arrow-leftarrow-rightarrow-smallarrow-topblankclosedownloadeventfbfilehamberger-lineicon_crownicon_lighticon_noteindex-title-newindex-title-rankingmailmessagepickupreport-bannerreportsearchtimetw

値上げラッシュにどう立ち向かう?~買い物価値観別の購買行動分析~

1. 2022年から続く値上げ

円安や資源価格高騰を背景に、2022年から続く値上げラッシュ。食料品・日用品だけにとどまらず、様々な財・サービスにおいて値上げが行われています。総務省が発表している消費者物価指数は右肩上がりで上昇し、2024年9月時点では2020年基準で+8.9%と、生活者の家計に大きな打撃を与えています(図表1)。
3年弱にわたる値上げにより節約意識も高まる中、生活者はどのように値上げに対処してきたのでしょうか。直近3年間の購買データから購買行動の変化を読み解いていきます。

図表1

消費者物価指数(2020年基準)の推移

2. 買い物に対する価値観で生活者を分類

値上げが続く中で、買い控えや節約など購買行動を変えることに注目が集まりがちですが、一方で、あまり値上げを気にせずこれまで通りの購買行動を続ける生活者もいるように思われます。
そこで今回は、全国の5万人を超える生活者の日々の買い物データであるSCI®(全国消費者パネル調査)を用いて購買行動の変化を分析していきます。値上げが購買行動に与える影響の違いをとらえるために、意識調査(Profiler)をもとに作成した107項目の独自の価値観スコア (図表2)の中から買い物に対する価値観を用いて生活者を分類し、その中でも特徴的な2タイプに注目して分析を行いました。

図表2

107項目の価値観

1つ目のタイプは『慎重購買型』で、必要性を考えてから買い物をする、商品を買うときはじっくり比較検討してから決める、欲しいものはお金をためてから買う、といった特徴を持つ生活者です。このタイプの生活者は、節約のために購買行動が変化するのではないかと考えられます。
もう1つのタイプは『直感購買型』で、予定外のものを買ってしまう、目立つ陳列・パッケージ・ネーミングにつられてつい買ってしまう、といった特徴を持ちます。 こちらのタイプは、節約をあまり重視しておらず、値上げ前後であまり購買行動を変えていないと想定されます。

両タイプの生活者について、上記107項目の価値観スコアの特徴からより詳細な人物像を描いてみましょう。図表3は、それぞれのタイプでスコアが高い価値観項目をピックアップしたものです。

図表3

それぞれのタイプにおいて、スコアが高い価値観項目

慎重購買型の生活者は、「チラシ活用・特売・安物買い」といった価格志向の価値観だけでなく、「家族の健康」といったキーワードも特徴として挙がってきました。このことから、このタイプの生活者は、家庭を持ち、家族のお財布を管理しているタイプで、自分のことより家族のために購買をしている人物像が思い浮かびます。また、志向性としては「慎重・現実的」なタイプで、「現在未来のバランス重視」が特徴となっているように、今だけではなく将来も充実させたいと考えているため、リスクの少ない行動選択を好み、購買行動も堅実に行っているのだと推察されます。

一方、直感購買型の生活者は、「衝動買い・特別感・新製品」といったキーワードが特徴的で、話題のものや人気のものに目がない人物像だということが分かります。志向性としては「好奇心旺盛」で「今を重視」するタイプであり、慎重購買型の生活者とは対照的に、現在を充実させることを重視しているため、直感的で衝動的な購買行動につながっていると推察されます。

3. 値上げによって購買行動はどう変化したか?

それではここから、この2つのタイプの値上げラッシュ時の購買行動の変化について見ていきましょう。
図表4は、2022年4月から8月を基準とした1人当たりの買い物金額の推移を表しています。直感購買型において買い物金額が増加していることは想像通りの結果 ですが、慎重購買型においても買い物金額が増加しており、値上げの波には逆らえない様子がうかがえます。

図表4

1人当たりの買い物金額(2022年比)の推移

さらに、買い物金額を3つの指標に分解したものが図表5です。こちらの結果を見ると、慎重購買型は直感購買型と比べて、買い物回数や1回の買い物での購入点数を抑えることで節約を試みていることがわかりました。

図表5

購買指標(2022年比)の推移

値上げが続く中で購入商品の取捨選択がシビアになり、今まで以上についで買いをしないこと(買い物点数の抑制)や、ポイントが多くつく日や割引率が高い日にまとめ買いをすること(買い物回数の抑制)を心掛けているのかもしれません。
一方で、個数単価の指標に着目すると、両タイプとも同程度の増加率となっており、値上げの状況下では単価を抑えることによる節約が難しいということもわかりました。

買い物回数の変化について、買い物をしている業態に注目してデータを見てみましょう。
図表6は購入業態別の買い物回数の変化を表しています。両タイプともに、コンビニでの購入回数が減少しています。最近ではコンビニ各社がお得を打ち出したキャンペーンも実施していますが、やはりコンビニは他の業態と比べて値段が高いというイメージがあるのかもしれません。

図表6

業態別 買い物回数(2022年比)の推移

また、買い物回数を抑えている慎重購買型において、ドラッグストアのみ買い物回数が増えているという結果も興味深いです。
この要因は2つあると考えられます。ひとつはドラッグストアで食料品が安く購入できることです。近年、食料品に力を入れるドラッグストアが増えてきており、同じ商品でもスーパーより安く販売されていることもあります。値上げが続き安く買えるお店を探した結果、これまでスーパーで買っていたものをドラッグストアで購入するようになってきているようです。実際に、慎重購買型における食料品の購入業態の変化を見てみると、スーパーからドラッグストアへの流入がデータで確認できました。また、より具体的にドラッグストアで購入しているものに注目すると、日配品(牛乳やお豆腐など)や飲料(お茶やコーヒー飲料など)といったカテゴリの購買が増加しています。

もう1つの要因は、2023年5月の新型コロナウイルス感染症の5類移行による影響です。5類移行に先んじて、2023年3月にマスク着用が個人の判断に委ねられ、マスクを外した状態での外出機会が増えました。慎重購買型の生活者は必要なものを吟味して買い物をする傾向にあるため、2022年のマスク着用時は化粧品の購買を抑え、脱マスクのタイミングで化粧品の購買が大きく増加したことで、化粧品の主な購買場所であるドラッグストアの利用増につながりました。

4. プライベートブランド(PB)商品の購入による節約行動

値上げに対する節約手段の1つとして、プライベートブランド(PB)商品の購入にも注目をしてみたいと思います。図表7は、「ビール類」「トイレットペーパー」のカテゴリにおけるPB商品の売上金額構成比の推移を表しています。

図表7

PB商品売上金額構成比の推移

どちらのカテゴリにおいても、慎重購買型の生活者はPB商品の比率が増加したという結果になっています。値上げにより単価を抑えた買い物が難しくなっている今、お手頃な価格で購入できるPB商品は家計の大きな味方になってきているのかもしれません。

5. 最後に

今回は、買い物に関する価値観で生活者を分類し、値上げの状況下での購買行動の変化を分析しました。値上げが続き節約行動に注目が集まる中で、値上げにあまり左右されずこれまで通りの買い物を継続している生活者も一定数いるということも、今回の分析から見えてきました。
このように値上げに対する反応は人それぞれ異なるものです。今後も物価上昇が続くと見込まれていますが、価値観に応じて適切なコミュニケーションをとり立ち向かっていくことで、販促効率の改善や値上げによる顧客離れの抑制が実現できるでしょう。


今回の分析でご紹介した価値観データは、数百問にわたる意識調査(Profiler)をもとに作成をしています。価値観をもとに生活者を分類しようとした場合、このようにアンケートの回答結果を用いることが多い一方で、自社データを分析したくても自社会員に大規模なアンケートを取ることが難しい、というお悩みを抱えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
インテージでは、アンケートをとらずIDPOS等の購買データのみから会員の価値観を推定するGenometrics ®というサービスを提供しています。本サービスの詳細は、こちらのリンクよりご覧ください。

価値観スコアの算出に使用している意識調査データ

著者プロフィール

榎本 裕 株式会社インテージ 企画推進部プロフィール画像
榎本 裕 株式会社インテージ 企画推進部
2020年、インテージに入社。 流通業界を中心にデータ分析業務に従事。
「Genometrics」サービスの運用・開発を担当し、生活者の価値観データを利用したソリューション提供を行っている。

2020年、インテージに入社。 流通業界を中心にデータ分析業務に従事。
「Genometrics」サービスの運用・開発を担当し、生活者の価値観データを利用したソリューション提供を行っている。

転載・引用について

◆本レポートの著作権は、株式会社インテージが保有します。
 下記の禁止事項・注意点を確認の上、転載・引用の際は出典を明記ください 。
「出典:インテージ「知るギャラリー」●年●月●日公開記事」

◆禁止事項: 
・内容の一部または全部の改変 
・内容の一部または全部の販売・出版 
・公序良俗に反する利用や違法行為につながる利用 
・企業・商品・サービスの宣伝・販促を目的としたパネルデータ(*)の転載・引用
(*パネルデータ:「SRI+」「SCI」「SLI」「キッチンダイアリー」「Car-kit」「MAT-kit」「Media Gauge」「i-SSP」など)

◆その他注意点:
・本レポートを利用することにより生じたいかなるトラブル、損失、損害等について、当社は一切の責任を負いません
・この利用ルールは、著作権法上認められている引用などの利用について、制限するものではありません

◆転載・引用についてのお問い合わせはこちら