消費財の値上がり実態と生活者の家計防衛術
原材料価格や物流費の高騰を受け、食品・サービスなど幅広い分野で値上げの動きが広がっています。外国為替市場では約20年ぶりの円安水準となり、輸入品の物価上昇による食品や雑貨をはじめとした生活必需品の一層の値上がりも懸念されており、円安が家計をさらに圧迫する可能性も色濃くなってきました。
値上がり品目は食料品を筆頭に電気・ガス・水道などの暮らしの固定費にも及んでいます。そうした中、大手スーパーが「プライベート・ブランド(PB)の食料品、日用品5,000品目を6月30日まで値上げしません」と全国紙の全面広告を展開し、値上げトレンドになんとか抗いたいという想いを発していました。 では、実際に店頭における販売価格はどのように変化しているのか、インテージ小売店パネルデータで見ていきましょう。
目次
1. じりじりと上がり続ける食品価格~食用油・小麦の価格上昇
ニュースなどでも報道されているように特に値上げが激しかったのは食用油関連の商品でした(図表1)。2021年に大手メーカー各社が4度の値上げを行ったこともあり、昨年6月以降の店頭販売価格は大幅な値上がりが続いています(赤文字部分)。キャノーラ油は特に値上がりが大きくなっており、昨秋からは前年同月比で120%以上、今年3月に入ってからは151%にまで急騰しています。また、サラダ油も昨年9月~12月は前年同月比120%以上となっており、高止まりの状態が続いています。原材料に油を多く使用しているマヨネーズは昨年7月から10%ほど、マーガリンも昨年10月から5%以上高い状態が続いており、食用油高騰の影響が強く反映された状況になっています。
図表1
輸入小麦価格も高騰しています。小麦は国内消費量の90%近くを輸入に頼っていることから、長らく安定した価格が続いていた食パンも今年に入ってから値上がり感が顕著になってきました。2018年からの推移では1斤あたりの価格は133~134円と動きはありませんでしたが、2022年1月は141円、2・3月は144円と徐々に値上がりの様相を見せています(図表2)。
図表2
小麦粉も今年3月は105%となっています(図表1)。3月9日に農林水産省が政府売渡価格を改定して、輸入小麦価格の引き上げを発表するに至りました。現在の算定方式となった2007年以降では、08年10月に次ぐ過去2番目の高値水準となっています。当初は干ばつによる北米産の不作などが主たる背景にありましたが、ロシアによるウクライナ侵攻も今後の不安要因となりそうです。両国は合わせて世界の小麦輸出量の3割弱となっていることから、今後も値上がり傾向が続くものと思われます。その他、今年3月はそばやスパゲティーが5%程度、店頭販売価格が上昇しています。
食パンをはじめとした主食系食品の値上がりは長期的な動きになりそうなことから、私たちの食卓に長く暗い影を落とすことになりそうです。
2. 「食パン」にみる生活防衛~プライベート・ブランドを味方に
次にじりじりと値上がりが続いている食パンについてインテージの消費者パネルデータ※を見てみましょう。スーパーマーケットにおける食パンの購入経験について「プライベート・ブランド(PB)の食パン」の割合を女性20~70代に限定して集計してみたところ、さまざまな食料品の値上がりが目立ち始めた2021年10月から2022年2月において、PBの割合が増えており、PBシフトが起きていることがわかります(図表3)。各年代ともにPBの割合が増えており、上昇する食料品の支出に対して、リーズナブルなPBを上手に取り入れてやりくりしている様子が浮かんできます。
図表3
3. 値上がり意識と暮らしの工夫~買い控え・節約
最後に値上がりに関する生活者の意識や暮らしにおける工夫を自主アンケートの結果から見ていきましょう。
値上がりを感じているものを尋ねたところ、「食料品」が最も高く、7割の方が値上がりを実感しているようです。以下「ガソリンなどの各種燃料(59%)」「電気・ガス・水道などの公共料金(47%)」「日用品・消耗品(37%)」と続いています。性別でみると女性の方が多くの品目で値上がりを実感している割合は高くなっており、食料品については特に高くなっています。日常の買い物を通じて、日々、実感を深めているようです(図表4)。
図表4
さらに、値上がりを感じて買い控えや節約をしている品目について尋ねたところ、「電気・ガス・水道などの公共料金(28%)」や「「ガソリンなどの各種燃料(24%)」が高くなっており、暮らしにおける固定費をできるだけ抑える工夫をしている様子が浮かんできます。また、「食料品(26%)」も高くなっており日常の食卓にも買い控えや節約の影響が強くなっているようです(図表5)。
図表5
そして、最も値上がりを感じていると考えている「食費」の節約に関する取り組みを尋ねたところ、半数近くの方が「ポイントカードなどを利用(48%)」をあげていました(図表6)。ポイントなどを利用して「貯める・使う」を上手に行いながら買い物をしている様子が浮かびます。次いで「クーポンを利用(40%)」「チラシなどを参考にして特売品を購入(33%)」が続いています。買い物の際には事前にクーポンの有無やチラシの特売情報などをしっかりと確認することで、できるだけ安く購入する工夫をしているようです。また、「まとめ買い(24%)」「タイムセール(18%)」、さらには食パンの際に節約の工夫のひとつとして傾向がみられた「プライベート・ブランドの購入(18%)」も多くなっているようです。そして、5人に1人は「業務用スーパーなど大容量・安売店を利用(20%)」をあげていることから、利用店舗・利用チャネルの使い分けも起こっているように映ります。
図表6
このように様々な工夫により、値上がりし続ける食料品に対しての家計防衛を行っているようです。このあたりの変化は次回でも詳しく見ていきたいと思います。
4. 最後に~値上がりの足音はそこかしこに
私は趣味でロードバイクというタイプの自転車に乗っているのですが、ロードバイクの世界にも原材料や物流費の高騰を理由として値上がりや品薄の波が怒涛のように押し寄せています。昨年から新しいロードバイクをあれこれと物色しているのですが、価格は以前と比較すると130~150%程度まで跳ね上がっており、私のへそくりではもはや届かない価格となってしまいました。品薄から納期もずいぶんと遅くなっており、半年~1年待ちも当たり前のような状況です。 そんなこともあり、最近は買い替えを諦めて、せっせと愛車を磨きながら軍資金となる500円貯金をがんばっています。
原材料や物流費の高騰、円安、さらにはウクライナ情勢と、値上がりの不安要素は増え続けるばかりです。値上がりのインパクトがもたらす暮らしにおける変化や生活防衛の術について、注意深く見守りたいと思います。
おわり
今回の分析は、以下のデータを用いて行いました。
【SRI+®(全国小売店パネル調査)】
国内小売店パネルNo.1※1 のサンプル設計数とチェーンカバレッジを誇る、スーパーマーケット、コンビニエンスストア、ホームセンター・ディスカウントストア、ドラッグストア、専門店など全国約6,000店舗より継続的に、日々の販売情報を収集している小売店販売データです。
※SRI+では、統計的な処理を行っており、調査モニター店舗を特定できる情報は一切公開しておりません
※1 2022年4月現在
調査概要
調査地域:全国
対象者条件:15-79 歳の男女
標本抽出方法:弊社「マイティモニター」より抽出しアンケート配信
標本サイズ:n=3,150 調査実施時期:2022年3月26日~28日
参考記事
①農林水産省
輸入小麦の政府売渡価格の改定について(2022/3/7)
➁時事通信
農水省、輸入小麦17%値上げ=過去2番目の高値―ウクライナ情勢でさらに高騰も(2022/3/9)
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