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消費財の値上がり実態と生活者の家計防衛術(3)

1. 値上がりはじりじりと。さまざまな品目へ拡大中

原材料価格や物流費の高騰を受け、食品・サービスなど幅広い分野で値上げの動きが止まりません。10月に入り、いよいよアルコール類の値上げも始まり、値上がりはより広いジャンルにおいて一層の加速を見せています。アルコール類の値上がりを前に駆け込みで購入に走る様子を取り上げたニュースもいくつか目にしました。
はじめに弊社のデータを用いて、実際に店頭における販売価格はどのように変化しているのかを見ていきましょう。

商品ジャンル毎に店頭における平均販売価格を見てみると、7月に入り、さらに値上がり品目が拡大していることが浮き彫りになりました。生活者が実際に商品を手にとっている店頭の販売価格について確認したところ、昨年からいち早く値上がりが始まった油以外にも小麦関連で顕著な値上げの傾向が見られました。
本格的な値上げ前の2020年平均に比べて小麦粉は113%、食パンは110%、スパゲッティも110%と2ケタ増に達しています。また、5月までは比較的、落ち着きを見せていた袋ラーメン(112%)、やカップラーメン(110%)も大幅な伸びを見せるなど、輸入小麦価格の高騰が家庭の食卓にも大きく影を落とし始めたことがわかります。以前より大幅な価格上昇が続いているキャノーラ油(161%)、サラダ油(128%)の他に、調味料では油を原材料にするマヨネーズも121%まで達しています。他にも砂糖、醤油なども2ケタの伸びとなっており、調味料への影響の広がりを映しています。(図表1)

図表1

値上がりした、主な食品の平均価格・2020年比(スーパーマーケット)

2. 値上がり意識と暮らしの工夫~買い控え・節約

次に、値上がりに関する生活者の意識や暮らしにおける工夫を最近の自主アンケートの結果から見ていきましょう。
値上がりを感じているものを尋ねたところ、「食料品」が最も高く、8割の方が値上がりを実感しているようです。以下「電気・ガス・水道などの公共料金(59%)」「日用品・消耗品(57%)」「ガソリンなどの各種燃料(56%)」と続いています。また、6月時点との比較に目を移すと、ほぼすべてのジャンルで値上がりの実感は強くなっており、中でもとりわけ、「アルコール飲料(35%、6月より15pt増)」「飲料(51%、6月より12pt増)」の増加が目立ちます。さらに、飲食店の値上がり実感も増えています。(図表2)

図表2

値上がりを感じるモノ・コト(2022年6月⇒10月変化)

では、さまざまな品目について値上がりを実感していることを受けて、生活者が節約などの工夫を心がけているモノ・コトについても尋ねてみました。
こちらでも値上がりを感じているものの1位だった「食料品(39%)」が最も高く、次いで、「電気・ガス・水道などの公共料金(33%)」「日用品・消耗品(24%)」「飲料(23%)」「飲食店(22%)」と続いています。6月時点と比較すると、ほぼすべてのジャンルで節約意識は強くなっています。節約意識の変化に注目すると「食料品(7pt増)」「アルコール飲料(6pt増)」「飲料(6pt増)」「飲食店(6pt増)」が目立ちます。相次ぐ値上がりを受けて、より安く手に入れるための工夫や買い控えはさまざまな商品・サービスに及んでいることが浮き彫りになっています。今後、年末に向けて外食を伴うイベントも増えてくる時期ですが、リーズナブルなお店を選んだり、お酒や食事の量を控えたり、といった動きも出てきそうですね。感染拡大防止のための行動制限が解かれて「これから!」と意気込む飲食店にとっては大きな不安要素となりそうです。(図表3)

図表3

値上がりを感じて節約しているモノ・コト(2022年6月⇒10月変化)

同じデータを男女別にみてみると、女性の方が「食料品(47%)」を筆頭に、「電気・ガス・水道などの公共料金(38%)」、「日用品・消耗品(29%)」など、ほぼすべてのジャンルで節約行動は強くなっています。男性よりも多いことが推測される日々の買い物を通じて、よりさまざまな商品ジャンルにおける値上がりを実感していることから、節約の意識も高くなっていることが考えられます。一方、男性は「ガソリンなど各種燃料(23%)」だけが唯一女性よりも高くなっていました。男性はガソリンスタンドでの給油の機会を通じて、世の中の値上がりを実感しているのかもしれません。(図表4)

図表4

値上がりを感じて節約しているモノ・コト《男女別》(2022年6月⇒10月変化)

3. 「食パン」にみる生活防衛 ~PBとドラッグストアを味方に~

次に、日々の食卓に欠かせない食品ながらもじりじりと値上がりが続いている食パンについて、弊社の消費者パネルデータ※を見てみましょう。スーパーマーケットにおける食パンの購入経験について「プライベート・ブランド(PB)の食パン」の割合を集計したところ、さまざまな食料品の値上がりが目立ち始めた2021年10月からのデータをみてみると、じわじわとPBの割合が増え、8月時点では2割を占めていました。(図表5・左)
また、購入チャネルもスーパーからドラッグストアへの流出がみられました。これらのデータから食パンにおいては「PB&ドラッグストアシフト」が起きていると言えそうです。(図表5・右)

図表5

食パンにおける「PB&ドラッグストアシフト}

現在のドラッグストアは薬のみならず、日雑品や食料品なども揃っており、「ワンストップ」で買い物を終えることのできる便利なお店になっています。また、ポイントやクーポンの活用も積極的ということから、家計費防衛に勤しむ生活者にとっても魅力的なお店に映っています。そこで、「食品」に注目して、スーパーとドラッグストアでの購入金額規模の推移を見てみることにしましょう。コロナ前の2019年12月を基準(100%)とするとドラッグストアは増加傾向にあり、一方のスーパーは減少傾向にあります。(図表6)
コロナ下、不特定多数の人との接触を避けて、さまざまなお店を買い回りする行動が減少したり、買い物回数自体を減らしたりする、「まとめ買い」の動きが強まりました。そうした流れもあり、さまざまな商品が一度に揃うドラッグストアは「ワンストップ」という特性を生かして購入金額を増やしてきましたが、値上がりラッシュが続く現在、家計費防衛という側面でもその特性が受け入れられ、値上がりに苦労する生活者にとって力強い暮らしの味方としての存在感を強めているようです。

図表6

チャネル別にみる食品に関する購入金額の増減(スーパー vs ドラッグストア)

4. 最後に ~安さだけを武器にしない~

さまざまなジャンルにおける相次ぐ値上がりに対抗して、生活者の買い物意識や行動が変化しています。しかしながら、視野を拡げると、健康意識の高まりやイエナカ時間の増加による暮らしの質向上といった動きがあることも見逃さないようにしたいと思います。生活者にとって値上げへの防衛は確かに重要な課題と言えますが、その一方で、「健康意識」の高まりにより、オートミールや麦芽飲料、さらにはプロティンなど、最近のヒット商品を眺めてみると健康につながる商品が上位を占めています。自身の、あるいは家族の「健康」を念頭に置いたとき、財布の紐もいくらか緩くなるようです。「安さ」だけを追いかけていると心と身体の「健やかさ」を見失いがちです。また、暮らしの中の彩りや豊かさも大切です。 やみくもに価格競争に突入するのではなく、そうした「価値あるものには対価を払う」という生活者のマインドをしっかりととらえる商品・サービスつくり、お店つくりもあるのだと思います。

変化する生活者を捉え、「自分たちならではの価値・体験」をどのように届けるのか?
そうした問いにこそチャンスが芽生えそうですね。

おわり


〈お知らせ〉

インテージフォーラム2022(2022.10.18~10.20)にて、

「人口減少」地域で選ばれ続けるスーパーマーケットに学ぶ
スーパーマーケットとメーカーの協業の在り方

題して、スーパーマーケットとしての新しい価値提供に取り組む伊徳(ITOKU)様をお招きしたセッションを予定しています。「スーパーならでは」の価値を創造し、伝える工夫を事例とともにご紹介しています。オンライン形式なので、地球に住んでいる方は視聴可能です。ぜひ。

〈申し込みサイト〉

https://www.intage.co.jp/forum2022/

〈セッションタイトル〉
「人口減少」地域で選ばれ続けるスーパーマーケットに学ぶ
スーパーマーケットとメーカーの協業の在り方

〈配信日時〉
2022.10.20(木) 18:00~18:30

〈概要紹介〉
小売業界では人口減による市場縮小の中、他業態の参入や値上げの影響も受けながら、価格施策がますます重要視されています。一方で、利益確保のために価格以外の価値をお客様に伝えていかなければ、というジレンマを抱える小売業界やメーカーで働く方の声を多く聴きます。

本セッションでは、高齢化が進行し「日本の未来図」として注目されている秋田県をメインにスーパーマーケットを展開している伊徳(ITOKU)、その中心でバイヤーとしてご活躍されている田中氏をお招きして、お客様に選ばれ続けるために、メーカーと課題を共有しながら他企業に先んじた取組をされている事例や、将来に向けたスーパーマーケットとメーカーの協業の在り方をご紹介いただきます。

〈登壇者紹介〉
株式会社伊徳 商品本部 日配・グロサリー部 一般食品・米バイヤー
田中 義教氏

株式会社インテージ 事業開発本部 7:3事業開発部 部長
牧野 充芳


使用したデータ/関連プラットフォーム
【SRI+®(全国小売店パネル調査)】
国内小売店パネルNo.1※1 のサンプル設計数とチェーンカバレッジを誇る、スーパーマーケット、コンビニエンスストア、ホームセンター・ディスカウントストア、ドラッグストア、専門店など全国約6,000店舗より継続的に、日々の販売情報を収集している小売店販売データです。
※SRI+では、統計的な処理を行っており、調査モニター店舗を特定できる情報は一切公開しておりません
※1 2022年4月現在

著者プロフィール

生活者研究センター センター長 田中 宏昌(たなか ひろまさ)プロフィール画像
生活者研究センター センター長 田中 宏昌(たなか ひろまさ)
1992年 広告代理店系の調査会社に入社。1994年より親会社の広告代理店における生活者データベースの立ち上げメンバーとして参加。以後、2012年まで、広告代理店の消費者研究や広告コミュニケーションプランニングセクションに駐在勤務する形で、広告コミュニケーションプランニングや商品・サービス開発の場面などで、データに基づく生活者理解をテーマとしてプロジェクトを支援してきた。その間、消費財、耐久財、サービスなどさまざまな領域を担当。
思春期よりTVCMの映像やコピーに魅了され、TVCMだけを録画して繰り返し見るような子どもだった。記憶に残る作品を選ぶとすれば「1983年 サントリーローヤル ランボオ編(広告代理店 電通)」と「2004年 ネスカフェ 谷川俊太郎 朝のリレー・空編(広告会社 マッキャンエリクソン)」を迷うことなくあげる。趣味は自転車(ロードバイク、マウンテンバイク)、落語鑑賞など

1992年 広告代理店系の調査会社に入社。1994年より親会社の広告代理店における生活者データベースの立ち上げメンバーとして参加。以後、2012年まで、広告代理店の消費者研究や広告コミュニケーションプランニングセクションに駐在勤務する形で、広告コミュニケーションプランニングや商品・サービス開発の場面などで、データに基づく生活者理解をテーマとしてプロジェクトを支援してきた。その間、消費財、耐久財、サービスなどさまざまな領域を担当。
思春期よりTVCMの映像やコピーに魅了され、TVCMだけを録画して繰り返し見るような子どもだった。記憶に残る作品を選ぶとすれば「1983年 サントリーローヤル ランボオ編(広告代理店 電通)」と「2004年 ネスカフェ 谷川俊太郎 朝のリレー・空編(広告会社 マッキャンエリクソン)」を迷うことなくあげる。趣味は自転車(ロードバイク、マウンテンバイク)、落語鑑賞など

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