
モータースポーツに参戦している自動車メーカーにとって、レースで戦う上で技術の進歩は非常に重要です。近年では、走行性能の向上だけでなく、カーボンニュートラルを目指して再生可能燃料の使用が進んでいます。さらに、ボディやタイヤに植物由来の天然素材やリサイクル素材を使用する試みも行われています。例えばF1では、少ない燃料でより多くのパワーを生み出すことができる効率的なハイブリッドエンジンが使用されています。これにより、燃料消費量を抑えながら高いパフォーマンスを発揮できるだけでなく、環境への負担軽減にも貢献しています。
そしてモータースポーツで培われた技術は、量産車にも反映され、生活者にとっても大きなメリットとなり得ます。
ではモータースポーツはファンが車やタイヤを購入する際に影響を与えているのでしょうか。今回のコラム第3弾では、車やタイヤを購入する時に重視する点についてモータースポーツファンとそれ以外を比較することで、モータースポーツファンの車やタイヤ購入に繋がる要素を探っていきます。
F1日本グランプリ現地観戦者と配信視聴者の特徴を探ったモータースポーツファン調査の第2弾、「F1ファンってどんな人? ~現地観戦者の特徴と、現地に行かない人の理由とは?」同様に、今年のF1日本グランプリが行われた1週間後に調査を実施しました。
まずは、現在保有している車やタイヤの購入時に「そのメーカーがモータースポーツに参戦していること」をどのくらい重視していたのでしょうか。今年のF1日本グランプリ観戦有無と、「好きなスポーツ」に関する回答から「F1日本グランプリ観戦者」、「モータースポーツファン」、「モータースポーツファン以外」に分類し、第2弾調査同様30代以下と40代以上に分けて比較していきます。
図表1
車購入時に重視していた点としては、モータースポーツファンかどうかにかかわらず、やはり「スタイルや外観」や「車両価格」、「燃費がいい」などの項目が多い傾向にあります。その中で、F1日本グランプリ観戦者、モータースポーツファンともに「モータースポーツに参戦していること」はモータースポーツファン以外と比較して顕著に多い傾向があり、特にF1日本グランプリ観戦者においては「高速走行時の安定感」や「出足加速のよさ」と同じくらい重視していることが分かります。また、F1日本グランプリ観戦者の30代以下では「乗り降りのしやすさ」や「コネクテッドサービス」といったデイリーユースのユーザビリティと同じくらい重視されています。
同様にタイヤ購入時(冬用タイヤを除く)に重視していた点を見ていきます。(図表2)
図表2
タイヤ購入時も、全体として「価格」や「メーカー」などの項目が多い傾向がありますが、車購入時同様に「モータースポーツに参戦していること」はF1日本グランプリ観戦者、モータースポーツファンともにモータースポーツファン以外と比較して顕著に多く、燃費性能やトラクション性能と同じくらい重視されています。特にF1日本グランプリ観戦者の30代以下では「モータースポーツに参戦していること」が3割を超え、価格やメーカーと同じくらい重視されているようです。
このように、F1日本グランプリ観戦者やモータースポーツファンにとって、車やタイヤの購入時に「モータースポーツに参戦していること」は運転を快適かつ効率的にさせてくれる機能と同じくらい重視されていたことが分かりました。また、車購入時よりもタイヤ購入時の方がモータースポーツに参戦していることを重視している傾向があるようです。
それではモータースポーツ観戦前後でメーカーや車への興味関心にどのくらい変化があったのでしょうか。図表3はF1日本グランプリの観戦者に対して、F1に参戦している自動車メーカーおよびその市販車に対する印象や気持ちが、観戦前と比べてどのように変化したかを質問した結果です。
図表3
F1日本GP観戦後、参戦メーカーやその市販車への興味・関心が高まった人(①)は、年代を問わず半数以上にのぼります。特に30代以下では約8割が興味・関心が高まったという結果が出ています。メーカーだけでなく、その市販車にも注目が集まっています。また、参戦メーカーの市販車を購入したいという気持ちが高まった人(③)の割合も、30代以下では約7割と、40代以上を大きく上回りました。
レース直後は感動や印象が鮮明なため、参戦メーカーへの興味がより一層高まるのかもしれません。こうした傾向は、特に30代以下の若い世代で顕著に見られます。
それではモータースポーツのどういった面が車やタイヤの購入に影響を与えているのでしょうか。その理由を探っていきます。
次の購入候補となる自動車メーカー・タイヤメーカー名と選択理由を質問し、その理由の中で「モータースポーツに参戦している」を選んだ人に対して、「モータースポーツ参戦が選択に影響を与える理由」を深掘りした結果をまとめたものが図表4です。
図表4
「エンジン性能」や「ハンドリング性能」といった運転性能の高さや、モータースポーツの技術を反映した特別な車を期待している人が多い一方で、「モータースポーツに参戦しているメーカーを所有する満足感」が車、タイヤともに約3割となりました。ファンにとってはモータースポーツに参戦しているということ自体が価値となっているようです。
また、モータースポーツで受けた感動への感謝の気持ちやモータースポーツファンとの絆を深められるといった理由も多い傾向がありました。モータースポーツという1つのスポーツを通して、ファン同士が一体となって感動を与えてくれたメーカーを応援していきたいという気持ちがあるのかもしれません。
ここまで、モータースポーツが車やタイヤの購入に与えている影響について見てきました。では具体的にどういった取り組みや施策によってモータースポーツファンはそのメーカーの車が買いたくなるのでしょうか。具体的な要素を探っていきます。
図表5
図表5は、車を購入する際にどういった取り組みがあるとそのメーカーの車が購入したくなるかを質問した結果です。各自動車メーカーが実施している一般的な取り組みとモータースポーツ関連の取り組みを混在させた選択肢で質問しました。
全体を通して、モータースポーツをベースにした限定モデルや特別仕様車に魅力を感じるようです。その魅力は限定生産による希少性や、競技で培われた性能の高さが影響していると考えられます。
昨年WRCドライバー監修のGRヤリス特別仕様車が限定発売され、最近もF1ドライバーのエステバン・オコン選手が、WRCで8度のチャンピオンに輝いたセバスチャン・オジエ選手仕様のモデルを入手したことで注目を集めました。こうした車は、ただの移動手段にとどまらず、時代を築いた名ドライバーが関わった1台を所有する満足感とともに、メーカーとの特別な繋がりを感じるのかもしれません。
F1日本グランプリ観戦者では、F1への参戦が最新の安全性能やグレードの多さと同程度となっており、特に30代以下ではF1への参戦が最も購買意欲を引き出すポイントとなりました。モータースポーツファンではWRCへの参戦が多い傾向にあります。30代以下ではSUPER GTへの参戦も多い傾向が見られました。F1に限らず、モータースポーツに参戦することは特に30代以下のファンにとってメーカー選びの際に一定の影響を与える要素のひとつとなっているようです。
今回はモータースポーツが車やタイヤの購入に与える影響について見てきました。
ファンにとって各自動車・タイヤメーカーがモータースポーツに参戦していることは、ドライビング性能に関わる機能と同じくらい重視されており、特に30代以下ではその点に関する関心がより高い傾向にあります。また、特に観戦後間もない時期は参戦しているメーカーへの興味関心のみならず、参戦メーカーの市販車の購入意向も向上していることが分かりました。
そしてモータースポーツに参戦しているメーカーの車やタイヤを所有することが1つの価値となっており、所有することで満足感を得られるとともにファン同士の絆を感じられるようです。
モータースポーツを応援することでそのメーカーに興味を持ち、車やタイヤの購入を通してメーカーに貢献し、メーカーがさらにモータースポーツに力を入れていく、そんなサイクルができ上がることでメーカー・ファンそれぞれの絆が深まっていくのではないでしょうか。そういった好循環によりモータースポーツ人気がさらに拡大していくことを期待しています。
調査地域:日本全国
対象者条件:18歳以上男女
標本抽出方法:
①ココリサを用い、鈴鹿サーキット周辺に滞在していた調査モニターを抽出しアンケート配信
②弊社モニターより抽出しアンケート配信
標本サイズ:n=10,636
調査実施時期: 2025年4月11日(金)~2025年4月14日(月)
モータースポーツファン調査第1弾 :
モータースポーツ人気復活の兆し?ファンの思いと実態を調査
モータースポーツファン調査第2弾:
F1ファンってどんな人?~現地観戦者の特徴と、現地に行かない人の理由とは?
【位置情報サービス・ココリサ】
NTTドコモの回線を利用している事前許諾を得たスマートフォンユーザーの携帯電話基地局の位置情報に基づいたデータサービスです。いつ・どこに・だれがいたかのログデータに基づいてアンケート配信対象者を抽出することにより、屋外広告の効果的な出稿計画やイベント・観光スポットの企画・集客施策の立案などを支援することができます。その際に約1,800項目の会員属性情報や、一定期間の行動ログから付与した「ジオセグメント属性」を用いたセグメント作成を行うことも可能です。
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