
前回は、プレママさんにフォーカスし、“この先必要とされることになる”と予想されてるテーブルチェア、チャイルドシート、ベビーバギー、加えて抱っこ紐などを例に、それぞれが手に入れられるまでの気持ちスイッチと行動スイッチの入り方を追いかけてみた。
どれもそれをゲットするまでのスイッチの連鎖が異なっており、物語の帰結の仕方が違っていることが見てとれた。そして最後に「それぞれの『生活文脈』を丁寧に追いかけていかないと、それぞれの選択から購入までの使い分けにある本当のことを見落としてしまうことになる」と述べた。
それぞれの気持ち、行動スイッチの入り方という「生活文脈」が異なっていることがポイントといえるのだが、エピソードとしてみれば、「生活文脈」という物語の展開の仕方と帰結は理解いただけるかと思う。
この「生活文脈」を整理するにあたっての鍵は、時間軸と空間軸の設定である。言い換えれば「生活文脈」を構成する必須の要素ということになる。時間軸と空間軸という整理の視点から、この物語のインサイトをつかみだしていくことになる。分析メソッドの因子という言い方もできる。
時間軸としてみれば、このスイッチは数日から1ヶ月以上の中で、時折現れてくるものである。さらに、実際に活用されるであろう時間軸の設定が半年以上先のものもある。そしてその時の気持ちスイッチのあり方には、生涯時間価値というような途方もなく長い時間の設定にされることもあったりもする。
最終スイッチのおされ方には、そのモノの2代目、3代目としての価値転移という気持ちこそが、行動スイッチを押すことになることもある。あるいは自分一代で使い切るという時間軸こそが、鍵になった場合もある。
さらにその文脈には、空間軸という要素が関与する。 店舗で体感したり、実際に取りに行ったりというような生活動線の差が存在している。この2つを丁寧に追うことで「生活文脈」の重要な要素を把握できることになるのだ。
プレママさんの子育て準備グッズを例にしたので、時間軸をある意味最大化してみることができたのだが、日常の時間軸はもっと短い単位で動いている。
1日24時間というスケールの中での連鎖である。この時間の連鎖という視点こそが、時間軸を「生活文脈」につなげていくための最大のメソッドだといっていい。
ここで、ある1日の中での午前中という短い時間帯の中での時間軸の連鎖を例としてあげてみる。すでにこの連載で何度も述べてきたように食シーンはこの連鎖の中でしか解けないのである。
間もなく40歳を迎えることになる女性のある午前中の食シーンの連鎖を紹介する。
まずは午前7時に、「朝ごはん前の朝おやつ」が登場する。
カフェオレ、バナナ、まんじゅうにあられが並んでいる。見ようによってはこれで十分に朝食シーンだととらえることもできそうだが、彼女の中では「朝おやつ」なのである。 ということは、この後に朝ごはんなるものが登場することになるはずだ。
そして10時前後にその通りの朝ごはんを食べることになる。
彼女が記載してくれたメニュー名は「このあいだの鍋の残りでもやし炒め、焼いた肉、冷凍ごはん、作り置き酢の物、人参しりしり、高菜、麦茶。」ということである。非常に全体最適感が完備された理想的な朝定食にみえる。
仮に、この朝ごはんが午前7時に登場し、そして午前10時に7時に食べた「朝おやつ」が食べられていれば、朝食と間食という標準型としての理解が成り立つ訳だが、実際の順番は逆で、そうはなっていない。
そしてこの午前10時の朝ごはんを終えた後に「食後のおやつ」ということでチョコチップクッキーを食べている。
つまり、すでに午前10時半にして3回の食シーンがあったのだ。
この方はこの後、昼前にアイスクリームを食べることになる。時間帯とアイテムだけをみてしまうと、ランチがわりにアイスクリームが選択され、簡単な手抜き的な昼ご飯をすませたということになってしまう。
時間軸を整理する時に最も重要なことは、その時間の連鎖の中でどのようなスイッチが押されていくことになったかということだ。この連鎖を見なければ、典型的な朝食時間帯はカフェオレ、バナナ、プラスまんじゅうとあられでの簡単ブレックファストだったということで終わりになってしまい、逆に午前10時の朝ごはんは謎のままに7時の「朝おやつ」を見なければ、朝食の時間が想像される一般的な朝食時間との単なるズレということで済まされてしまうことになる。
つまり、もはや固定概念である「時間」で「何」ご飯かを判断するのは、間違った認識を生んでしまうことになりかねないのだ。
実は、この日の午前中での彼女の気持ちスイッチの入ったモノは昼前に食べようと思っていたアイスクリームだった。エモーショナルな意味での「時間の連鎖」を支配していたのは、アイスクリームを食べるということまでのスイッチの予測と実際の行動スイッチの入り方だったといえる。この全体最適感の高い「朝定食」はむしろエモーショナルな価値としては、別の意味性を持っていたのだ。その意味とは、「今日はアイスも食べたいから米と野菜食べて一応罪悪感を消そうと思っている」ということだったのである。
さて、ここでいう「罪悪感」を消すとは何に対してだろうか? 答えは、まんじゅう、バナナ、アイスクリームこそが食べたい、とりわけ「アイスクリームを食べるぞ」という、いわゆる「アイス脳」に対しての罪悪感だ。頭も身体もお菓子とアイスというものが支配し、それがエモーショナルな価値、気持ちスイッチを押していたといえる。つまり、野菜たっぷりの「朝定食」は、この気持ちスイッチを行動につなげるためにこそ、選択されていたものだったといえる。
この女性は結果として、午前中という時間帯に4回の食機会があったことになる。なお、この1日という区切りの中では8回の食機会があった。当然ながら夕食シーンはライトであり、寝る前にマヌカハニーいりヨーグルトを食べただけだ。いずれにせよ、1日6~8食以上の喫食シーンが登場するというパターンであった。
このことから、主食、古い言い方をすれば朝、昼、夜の3食プラス間食が1~2回という食のあり方は大きく変化したということがいえる。
この変化の理由の1つが、この日の彼女の午前中の時間の連鎖で明らかなように、いわゆる主食の位置にある朝食の価値が大きく低下していることだ。むしろ間食と呼んでいた食シーンやモノの方が、圧倒的に気持ちスイッチのメインであり、行動スイッチを押すことになっているからだ。もはや「間食」とは言えないのである。
「生活文脈」を構成する因子である時間軸を連鎖という視点でみていくことこそが、この価値の変化の把握につながるといっていい。例えばこの日の彼女の朝ごはんは、理想的な全体最適性の高い構成になっているが、基本は残り物の効果的な活用ということである。
もう一つ「生活文脈」を構成する因子である空間軸という点でみれば、この日は在宅であるという点で生活動線の移動や変化はほとんどない。
ただ別の微細な空間的な視点でみれば、この朝ごはんを構成している野菜料理の残り物というアイテムたちの住まいは基本的に冷凍庫なのである。その視点でいえば家庭内空間の中で冷凍庫というものを基点にして、食べられるモノの側の生活動線が組み立てられている。
もやしと肉の炒め物は、最後は加熱調理という動線を通ってはいるが、やはり基点は冷凍庫ということになる。そして、この日のエモーションの基本価値になっていたアイスクリームも冷凍庫という同じ空間動線を通ることになっていた。
こんな空間軸の視点を加味することで、より「生活文脈」がとらえ易くなる。
いずれにせよ時間軸と空間軸という因子の把握が「生活文脈」追跡の基本メソッドである。加えてその連鎖、連続性という視点が不可欠だといえる。
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