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新しいマーケティングのすすめ(13)

「生活者」と「消費者」の違いを考えたことはありますか?

私は、花王時代に、2つの言葉の使い分けで苦労した時があります。
それは、「生活者」と「消費者」という言葉です。Webサイトの企画の打ち合わせで、サイトの企画を説明していた時です。

「このWebサイトは、お客様に製品の情報を提供することができます。」 と話していた時、ある会議参加者から「お客様とは、消費者のことですか?」と質問されました。「まだ、商品を手にしていない方も含めて、お客様と考えています」と答えたのですが、「ということは、生活者のことを指しているのだね」と返されたのです。

確かに、「消費者」というのは「商品を消費」された方であり、まだ「消費していない」方は「生活者」と区別するのは間違いではないでしょう。しかし、私はその言葉の違いをあまり丁寧に理解していなかったからか「お客様」という言葉を使ってしまい、結果、猛省することになるのです。そして自分が、花王の言葉辞書の理解が浅いことを再確認するのでした。

この「生活者」と「消費者」という言葉の使い分けを丁寧に行うのは、花王が、消費財製造業である背景が大きく影響しているのだと思います。

たとえば、自動車製造業のトヨタ。車の購入者と購入検討者を、どのように区別して言葉を使っているかは知りませんが、少なくとも車の購入者を消費者とは呼ばないでしょう。また航空事業会社のANAでも、飛行機の利用者のことを消費者と呼ばないはずです。

つまり、マーケターが広く使う「お客様」という言葉も、その会社の「事業」や「産業カテゴリー」の種類ごとに詳細な呼び方や定義があるということです。

この「お客様」の詳細な定義は、「お客様」と「モノ・サービス」との付き合い方が変わることで変化する兆しがあります。例えば「サブ・スクリプション」「定期購入」「C2C」の登場は、この変化の原因の例です。この「お客様」と「モノ・サービス」との付き合い方の変化は、当然、マーケティングに少なからず影響を与えています。

「服」を利用すると考えるメルカリ利用者

私が、このお客様と「モノ・サービス」の関係の変化に最初に触れたのは、メルカリの小泉 文明氏のお話を聞いた時です。「メルカリのユーザーは、服を買う時に、その服の値段で服を買うのではなく、最初からメルカリで服を売る時の値段を想像して、その差額のみをその服に使っているお金と認識しているのです」という言葉は、私に衝撃を与えました。

私自身、服というのは「購入」し「所有」することと考えていました。服を「所有」するので、私の頭の中では、その「服」を長く利用することを考えて服を選んでいました。服の利用に際して、「場面を選ばない」ことや、「組み合わせ方法が多い」ことなどを、服の選定時の検討点としていました。

しかし、この小泉氏の説明では、そのことよりも、「服・服のデザインの人気が維持されること」や「その服のブランドのファンが多いこと」などが、メルカリユーザーの服の選定ポイントになっているのかもしれないことを教わったのです。

つまり、服を「所有」と考え購入する場合と、「利用」と考え購入する場合では、このように、購入時の検討項目が変わる可能性があるのです。

ECに広がった定期購入

別の事例を考えてみましょう。

ECサービスにおける「定期購入」です。Amazonでは、よくビールや洗剤などを、都度購入(スポット購入)しようとすると、定期購入を提案してくれます。そして、Amazonでは都度購入するよりも、定期購入の方が、提供価格を下げてくれます。

私にも定期購入するアイテムが数種類あります。しかし、この定期購入のアイテムについて、次の配送日がいつなのか?価格はどうだったか?実は良くわかっていません。商品が届いたタイミングで「あ、今日だったっけ」と定期購入の周期を思い出し、クレジットカードの明細で「この金額だったんだ」と、自分に言い聞かせるのです。

定期購入は、マーケターからすると定期的な売り上げがあり、売り上げ確保という視点では、良いビジネス・モデルかと思います。しかし、その商品・ブランドを長く買っているから、ロイヤル・ユーザーかといえば、それは別な話なのかもしれません。

私の経験では、定期購入するとその商品・カテゴリーには低関与になります。むしろ、低関与だから定期購入にしたのかもしれません。このような、定期購入者は「お客様」の詳細定義では、どのように呼べば良いのでしょうか。お店でじっくり考えて、購入したお客様と同様に考えてよいのでしょうか。

マーケターが考えた定期購入というモデルで、計算できる売り上げを得る一方、低関与なお客様を生み出しているのかもしれません。

お客様の定義を再定義する

冒頭、花王では「生活者」「消費者」という言葉を使い分けている事例を紹介しました。今は、メルカリや定期購入のサービスなどもあり、以前よりも丁寧に「お客様」という言葉の細分化、つまりグルーピングが必要なのかもしれません。

・商品を毎回真剣に検討して購入するお客様
・商品を毎回同じものを、きちんと理由を再確認しながら購入するお客様
・商品を利用と捉えて、一時的な所有のために購入するお客様
・何となく、その商品を毎回購入するお客様           など

経営上の数値では、どのお客様も企業に売り上げを提供してくれます。しかし、これだけお客様の定義が存在するのであれば、お客様グループごとにコミュニケーション戦略が異なるはずです。つまり、お客様のグループ別に広告・宣伝戦略が異なり、それを設計しないといけないということです。

少し残酷な事例を説明すると、通常のマーケティングではブランド・ロイヤリティーの高いお客様ほど、LTVが高いと考えています。しかし、ECが定着した今では、そのカテゴリーに低関与な「定期購入者」が多いほうが、投資金額が少ないですが、LTVが高くなるかもしれません。

今、このデジタル時代ではCRMが使いやすくなりました。 日本では、CRMといえば、マーケティング・コミュニケーションや営業につなげる【売り上げ増加】のためのCRM活用が主に採用されています。しかし、アナリティカルCRMという【顧客理解】のCRMもあります。この【顧客理解】のCRMこそが重要になっているのかもしれません。

著者プロフィール

株式会社マーケティングサイエンスラボ 本間 充プロフィール画像
株式会社マーケティングサイエンスラボ 本間 充
1992年花王株式会社に入社。社内でWeb黎明期のエンジニアとして活躍。以後、Webエンジニア、デジタル・マーケティング、マーケティングを経験。
2015年アビームコンサルティング株式会社に入社。多くの企業のマーケティングのデジタル化を支援している。マーケティングサイエンスラボ 代表取締役、ビジネスブレークスルー大学でのマーケティングの講師、東京大学大学院数理科学研究科 客員教授(数学)、文部科学省数学イノベーション委員など数学者としての顔も併せ持つ。

1992年花王株式会社に入社。社内でWeb黎明期のエンジニアとして活躍。以後、Webエンジニア、デジタル・マーケティング、マーケティングを経験。
2015年アビームコンサルティング株式会社に入社。多くの企業のマーケティングのデジタル化を支援している。マーケティングサイエンスラボ 代表取締役、ビジネスブレークスルー大学でのマーケティングの講師、東京大学大学院数理科学研究科 客員教授(数学)、文部科学省数学イノベーション委員など数学者としての顔も併せ持つ。

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