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新しいマーケティングのすすめ(26)

「降水確率で考える、新しいマーケティング」

降水確率を活用していますか?

本日は、天気予報でよく見ているであろう、身近な「降水確率」から得られるマーケティングの示唆についてお話いたします。私は、梅雨時や台風シーズンは特に天気予報を気にします。朝出かける前、降水確率を見て、傘を持っていくかどうか考えます。皆さんは、傘を持って出かけるかを毎日どのように決めているでしょうか。

少し論理的に整理をすると、おおよそ次の3分類に分かれます。

  1. 常に傘を持って出かける
  2. 降水確率を参考にして、出かける度に、傘を持って出かけるか判断する
  3. 傘を使わないので、傘を持って出かけない

ちなみに、コンサルティングの仕事を行っている現在の私は、「常に傘を持ってでかける」人です。

多くの方が参考にしているのは、天気予報で発表される降水確率でしょう。日本の降水確率は、天気予報の予報区という定義された場所に、1mm以上の降水があるかを、10%刻みの数値で表現しています。 (https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/faq/faq4.html#6)

降水確率10%とは、10%の場所で雨が降るということではなく、この予報区のどこかで雨が降る可能性が10%あるということです。そして、降水確率の10%と90%では、90%の方が、降水量が多いというものでもありません。

降水確率と、傘を持って出かけるかの判断の関係性の話に戻しましょう。先ほど3つに分類した、2つ目のグループである「降水確率を参考にして、出かける度に、傘を持って出かけるか判断する」人にとっては、この降水確率はとても重要なはずです。降水確率は『降水量』の話ではないのですが、多くの方は、実際に降水確率を参考にして、傘を持って出かけるか決めているのではないでしょうか。

ところでこの降水確率ですが、数値の精度を、10%刻みではなく1%刻みだったら、もっと便利になると考えている人もいるのではないでしょうか。降水確率の数値の精度が高くなれば、それは降水確率の予報精度が高くなると考えるからでしょう。そして、予報精度が高くなれば、傘を持って出かけて空振りになる回数が減ると考えるからです。

降水確率の精度が上がると、あなたの生活の選択肢は増えますか?

この降水確率の発表の数字の精度、つまり細かな数値で予報が出れば、傘を持っていくかの判断に、もっと有効になるという考えは正しいのでしょうか。

私たちが、降水確率を参考にして判断しているのは「傘を持っていく」と「傘を持っていかない」の2択の判断です。つまり、もし気象庁が降水確率ではなく、「傘持参予報」を出すのであれば、「傘持参推奨」「傘持参非推奨」の2択の予報で十分なのです。降水確率の%の刻みを細かくすることは、傘の持参の判断とは、実は関係ないのです。確かに、降水確率が95%と96%の日があるとして、この2つの数値で、傘を持って出かけるかの行動に影響を与えることはないのですよね。ほぼ、どちらの予報でも、傘を持って出かけることになるはずです。

【数字の精度が高いことが、数字を参考にする判断を正確にする】という誤解は、人の習慣や、感覚によるところが大きいのでしょう。

私たちは、普段から多くの数値を見ています。そして、その数値を見たり、聞いたりするときに、約1,000円という大まかな数値よりも、975円という詳細な数値の方が正確なデータだと考えています。この正確なデータという理解には間違いがないのですが、いつしかこれが「正確な判断には正確なデータが必要」と思っているのです。

マーケティングにおけるデータサイエンス、データの精度から議論していませんか?

今回、このような議論を行っている理由は、マーケティングもデータサイエンスを今まで以上に活用していますが、その中でのデータを活用した議論の多くに、傘の持参判断と、降水確率との関係のような混乱が生じているからなのです。

ある時、調査に関する興味深い話を伺いました。新商品を販売するために、モニター調査を100人に対して行い報告を行ったそうです。すると、その事業の責任者が、100人ではデータが足りないから、1,000人のモニター調査を実施して欲しいと言われたそうです。

事業の責任者は、いったい「いくつの選択肢」を持っていて、商品販売前の調査を行っているのでしょうか。選択肢が、もし先ほどの3つ程度であれば、100人の調査でも、判断になるだけのデータは取れるのではないでしょうか。

今、マーケティングの現場では、データの精度や統計の精度の「沼」にはまっている議論が多いのです。先に考えるべきなのはこの調査や統計では、「何個の選択肢」から、最適解を探すのかということなのです。判断の選択肢が多ければ、データの精度が高くないといけません。しかし、多くのマーケティングの議論の選択肢は、10個未満の数個のケースが多く、高精度なデータは不要なはずなのです。

マーケティングの戦術を先に考える重要性

さて、話を「傘」と「降水確率」の話に戻しましょう。あなたは、実際に何%以上なら、傘を持って出かけますか?これは、読者によって異なります。つまり、同じ降水確率というデータを見ても、人の判断は分かれます。

これは、マーケティングでも同じことが言えます。100人のマーケターが存在し、そのマーケターに販売前の商品のモニター調査の結果を提示しても、「予定通り発売する」「発売を延期する」「発売を中止」の3つに分かれるでしょう。これは、データサイエンスではなく、人の判断です。

傘の場合、人は無意識のうちに、リスクマネージメントを行います。例えば、「今日は降水確率が高いけど、会社に出社した後に、外出する予定がないから、万が一にも雨が降ったら、帰宅時は走れば良いので、傘を持って出かけない」のようなリスクマネージメントを自然と行っています。

これは、「傘」と「降水確率」に関する、過去の経験が自分の中にあり、その中から起きそうなリスクと、そのリスクの回避方法を容易に考えられるからなのです。

マーケティングでも同じスキルが必要です。

データ探索や、データ分析の前に、まず今回行える「戦術」、つまり「選択肢」の洗い出しを行います。そのために、必要な判断基準を考えてからデータを取得する。そして、速やかに判断して、さらにはリスクマネージメントを行う。これが、マーケティングでデータを活用する方法です。

今、多くのマーケティングの現場では、データを取り、マーケティングの判断とは無関係にデータの不足部分や欠落部分を探し出し、データの精度とデータの分析を行う。そして、これを無限に繰り返し、結果、マーケティングの戦術判断を先延ばしにする。

これは、マーケティングの実行を先送りしているだけです。そして、マーケティングという仕事が、データに支配されています。今までより良い「新しいマーケティング」のために、データを参考にしているということは忘れてはいけません。

さぁ、今日も降水確率を参考にして、元気に外出しましょう。

著者プロフィール

株式会社マーケティングサイエンスラボ 本間 充プロフィール画像
株式会社マーケティングサイエンスラボ 本間 充
1992年花王株式会社に入社。社内でWeb黎明期のエンジニアとして活躍。以後、Webエンジニア、デジタル・マーケティング、マーケティングを経験。
2015年アビームコンサルティング株式会社に入社。多くの企業のマーケティングのデジタル化を支援している。マーケティングサイエンスラボ 代表取締役、ビジネスブレークスルー大学でのマーケティングの講師、東京大学大学院数理科学研究科 客員教授(数学)、文部科学省数学イノベーション委員など数学者としての顔も併せ持つ。

1992年花王株式会社に入社。社内でWeb黎明期のエンジニアとして活躍。以後、Webエンジニア、デジタル・マーケティング、マーケティングを経験。
2015年アビームコンサルティング株式会社に入社。多くの企業のマーケティングのデジタル化を支援している。マーケティングサイエンスラボ 代表取締役、ビジネスブレークスルー大学でのマーケティングの講師、東京大学大学院数理科学研究科 客員教授(数学)、文部科学省数学イノベーション委員など数学者としての顔も併せ持つ。

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