arrow-leftarrow-rightarrow-smallarrow-topblankclosedownloadeventfbfilehamberger-lineicon_crownicon_lighticon_noteindex-title-newindex-title-rankingmailmessagepickupreport-bannerreportsearchtimetw

猛暑で消費行動はどう変化した? インテージが読み解く2025年夏 ~化粧品・医薬品市場編~

今年の猛暑を振り返り、各業界市場担当が専門領域のデータを読み解く本連載。第3回目となる今回は、化粧品業界、医薬品業界において、暑い夏に特徴的な動きを示すカテゴリーを取り上げて市場をみていきたいと思います。

※前回までの記事はこちら:
猛暑で消費行動はどう変化した?インテージが読み解く2025年夏~冷却商品市場編~
猛暑で消費行動はどう変化した?インテージが読み解く2025年夏 ~食品市場編~

1.【化粧品市場】ローションタイプではない?!暑い季節に適した化粧水の形状

まずは化粧品業界からデータを確認していきます。
紫外線や汗によって肌のケアも気になる夏場。スキンケアの基本となる化粧水市場を見てみると、主流のローションタイプに加え、別の形状タイプが販売を伸ばしています。

図表1は、SRI+®(全国小売店パネル調査)データで、気温が高くなる6~9月期の化粧水市場の販売金額を形状別に示したものです。

図表1

化粧水市場のマーケットサイズ(形状別)

夏場の化粧水市場全体は、2023年に前年比111%と大きく伸びた後もプラス基調を維持しています。形状別では、洗顔後のスキンケアとして使用するローションタイプが主流である一方、顔に吹き付けて使用するスプレー・ミストタイプが成長率で存在感を高めています。スプレー・ミストは直近2年間で前年比106%から122%へと伸び、今年にかけて市場が大きく成長しているのが分かります。

市場が成長しているスプレー・ミスト化粧水の需要にはどのような特徴が見られるか、同じくSRI+のデータをもとに月ごとの販売水準を見てみます。グラフは、各月のマーケットサイズを2024年11月~2025年10月の平均値で割った“平均比”の推移を示しています(図表2)。

図表2

月別マーケットサイズの平均比推移

一般的な形状のローションは、毎日の洗顔後に使用されることが多く、年末年始の時期に増減はあるものの、年間を通じて概ね販売が平準化しています。一方でスプレー・ミストは、春から夏にかけて平均値を上回る高い販売金額で推移し、対照的に秋から冬にかけては平均値を下回るといった明らかな季節性が見られます。こうした傾向から、スプレー・ミストタイプの化粧水は、ローションタイプのように年間を通じて毎日使用される基礎アイテムとは異なり、特定の季節、特に春から夏にかけた暑さなどが影響するシーンや目的に応じて使い分けられているものと推測されます。

2.【化粧品市場】購入層の広がりがスプレー・ミスト化粧水市場の拡大を後押し

このスプレー・ミスト化粧水の市場の伸びにはどのような背景がありそうか、消費者パネルデータで見ていきます。グラフは、SLI ®(全国女性消費者パネル調査)データにおける、夏場の購入率と購入者当り金額の推移を示しています(図表3の購入率はスプレー・ミスト化粧水を購入した人の割合を、また購入者当り金額は購入者一人当りのスプレー・ミスト化粧水の購入金額を示します)。

図表3

スプレー・ミスと化粧水の購入率と購入者当り金額

購入率が一昨年から前年比118%、113%と毎年二桁伸長となっています。一方、購入者当り金額は増えていないことから、スプレー・ミスト化粧水市場の拡大は購入者の広がりによって後押しされていることが分かります。
この広がりに特徴がありそうか、同じくSLIデータで購入率の推移を年代別に確認したところ、いずれの年代でも購入率が伸びていました。特定の年代に偏らず幅広く普及が進んでいるようです。

図表4

スプレー・ミスと化粧水の年代別の購入率推移

スプレー・ミスト化粧水の主要アイテムでは、メイク後に使用してメイク崩れ(ファンデーションやパウダーがよれてしまう現象)を防ぐほか、メイク直しやメイク中の保湿ケアを目的とした製品訴求が見られます。
今夏の猛暑でも、汗や皮脂によるメイク崩れや、外出を控えたことで冷房による乾燥といった肌悩みを感じた方は多かったのではないでしょうか。こうした環境要因によって、年代を問わず、スプレー・ミスト化粧水の機能に注目する人が増えてきたことが、市場の伸びの背景にあると推測します。

これまでの結果から、スプレー・ミストタイプは一般的なローションタイプとは異なり、春夏の高温期を中心に、特定のシーンや用途で使用される“プラスオンアイテム”として需要が拡大している可能性が示唆されます。さらに、手軽さや時短といった利便性に加え、猛暑ならではの付加価値として冷却感を打ち出した製品も登場し、選択肢の広がりが市場の成長を後押ししています。 近年の気温上昇を背景に、今後も成長余地は大きいのではないでしょうか。

3.【医薬品市場】皮膚用薬で見る夏の早まり

続いて医薬品業界の夏に売れるカテゴリーをみていきましょう。夏場は、強い紫外線や肌ケアの観点で皮膚用薬の「湿疹・皮膚炎」が注目されるほか、蚊などの害虫が活性化し、「虫さされ」関連商品の需要が高まります。昨今の猛暑で、これらのカテゴリーの販売傾向に変化は起きているのでしょうか。
インテージの SRI+ データにて、まずは「湿疹・皮膚炎」対策で使用される皮膚用薬の5~9月の市場規模を確認します(図表5)。

図表5

皮膚用薬(目的:湿疹・皮膚炎)のマーケットサイズ

市場規模は毎年5%のペースで拡大しており、2025年は約168億円となりました。皮膚炎になる要因については、近年の猛暑に伴う強い紫外線や汗の他、冷房の効いた施設内ですごす時間が増加し、肌が乾燥しやすい環境になっていることも一因かもしれません。

一方、「虫さされ」対策の皮膚用薬の5~9月の市場規模を見てみます(図表6)。コロナ禍からの回復期である2023年に大きく販売金額が伸びましたが、直近3年は145億円前後で横ばいになっています。

図表6

皮膚用薬(目的:虫さされ)のマーケットサイズ

ここで、2023年から2025年の虫さされ薬販売データを、月別に分解してみます(図表7)。最も販売金額が大きいのは7月ですが、段々とボリュームゾーンが6月にシフトしてきていることが分かります。これはいったいなぜでしょうか。

図表7

皮膚用薬(目的:虫さされ)の月別マーケットサイズ

その要因として考えられるのがまさに今年の猛暑で、特に6月は例年と比べて暑さが際立ちました。東京で6月に平均気温が25℃を超えた日数を数えると、2023年の8日、2024年の7日と比べ2025年は15日とおよそ倍の日数を記録しています(図表8)。また、2024年は6月の25℃以上の日数はやや少ないものの、20~25℃の日が現れる時期が早く(図表9)、販売データを見ても、5月においては2024年の方が上回っています。

図表8

平均気温25℃以上の日数(東京)

図表9

平均気温20℃以上25℃未満の日数(東京)

以上のように、2025年は暑い季節が早く始まったため、虫、特に蚊の活動時期も例年より早まり、虫さされ対策を早い時期から始める方が多かったのではないでしょうか。実際、気温が25℃~30℃のときに、蚊が活発に活動すると言われます。参考として、対象虫種別を「蠅・蚊」に絞って殺虫剤の販売金額を確認すると、虫さされ薬と同じく2025年は6月の伸びが顕著でした(図表10)。

図表10

殺虫剤(対象虫種別:蝿・蚊)の月別マーケットサイズ

連載第1回で、6月の冷却商品の好調さをお伝えしましたが、虫さされ薬で見ても、2025年の6月はもはや夏と言って差し支えない1か月だったことが分かります。最近では、7~8月はあまりにも暑く、蚊や蝉をあまり見なくなったように思います。今後もこの傾向が続けば、かつて夏と捉えていた気温帯は6月にシフトし、虫さされ薬の販売ピークもいずれは6月になるのではないでしょうか。

4. おわりに~変化を映し出すパネルデータ

これまで3回にわたり、データを通じて今年の猛暑が各市場に与えた影響を分析してきました。
各業界では今年特有の動きが確認され、とくに夏到来の早期化が購買・消費行動に影響を及ぼしていることが明らかになりました。また、年々厳しさを増す気温上昇に対し、消費者行動が変化し続けている様子も、各種データから確認できます。

こうした変化を過去のトレンドと比較して捉えられるのは、継続的なデータ収集を行い、比較可能な形で整備を行っているインテージのパネルデータの強みです。今後もパネルデータを通して、市場に起きている様々な変化をお届けしていきます。


今回の分析は、以下のデータを用いて行いました。

【SRI+®(全国小売店パネル調査)】
国内小売店パネルNo.1※1 のサンプル設計数とチェーンカバレッジを誇る、スーパーマーケット、コンビニエンスストア、ホームセンター・ディスカウントストア、ドラッグストア、専門店など全国約6,000店舗より継続的に、日々の販売情報を収集している小売店販売データです。
※ SRI+では、統計的な処理を行っており、調査モニター店舗を特定できる情報は一切公開しておりません
※1 2025年6月現在

【SLI®(全国女性消費者パネル調査)】 全国の15~79歳の女性約4万人の消費者から継続的に化粧品やヘアケア用品、下着などといった美と健康に関連した買い物情報を収集し、蓄積したデータベースです。「誰が・いつ・どこで・何を・いくつ・いくらで、購入したのか」という消費者の購買状況を知ることができます。
※バーコードがない商品に関して仮コードをセットすることで、ネットや通信販売系の商品も集計可能です。 ※SLIでは、統計的な処理を行っており、調査モニター個人を特定できる情報は一切公開しておりません

関連記事

猛暑で消費行動はどう変化した?インテージが読み解く2025年夏~冷却商品市場編~
猛暑で消費行動はどう変化した?インテージが読み解く2025年夏 ~食品市場編~

著者プロフィール

武澤 潤 プロフィール画像
武澤 潤
株式会社インテージ データマネジメント事業本部 リテールデータマネジメント部

2024年に大学卒業後、インテージに新卒で入社。
「SRI+(全国小売店パネル調査)」の運用担当として品質維持管理や、新規サービス開発に携わる。

株式会社インテージ データマネジメント事業本部 リテールデータマネジメント部

2024年に大学卒業後、インテージに新卒で入社。
「SRI+(全国小売店パネル調査)」の運用担当として品質維持管理や、新規サービス開発に携わる。

著者プロフィール

水島 美紀子
大学卒業後、インテージに入社。小売店パネル調査(SRI+)で品質管理や新規サービス開発に従事後、
消費者パネルのモニター管理業務を経て、現在は女性消費者パネル調査(SLI)のサービス企画・運用を担当。

大学卒業後、インテージに入社。小売店パネル調査(SRI+)で品質管理や新規サービス開発に従事後、
消費者パネルのモニター管理業務を経て、現在は女性消費者パネル調査(SLI)のサービス企画・運用を担当。

転載・引用について

◆本レポートの著作権は、株式会社インテージが保有します。
 下記の禁止事項・注意点を確認の上、転載・引用の際は出典を明記ください 。
「出典:インテージ 「知るギャラリー」●年●月●日公開記事」

◆禁止事項:
・内容の一部または全部の改変
・内容の一部または全部の販売・出版
・公序良俗に反する利用や違法行為につながる利用
・企業・商品・サービスの宣伝・販促を目的としたパネルデータ(*)の転載・引用
(*パネルデータ:「SRI+」「SCI」「SLI」「キッチンダイアリー」「Car-kit」「MAT-kit」「Media Gauge」「i-SSP」など)

◆その他注意点:
・本レポートを利用することにより生じたいかなるトラブル、損失、損害等について、当社は一切の責任を負いません
・この利用ルールは、著作権法上認められている引用などの利用について、制限するものではありません

◆転載・引用についてのお問い合わせはこちら