ねてみる。そこには、必ず、自分だけでは気が付かなかった驚きや気づきがあるはずです。正解を探すのではなく、むしろ、「問いを深める」という活動です。そうした活動に合わせて、自社や自社の商品・サービスを眺めたとき、これまで見ていた風景とはことなる景色が眼前にひろがることがあるかもしれません。
この取り組みをインテージでは「ぐりぐら」と呼んでいます。ピンときた方もおられると思いますが、この呼称は中川李枝子さん、山脇百合子さんによる名作絵本『ぐりとぐら』からきています。大きなフライパンで焼き上げた「パンケーキ」を森の動物たちと頬張りながらわいわいと会話をしている、そんなシーンに見立てての命名です。私たちの場合はテーブルに置かれたさまざまなデータが「パンケーキ」といったところでしょうか。
興味を持たれた方はお気軽にお声がけください。「パンケーキ」を携えて、みなさまのところに遊びにまいります。
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