新しいマーケティングのすすめ(44)
AI Marketingのすすめ(5)
目次
AIは、データの社内活用を推進する
さて、このAI Marketingのすすめも、連載が5回目です。皆さんの会社・組織でも取り組みの検討を開始しましたか?
AIは、あまりにもその技術がビジネスに与える影響が強く、しばらく他社の取り組みを眺めてみるというのは、リスクになるでしょう。なので、気になったら社内でのAIの取り組みの検討を行うことは本当に重要なテーマです。
前回、私はAIがデータ分性・活用の領域に起こした変化を6つに整理しました。
1. データ分析の高度化と自動化
2. 予測精度の向上
3. リアルタイム分析とパーソナライゼーション
4. データ統合と多面的分析
5. 業務効率化とスケーラビリティ
6. 新しい課題と機会
今までは、これらのテーマは、マーケティングのデータサイエンス・チームのみ取り組めば良いと思われていたでしょう。しかし、「データ分析の高度化と自動化」と「業務効率化とスケーラビリティ」は、データ分析の知識・技術がない人にも起きています。
その事例をスターバックスの事例に学んでみましょう。
アメリカのスターバックスのモバイルオーダーの進化
スターバックスのDeepBrew(ディープブリュー)について:
以下は、まずアメリカでのサービスで、日本でどの程度活用されているかは公開されていません。
私たちがスターバックスのモバイル・アプリを使ってドリンクを注文すると、お店に着く頃には注文した商品が出来上がっているという便利な体験をしたことがあるかもしれません。この便利さの裏には、DeepBrewと呼ばれる人工知能(AI)システムが働いています。
DeepBrewは、スターバックスが開発した、お店の運営を賢くサポートするAIシステムです。このシステムは、大きく分けて3つの重要な役割を担っています。
1つ目は、お客様の注文予測です。例えば、「月曜日の朝は近くのオフィス街からの注文が多い」「雨の日は温かいドリンクの注文が増える」「週末の午後はフラペチーノの注文が増える」といったパターンを、過去のデータから学習します。また、地域のイベントや天気予報なども考慮して、その日どんな商品がどのくらい必要になるかを予測します。
2つ目は、モバイルオーダーの最適化です。お客様がアプリで注文した時、その商品を作り始めるベストなタイミングを計算します。例えば、店内が混んでいる時間帯や、複雑な作り方が必要なドリンクの場合は、通常より早めに準備を始めるように指示を出します。これにより、お客様が店舗に到着したときにちょうど商品が出来上がっているような、理想的なタイミングを実現しています。
3つ目は、店舗運営の効率化です。どの時間帯に何人のスタッフが必要か、どの商品をどのくらい仕入れておくべきかを提案します。また、コーヒーマシンなどの店舗機器の状態も監視しており、故障する前にメンテナンスが必要な機器を特定することができます。
このように、DeepBrewは私たちには見えないところで、快適なカフェ体験を支えています。例えば、いつも行列ができていた時間帯が徐々にスムーズになった、好きな商品が品切れになることが減った、といった改善はこのシステムの効果かもしれません。スターバックスは、このAIシステムを活用することで、一杯一杯のコーヒーに込める「おもてなしの心」をより多くのお客様に届けられるよう努めています。
スターバックの従業員教育のシステムBrewkit
Brewkitは、スターバックスが導入している従業員向けのトレーニングプログラムです。コーヒーの抽出方法や接客スキル、食品安全に関する知識など、店舗で必要なスキルを効率的に学べるように設計されています。特徴的なのは、実践的な動画コンテンツやインタラクティブな学習教材を活用している点です。例えば、エスプレッソマシンの使い方や、様々なドリンクの作り方をステップバイステップで学べます。また、従業員は自分のペースで学習を進められ、理解度をテストで確認することができます。このシステムにより、スターバックスは世界中の店舗で一貫した高品質のサービスを提供することを目指しています。
DeepBrewのデータが、Brewkit経由で活用可能になっている
スターバックスが踏み込んだのは、お客様のモバイルオーダーのデータをAIで加工し、Brewkitで従業員であれば、アクセス可能にした点です。この2つの組み合わせにより、スターバックスのデータ活用は、劇的に進化しています。
1. データ分析の高度化と自動化
– モバイルオーダーから得られる注文データを自動的に分析し、店舗ごとの需要パターンを把握
– 来店時間帯、注文内容、カスタマイズの組み合わせなどの複雑なパターンをAIで自動検出
– 従業員がBrewkitを通じて、複雑なデータ分析を簡単に実行可能に
2. 予測精度の向上
– 店舗ごとの時間帯別需要予測の精度向上
– 天候、イベント、季節性などの要因を考慮した、より正確な在庫・人員配置の最適化
– 新商品導入時の需要予測の精度向上
3. リアルタイム分析とパーソナライゼーション
– 顧客の注文履歴に基づく、パーソナライズされたレコメンデーションの提供
– 店舗の混雑状況に応じたリアルタイムの価格調整や商品提案
– モバイル・アプリを通じた個別化されたプロモーションの配信
4. データ統合と多面的分析
– モバイルオーダー、店舗POS、ロイヤリティプログラム、在庫データなどの統合
– 従業員が社内のデータプラットフォーム(Brewkit)を通じて、統合されたデータにアクセス可能
– 様々なデータソースを組み合わせた、より深い顧客理解の実現
5. 業務効率化とスケーラビリティ
– 店舗スタッフの作業効率向上(在庫管理、シフト管理など)
– データに基づく意思決定の民主化(全従業員がデータにアクセス可能)
– ベストプラクティスの特定と全店舗への展開が容易に
6. 新しい課題と機会への対応
– データリテラシーの向上(従業員のデータ活用能力の育成)
– プライバシーとデータセキュリティの確保
– 店舗運営における人的判断とAI提案のバランス維持
特に重要なのは、以下の点でしょう。
– データの民主化:Brewkitを通じて、データ分析の専門家でない従業員でも、高度なデータ分析が可能に
– 現場主導の改善:店舗スタッフが直接データにアクセスし、独自の仮説検証や改善施策の立案が可能
– 組織全体の学習:データを介した知見の共有により、組織全体の学習速度が向上 このような取り組みは、データ駆動型の意思決定を組織全体に浸透させる優れた事例と言えるのではないでしょうか。
AI活用は、人の教育と成長につながる
AIは、人の仕事を奪うという話がありました。しかし、スターバックスの取り組みは、従業員にデータを公開し、データの専門家でなくてもデータを活用できるようにしています。それは、従業員がマーケティングの仕事に集中できることでもあります。
AIの活用の成否は、私たち次第なのかもしれません。AI活用を進めるには、私たちが成長しないといけないのでしょう。
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