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生活者インデックスデータ

暮らし先読み、後読み予報~生活リズムの予兆を<n=1>からみる③~「あげもら」の連鎖とパンの居場所

マーケティングプロデューサーの辻中俊樹が<n=1>を通して得られた暮らしの文脈を可能な限り共有するために可視化・物語化していく連載企画。 第3回の今回は、第2回で紹介した電動ママチャリで爆走し、コインランドリーと高級パン屋を巡ったママの行動を深掘りし、背景にある価値観に迫る。

乾燥という時間の価値

電動ママチャリの爆走シーンの典型の一つとして、前回はコインランドリーから高級食パンのはしごという生活動線を紹介した。この生活動線という文脈は、暮らしを読み解く時の大切な鍵になる。電動ママチャリとコインランドリーと高級食パンという、一見無関係にみえる行き先は、実はママたちの中では、朝からの気分の連鎖の中で積極的につながっているものだ。エモーションといってもいいが、暮らしの中でのポジティブな因子が連続しているから、こんな動線が形成されているのだ。

快晴の青空が広がっている土曜日の朝、いつもよりは少しゆったり気分で始まる。すでに3回は洗濯機をまわしたし、日当たりのいいベランダにたまった洗濯物を干し終わったので気分は上々である。金曜日は、保育園の子供も小学校の子供も大量の洗い物を持って帰ってきている。給食当番のエプロンやタオル類、そして体操着など、保育園で使っているタオルケットや一週間の汚れ物などがたんまり。大半は干し終えたが、大判のタオルケットなどはもう干せないし、バスマットやキッチンマット、ついでに防寒用のストールやチャリ用の雨用品などもまとめて乾燥を終えてすっきりさせたいのだ。

電動ママチャリのリアシートにこれらの荷物を積んで、午前中の早い時間にコインランドリータイムを済ませたいのだ。今日はパパも休みだから「チビたちはよろしくね」という具合にさっそうとママチャリ乗り込み、爆走を開始する。その気分をサポートしてくれるのが、ハワイ土産の大型のエコバッグだ。アゲアゲの気分をさらに上げてくれるし、大量の荷物を入れても大丈夫なようにビッグサイズなのだ。

コインランドリーの重要な便利さの一つが、短時間で一気に乾燥までが済ませられることだ。天気がよくてよく乾くとはいっても、大判のタオルケットやバスマットが乾くのは一日がかり。その間はお日様任せとはいえ、何となく気がかりでもありすっきり気分にならない。この一気に片がつくという時間の価値と、完全な清潔な乾燥が終えられるということがコインランドリーの最大のベネフィットである。

高級食パンの行く先は?

この小一時間ほどの待ち時間の間に、ママチャリはちょっと足を伸ばした場所にあるブーランジェリーに向かう。日常的な通勤などの生活動線には絶対に入ってこない立地条件だが、この気持ちいい気分の連鎖の中では積極的な動線に入ってくる。おまけに天気もいいことが、さらに気分を後押しすることになる。

そんな動線の中、高級食パン2斤を購入し、もう一軒のパン屋さんの自慢のクロワッサンやバゲットを買いこんで、すっきりと乾いた洗濯物と一緒に電動ママチャリは昼前には家に向かっている。まだ正午前なのにこれだけ済ませられた達成感もあり、ランチは買ってきたクロワッサンとバゲットを使ったサンドを家族と楽しむことになるのである。いつもとは趣向を変えて、バゲットをベトナム風にバインミーにしてみたら、子供たちにもとても喜ばれたりするのだ。たまにはこんな幸せ感があってもいいだろう。エモーショナルな連鎖が生んだ生活動線が生みだすことのできた生活シーンなのである。

さて、ランチは食欲があふれていたとはいえ、クロワッサンもバゲットもまだまだ残っているし、何しろ2斤もある高級食パンは手つかずのままである。だが、この気分の連鎖による生活動線は、たくさんゲットした高級食パンをうまく活かすつながり方をしていくことになる。ランチを終えたママは「ちょっと〇〇さんの家に行ってくるからね」ということでお出かけをすることになる。小学生の上の子の同級生のママ友なので、上の子は一緒に行くことになるが、下の子は「パパよろしく」ということである。

「あげもら」の繰り返し

「今朝コインランドリーに行ってnichinichiに寄ってきたよ。これ少し食べてよ。」
「えっ本当に。私も洗濯すごいのよ。コインランドリー行きたかったなあ。あらあ、この食パン久しぶり。すっごいおいしいよね、ありがとう、うれしい」
「欲しいだけ切ってね」
というシーンが、エモーショナルな生活動線としてつながっていくのだ。昔風にいえばおすそ分けともいえる。中元、歳暮などでイメージするギフトや贈答とは異なり、極めて日常感覚の中での「あげたりもらったり」。私は日常の中の「あげもら」の連続と呼んでいるのだが、こんな気分のつながりには高級食パン1/4斤くらいがピッタリである。食べきれなかったクロワッサン2個だって、この「あげもら」にジャストフィットしているのだ。お世話になっているので、という儀礼としてのわざわざの贈答ではない。ママ友たちの日常的な「あげもら」の連鎖はカジュアルなのである。

もらった側からは「昨日チキンカツをたくさん作っちゃったので持って行って」というような「あげもら」が繰り返されている。この写真からはギフトとか儀礼的な気分はどこにもないことがありありとわかる。

「ありがとう。ちょうどうちもシュウマイを作ったんだ。持ってきてる」という具合に、ある種の物々交換に近いところに「あげもら」がある。ただし、働いているママ同士なので、時折がんばって手作りしてみたので「食べてみて」といった気分がその裏にはある。これも昔話に近いのかも知れないが、下町や商店街のような地域では、煮物をたくさん作ったのでおすそ分けするといった場面がたくさんあったのである。これと近い感覚で日常的な「あげもら」は繰り返されている。こんな気持ちの延長線上に、クロワッサン2個も高級食パン1/4斤もポジションしているのだ。

パンの居場所は冷凍庫

もう少し広げてみれば、子供たちが着ていた服や靴なども「あげもら」されている。彼女もあと5年くらいたつと、愛用のママチャリがいらなくなることも予測している。ここにも「あげもら」が広がっていく予感がする。
さて、この高級食パン1/4斤とクロワッサン2個をもらった側も、まだ半分以上の高級食パンを保持している彼女も、これらのパン類を一体どうするのだろうか。そんなにすぐ食べる訳でもないだろうし、もらった側は実は昨日たくさんパンを買っていたかも知れないのだ。そうなればこの「あげもら」で動くことになった高級食パンは迷惑の塊ということになってしまう。
しかし心配しなくても大丈夫なのである。それは彼女たち自身の暮らしの中での生活リズムが、お互いに熟知されているからである。この二人のママは共に、パンはすぐに食べるか食べないかにかかわらず、まずは冷凍庫に入れるというリズムと習慣を持っているからだ。そうでなければこのパンたちは厄介者にすぎなくなってしまう。家に戻ってきた彼女は、この高級食パンをまずカットして、丹念にラップをして冷凍庫に入れる。この処理もまた生活の中の楽しみの一部なのである。

著者プロフィール

マーケティングプロデューサー 辻中 俊樹(つじなか としき)プロフィール画像
マーケティングプロデューサー 辻中 俊樹(つじなか としき)
青山学院大学文学部卒。日本能率協会などで雑誌編集者を経て、マーケティングプロデューサーとして現在に至る。
暮らし探索のための生活日記調査を開発、<n=1>という定性アプローチを得意とする。
インテージクオリスが運営するYouTube”Marke-Tipsちゃんねる”でも、
生活者視点、n=1視点での気づきを語っている。
代表的な著作としては、
「団塊ジュニア――15世代白書」(誠文堂新光社) 
「母系消費」(同友館)
「団塊が電車を降りる日」(東急エージェンシー)
「マーケティングの嘘」(新潮新書)
など編著書は多数。

青山学院大学文学部卒。日本能率協会などで雑誌編集者を経て、マーケティングプロデューサーとして現在に至る。
暮らし探索のための生活日記調査を開発、<n=1>という定性アプローチを得意とする。
インテージクオリスが運営するYouTube”Marke-Tipsちゃんねる”でも、
生活者視点、n=1視点での気づきを語っている。
代表的な著作としては、
「団塊ジュニア――15世代白書」(誠文堂新光社) 
「母系消費」(同友館)
「団塊が電車を降りる日」(東急エージェンシー)
「マーケティングの嘘」(新潮新書)
など編著書は多数。

Marke-TipsちゃんねるURL:https://www.youtube.com/channel/UCmAKND92heGN-InhC0sp7Kw

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