実務で解説 生活者中心で考えるマーケティングフレーム ~第6回 生活者の購入判断が売上を左右する(1)
本連載は、一般的なマーケティングフレームを、生活者の意識や行動と結びつけて捉えなおそうという試みです。STPや4Pなど、マーケティングフレームは比較的シンプルで、理解が難しいものは多くないと思いますが、実務での活用を難しく感じられる方は少なくないかもしれません。生活者の意識や行動を理解することは、マーケティング・リサーチの役割です。生活者を中心に、マーケティングフレームとマーケティング・リサーチを紐づけて考えることで、読者のみなさまのマーケティング活動が、より効果的に、より高い価値を生活者にお届けできるようになれば、という想いでお届けしています。
第5回では、「真実の瞬間」を起点に考え、ビジネスポテンシャルを導くことで、開発投資リスクが低減できる可能性について書かせて頂きました
第6回では、第1の「真実の瞬間」、FMOTについて、さらに深掘りをしていきたいと思います。
1.「真実の瞬間」が訪れるまでの過程
図1の写真をご覧ください。買い物をしている一人の人が、ワイン売り場で、白ワインを持って微笑んでいます。美味しそうなワインを見つけ、心が躍っているのかもしれません。
図1
この手に持っているワインが自社商品であれば、売上が上がりシェアも上がりますが、他社商品であれば、売上は上がらずシェアは下がります。ビジネスを伸張させるとは、この瞬間に自社商品が手に取られることである、と言うことも出来ると思います。
この写真は、お買い物のワンシーンを切り取ったものですが、この人がお店に入ってから、この白ワインを手に取るまでには、ここには映っていない過程があります。
この人が、このお店に行かなければ、このワイン棚には辿り着きませんし、このお店に行ったとしても、ワインを買う予定をしていなければ、このワイン棚の前を通るとも限りません。
ワイン棚には、数多くのワインボトルが並んでいますので、この白ワインに目が留まらなければ、手に取ることもありませんし、目に留まったとしても、手に取ってもらえるとは限りません。
手に取ってもらった商品を買い物カゴに入れて貰えれば良いですが、棚に戻される場合も、もちろんあります。
ビジネスを伸張させるためには、この過程全般を通じて、自社ブランドの購入に至るよう、生活者の行動を変えていかなければなりません。
2.「お買い物行動モデル」で考える商品パッケージ開発
図2は、生活者がお店で商品を購入する際に、必ず経るステップをモデル化したものです。お店にいる生活者が商品を購入するためには、必ずそれを「見つける」という行動をし、ほとんどのお店では複数商品が同じ棚に並んでいますので、生活者は「選ぶ」という行動をしています。事業者の視点で言い換えると、「商品に気づいてもらう」、「競合と比較して選んでもらう」という2つの行動を生活者に取って貰わなければ、ビジネスは動かないということになります。
図2
「商品に気づいてもらう」について、生活者の目線で考えたいと思います。例えば、ヘアケア製品を買おうと思ってお店に行くと、はじめに目に入るのは、図3のような光景だと思います。
図3
数多くの商品が、所狭しと置かれています。ヘアケア製品なのだろうとは分かりますが、シャンプーなのか、コンディショナーなのか、ヘアパックなのか、を区別するのは難しいと思います。
商品パッケージを開発する際には、製品単体を見ながら詳細なデザインを検討される方も多いと思います。しかしながら、図3のような売場にたどり着いたばかりの段階では、生活者は単品パッケージの細かなデザインの違いには気づかないと思われます。ここで自社商品に気づいて貰うためには、棚全体を見渡したなかでの色使いや、パッケージ形状が重要な要素になるのかもしれません。
ヘアケア製品を買いたい人が、棚にどんどん近づいてくると図4のような光景が目に入って来ます。
図4
ここまで近づいてくると、ブランド名や、大き目の文字で書かれた訴求が目に入るようになると思いますが、棚全体は、視野の中に入らなくなってしまうと思います。もし発売したての商品が棚のすみに置かれていたとしたら、図3の段階で気づいてもらえていないと、図4の段階では視野に入らず、購入してもらう機会を逃してしまうかもしれません。
図4の段階で視野に入っていれば、気づいてもらえているかというと、そうではないかもしれません。 図5は、模擬棚を使ったアイトラッキング調査の結果です。 目線が行ったところには色がつき、緑から赤になるに従って目が留まっている時間が長かったことを示しています。
図5
この結果から、棚の上下段と両端の商品には目が留まっていますが、中段中央の商品にはほとんど目が留まっていないことが分かります。このことから、生活者の視野には入っていても、その商品に気づいてもらえていない可能性があることが示唆されます。
3.商品パッケージの開発段階で、生活者に協力してもらう
店頭で生活者に、新しく発売した商品に気づいてもらえるのかを、開発者だけで判断するのは簡単ではないかもしれません。新商品の開発者やそれに関わる人は、一般の生活者よりもその新商品を普段から目にしていて、知識も豊富に持っているので、「気づいてもらう」という観点ではそれらが大きなバイアスになってしまうと考えられます。初見の棚を見たとしても、その新商品を「気づく」というより、「探す」という行動になってしまうのではないでしょうか。
発売前のパッケージ評価という点では、シンプルに、自社競合を一緒にならべた模擬棚を準備し、目に留まった商品名を挙げてもらう、という定性的な調査を実施するだけで学びは多いのではないかと思います。 図3のようなお店環境を調査として再現するのは難しいと思いますが、棚全体が見えるような状態を再現して、聴取することは可能です。普段のお買い物に比べると、より注意深く棚を見ることになってしまいますが、それでも新商品に気づいてもらえないようであれば、やはり、何某かの改善が必要であると考えられます。
「気づく」に関わる学びを得る調査では、様々な工夫が必要になります。例えば、調査対象商品に注目を促してしまう情報を提供すると、対象者の行動は、「気づく」から「探す」に変わりやすくなることが考えられるためにこれを避ける、といったことも必要になってきます。
4.まとめ
第1の「真実の瞬間」、FMOTを、お店の中での生活者行動の視点から、さらに深掘りして考察しました。生活者がお店で必ず行っているのは「見つける」と「選ぶ」という行動になります。ビジネスを動かすためには、自社商品について「気づいてもらう」、それに続いて「選んでもらう」ことが必要です。新たに開発中の商品が、生活者に「気づいてもらえる」のかを、開発者自身で評価するのは簡単ではないと思いますので、生活者の意見を取り入れることをおすすめします。
今回は、お買い物行動モデルの「見つける」について書かせて頂きました。次回は、「比べる」について書かせて頂きたいと思います。
※)調査結果は、調査設計や分析手法によって大きく左右されます。「気づく」に関わる調査にご興味のある方がいらっしゃいましたら、弊社HPを通じてご連絡頂くか、営業担当までご連絡ください
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