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特産物の調査から読み解く愛着マーケティング~生活者スナップショット番外編

はじめに:生活者研究センター センター長 田中宏昌

現役大学生と取り組む夏休みの自由“探究”~生活者スナップショット番外編でお伝えした通り、インテージ 生活者研究センターでは、この夏、関西学院大学 人間福祉学部 社会起業学科の学生を迎え、インターンシッププログラムを実施しました。このシリーズでは、プログラムを通して生まれたレポートを通し、リアルなZ世代・大学生に触れ、理解を深めることを目指します。 第2回となるこの記事では、宝谷玲奈(ほうたにれいな)さんのレポートを紹介します。
本研究は名産品・特産品への愛着形成とその経済的なインパクトによる地域創生・活性化をテーマに据えて進められました。最終的には「林業」を対象として木材業界の活性化や人手不足の解消などにつながるアイデアを得ることを目的としていますが、他の業界・業種への応用を考慮し、林業・木材に閉じず、さまざまな商品ジャンルにおける「愛着」とその「形成要因」をテーマにしたものとなっています。
昨今、重要視されている「ファンマーケティング」にも通じるものがあり、マーケティングに関わる者であれば、広く刺激を得られる内容になっていると考えています。


1. 研究にあたって

私は卒業論文の研究テーマとして、林業が抱える課題の解決を考えています。林業従事者の方々との対話から、最も深刻な課題は従事者の高齢化と後継者不足だと理解しました。さらに、私個人としては国内木材の価値認識を高め、愛着 を深めたいと考えています。そうすることで収入増による待遇改善を進めることもできるからです。

今回のインターンシッププログラムでは、林業や木材に閉じることなく広く愛着を持たれる特産物のアンケート調査を行い、その結果を参考としつつ、林業の価値を向上させるヒントを探ろうと思います。

2. 年齢を増すごとに強まる特産物への愛着

図表1は「愛着を感じている特産物」の有無の調査結果です。全体では4割の人がなんらかの「愛着を感じている特産品」を持っていると回答していました。男性では10代のスコアが最も高く半数を超える結果となっていました。その後、20代、30代と大きく減少し、30代では3割まで落ち込んでいました。40代以降では増加傾向となり70代は5割弱となっていました。一方の女性でも10代は5割を超えて高いスコアになっていました。そして、20代は男性とは異なり一気に3割を切るスコアまで減少し、その後、階段状に増加に向かい、70代では5割を超える結果となっていました。

図表1

愛着のある特産物の有無

地元の特産物については学校の授業などで触れる機会も多いことから、10代にとっては、愛着を感じる気持ちが強く表れる結果となっているのかもしれません。また、20代、30代ではスコアが低下しつつもその後増加する傾向については、ひとり暮らしを始めたり家庭を持つことにより、食材などを購入する機会が増え、地元の野菜や果物などにあらためて触れることで愛着が芽生えるのかもしれません。また、年齢とともに強まる郷土への愛着も影響を与えているように推測されます。

3.「愛着のある特産物」は?

はじめに特産物として愛着が強い上位3つを見ていきましょう(図表2)。
項目別のランキングでは、1位「穀物(45.2%)」、2位「果物(37.6%)」、3位「野菜(37.4%)」という結果になりました。これらは食生活で欠かせないカテゴリーです。生活者が身近な特産物に対して強い愛着を持つことがわかります。

図表2

愛着のある特産物

全体の傾向として、性別で特徴的な差が見られます。傾向で整理 してみましょう。
●女性>>男性:穀物、野菜、果物、調味料
共通点は、台所で調理して食卓に出すものだということです。女性は日々の買い物に始まり、台所に立つ機会も多く、家庭での食物選択に大きな影響を与えていると考えられます。時代錯誤かもしれませんが、家庭で消費される食品の決定権は、多くの場合、まだまだ女性にあり、それらに地元の特産品があればさらに愛着が高まることが推測できます。

●女性>男性:花
花を愛でる感性は、女性により多く見られるのかもしれません。時代的に変わりつつありますが、まだまだ、庭の植栽や家の植木などの管理を任されているのは女性が多いため、ガーデニングなどで女性のほうが花に触れる機会が多いのではないでしょうか。また、男性より女性のほうが、花を飾るという日常生活にゆとりを持つことが多いのかもしれません。あるいはプレゼントとして花を貰う機会が女性のほうが多いということが影響しているのかもしれません。

●男性>女性:畜産物、水産物穀物、野菜、果物、調味料と同様に生活に身近なカテゴリーですが、なぜ男性のスコアのほうが高いのでしょうか。畜産物や水産物は、外食で接する機会も多く、人に贈る機会も多そうです。また、「主役感(メイン的な食材)」のある特産物に愛着を持ちやすいのかもしれません。

●男性>>女性:酒
日本酒や焼酎は男性のスコアが女性よりも大幅に高く、「地元の酒」であることに誇りを持っている様子がうかがえます。一方で、女性でも飲みやすく、フレーバーはもちろん、ラベルなどのデザインを含めて選ぶ楽しさのあるワインやクラフトビールは、比較的男女差が小さく、女性も愛着を感じやすい様です。

女性は自分が使うものやこだわりがあるものが地元の特産品であれば、一層うれしく感じるとともに愛着も抱きやすい様です。また、男性は地元の特産品として自慢できるものは、周囲の人にも自信をもって薦めたり贈ったりできる、ということが愛着を深めているように考えられます。

次章では愛着は何によって醸成されているのかを考察していきたいと思います。

4. 特産物への愛着醸成要因① 機能的価値と情緒的価値の関係性から考える

はじめに最もスコアの高かった「穀物(588名回答)」について愛着を感じる理由を見ていきましょう。

ここで以下の分析がわかりやすくなるように、特産物のカテゴリーが提供しているであろう価値を「機能的価値」と「情緒的価値」の二つに分けてみました。
ここでは、「機能的価値」を特産物の性能的な評価に基づく価値と定義します。「おいしいから」や「デザインや見た目がいいから」なども、性能的な評価と捉え「機能的価値」に分類します。一方の「情緒的価値」は「想い出の品だから」や「作り手のストーリーに共感したから」といった特産物の情緒的な評価に基づく価値と定義します。

やはり、一番は「おいしいから」となっています。単に美味しいという機能的な側面が、なぜ愛着へと結びつくのかを考えてみましょう。ここで、「おいしいから」と答えた回答者(382名)の中から、特徴的であった自由回答に注目してみましょう。

図表3

愛着を感じる理由「穀物(お米・麦・そば粉など)」

「嫁いだ地域は米があまり美味しくなく、育った地域の米が懐かしくなる時がある。」
(50代女性、回答:穀物、「地元の特産だから」「おいしいから」)

「地元で作っている米は美味しいってことを実家を離れて、あらためて気がついた」
(40代男性、回答:郷土料理、「おいしいから」)

「実家で米作りをしていたので米には愛着がある」
(40代女性、回答:穀物(お米、麦、そば粉など)、「地元の特産物だから」「おいしいから」)

この回答から、育った地域の米が「おいしい」という機能的価値が、より故郷の米への「懐かしい気持ち」といった情緒的価値を強化していると読み取れます。「おいしい」という記憶がより地元への愛着を増幅させているとわかります。また、新しい環境と過去の環境を比較することで、育った地域の米の良さを再認識しています。 生まれ育った故郷への再評価は自由回答で多くみ見られた意見でした。そのため、離れて初めて愛着が湧いてくる、あるいは元々持っていた愛着に気づくということが多々あるようです。

続いて「果物(489名回答)」の一例を見ていきましょう。

図表4

愛着を感じる理由「果物」

「地元のイチゴがまだ無名の頃から食べていて、今は金賞を取って有名になり嬉しくなった」
(20代女性、回答:果物、「おいしいから」)

この回答者は、愛着を感じる理由の項目では「味」に関することしか触れていないのに対し、自由回答では「味」以外での情緒的価値を表現しています。この回答者からは、三つの感情が読み取れます。一つ目は、自分自身に対する誇りです。自分が早くから評価していたイチゴが世間的に認められたことで、自分の感性や味覚に対する感度に対する自信が高まっています。二つ目は、もともと愛着を持って購入していたイチゴ農家が成功したことに対する純粋な喜びです。そして、その二つの感情が組み合わさったときに、さらにイチゴに対する愛着が深まっていると考えられます。

5. 特産物への愛着醸成要因② 「郷土料理」の持つストーリー性

ここでは、先ほどとは愛着形成要因の異なるタイプが多かった「郷土料理(304名回答)」について分析していきましょう。
まず注目したいのは、「おいしい」という要因よりもわずかながら「地元の特産だから」という項目が高く出ています。それに加え、今まで目立つことのなかった「歴史的な背景があるから」「思い出の品だから」「作り手のストーリーに共感したから」という要因が目立っています。自由回答についても特徴的なものを抜きだしてみると

 「さつま揚げは昔から祖母の手作りを食べていて愛着がある」
(50代男性、回答:郷土料理「地元の特産物だから」、「おいしいから」、「思い出の品だから」)

「きりたんぽを学校のみんなで作った」
(20代女性、回答:郷土料理、「地元の特産物だから」、「地域や生産者を応援したいから」、「おいしいから」、「思い出の品だから」、「歴史的な背景があるから」、「作り手のストーリーに共感したから」)

「子供の頃に母がよくずんだ を作ってくれて お餅を食べました。 初めて食べた時にそのおいしさに感動しました。 それを母に伝えるとよく作ってくれるようになりました。」
(60代女性、回答:郷土料理、「地元の特産物だから」、「安全性が高いから」、「おいしいから」、「思い出の品だから」、「歴史的な背景があるから」)

郷土料理を選んだ回答者の自由回答で、祖母や母親が作ってくれた思い出や学校で作る体験をしたストーリーがいくつか挙げられています。ここで言えることは、思い出話などの具体的なストーリーは愛着と結びつきやすいということです。特に郷土料理のような、地域の文化や歴史に根付いた特産物は、親から子供へつながり味が継承されているでしょう。郷土料理の場合は、料理に対する愛着が家族や地域の人たちを介して愛着が継承されているとわかります。

図表5

愛着を感じる理由「郷土料理」

自由回答でほかにも多かったのが、

「トマト園を訪れて、栽培農家の苦労や努力が分かり、応援したいと思った」
(60代女性、回答:穀物(お米、麦、そば粉など)「地元の特産物だから」、「地域や生産者を応援したいから」)

といった生産者に対する応援の声です。このような回答の特徴は、生産者の苦労を知って生産者に対する尊敬を抱いているという点です。また、共通した特徴として実際に生産者を訪ねたり、生産者の作業を体験したりして苦労を実感しています。
日本人は生産者の真摯さや誠実さに惹かれる傾向があると考えています。商品に対する愛着を深めるには、単に消費するだけでなく、その製造過程を知ることが重要です。生産の裏側を理解したとき、消費者は初めて商品に対する愛着や支援の気持ちを抱くようになります。生産者の苦労を映像や言葉でわかりやすく伝えることで、より強い愛着を感じてくれる消費者(=ファン)を獲得できるのではないでしょうか。

6. 愛着が形成される6つの要因

特産物に対する愛着は、さまざまな要因が複合的に作用して形成されると考えられますが、本調査結果から導き出された愛着の要因は、以下の6つに整理されます。

第一に、味や品質が挙げられます。「おいしいから」という理由が最も多くあげられることから、愛着の基盤となる要素は味や品質が大きいと考えられます。

第二に、思い出や経験があります。家族との思い出や、学校での体験学習が愛着を深める要因となっています。

第三に、地域への愛着です。地域への愛着は年齢とともに強まる傾向があり、特に地元を離れ価値を再認識するケースが顕著に見られます。

第四に、生産者への共感があります。生産者の苦労や努力といった裏側を知ることで、特産物に対する愛着が芽生えます。実際に生産者を訪ねたり、作業を体験することでその感情が強まります。

第五に、歴史的背景や文化の理解が挙げられます。郷土料理など、地域の文化色が強い特産物は、親や祖父母から子供へと味や歴史が継承されることで愛着が深まります。

最後に、誇りや喜びです。地元の特産物や贔屓にしていた特産物が他者に評価されることで、自分自身の感性や地域に対する誇りが高まり、愛着が深まります。

今回の分析から、「味や品質」×「思い出や経験」や「味や品質」×「生産者への共感」のように、機能的価値と情緒的価値が組み合わさることにより愛着がより深まることが明らかになりました。

今後は今回の調査結果を自由回答も丹念に読み込みながら、より打ち手につながるような研究をしたいと思います。

7. 林業の課題への応用

木材の機能的価値として注目すべきは、健康面への好影響です。木造住宅は、優れた通気性や調湿効果、高い断熱性、アレルギー抑制効果など、日々の暮らしに重要な要素を提供します。さらに、木材には優れた衝撃吸収能力(大理石の2〜3倍)があり、転倒などによる怪我の防止にも役立ちます。以上の機能的価値を情緒的に訴えることで、生活者の心に響くメッセージを伝えることができます。例えば、衝撃吸収能力をアピールする際に、「子供とたくさん遊んで思い出が作れる家」というコンセプトを掲げ、転倒による怪我のリスクが減ることを強調します。また、「年を重ねてもずっと住み続けたい家」として、経年劣化(エイジング)を楽しめることをアピールしても良いでしょう。木の手入れや刻まれた傷が生む愛着、そして木の香りが自律神経を整える効果もあり、住宅が長く安らぎの場所となり続けます。

このように、機能的価値と情緒的価値を巧みに組み合わせて国内木材の需要を向上させることが、巡り巡って林業従事者や後継者の確保につながっていくのではないでしょうか。

今回のインターンプログラムで得た知見、研究結果を基に今後の林業のあり方について深く考えていきたいと思います。


むすびにかえて

林業に対する課題感とその解法の糸口を考える際に、林業に閉じることなく広く「愛着」の形成要因を探究したことにより、「愛着」の形成に関するメカニズムを深く考察することにつながったのではないかと考えています。また、授業やテキストで学ぶ機能的価値や情緒的価値といった専門的な用語が自由回答の生々しい言葉に触れたことによって、リアリティを持って迫ってきたのではないだろうか。

少子高齢化、人口減少、コモディティ化などを背景に、マーケティングにおけるLTV(顧客生涯価値)が重要なテーマになっています。そうした中、「愛着」の形成はファンマーケティングなどにも通じる興味深い視点ではないでしょうか。

最後の章で宝谷さんが語ってくれた「モノを売る以上に、エンドユーザーの体験をどのようなストーリーとともにデザインし、生活者に届けることができるか」という示唆は、インテージが考える「生活者中心のマーケティング ~Consumer Centric Marketing~」に通じる考えであり、大きな刺激をもらいました。

これからも宝谷さんに伴走しつつ、研究を見守りたいと思います。

次回もお楽しみに。

著者プロフィール

宝谷 玲奈(ほうたに れいな)プロフィール画像
宝谷 玲奈(ほうたに れいな)
関西学院大学人間福祉学部社会起業学科3年生。森藤ゼミ所属。社会起業学科を選んだ理由は、ルワンダでのフィールドワークに参加するため。入学後は国内外の貧困問題や人権問題を学び、3年次からは森藤ゼミでソーシャル・マーケティングを専攻している。趣味は「ローカル旅行」で、特技は「探検」。

関西学院大学人間福祉学部社会起業学科3年生。森藤ゼミ所属。社会起業学科を選んだ理由は、ルワンダでのフィールドワークに参加するため。入学後は国内外の貧困問題や人権問題を学び、3年次からは森藤ゼミでソーシャル・マーケティングを専攻している。趣味は「ローカル旅行」で、特技は「探検」。

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