物価高と家計防衛 ~省エネは地球環境のため?家計のため?
1.はじめに
早いもので新型コロナの感染法上の分類が5類に移行されて丸1年が経ち、「アフターコロナ」における二度目の春を迎えました。学校では入学式が、企業においても多くの入社式がリアルで開催され、ようやく本来の春景色を堪能することができたように思います。
皆さまにはどのような春が訪れていますか?
私はこの時期になるといつにも増して、川崎市の生田緑地や等々力緑地にサイクリングで出かけて、日々刻々と変化する木々や花々を楽しんでいます。ここ最近では生田緑地のメタセコイアの大木たちがかわいらしい若葉をまとい、すっかり若葉色の森へと移り変わりました。菖蒲池には蛙の鳴き声が響き、水路にはオタマジャクシが泳ぎ回っています。5月には今年もまた紫の菖蒲が目を楽しみませてくれるはずです。
2.家計不安(節約意識/家計回復意識)
政府あるいは経団連などの追い風もあり、2024年の春闘も大手企業を中心に過去に例をみないほどの「満額回答ラッシュ」でしたね。「満額回答」と企業ごとに書かれたホワイトボードがテレビで大写しにされているニュースを目にした方も多かったのではないでしょうか。
さて、そうした微風も吹く中、生活者の節約意識はどのような状況でしょうか。いつものように定点調査の結果を見ていきたいと思います。
新型コロナが第5類へと移行されて1年が経とうとしています。「感染不安」は過去最低の35%まで減少しています。一方で節約意識は約7割の方が依然として意識しており、賃上げによる意識の緩みを感じることはできません。暮らし向きの回復に対する期待についてはわずかに上昇の向きがみられることから、今後への期待は少し膨らんでいるようです。(図表1)
春闘、定期昇給の時期も終わり、次は夏のボーナスシーズンです。期待したいところですね。
図表1
3.値上がり意識と節約の工夫ポイント
次に生活者の値上がりの実感や節約意識についてみていきましょう。
値上がりを感じているカテゴリーは「食料品」が最も多く、次いで「電気・ガス・水道などの公共料金」、「日用品・消耗品」となっており、この傾向は集計対象とした4時点でも大きくは変化がありません。また、買い控えや節約しているカテゴリーについても、値上がり感同様になっています。(図表2)
図表2
ここで「電気・ガス・水道などの公共料金」に着目してみると、23年4月に値上がり感、節約意識ともに大きく増加していますが、23年10月以降は大きく減少しています。23年年初から電気代・ガス代の負担軽減策「電気・ガス価格激変緩和対策事業」(以下「エネルギー補助」という)や自治体による水道料金の補助施策がはじまったことがこの背景にあると想像されますが、電気・ガスに関しては2024年5月使用分で終了して、6月以降はエネルギー補助がなくなることが発表されています。また、水道料金の見直しも発表が相次いでいることから、今後の変化に注目したいところです。
さらに詳しく節約を意識しているカテゴリーを見てみると、「野菜」、「お菓子・デザート」「お肉・お魚」、「お米・パン」といった食品関連が上位を占めています。主食やメインとなるおかずだけでなく暮らしの彩でもある「お菓子・デザート(女性では2位!)」が上位に並んでいることに、節約意識の高さや取り組みのひっ迫感を強く感じます。(図表3)
図表3
時系列で比較すると、昨年と比較して食品関連を中心に微増の動きを示しており、生活者の節約への取り組みは依然として継続していることがうかがえます。女性においては、先の「お菓子・デザート」などの節約意識が減少していることが垣間見られ、やや節約疲れの傾向があることも推測されます。
「電気・ガス」や「水道」の節約意識に注目してみると、ここでも昨年4月よりも大きく減少していますが、政府や自治体のエネルギー補助施策が終了した後、どのような動きを見せるかは引き続き注視していきたいと思います。
4.エネルギー料金の変動
ここまで、「電気・ガス・水道などの公共料金」に対する値上がり意識は、エネルギー補助施策の影響で現時点では比較的落ち着いている様子が見られました。ただ、前述の通り、この施策は5月使用分までとなっており、その後はまた家計に影響を与えることが想定されています。実際、どの程度の影響が見込まれるのでしょうか。
ここからはインテージで毎月約15,000世帯の電気やガスの使用量と使用料金を継続調査している「エネルギーパネル調査」の結果を用いて、エネルギー補助施策 適用前後の実態を振り返ることで、今後の影響を考えてみたいと思います。
エネルギーパネル調査を用いて「電気」と「都市ガス」の使用料金と使用量で算出した「エネルギー単価(円/MJ:メガジュール)」の推移を見ると、電気は2021年1月の6.2円/MJから2023年1月の10.3円/MJと2年間で65%増加しており、都市ガスは同一時期で3.3円/MJから5.6円/MJと76%増加していることがわかりました。これが、2023年2月から政府のエネルギー補助により、電気、都市ガスともに単価が15%程度抑えられたと推計されます。(図表4)
図表4
ちなみに「LPガス」のエネルギー単価は2021年1月の6.1円/MJから2023年1月には7.2円/MJと18%の増加にとどまっており、電気や都市ガスに比べると増加率は抑えられています。このため、LPガスはエネルギー補助の対象とはなっていません。(図表5)
図表5
5.エネルギー使用量の変化
電気の単価が2年前の65%増、ガスの単価が2年前の76%増と大幅に増加した2023年の1月。暖房費がかさむ時期であったこともあり、テレビの情報番組等でも生活者を嘆く声が多く特集されていた記憶があります。この記録的な燃料費高騰を受け、生活者のエネルギー使用量に変化はあったのでしょうか。
エネルギーパネル調査を用いて、1年間のうち最もエネルギー使用量の多い1月を対象に、2022年と2023年のエネルギー使用量の推移を見てみました。すると1世帯あたりのエネルギー使用量は2022年の3,322MJから2023年の3,040MJと8.5%減少していることがわかりました。特に、電気は2022年から2023年にかけて9.7%と大きく減少していました。(図表6)
図表6
家庭でのエネルギー使用量の増減の要因としては、家族人数など世帯構成等の変化、暖冬など気温の変化、省エネ意識や取り組みの普及浸透、新型コロナ等の感染拡大によるイエナカ時間の増加など生活形態の変化などが挙げられます。2023年においてはロシアのウクライナ侵攻や円安を受け、エネルギー価格が高騰した結果、生活者は生活防衛のため、節約を大義とした省エネが大きく進展したものと考えられます。また、全国11地方の月別気温の平均を見ると、2023年1月は2022年1月より0.36℃気温が高かったことから気温の変化要因も少なからず影響があったと考えられます。
近年、環境保護(SDGs)活動の意識や取り組みが広がったことや、温暖化による猛暑も経験し、地球環境への配慮から節電などの省エネに向けた取り組みが普及・浸透しているように考えられますが、今回の分析結果をみると、価格上昇による家計費圧迫が省エネ意識や取り組みを強化する結果になっているようにも映り、やや複雑な心境になります。 みなさまのご家庭ではいかがでしょうか?
6.まとめ
エネルギーパネル調査の結果を見ると、政府のエネルギー補助の家計の負担軽減効果は明らかです。しかしながら、2024年5月使用分をもってエネルギー補助は終了することが決まっています。家庭のエネルギー使用が多くなる2024年の冬までロシアのウクライナ侵攻や円安が続く場合、家庭のエネルギー使用料金が再度上昇することが考えられます。その前にはクーラーの利用機会も多くなる夏も控えています。
エネルギー価格の高騰には、省エネ活動の活発化(エネルギー使用量を減らす効力)があることが見て取れましたが、本来的な意味において生活者の省エネ意識の醸成や省エネ技術の進展による省エネが進むことが期待されます。
今後もエネルギーパネル調査はもとより、エシカル意識やエシカル行動からも分析を行い、本来的な省エネ意識の醸成など、ポジティブな意味でのエシカルの推進について考えていきたいと思います。
エネルギーパネルとは:
インテージの消費者パネルSCI🄬の一部モニターで、電気やガスの使用量や使用料金を収集する「エネルギーパネル」も組織しています。エネルギーパネル調査では、毎月約15,000世帯の電気やガスの使用量と使用料金を把握しており、家族人数や住居形態など豊富な属性情報にエネルギー使用量を紐づけて、対象者を抽出、分析することができます。
例えば、夫婦二人都心部のマンションに居住している人でエネルギーの使用量が多い世帯の居住者を特定・抽出しつつ、購買履歴や生活意識・価値観といったさまざまなアンケート情報と紐づけて分析を行うこともできます。そうすることにより、家族人数や居住住戸のサイズの割にエネルギー使用量の少ない人を「省エネタイプ」と定義しつつ、日々の買い物や生活意識などを用いてペルソナを描いてみる、といったマーケティング活用が可能になります。
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