

外に一歩出るだけで汗がにじむような暑さが続いた今年の夏、街中で人々がそれぞれの“涼のとり方”を工夫していました。
手のひらサイズのハンディファンを手に歩く人、男女問わず日傘を差して日差しをよける人。さらに、ファン付きベストで風をまといながら過ごす姿も見られました。ひんやり感を感じられるスプレーやシート、タオルなど、店頭には猛暑を乗り超えるための様々なアイテムが続々と登場し、暑さ対策はより多様に進化しています。
今回は、インテージで雑貨業界を担当するデータアナリストが、2025年の猛暑をデータで振り返ります。
今年の夏を思い返せば、今まで以上に暑かった、異常気象だったと思う方は多いのではないでしょうか。では今年はどれだけ暑かったのか、実際に気象庁のデータで、東京を例に見ていきましょう。
図表1

2025年の夏は、過去2年と比較しても極めて厳しい暑さだったと言えるでしょう。
最高気温は6月に34.8℃、8月には38.5℃、9月にも37.0℃を記録し、3か月連続で猛暑日が続きました。この高温は全国的にも異常な水準で、地域によっては観測史上最高を更新する地点も見られました。特に8月の38.5℃は2023年、2024年を上回る結果となっています。
また、30℃以上日数は6月に13日、7月に27日、8月に29日、9月に18日を記録しました。2023年度、2024年度に引き続き、2025年度も4か月連続で真夏日が続く結果となっています。最低気温も7月20.7℃、8月23.8℃、9月17.9℃と高く、夜間も気温が下がらない蒸し暑い日が続きました。熱帯夜が多発し、睡眠不足や体調不良を訴える人が増加したことも想定されます(図表1)。
総じて2025年の夏は「 暑さの前倒し・極端な高温・長期化・夜間高温」の四重苦がそろったシーズンであり、人々の生活や消費行動に大きな影響を与えたと考えられます。私も今年の夏は日傘とハンディファンを新調し、爽快感のある汗拭きシートは常にバッグに入れて、この夏を何とか乗り切りました。
猛暑が続いた2025年夏に盛り上がった日用雑貨品は何でしょうか。今回はインテージの「冷却商品」という商品属性を用いて、データを見てみました。ここで言う冷却商品とは、商品名称または商品説明に「体を冷やす」のような冷却ワード(冷・涼・凍)を含むものになります。冷感シートや、冷感スプレーなど様々なタイプの商品が含まれます。
インテージのSRI+®データ(全国小売店パネル調査)にて、冷却商品の2024年4月~2025年3月計市場規模をみてみると、537億円となっていました。 期間を絞り、特に気温が高い2025年6月~9月の金額市場規模では380億円、前年比106%と前年同期間と比べて伸長しており、冷却商品全体で金額市場 が24年、25年と拡大しているのが分かります(図表2)。
図表2

年々暑さを更新していく日本の夏で、冷却商品の需要の高まりは納得がいく好調の動きですが、金額の市場規模の前年比を2025年6月~25年9月の月別で並べてみると2025年6月で前年比141%と、特に6月に販売が伸長する結果となりました(図表3)。
図表3

ここで気候データ(図表1)と比較してみると、2025年6月については30℃以上日数が13日と、1か月のうち2週間が30℃越えの真夏日となっており、2025年は直近3年の中で最も夏の暑さが前倒しされた年だったことがわかります。このような前倒しした暑さを緩和するため、冷却商品の需要が高まったと推測することができます。
また、冷却商品市場の中で品目別にみてみると、「化粧用紙製品」が伸長していました。これらの中には、汗を拭きとれる冷却効果のあるシート状の紙製品が入っています。梅雨明け前後から真夏日が続き、例年よりはやく暑さ対策を始める必要があったことで、前年比プラスの動きとなっていたことがわかります。(図表4)
図表4

では次に、インテージSCI®(全国消費者パネル調査)データを使って、冷却商品の購買がどのように伸長していったのかを見ていきます。図表5は、2023年~2025年の夏(6-9月)の冷却商品市場の購入率と、購入者あたり金額を示したものになります。(購入者あたり金額は、購入者一人あたりの冷却商品購入金額を示しています。購入率は、冷却商品を購入した人の割合を示します。)
図表5

黄色で表している購入者あたり金額は、2025年度の前年比は101%と大きく伸びていないのが分かります。2023年から2024年に伸長し、そこからは横ばいの傾向であると言えそうです。一方で、緑の購入率を確認すると、2025年の前年比は106%と大きく伸びているのが分かります。2025年の冷却商品市場の拡大は、一人当たりの支出額の増加によるものではなく、購入者数の増加によってもたらされたことが明らかになりました。
冷却商品市場の伸長は、「購入している人が増えたこと」が大きな理由であることが分かりました。では次に冷却商品はどのような人に買われているのか、性年代別に分けてみていきましょう。図表6は、冷却商品市場を性年代で分けて、構成比を出したグラフです。男女比は、約4:6となっており、女性のほうが冷却商品を買っていることが分かります。女性の中でも特に、女性30~50代の割合が高く、この層で全体の約40%を占めており、ボリュームゾーンであることが分かりました。
夏の間は汗によるメイク崩れを気にする女性も多いと考えられ、男性以上にこまめに汗を拭くことが多いのではないでしょうか。
図表6

では次に、ボリュームゾーンである女性30~50代を深掘りしていきます。 図表7は、女性30~50代の、購入率と購入者あたり金額を示したグラフです。どの年代も、購入率、購入者あたり金額ともに前年より伸長していることが分かりました。
年代別に見ると、女性50代では購入者あたり金額は前年を上回るものの同水準であるのに対し、購入率が前年比108%と大きく伸長しています。一方で、女性30,40代では、購入率の伸長もありますが、それ以上に購入者あたり金額が伸びていることが分かります。
図表7

女性30,40代の購入者あたり金額の伸びをさらに分解していきます。購入者あたり金額が伸びた場合、購入個数と個数単価に分けて両方の指標ともに増加しているのか、または片方の指標のどちらが増加しているのかを確認していきます。
女性30代では、購入者あたり個数が前年比104%、平均単価が前年比103%という結果となっており、どちらの指標も増加していることが分かりました(図表8)。女性40代では、購入者あたり個数が前年比106%で大きく増加したのに対し、平均単価は前年比99%で前年並みに留まりました。女性40代は昨年に比べて「個数単価が高くなったのではなく、購入個数の方をより伸ばした」ということが明らかになりました。このように、冷却商品市場のボリュームゾーンである女性30,40,50代でも年代によって、購入者が増えたのか、購入個数や個数単価に変化があったのか、それぞれの年代の購買構造の違いが見られました。
冷却商品市場拡大のカギは女性50代の購入率の伸び、女性30,40代の購入者あたり金額の伸びであると言えます。
図表8

年々、夏の暑さを更新している日本ですが、そんな暑さを乗り切るための冷却商品の市場動向や買われ方をみてきました。インテージのSRI+、SCIデータから、2025年は購入率の伸びにより市場拡大が拡大、特にボリュームゾーンの女性30~50代の購買が好調でした。
2025年は冷却商品の中で、化粧用紙製品が伸長する形となりました。冷却商品×化粧用紙製品には、例えば猛暑下でバッグに入れて持ち運べるシートタイプの商品があります。通勤時や外出先で手軽に利用できる「即効性」があり、冷感効果が加わることにより、ほてった体を同時に冷やすことできる「快適さ」も得られます。市場が拡大した背景には、このような利便性や機能がより清潔さや快適性を重視する層に支持されたのではないかと思われます。
今後の夏はまた別の品目で新たな商品が登場し、冷却商品市場の拡大を押し上げていくのでしょうか。冷却商品市場の動向に注目していきます。
各業界担当者が今年の猛暑を振り返る本記事は、今後、連載形式で全4回の掲載を予定しています。初回である今回は雑貨業界から冷却商品を取り上げましたが、今後、同じく猛暑で盛り上がった商品を「食品」「飲料」「化粧品・医薬品」のそれぞれの業界担当者の視点でピックアップしていきます。
次回は生活者のライフスタイルが色濃く表れる「食品業界」における今年の猛暑を振り返ります。次回もぜひご覧ください。
今回の分析は、以下のデータを用いて行いました。
【SRI+®(全国小売店パネル調査)】
国内小売店パネルNo.1※1 のサンプル設計数とチェーンカバレッジを誇る、スーパーマーケット、コンビニエンスストア、ホームセンター・ディスカウントストア、ドラッグストア、専門店など全国約6,000店舗より継続的に、日々の販売情報を収集している小売店販売データです。
※ SRI+では、統計的な処理を行っており、調査モニター店舗を特定できる情報は一切公開しておりません
※1 2025年6月現在
【SCI®(全国消費者パネル調査)】
全国15歳~79歳の男女70,000人の消費者から継続的に収集している日々の買い物データです。食品、飲料、日用雑貨品、化粧品、医薬品、タバコなど、バーコードが付与された商品について、「誰が・いつ・どこで・何を・いくつ・いくらで、購入したのか」という消費者の購買状況を知ることができます。
※SCIでは、統計的な処理を行っており、調査モニター個人を特定できる情報は一切公開しておりません
◆本レポートの著作権は、株式会社インテージが保有します。
下記の禁止事項・注意点を確認の上、転載・引用の際は出典を明記ください 。
「出典:インテージ 「知るギャラリー」●年●月●日公開記事」
◆禁止事項:
・内容の一部または全部の改変
・内容の一部または全部の販売・出版
・公序良俗に反する利用や違法行為につながる利用
・企業・商品・サービスの宣伝・販促を目的としたパネルデータ(*)の転載・引用
(*パネルデータ:「SRI+」「SCI」「SLI」「キッチンダイアリー」「Car-kit」「MAT-kit」「Media Gauge」「i-SSP」など)
◆その他注意点:
・本レポートを利用することにより生じたいかなるトラブル、損失、損害等について、当社は一切の責任を負いません
・この利用ルールは、著作権法上認められている引用などの利用について、制限するものではありません
◆転載・引用についてのお問い合わせはこちら