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現役大学生と取り組む夏休みの自由“探究”~生活者スナップショット番外編

1.はじめに

インテージ 生活者研究センターは2022年10月から「産学連携生活者研究プロジェクト(以下、産学連携プロジェクト)」として、企業と大学機関(教授および所属するゼミ生)がコンソーシアム形式で集まり、社会あるいは生活者理解につながる研究テーマを設定して探究を重ねてきました。研究テーマについてはZ世代を中心とした「若者世代の理解」に置いていることから、本プロジェクトに参加している「ゼミ生」はときに研究をともに深める探究者であり、ときに興味深い調査対象者でもあります。

今回、縁あって産学連携プロジェクトに参画をいただいている関西学院大学 人間福祉学部 社会起業学科 森藤ちひろ教授が指導教員を務める森藤ゼミに所属する学生2名を夏休み期間中の10日間(7月29日~8月9日)、インターン生として受け入れることとなりました。森藤ゼミでは社会課題のマーケティングによる解決(ソーシャルマーケティング)や社会課題解決を念頭においた起業をテーマに研究をしていますが、データ収集や活用、さらにはそれらの情報を駆使したマーケティングの実践という世界を実務の中で触れるという体験を創造できないか、という森藤先生と学生の熱量の宿った発案から本インターンプログラムは生まれました。

プログラムは大学の授業でも触れてきたリサーチやマーケティングというものを、実務を照らし合わせながら学ぶパートと、学生のお二人が抱く社会課題とその解決のヒントについて定量調査(WEBアンケート)を用いて探究するパートで構成しました。はじめて取り組む調査票の作成やデータの読み取りは苦労も多かったものと思いますが、この体験を通じてマーケティングリサーチの「リアル」を感じてくれたのではないかと思っています。また、私たち(企業)にとっては、かれらとの10日間はその時間そのものが「若者研究」の機会であり、それぞれの研究テーマをテーブルに広げて繰り広げられたかれらとの対話は多くの刺激や気づきに富んだものでした。

かれらが取り組んだ「夏休みの自由探究」を4回シリーズでお届けしていこうと思います。次回から2回分はそれぞれの探究を個々人に語ってもらう回にしたいと思います。本シリーズを通じて、Z世代、あるいは「イマドキの大学」という記号論的な解釈を離れて、リアルなZ世代・大学生に触れることができるのではないか、と思います。私がそう感じたことがらをひとつあげると、かれらの典型的な価値観のとして「失敗回避傾向が強い」と言われることも多いのですが、かれらの実体験を聴くと実に多くのチャレンジをしていることがわかりました。海外における貧困問題の研究のために、治安のあまりよくないエリアに渡航して現場を視察する、といった経験談はその典型でした。そして、「失敗回避傾向が強い」から「チャレンジしない」ではなく、「溢れる情報を丹念にあたり、正しい情報を選り分け、周到に準備をしてチャレンジする」という意味合いであることに気づきました。つまりは「慎重」であると。そうした断片がかれらの語り口から感じていただけるのではないかと思います。
また、かれらのこの夏の格闘を通じて、ひたむきな「心」を、そして、静かであるけれども確かな「熱量」をお届けできたら、と思います。

2.「SDGs」とZ世代 ~体験と紐づく課題意識

かれら自身の話に入る前に、Z世代でもあるかれらにとって関心が高いと言われる、「SDGs」に関する自主調査の結果を紹介しておきたいと思います。

SDGsやエシカル消費などへの関心は高まってきており、生活者研究センターにおいても重要な研究テーマのひとつとして位置づけ、取り組んできました。
2020年から毎年実施してきた定量調査における「SDGs」の理解状況では、学校教育の効果によって、学生層の認知・理解レベルが他の年代層を上回っていました。近年では「地球環境保護」やLGBTQ+をはじめとした「多様性への対応」などを、企業内の研修やテレビをはじめとしたさまざまなメディアで目にする機会も増えたことから、以前よりは広い年代に知られるようになっていますが、直近(2024年1月)に実施したアンケート結果を見てもSDGsの認知・理解状況は男女ともに10代が7~8割とピークになっており、20代になると6割程度まで落ち込みます。20代以上に目を向けると男性は6割付近を維持していますが、女性は年代が上がるにつれて低下していき、60代以上は5割を下回っています(図表1)。

これらの結果から「SDGs」という考えや取り組みは「学校教育」や「啓もう」といった部分が強く、まだまだ社会に広く浸透しているとは言い難い状況と言えるのではないでしょうか。

図表1

次にSDGsが掲げる「17の目標」に対して、「優先的に取り組むべき」と考えているものを見ていきましょう(図表2)。
「気候変動に具体的な対策を」は過去の経験からの比較(実感)を踏まえてか、年齢が上がるほど関心が高くなっています。温暖化や大雨、ゲリラ豪雨などの異常気象など、私たちの暮らしにおいても気候変動は身近なものとなっていますね。「すべての人に健康と福祉を」についても加齢や老いの実感や健康への不安を背景に、高齢層ほど関心は高くなっています。男性は60代以上、女性は50代以上で一気に増加していることから、体調不良や健康不安が大きくなる時期と重なってもいそうです。

図表2

今回、10日間に渡って、かれらが抱く社会課題への課題感の萌芽やそれを抱く背景などに耳に傾けることにより、これまで積み重ねてきたアンケート結果における若者の回答に依拠する想いのようなものに触れることができたと考えています。

ひとりの学生は現在、クラフトビールの製造と販売、さらには製造したビールも出してくれる飲食店でアルバイトをしている経験を重ねながら、「名産品・特産品における街の活性化」を研究テーマにしていました。名産品・特産品への視線はクラフトビールに留まることなく、木材や木材を利用した工芸品などにも広がり、「モノ・コトが産み出す人とのつながり」や「地域創生・町おこし」のような課題へと連鎖しているようでした。

もうひとりの学生は大学生になるまで歩いてきた自己の教育環境・教育機会への悩みと感謝を念頭に「学習機会における家計環境の影響と課題」を研究テーマにしていました。子育て支援の充実や教育費の無償化が議論される世相と自身の歩いてきた軌跡を重ねながら、あらためて思考を重ねる時間になったようでした。

先ほどの「17の目標」からかれらの課題感に関係しそうな項目も見てみましょう(図表3)。 「住み続けられるまちづくりを」については20~30代と高齢層の関心が高くなっています。20~30代は結婚をして子どもを産み育てる、といった暮らしやすさや子どもの育てやすさなどをぼんやりと視野に入れて回答していそうです。また、高齢層はバリアフリーや防犯・防災対策などが念頭に浮かんでいそうです。どちらも形はことなりますが‘安全・安心’への希求が横たわっているように感じます。

「教育の質」については若年層の方が関心は高く、特に男性の方がより強くなっています。年代を注視してみると、男性は10~30代、女性は20~40代となっており、10~20代の方は現在の自身の教育環境への課題感などがその背景にありそうです。また、20~40代は自身のお子様への教育環境を想っての回答に映ります。

図表3

とかく、地球環境やSDGsへの関心が高い世代、という表現をされることも多いですが、かれらについては今日に至るまで日々感じてきた社会への視線、あるいは自己への視線がそうした課題意識を育んできたのかもしれません。そして、20歳を超えた今、課題を解決するための武器を体得しようと「人間福祉学部 社会起業学科 森藤ゼミ」 を選び、能動的な学びの中にいることに勇気づけられもしました。

3.鉄を打ち、刀を研く

先の章で紹介したように学校教育を通じて、「SDGs」や「社会課題」というものに強い関心、課題意識を抱いていることや、関心を抱くだけでなく、「マーケティング」や「リサーチ」の力で解決に導くことを将来の道として考えていることを念頭にインターンシッププログラムを構成しました。中でも今後ますます民主化=当たり前化していくであろう「データ収集とその活用」に関しては、実際に各自の課題を組み込んだWEBアンケートを作成し、全国15~79歳、3,000名以上のアンケートモニターに調査を実施するという体験を準備しました。

「社会課題とその対策のヒント」を考えながら、調査課題への変換を行い、調査票に落としていくことははじめての体験であり、その過程を通じて、自身が抱く課題というものをあらためて見つめ直す機会にもなったのではないでしょうか。また、実際の集計データがアップしてきてからは、事前に想定していた仮説との一致・不一致をチェックする中で想定外の発見もあったものと思います。エクセル形式のファイルでローデータを共有されたのち、自由回答も含めた回答を読み込みながら調査対象者の言葉をひと言も漏らすまいと耳を傾けている姿には、それぞれの研究課題への誠実な取り組み姿勢や覚悟を感じることができました。

各自、レポートの作成を進めながら時折、3人で集まり、その進捗や課題を共有しつつ取り組みましたが、やりとりにおいては「調査票にこんな項目を入れたらよかった・・・」といった「反省」の言葉もでていました。私としては実際に企業に就職して担当することになった調査案件では、あるいは、その手前に立ちはだかる論文作成のための調査ではできない不足をこのタイミングでおおいに味わってもらうために最低限のアドバイスのみに留めていました。この機会に良き砂鉄を集め、鉄を鍛え、納得がいくまで刀を研いでほしい、そう願ってもいました。

そうした振り返りの時間も踏まえながら、インターン生同士のディスカション、さらには森藤先生からのアドバイスなどを織り込みながらリリース用の記事執筆を進め、最後には読み応えのある記事を書きあげてくれました。
タイトルは
①特産物との関係から読み解く「愛着」マーケティング
②学び続けられる社会を創るために ~学びにおける経済的課題と解決のヒント
とあり、「①特産物との関係から読み解く「愛着」マーケティング」には、ファンマーケティングや推し活マーケティングなどにもつながるヒントがありました。また、「②学び続けられる社会を創るために ~学びにおける経済的課題と解決のヒント」には、表われにくい学びにおける経済的な課題へ肉薄し、人生100年時代における「学び」の実現のためのヒントを探っています。
ぜひ、お楽しみに。

4.むすびにかえて

生活者の深い理解に基づく生活者中心のマーケティングの実現を目指して、生活者研究センターでは「生活者を知る」というアプローチそのものを深化・拡張していきたいと考えています。今回の現役大学生と取り組む夏休みの自由“探究”」もインターンプログラムを実施する以上に、かれらとの濃密な対話や長い時間ともに過ごすことによる観察を通じて、かれらをより深く「知る」という部分に重きを置いていました。それは「フィールドに立ち返る」ということなのかもしれません。産学連携生活者研究プロジェクトもその想いの中にあります。

4回シリーズでお届けする「現役大学生と取り組む夏休みの自由“探究”~生活者スナップショット番外編」。次回からの実際のレポートを通じて、ぜひ、みなさまもかれらの暮らすフィールドに足を運んでみてください。きっとかれらの言葉に手ざわりの在るZ世代の姿 が感じられるはずです。

著者プロフィール

生活者研究センター センター長 田中 宏昌(たなか ひろまさ)プロフィール画像
生活者研究センター センター長 田中 宏昌(たなか ひろまさ)
1992年 電通リサーチ(株式会社電通の100%グループ会社 当時)に入社。
1994年より電通の大規模生活者データベースの立ち上げメンバーとして参画。
以後、2012年まで消費者研究センターや電通総研などの横断機能組織に駐在勤務する形で、広告コミュニケーションプランニングや商品・サービス開発の場面などで、データに基づく生活者理解をテーマとしてプロジェクトを支援してきた。
その間、消費財、耐久財、サービスなどさまざまな領域を担当。

2012年 楽天グループ(株)を経て、2013年 インテージへ。
2020年より現職。

思春期よりTVCMの映像やコピーに魅了され、TVCMだけを録画して繰り返し見るような子どもだった。
記憶に残る作品を選ぶとすれば「1983年 サントリーローヤル ランボオ編(広告代理店 電通)」と「2004年 ネスカフェ 谷川俊太郎 朝のリレー・空編(広告会社 マッキャンエリクソン)」を迷うことなくあげる。
趣味は自転車(ロードバイク、マウンテンバイク)、落語鑑賞など

1992年 電通リサーチ(株式会社電通の100%グループ会社 当時)に入社。
1994年より電通の大規模生活者データベースの立ち上げメンバーとして参画。
以後、2012年まで消費者研究センターや電通総研などの横断機能組織に駐在勤務する形で、広告コミュニケーションプランニングや商品・サービス開発の場面などで、データに基づく生活者理解をテーマとしてプロジェクトを支援してきた。
その間、消費財、耐久財、サービスなどさまざまな領域を担当。

2012年 楽天グループ(株)を経て、2013年 インテージへ。
2020年より現職。

思春期よりTVCMの映像やコピーに魅了され、TVCMだけを録画して繰り返し見るような子どもだった。
記憶に残る作品を選ぶとすれば「1983年 サントリーローヤル ランボオ編(広告代理店 電通)」と「2004年 ネスカフェ 谷川俊太郎 朝のリレー・空編(広告会社 マッキャンエリクソン)」を迷うことなくあげる。
趣味は自転車(ロードバイク、マウンテンバイク)、落語鑑賞など

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