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消費財の値上がり実態と生活者の家計防衛術(2)

原材料価格や物流費の高騰を受け、食品・サービスなど幅広い分野で値上げの動きが広がっています。外国為替市場では今年に入ってから急激な円安基調となり、4月には約20年ぶりの円安水準を記録。現在も1ドル120円台後半~130円台前半で推移しています。円安の影響から輸入品の物価上昇による食品や雑貨をはじめとした生活必需品の一層の値上がりも懸念されています。

大手コンビニでは人気商品のから揚げが1986年4月の発売以来、初の値上げ(10%)を行うことや大手ファーストフードではメインのフライドチキンを6月から10円値上げすることが、さまざまなメディアで報道されています。最近では日本の国民食とも呼ばれるから揚げですが、今回の相次ぐ値上げも小麦粉や食用油などの原材料価格の高騰や物流費の上昇などが原因となっています。

では、その他の商品については実際に店頭における販売価格はどのように変化しているのでしょうか。インテージの小売店パネルデータで見ていきましょう。前回の「小麦・食用油」に続き、「巣ごもり需要カテゴリー」に注目しました。

1. じりじりと上がり続ける食品価格~巣ごもり消費に吹きよせる冷たい風

今回はコロナ下で家の中で過ごす時間が増えたことによって、需要も増えたと言われている「巣ごもり系のカテゴリー」についてみていきましょう。レギュラーコーヒーについては今年3月に1g当たりの容量単価が前年同月比111%となっています。さかのぼってみても昨年11月から107%、109%、107%、110%と高い水準で推移しています。また、巣ごもりで増えたお菓子づくりやコーヒーと一緒に使われることが多い砂糖も昨年6月頃から高止まりが続くなど上昇傾向が見られます。スナック類も値上がりの傾向が続いており、ここ最近は大手メーカーの値上げや価格据え置きのまま内容量を減量するといった実質値上げの動きが活発になってきています(図表1)。

図表1

コロナ下において在宅勤務やリモートワークの活用が進み、現在においても東京都では6割以上の企業がなんらかの形でリモートワークを実施しているという調査結果もあります。家の中で過ごす時間が以前よりも増えている中、家の中での食事や喫茶(休憩時やおやつなど)の機会も増えています。そうした中での食品の値上げは家計にとってより一層重くのしかかっているものと思われます。

コロナ下の家の中での時間を少しでも豊かに過ごそう、という意識も手伝ってか、ここ最近ではレギュラーコーヒーの売上が伸び続けています。そうした暮らしの中のささやかな楽しみも一連の値上がりによって押し戻されてしまいそうですが、せめてコーヒーくらいは気兼ねなく楽しませてほしいものですね。

2. 暮らしに忍び寄る値上がりの影

次に日用雑貨関連についても店頭販売価格の推移をみていきましょう(図表2)。

図表2

3月時点では台所用洗剤や紙おむつ、ティッシュペーパーなどの生活雑貨については、店頭販売価格の大きな変化は見られませんでした。一方で、シャンプー、バス用クリーナー、洗濯用洗剤、トイレットペーパーなどは平均価格の上昇がみられました。

これらのカテゴリーにおいては付加価値を高めた商品や新商品が好調なこともあり、平均価格を押し上げていることもその理由となっています。
コロナ下において、シャンプーやスキンケア、基礎化粧品などは以前よりも少しリッチなものを、という気運がありました。家の中での時間が増えたことから、「素の自分磨き」に力を入れる傾向が強まったことがその背景にあると言われています。その傾向は現在も続いていることから、値上がりだけでなく高付加価値商品の需要をはじめとした「こだわり消費」も手伝って、平均単価の増加はしばらく続きそうな気配があります。

また4月以降、トイレットペーパーやキッチンペーパー、紙おむつなどの紙類や衣料用洗剤など、メーカーが値上げを進めている商品もあり、今後はより幅広いカテゴリーで価格変更が予想されます。
今後も、生活者の暮らしに直結する店頭販売価格や生活者の買い物行動変化にも注目しながら、データの収集・分析を継続していきたいと思います。

3. 値上がり意識と暮らしの工夫~買い控え・節約

値上がりを感じて買い控えや節約をしているものについて尋ねたところ、女性では「食料品」が最も高く、4割以上の人が値上げの影響により買い控えや節約を行っていると回答しています。次いで「電気・ガス・水道などの公共料金(38%)」、「日用品・消耗品(26%)」が続きます。また、年代が高くなるとともに、買い控えや節約への取り組みも増えていることがわかります。特に女性60-79歳という年金受給による生活を中心とする層ではその傾向が強くなっており、とりわけ「電気・ガス・水道などの公共料金」といった固定費の節約意識が強いことが浮き彫りになっています(図表3)。

図表3

男性では「電気・ガス・水道などの公共料金」が最も高く、3割以上の人が値上げの影響により買い控えや節約を行っていると回答しています。次いで「食料品(30%)」、「ガソリンなどの各種燃料(28%)」が続いています。女性と比較して「食料品」の購入機会が少ないと思われる男性にとっては、公共料金や燃料費などの暮らしの固定費の値上がりの方がより強い影響を受けていることがわかります。また、女性同様に年代が高くなるとともに買い控えや節約への取り組みが強くなっていることもわかります。そして、男性においても60-79歳が最も積極的に買い控えや節約を行っているという結果になっています(図表4)。

図表4

4月から年金の支給額が0.4%引き下げられることが決まりました。年金の保険料を納める現役世代の賃金が減ったことが原因となっており、年金の引き下げは2年連続となります。公的年金に頼らざるを得ない多くの高齢層にとっては、ますます厳しいものとなりそうです。そうした中、切り詰めるのであれば、年代的に最も重要と考えている「健康」を支える「食」ではなく、まずは「固定費から無駄をなくして」という想いが表れているようです。

値上がりを感じて以前よりも安いものを購入したり費用を抑えめにしているものを尋ねたところ、「野菜」が最も多く、3割に上りました。次いで「お菓子・デザート(26%)」、「お肉・お魚(23%)」と続いています。
「野菜」や「お肉・お魚」、さらには「お米・パン」といった日常の食卓になくてはならない食材が節約している品目の上位に並ぶのを見ると、食品の値上がりや所得の減少を背景に、生活者の日々の食卓に暗い影を落としていることを想像させます。また、「お菓子やデザート(26%)」、「くだもの(18%)」といった食の楽しみ・彩りともいえるものも節約モードになっている様子も浮かんできます(図表5)。

図表5

4. 最後に~健やかなる心と身体

食品をはじめとして、さまざまな値上がりを日々実感しています。以前のようにスーパーでなにげなくあれやこれやと買い物かごに放り込み会計をすると、「あれ?!そんなに!」と思うことが増えました。そのため最近ではさまざまな商品の価格感をリセットして新しい値ごろ感をインプットしました。また、空腹のときに買い物に行くと、甘いものや果物などをついつい買ってしまうので、あまり空腹のときには買い物に行かないようになりました。

とはいえ、食べることは健康に直結しています。コロナインパクトによって生活者の健康意識は高まりを見せ、質の高い食への意識も高まっています。その一方で、急激な値上がりによって食もまた節約の対象になっています。そのため、今後は高まる健康意識とのバランスを勘案した工夫が求められるようになるのでは、と思います。そして、食は身体のみならず、暮らしの彩りでもあります。

値上がりに対処しながらも、心と身体の健康を保ち続ける工夫をしていきたいものです。

おわり


今回の分析は、以下のデータを用いて行いました。

【SRI+®(全国小売店パネル調査)】
国内小売店パネルNo.1※1 のサンプル設計数とチェーンカバレッジを誇る、スーパーマーケット、コンビニエンスストア、ホームセンター・ディスカウントストア、ドラッグストア、専門店など全国約6,000店舗より継続的に、日々の販売情報を収集している小売店販売データです。
※SRI+では、統計的な処理を行っており、調査モニター店舗を特定できる情報は一切公開しておりません
※1 2022年4月現在

参考記事

①東京都
テレワーク実施状況 2022年3月調査結果(2022/4/7)
➁NHK
年金支給額2年連続引き下げ 新たな給付金を検討へ(2022/3/15)

著者プロフィール

生活者研究センター センター長 田中 宏昌(たなか ひろまさ)プロフィール画像
生活者研究センター センター長 田中 宏昌(たなか ひろまさ)
1992年 広告代理店系の調査会社に入社。1994年より親会社の広告代理店における生活者データベースの立ち上げメンバーとして参加。以後、2012年まで、広告代理店の消費者研究や広告コミュニケーションプランニングセクションに駐在勤務する形で、広告コミュニケーションプランニングや商品・サービス開発の場面などで、データに基づく生活者理解をテーマとしてプロジェクトを支援してきた。その間、消費財、耐久財、サービスなどさまざまな領域を担当。
思春期よりTVCMの映像やコピーに魅了され、TVCMだけを録画して繰り返し見るような子どもだった。記憶に残る作品を選ぶとすれば「1983年 サントリーローヤル ランボオ編(広告代理店 電通)」と「2004年 ネスカフェ 谷川俊太郎 朝のリレー・空編(広告会社 マッキャンエリクソン)」を迷うことなくあげる。趣味は自転車(ロードバイク、マウンテンバイク)、落語鑑賞など

1992年 広告代理店系の調査会社に入社。1994年より親会社の広告代理店における生活者データベースの立ち上げメンバーとして参加。以後、2012年まで、広告代理店の消費者研究や広告コミュニケーションプランニングセクションに駐在勤務する形で、広告コミュニケーションプランニングや商品・サービス開発の場面などで、データに基づく生活者理解をテーマとしてプロジェクトを支援してきた。その間、消費財、耐久財、サービスなどさまざまな領域を担当。
思春期よりTVCMの映像やコピーに魅了され、TVCMだけを録画して繰り返し見るような子どもだった。記憶に残る作品を選ぶとすれば「1983年 サントリーローヤル ランボオ編(広告代理店 電通)」と「2004年 ネスカフェ 谷川俊太郎 朝のリレー・空編(広告会社 マッキャンエリクソン)」を迷うことなくあげる。趣味は自転車(ロードバイク、マウンテンバイク)、落語鑑賞など

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