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実務で解説 生活者中心で考えるマーケティングフレーム ~第3回 一人に複数のニーズがある場合、オケージョンマップで考える

本連載は、一般的なマーケティングフレームを、生活者の意識や行動と結びつけて捉えなおそうという試みです。STPや4Pなど、マーケティングフレームは比較的シンプルで、理解が難しいものは多くないと思いますが、実務での活用を難しく感じられる方は少なくないかもしれません。 生活者の意識や行動を理解することは、マーケティング・リサーチの役割です。生活者を中心に、マーケティングフレームとマーケティング・リサーチを紐づけて考えることで、読者のみなさまのマーケティング活動が、より効果的に、より高い価値を生活者にお届けできるようになれば、という想いでお届けしています。

第1回では「真実の瞬間」、第2回では「STP」をフレームとして取り上げてきました。
この第3回で解説するフレームはオケージョンマップです。
※過去の連載はこちらよりご覧いただけます

1.生活者のニーズは場面によって変わる

STPでは、人を軸にセグメンテーションを行うことが多いですが、人のニーズは場面によって変わる場合があります。あるカテゴリーの商品に対して、生活者一人ひとりに複数のニーズが考えられる場合、オケージョンマップを作成することよって生活者ニーズを俯瞰することが可能になります。

例えば、飲み物について考えてみたいと思います。生活者が飲み物を口にするのは、一日に何度もあります。寝起きに水を飲み、朝食後にコービーを飲み、仕事をしながらお茶を飲む、といった具合です。それぞれのオケージョンで、飲み物を口にする理由は異なると考えられます。寝起きの時は口のべたつきを取り除きたい、朝食後には仕事モードに気分を変えたい、仕事をしながらお茶を飲むのは眠気ざまし、など。

このような場合、何らかの手段で人をセグメントに分けることは可能ですが、出来上がったセグメントの違いが分かりづらくなることがあります。寝起きの時に口のべたつきを取りたいと思っている人が、どのセグメントにも、無視できない程度に出現するといったことが起こり得ます。

図1

ひとりの人にもたくさんのニーズがある

2.オケージョンマップを活用する

オケージョンマップを作成する際には、時間(When)または、場所(Where)を使ってオケージョンを定義します。時間と場所の両方を使って作成することも可能ですが、ニーズを俯瞰するという観点では、オケージョンが細分化されすぎて、使いづらいものになる懸念があります。

また、同じ時間、同じ場所でも、その環境によってニーズが異なる場合があります。例えば、自宅でいつもの時間に食事を摂るとしても、一人での食事と、友人知人と一緒の食事では、飲み物に対するニーズは異なるかもしれません。ここでは、普段の生活を想定して作成します。もちろん、時間、場所、環境のすべてを使ってオケージョンマップを作成することも可能ですが、さらに細分化されたマップになるため、使いづらいものになると考えられます。

オケージョンマップは、いわゆるJOB理論と近い考え方とも言えると思いますが、時間または場所という軸を使うことで、MECEなマップを作成できることが特徴になります。
※MECE: Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive(漏れなく、ダブりなく)

図2は、飲み物に対するニーズを、時間を軸としたオケージョンマップとしてまとめた例です。

図2

時間を使ったオケージョンマップ 定量イメージ

この例では、飲み物に対するニーズが最も大きいのは、昼食後から夕食前にかけての時間帯(オケージョン)で、止渇のために飲みたいと思っている人が多いことが読み取れます。また、同じ飲み物でも、朝食後はエネルギー補給、夕食後はリラックスのために食べたいと考えている人と解釈できます。

このように市場を俯瞰すると、止渇、エネルギー補充、リラックス、という3つのニーズを満たすようなブランドポートフォリオを構築するという考え方も出来るようになります。

図3は、消臭芳香剤のニーズを、場所を軸としたオケージョンマップとしてまとめた例です。

図3

場所を使ったオケージョンマップ 定性イメージ

この例では、玄関では嫌なニオイを取り除くニーズがあり、キッチンやトイレでは嫌なニオイだけでなく、その場所を清潔に保つニーズがある一方、リビングでは心地よい香りが求められていることが分かります。人を軸にしてセグメンテーションを行った場合は、ニオイを取り除きたいセグメントと、香りを楽しみたいセグメントのように分かれる場合がありますが、オケージョンマップを活用することによって、一人の生活者の両方のニーズを捉えることが可能になります。

3.オケージョンマップを作成する

オケージョンマップを使ってビジネスマネジメントを行おうとする場合には、いくつか留意することがあります。

一つめは、1つのオケージョンで使用される製品 の数です。たとえば、昼食後にリラックスするために、クッキーとプリンを食べるといった場合、焼き菓子とデザートの2カテゴリーにビジネスの機会があるため、それらを定量的に把握できるようにするのが良いと考えられます。

二つめは、ビジネスの機会を広く捉えることです。クッキーは、チョコレートと代替可能かもしれませんし、プリンはヨーグルトと代替可能かもしれません。そうすると、このオケージョンは、チョコレートとヨーグルトのカテゴリーにとってもビジネスの機会と考えることができます。

三つめは、現状では『製品』を使用せずにニーズを満たしている可能性がある、ということです。たとえば、先ほどのクッキーは手作りかもしれません。使用する製品の数でビジネスの機会を把握しようとすると、そこには手作りクッキーは含まれなくなってしまいますが、手作りクッキーを製品で置き換えることは可能になります。

以上の留意点を踏まえると、各オケージョンでどれだけのモノを使用するのかという行動シーン数を算出することが大事になります。行動シーン数は、ここまでの「昼食後のリラックス」の例では、食べ物を口にする回数になります。

この「各オケージョンの行動シーン数」を図2の飲み物の例で算出してみましょう。

「起床から朝食前まで」のオケージョンで、
   「飲み物を飲む」人の数 ・・・P人
   「飲み物を飲む」頻度 ・・・1週間にQ回
    飲む「飲み物」の数 ・・・R杯
 とすると、
   「飲み物を飲む」シーン数=P*Q*R/1週間当たり
 となります

ここでは「飲み物」を商品カテゴリーで定義していないところがポイントです。 「飲み物」は、スーパーで購入したペットボトル入りの水ものかもしれませんし、前日に水道水を沸かしたお湯を冷ましたものかもしれません。
この考え方をアウトプットイメージで表記すると図4のようになります。

図4

シーン数の算出例

ペットボトル入りの水であれば、RTDの水カテゴリーの市場規模に含まれますが、水道水であれば、市場規模には含まれていませんので、市場拡大の機会になります。 水をお茶と代替することが出来れば、お茶カテゴリーの市場拡大の機会として捉えることも出来ます。この考え方を導入することで、同じニーズを満たすため使われている製品群も分かり、既存カテゴリーの枠を超えた競合設定も可能になります(図5)。

図5

既存カテゴリーにとらわれない競合設定

このシーン数の算出結果と、各オケージョンにおけるニーズ構成比を掛け合わせることで、先述のオケージョンマップの定量イメージ(図2)のようにオケージョンとニーズのボリュームが可視化されたアプトプットが作成できます。

4.まとめ

オケージョンマップを作成することで、一人の生活者が複数のニーズを持つ場合でも、生活者ニーズを俯瞰して捉えることが出来ることをご紹介しました。オケージョンは、時間や場所を軸として定義すると、生活者ニーズをMECEで捉えることができることが出来るようになります。また、生活者の行動で、その規模を計測することにより、市場拡大の機会や、既存カテゴリーの枠を超えた競合設定も可能になります。

※)調査結果は、調査設計や分析手法によって大きく左右されます。本記事でご紹介したオケージョンマップの作成にご興味のある方がいらっしゃいましたら、弊社HPを通じてご連絡頂くか、営業担当までご連絡ください

著者プロフィール

平井 公一 株式会社インテージ カスタマー・ビジネス・ドライブ本部 プリンシパル・コンサルタントプロフィール画像
平井 公一 株式会社インテージ カスタマー・ビジネス・ドライブ本部 プリンシパル・コンサルタント
大阪府立大学大学院工学研究科修了後、1995年P&G入社。研究開発本部で、新ブランドの立ち上げ、既存商品のリニューアルなど、消費者理解をベースにした幅広い商品開発を経験。2010年(株)インテージに入社し、2013年にはインテージ・シンガポールPTE.LTD.取締役に就任。大手PB商品企画・開発会社マーケティング部長を経て、2016年(株)インテージコンサルティング(現、インテージ)に加入。 日用消費財、耐久消費財、流通・サービスなど、幅広い業界で、生活者起点のマーケティング活動を支援。

大阪府立大学大学院工学研究科修了後、1995年P&G入社。研究開発本部で、新ブランドの立ち上げ、既存商品のリニューアルなど、消費者理解をベースにした幅広い商品開発を経験。2010年(株)インテージに入社し、2013年にはインテージ・シンガポールPTE.LTD.取締役に就任。大手PB商品企画・開発会社マーケティング部長を経て、2016年(株)インテージコンサルティング(現、インテージ)に加入。 日用消費財、耐久消費財、流通・サービスなど、幅広い業界で、生活者起点のマーケティング活動を支援。

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