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暮らし先読み、後読み予報~生活リズムの予兆を<n=1>からみる(19)暮らしへの「非言語的」アプローチ

行動観察からシーンを蓄積する

今回はこれまで連載で述べてきたことを、全く違った視点から整理し直してみよう。

これまで私が気づきや仮説としてキーワード化してきたことは、ほぼすべて「非言語的」アプローチによるものだ。

よく定量データによるアプローチに対して、定性的なデータアプローチという言葉を聞く。しかし、定量であろうが定性であろうが、どちらにせよそれは「言語的」アプローチのバリエーションにすぎない。私は「言語的」アプローチで暮らしの変化を見てきた訳ではない。

どのような設計をするにせよ、質問や聞きたいことは、言語によって構成されるものである。それに対する暮らしの側からの解答も基本的に言語で行われることになる。その解を統計的に数量化したものが定量データだ。さらにフリーアンサーというものをAIなどによって数量化したとしても、それはすべて「言語的」アプローチであり、「言語的」データということにすぎない。数字というものは「言語」の最もシンプルなものなのであると言える。

定性的なアプローチも同様に、ほとんどが言語的なやり取りと追跡ということになる。これが少ないサンプルで丁寧に様々に突っ込んでヒアリングがされたとすれば、さらに「言語的」アプローチの典型になる。仮にホームビジットなどで観察的なアプローチがあったとしても、ほとんど「言語的」アプローチで終止しているといっていい。

しかしながら、この連載でほぼ一貫している暮らしに対するアプローチは「非言語的」アプローチなのだ。定量か定性かという区分は特にない。行動観察によって「非言語的」アプローチを行い、暮らしのシーンというものの蓄積からこの連載は成り立っている。

行動軌跡をシーンとしてみる

「非言語的」アプローチは、シーンの蓄積を目的としたものである。そして、シーンというものは視覚的要素によって構成されたものである。

大半は生活者自身が写真などによって記録したもので、暮らしの中の特徴的なワンシーンが映像的に蓄積されたものである。行動している瞬間を共有することは無理があるので、行動者自身がフォトハンティングしたものを共有している。言い換えれば、「直接」観察に代わって、写真や映像を通して「間接」観察しているといっていい。たとえば食シーンや外出シーンなどといったことがその典型になり、無意識も含めて暮らしの中で起こった行動軌跡を保存していることになる。

この視覚的な観察というアプローチは、もともとは観察者と非観察者が同一の時間と空間を共有することで成り立っていたものだった。文化人類学や社会学などで行われてきた方法はこれだったが、間接的観察ということも当然重層化されて行われてきていた。

たとえば民俗学や考古学的なアプローチの中には、同一時間の共有は不可能なので、行動軌跡の残余物や遺物というものに対する視覚的アプローチの比重が大きくなる。視覚に加えて聴覚や触感、嗅覚といった五感に近いものを総動員することもある。

また、フォトハンティングを行うための道具が自由に使えなかった時代には、スケッチなどの方法も駆使されていたが、デジタル環境の発達は、この「非言語的」アプローチとデータの蓄積を飛躍的に容易にしたともいえる。デジタルテクノロジーというものが、「言語的」アプローチにますます偏重しているが、むしろ「非言語的」アプローチとデータの蓄積に活用できるといっていい。

シーンの構成因子「TPOPP」

暮らしというものに対する「非言語的」アプローチは、ある意味生活を「言語」というものを可能な限り介在させずに、視覚的に把握するということになる。蓄積され把握され、それを観察し気づきや仮説を生みだす源泉は、視覚的シーンということになる。

この視覚的に形成されたシーンというものには、基本的な構成因子というものがある。このことはこの連載の14、15回で「生活文脈」の因子ということで少し触れたことがあるが、TPOPPという整理ができるものだ。

シーンは時間(Time)という鍵で形成され、同様に空間(Place)という基軸を持っている。食シーンでいえば、どんな時間帯にどんな場所で形成されたものであるのかということになる。さらにオケージョン(Occasion)というもので、その前後と背景の流れの帰結点としてシーンが現実化される。

どんな季節や天候やどんな社会催事に接続されたものであるのかが、そのシーンの現実化を促進させることになる。

これに加えてモノやサービス(Product)がこのシーンを成立、援助したかということであり、その時の無意識を含めた心理(Psychology)がそのシーンの意味や価値を裏づけていることになる。

こんな因子で構成されているシーンを観察するには、この5つを鍵にして見直すことで気づきを得ることにもなるのだ。これらの要素を流れとしてみることで、あるシーンの生活動線の中での出現方法や、シーンの連続から生活文脈という暮らしの全体像を感じとることができるといってもいい。

イケアとコストコの意味

「言語的」アプローチではなく、このような「非言語的」アプローチを行うことによって、暮らしの中の事実(ファクト)というものに初めて出会うことになるし、「言語的」データでは類推のつけようのない暮らしの現実というものに出会うことにもなる。

「非言語的」アプローチによる暮らしの中のシーンの具体像は、これまでもこの連載の中で写真として紹介してきた。

また今回も、2つの写真から「非言語的」データとしてのシーンを観察してみることにしよう。

まずは1枚目だ。この30代後半の夫婦と新生児の家族の夕食シーンからはどんな気づきを得ることができるだろうか。定量、定性データからこの食シーンにアプローチをすれば、生野菜のサラダに、ちょっとこげた焼き魚、ポテトサラダなどの総菜二品に白いごはんで構成された手作り中心のちゃんとした食シーンを想像することになる。

あえて想像という言葉を使ったのは、この「言語的」スケッチは、あくまで想像に過ぎないからだ。実際の「非言語的」データとしての事実としての食シーンとは似て非なるものである。

たとえば生野菜のサラダというとどんなシーンを想定するだろうか。言語というものはある意味多義的であることから、事実という一義的なシーンには一致しない。ボールに入ったままテーブルに並んでいるサラダ、そして主食は白いごはんということで、何か典型的な食卓を想像するのだろうか。でもシーンという「非言語的」データを観察すれば、この白いごはんは冷蔵保存されたタッパーのまま食卓に登場していることがわかる。そしてポテトサラダなど惣菜2品は冷蔵庫用の保存容器そのままで登場しているなど、ここからはノープレート化した食シーンという気づきのキーワードが浮上してきたりするのだ。

さらに、2つめの夕食シーンを紹介しよう。

これは、夫婦と子供二人の夕食シーンである。これを「言語的」アプローチをするとどう説明されるのだろうか。なかなかのごちそうの並んだ食シーンに尽きるのではないか。ただ「非言語的」データとして観察してみると、冷蔵保存容器にメニューが入っており、ワンプレート化した食シーンの典型ということになる。

この食シーンを作りだしているProductはハンバーグであり、にんじんしりしりであるという視点でも見ることができると同時に、イケアのガラスの保存容器がフル活用されているという気づきがある。保存容器という機能は当然として、暮らしの実際のシーンの中ではこれらは「食器」なのである。

このように、「非言語的」アプローチこそが、変化の発見、気づきと仮説の宝庫なのだ。

著者プロフィール

マーケティングプロデューサー 辻中 俊樹(つじなか としき)プロフィール画像
マーケティングプロデューサー 辻中 俊樹(つじなか としき)
青山学院大学文学部卒。日本能率協会などで雑誌編集者を経て、マーケティングプロデューサーとして現在に至る。
暮らし探索のための生活日記調査を開発、<n=1>という定性アプローチを得意とする。
インテージクオリスが運営するYouTube”Marke-Tipsちゃんねる”でも、
生活者視点、n=1視点での気づきを語っている。
代表的な著作としては、
「団塊ジュニア――15世代白書」(誠文堂新光社) 
「母系消費」(同友館)
「団塊が電車を降りる日」(東急エージェンシー)
「マーケティングの嘘」(新潮新書)
最新刊は「米を洗う」(2022年3月 幻冬舎)
など編著書は多数。

青山学院大学文学部卒。日本能率協会などで雑誌編集者を経て、マーケティングプロデューサーとして現在に至る。
暮らし探索のための生活日記調査を開発、<n=1>という定性アプローチを得意とする。
インテージクオリスが運営するYouTube”Marke-Tipsちゃんねる”でも、
生活者視点、n=1視点での気づきを語っている。
代表的な著作としては、
「団塊ジュニア――15世代白書」(誠文堂新光社) 
「母系消費」(同友館)
「団塊が電車を降りる日」(東急エージェンシー)
「マーケティングの嘘」(新潮新書)
最新刊は「米を洗う」(2022年3月 幻冬舎)
など編著書は多数。

Marke-TipsちゃんねるURL:https://www.youtube.com/channel/UCmAKND92heGN-InhC0sp7Kw

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